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REVIEW

女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』

『スラムドッグ$ミリオネア』に主演したデブ・パテルの監督デビュー作は、復讐心に燃え、女性やクィアのために戦い、猿神ハヌマーンの化身と化すヒーローを描いた傑作アクション映画でした。インドのヒジュラ(第三の性の人々)に光を当て、物語の中で重要な位置を占めているところが素晴らしいです

女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』

 アカデミー賞作品『スラムドッグ$ミリオネア』に主演し、俳優として成長してきたデブ・パテルが、子どもの頃に聞いたインド神話の猿神ハヌマーンにインスピレーションを得て物語を構想し、8年かけて作りあげた監督デビュー作です。民への奉仕を通じて神とつながるハヌマーンを信奉する主人公の青年キッドが、母を殺し、人々を騙し抑圧する権力者たちに復讐するために、壮絶な戦いを挑む姿が描かれ、熱狂と興奮を呼び起こします。第31回サウス・バイ・サウスウエスト映画祭で観客賞を受賞しています。
 
<あらすじ>
幼い頃に故郷の村を焼かれ、母も殺されて孤児となったキッド。どん底の人生を歩んできた彼は、現在は闇のファイトクラブで猿のマスクを被って「モンキーマン」と名乗り、殴られ屋として生計を立てていた。そんなある日、キッドはかつて自分から全てを奪った者たちのアジトに潜入する方法を見つける。長年にわたって押し殺してきた怒りをついに爆発させた彼は、復讐の化身「モンキーマン」となって壮絶な戦いに身を投じていく…。







 手に汗握る、息をもつかせぬ、血湧き肉躍るエキサイティングで骨太な復讐モノのヒーロー映画でした。が、これはただのバイオレンスアクション映画ではありません。権力を持った極悪人を倒そうとするその動機は、彼ら極悪人に虐げられてきた母や女性たち、そしてヒジュラ(第三の性、クィア)のため。神話に登場する伝説的な猿の化身「ハヌマーン」とシンクロし、主人公はある意味、弱き者を助けるための聖なる戦いを挑むのです(たぶん多くの人がドラゴンボールの悟空の「オラ、おめえをぜってえ許さねえ!!」を思い出すハズ)。そこがこの映画の魅力であり、g-lad xxで紹介する意味です。
(※とはいえ、血が流れたり人が殺されたりするシーンが頻出しますので、暴力シーンが苦手な方はご注意ください。ただ、思わず目を背けたくなるほどの残忍さや、トラウマになるような恐ろしいシーンはなかったように感じます)
 
 注目すべきは、やはり、ヒジュラのコミュニティとモンキーマンとの邂逅です。なるべくネタバレにならないようにお伝えすると、インドにおいてヒジュラとは伝統的にカースト制度から外れた特異な存在であり、忌み嫌われたり蔑まれたりもしつつ、子どもの誕生や婚礼の祝いの場に呼ばれ、歌や踊りで祝福するシャーマン的な芸能者でもありました。劇中でも破壊と再生のシヴァ(男性の神)と献身やケアのパールバティ(女性の神)が半身ずつ合わさったイコンを崇めるシーンで「男性も女性でもあり、男性でも女性でもない」と語られるシーンがありましたが、そのヒジュラの双生性が特異な力の源であり、この映画において実に重要な意味を持つということはお伝えしておきます。
 モンキーマンは、ヒジュラとの出会いがあったからこそ、ハヌマーンとシンクロし、スーパーサイヤ人のように覚醒しました。(余談ですが、その後のファイトクラブのくだりは、まるで「タイガーマスク」のようでした)
 日本でも“オネエ”と呼ばれる方たちが仲間のために立ち上がって戦う的な映画があったような気がしますが、情に厚く義理がたいヒジュラのみんながモンキーマンを助けるためにシヴァの化身となるシーンには涙が出ました。
 女性やクィアのために身を呈して戦う男と、クィア(と女性)との友情の物語です。そして、強大な権力や社会システムの前に、なすすべもなく奪われてきたクィア(と女性)が、ハヌマーンの化身となったモンキーマンの姿に勇気づけられ、権力に立ち向かってもいいんだ、と初めて思えたところも感動的でした。

 宗教って歴史的に、権力と結びついて“異教徒”を殺したり、侵略を正当化したり、ということがあったと思いますが(現代においてもカルト宗教は本当に恐ろしいことをやってますが)、この映画では、宗教的な権威となっている聖職者の欺瞞を暴くということもやっていて、実に現代的だとも思います。
 
 フィルムノワール的な暗めの画面がほとんどなのですが、そんななかでお母さんと過ごした子ども時代の回想がとても明るく美しく描かれているのがいいです。
 音楽もGOODです。クラブ的なズンズン来る曲とかカッコよかったです。
 
 2009年に『スラムドッグ$ミリオネア』を観て、これはスゴい、面白い!と興奮したのですが、まさかあの主役の子がこんなに逞しく成長するなんて…と、デブ・パテルの姿に感慨を覚えたりもしました。
 
 例によって日本の映画宣伝会社はこの映画のクィア性に一切触れず(こちらの記事で、ISOさんというライターの方が「迫害されてきたクィアたち」とコメントしていなかったら、気づかずスルーするところでした)、キッドほどではありませんが、メラメラと怒りを覚えました。この映画の物語は明らかに、ヒジュラがいなければ成立しえませんでした。デブ・パテルはインタビューでこの映画は「声なき、周縁化された噛ませ犬への讃歌」だと語っています(「PinkNews」より)
 トランスジェンダーなどジェンダークィアのみなさんにもぜひご覧いただきたいと感じました。
 

モンキーマン
原題:Monkey Man
2024年/アメリカ・カナダ・シンガポール・インド合作/121分/R15+/監督:デブ・パテル/出演:デブ・パテル、シャルト・コプリー、ピトバッシュ、ビピン・シャルマ他
8月23日より全国で公開

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