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まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』

80年代のニューヨークを舞台にドッグとロボットとの友情を描いたアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』が静かな感動を呼んでおり、まるでゲイカップルのようだとの声も聞こえてきます。レビューをお届けします

まるでゲイカップルのようだと評判と感動を呼んでいる映画『ロボット・ドリームズ』

 80年代のニューヨークを舞台にドッグとロボットとの友情を描いたアニメーション映画『ロボット・ドリームズ』。サラ・バロンのグラフィックノベルをもとにスペインの名匠パブロ・ベルヘル監督が映画化した作品で、第96回アカデミー賞長編アニメーション映画賞にノミネートされたほか、アニー賞、ヨーロッパ映画賞、ゴヤ賞など名だたる映画賞を席巻した作品です。日本では11月8日にたった20館での公開となりましたが、「感動した」「泣けた」との声が口コミで広がり、上映館もどんどん拡大し、ロングランヒットを続けています。
 『ロボット・ドリームズ』はセリフやナレーションが一切ないアニメーション作品で、『ズートピア』のようにいろんな動物たちがニューヨークに暮らしているという設定です。ドッグはいつも独り部屋でTVゲームをやったりして味気ない生活を送っているのですが、ある日、部屋に「友達ロボット」がやってきたことで、それまで灰色だった人生が薔薇色に変わり、しかし、ある出来事がきっかけで離れ離れに…というストーリー展開が、観る人の想像をかきたてるような作品になっています。映画評ではドッグとロボットの関係がまるでゲイカップルのようだ、クィア的だと語る声も散見されました(「きみは覚えてる? あの夏、出会った日のことを――」というキャッチコピーも、それが恋であったことを連想させます)。すでにご覧になった方も多いと思いますが、まだの方のために、実際に観てみてどうだったか、レビューをお伝えしたいと思います。

<あらすじ>
1980年代のニューヨーク。ひとり暮らしで深い孤独を感じていたドッグは、通販番組で、ある商品に心をひかれて注文する。後日、大きな箱で届いた部品を組み立てると、ロボットが完成する。徐々に友情を深めていくドッグとロボットは、夏を迎え海水浴へ出かけるのだが……




 夏の恋。煌めく陽光。一緒に海に行ったり、プールに行ったり、アイスを食べたり、クラブで踊ったり。心沸き立つ、燃えるような恋のあと、別れが訪れ、冬になって、あの恋が本当に特別なものだったと思い知る…。そんな「ひと夏の恋」の思い出を、誰しも一つや二つ持っていると思います。
 あるいは、かつて心から愛した人がいて、でも、自分ではどうしようもできない事情や、運命のいたずらによって離れ離れになってしまい、今はそれぞれに別の人生を歩んでいる…という人も、きっといると思います。ある日、ふと街の雑踏のなかでかつての恋人を見かけて(中森明菜の『駅』のように)心がふるえる…そんな経験をしたことがある方も多いことでしょう。
 『ロボット・ドリームズ』が泣けるのは(ゲイに限らず)そういう出会いと別れ、恋の喜びと切なさの普遍的な感情に訴えかけるからだと思います。(それを恋だと受け取った方のほうが泣けるはず)

 擬人化されたドッグくんはたぶん男の子で、『ロボット・ドリームズ』のロボットくんには明確な性別がないものの、どちらかというと男の子に見えますし(なので、あえて「ロボットくん」と言います)、二人の間に芽生えた感情が恋で、二人がゲイカップルだと見ても、何ら不思議はありません。なかには『トイ・ストーリー』のような、おもちゃと人間との友情のような関係と見る方もいらっしゃいましたが、手をつないで街を歩いたり、海辺でおそるおそる指をからめたりする様は恋人たちのデートそのものであり、お互いに再会を希求する二人の思いの激しさ・切なさは、恋としか言いようがなく、友情の枠に押し込めるのは無理があるのでは…と思います。でも、絵面はかわいいタッチで描かれた犬とロボットなので、そういう解釈もギリギリ成り立つのかな、とも思いますし、おそらくそういういろんな解釈を許容するために、動物とロボットになってるんでしょう。そこがこの作品の成功の秘密なんだと思います。

 そもそもロボットが恋愛感情を持つことはあり得るのか?という科学的・工学的な疑問には『WALL・E/ウォーリー』がすでに答えを出してますし、『ロボット・ドリームズ』の友達ロボットは(ドラえもんほどではないですが)子どものように周囲からどんどん感情を学んで成長するタイプのロボットですので、当然、恋愛感情も持ちうるということでいいと思います。ただ、人間(動物)のようにセックスできるわけじゃないのに、果たして二人の関係を恋愛と呼んでいいのか?という話はあります。というか、セックスの可能性をあらかじめ排除するためのロボットでもあるのかな、と思いました(『ズートピア』のように動物に喩えることで描きやすくなることってあるでしょうし、ファミリー層にも引っかかりやすいんでしょうね)
 
 本当は後半の展開をすごく書きたいのですが、ストーリーにはなるべく触れないようにしたいと思うので、さわりだけにしますが、決して優しい人ばかりではない大都会(ニューヨーク砂漠)で、不器用で孤独なドッグがようやく手に入れた“恋人”と、束の間の幸せのあと、残酷にも離れ離れになってしまうという切なさが描かれ、その後、周囲の人たちの助けも得て、二人が再会を果たす一種アドベンチャー的な展開になるのかな?と思いきや、全然そうではなく、現実は厳しく、そして、意外な展開になっていきます。ラストシーンの感動は、初めにも書いたように、誰もが心に一つや二つ持っているような恋の切なさやほろ苦さの記憶を喚び起こすからこその涙なのです。言い換えるとこの映画は「人生ってこうだよね」と思わせるような作品で、誰しもが持っている普遍的な記憶に訴えかける大人の「寓話」なのです。
  
 「Do you remember?(きみは覚えてる?)」で始まる主題歌の「September」も(この歌自体は9月に出会った日のことを12月に思い出し、そのことに感謝するような歌なのですが)、セントラルパークでローラースケートをはいて踊ったり、手をつないで歩いたり、一緒にビーチに行ったりという楽しかった日々を思い出させる、二人の絆の象徴として、実に効果的に使われています。これからアース・ウィンド&ファイアーの「September」を聴いたら、きっと『ロボット・ドリームズ』のことを思い出すことでしょう。
 セリフがないぶん、音楽がとても生きています。ニューヨークの地下鉄でタコが8本の足でドラムを鳴らすシーンなどは「人種のるつぼ」的な多様性のメタファーになっていて、素敵です。

 1月1日に映画館で観た時は、男性どうし、女性どうしのカップルと思われる方たちがちらほらいらっしゃいました。まだ当分、上映されると思いますので、ぜひご覧になってみてください。


ロボットドリームズ
原題:ROBOT DREAMS
2023年/スペイン=フランス/102分/監督:パブロ・ベルヘル

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