REVIEW
レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
オンラインシアター「ブリリア ショートショートシアター オンライン(BSSTO)」で配信中の「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集。そのレビューをお届けします

(『ハッピーバースゲイ』より)
国際短編映画祭「ショートショート フィルムフェスティバル & アジア」が厳選したショートフィルムを毎週水曜日に配信しているオンラインシアター「ブリリア ショートショートシアター オンライン(BSSTO)」。会員登録すれば常時12作品ほどを無料で視聴できるという素敵なサービスです。そのBSSTOが11月20日の国際トランスジェンダー追悼の日と11月13〜19日のトランスジェンダー認知週間に合わせ、11月5日から毎週、『片袖の魚』を含む5本のショートフィルムを特集配信しています。ここでは、すでにレビューをお届けした『片袖の魚』も含め、5本をご紹介します。映画は長さには関係ない、短編小説と同じように、短編映画が一生忘れられない、あるいは人生を変えるような体験をさせてくれることもある、ということを実感させてくれるような、良質なクィア短編作品ばかりです。
配信が始まった順にご紹介しますが、特に順番に意味があるわけではないので、面白そうな作品から観ていくというので大丈夫です。いずれも来年2月まで配信されます。
BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
https://sst-online.jp/magazine/18192/
クレイリーレイクの終わらない夏
<あらすじ>
夏が終わり、観光シーズンもひと段落。湖畔の「ホットドッグスタンド兼ボートレンタル店」で働くレーンは、雨を避けながらハイになって、何も起こらない一日をやり過ごそうとしていた。しかし、ちょっと気になるボートの借り手・カーラの登場で、レーンの退屈な一日は思いがけない方向へと転がり始める――。
めちゃくちゃ面白かったです。実によくできたクィア・コメディだと思います。
雨の中、スケボーに乗りながらタバコに火をつけようとするちょっとレディ・ガガに似てなくもない女性がコケるところから始まるのですが、そのズッコケ加減がこの映画の笑いの基調になっています。短編映画でめっちゃ笑わせるってそう簡単じゃないと思うのですが、脚本や演出や役者が秀逸なんですよね。上手いと思います。
すごく書きたいことがあるのですが、全部ネタバレになってしまうので、ここでは控えることにして、一点だけ。この作品の監督はSpencer Thielmannという男性とEmily Bergeという女性なのですが、たぶん当事者じゃなくてアライで、この映画自体も、たぶん当事者じゃないストレートの女性が主人公で、クィアな人たちの行動に翻弄されたりするお話なのですが(厳しく見れば、ノンケがクィアをネタにしている構図になっていると言えます)、全然違和感や不快感を感じさせないところが、よく考えるとスゴいと思うのです(もしかしたらクィア女性から見ると違和感があるのかもしれませんが)。フェアというか、対等だという姿勢が貫かれているからこそなんだろうな、と。そういう発見もありました。
クレイリーレイクの終わらない夏(Crarylake Boats and Floats)
監督:Spencer Thielmann & Emily Berge/アメリカ/2022/9:40
僕の言いたいこと
<あらすじ>
ゲイであることを隠しているインドネシア人俳優フィルマンは、映画のインタビュー中、“ストレト”のイメージを崩すまいと必死だ。しかし、トランスジェンダーの友人ケニーが、共演者ジョニによるハラスメントを訴えた件について聞かれると、彼の心は葛藤する。キャリアのために沈黙を貫くべきか、それとも、自分の秘密がバレてしまうリスクを冒してでもクィアの仲間を守るべきか。彼は決断を迫られる。
深く胸を打つ作品でした。プライドと友情の話、人間としての尊厳にかかわるような話でした。かつてゲイやレズビアンの連邦職員がパージされていたアメリカでは仲間を売る行為が多発していたそうですが(ロイ・コーンとか最たるもの)、このインドネシアの俳優は(日本よりもっとゲイに対する風当たりが強いはずですが)たとえゲイだとバレても構わない、トランスの仲間を守ろうと決意するのだから、感動的です。ここで描かれたようなことは日本でも起こりうるし、実際起こっているのだろうな、と思いました。
僕の言いたいこと(In the Words of Firman)
監督:Kurnia Alexander/インドネシア/ドラマ/2024/18:20
片袖の魚
<あらすじ>
トランスジェンダー女性の新谷ひかりは、ときに周囲の人々との間に言いようのない壁を感じながらも、友人で同じくトランス女性の千秋をはじめ、上司である中山や同僚の辻などの理解者に恵まれ、会社員として働きながら東京で一人暮らしをしている。ある日、出張で故郷の街へ出向くことが決まる。ふとよぎる過去の記憶。ひかりは、高校時代に同級生だった久田敬に、いまの自分の姿を見てほしいと考え、勇気をふりしぼって連絡をするのだが――
日本で初めて、公募で選ばれたトランス女性がトランス女性の役を演じた記念碑的な映画です。文月悠光さんの詩を原案として、国内外の映画祭で高い評価を得ている東海林毅監督が映像化しました。
モデルのイシヅカユウさんが演じているだけあって、ひかりの、背筋のピンと伸びた、凛とした佇まいは光っています。つらい仕事の後、イヤホンを耳にさしてお気に入りの音楽を聴きながら颯爽と歩くシーンは、ちょっとグザヴィエ・ドランの『わたしはロランス』を彷彿させるものがありました。本当にカッコいいです。そんなクールでスタイリッシュなシーンと、バーでの庶民的なシーン、両方あってバランスがとれている気がします。きっとたくさんの人が感情移入できるだろうなと思います。34分があっという間で、もっと観たいと思わずにはいられない作品です。(詳しいレビューはこちら)
片袖の魚(The Fish with One Sleeve)
監督:東海林毅/日本/ドラマ/2021/約34分
ジュリアンと風
<あらすじ>
寄宿学校の寮で同室となった二人の少年。ある夜、ジュリアンは眠ったまま庭へと歩き出す。風に導かれるような その不思議な出来事をきっかけに、二人は言葉にできない時間を共有していく。
冒頭はこんな感じです。ベッドの中でジュリアンがはだけている胸のセクシーさに同室の少年(主人公)がうっとり見惚れていると、おもむろにジュリアンが眠ったまま立ち上がり、雪の中、外に出ていき、心配になった主人公が大丈夫?と肩に手をかけたその瞬間、アメフト部のジュリアンは!?
ジュリアンは女好きで、部屋に女を連れ込んでヤったりしてるし、同室の彼のことは別に友達だとも思ってない様子(どちらかというとぞんざいに扱ってます)。なのですが、ジュリアンの夢遊病とそれを心配して気遣う主人公の少年の行動がきっかけとなって、小さな奇跡が生まれるという、独特でちょっとファンタジックな物語になっています。『ハートストッパー』のようにラガーマンと結ばれるなんてことは夢物語だけどジュリアンのようなセクシーガイと距離を縮めることは不可能ではないと思えるんじゃないかと。そういう意味ではリアルなお話です。
ジュリアンと風(Julian and the Wind)
監督:Connor Jessup/カナダ/ドラマ/2025/15:00
ハッピーバースゲイ
<あらすじ>
息子のナダヴィがゲイであることをカミングアウトしてから1年が経ったことを祝う、仰々しいサプライズ・パーティを開くママ。しかし、ナダヴィは素直にそれを喜ぶことができずにいる。息子は祖母にもカミングアウトしたがっているが、ママがそれをひた隠しにしているからだ…。
カミングアウト1周年おめでとうと言ってLGBTQの友達が家に集まって、ママがレインボーフラッグを飾ったりレインボーなケーキを用意したりして、嫌味なくらい大げさにお祝いするパーティと、それを冷めた目で見ているナダヴィの対比とか、急におばあちゃんが家に来ることになったときのホラー映画ばりの音楽とか、みんなで急いでレインボーカラーのものをしまったりとか、そういうドタバタ感が笑えるコメディです。果たしておばあちゃんは孫がゲイだと気づくのか、そしてそれを受け容れるのか…?とハラハラドキドキさせられますが、最後に思わぬ展開が待っています。
ハッピーバースゲイ(Happy Birthgay)
監督:Niv Manzur/イスラエル/コメディ/2022/16:09
どれも本当にいい作品、観てよかったと思える作品だと思います。
こういう良質なクィア短編映画を無料で観ることができるなんて、本当にラッキーなこと。いい時代になりましたね。
INDEX
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
SCHEDULE
- 01.17令和のぺ祭 -順平 BIRTHDAY PARTY-
- 01.17GLOBAL KISS
- 01.18がいずば14周年&がい還暦パーティー







