REVIEW
ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
ワム!のマネジャーだったオープンリー・ゲイのサイモン・ネイピア=ベルが監督した映画『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』が公開中。ゲイのことがど真ん中にあるような、ジョージ・マイケルの真実により深く迫るようなドキュメンタリーでした

80年代前半にワム!として「ウキウキ・ウェイク・ミー・アップ」「フリーダム」「ラスト・クリスマス」などを大ヒットさせ、世界的なポップスターになったあと、ソロとしてもアルバム『FAITH(フェイス)』が2500万枚の大ヒットを記録し、グラミー賞のアルバム・オブ・ザ・イヤーをはじめ数々の賞を受賞、世界的なビッグ・アーティストとして評価され、スターダムにのし上がったジョージ・マイケル。92年のフレディ・マーキュリー追悼コンサートでのライブは伝説となっており、2012年ロンドン五輪の閉会式にも出演。30年超にわたるキャリアでの通算売上枚数は1億2000万枚を超えています。2016年12月25日(全世界に「ラスト・クリスマス」が流れている日)、地上での使命を終え、天に召されました。
ジョージ・マイケルがゲイであることをカムアウトしたのは、そうせざるをえない状況に陥ったからでした。1998年、ジョージはロサンゼルスのハッテントイレで囮捜査に入っていた警察官によって公然わいせつ罪で逮捕されたのです(保釈金を払って釈放されました)。ジョージはCNNのインタビューで自身がゲイである事実を公表しました。ジョージが素晴らしかったのは、ハッテントイレで逮捕されたことで活動を自粛したりせず、「OUTSIDE」のPVでこの事件のことを自らパロディにしてみせたことです。ビルの屋上や公園やトラックの荷台やエレベーターやトイレで愛し合う男女(または男性どうし)の姿が写し出され、トイレの便器がくるっと回ってミラーボールが出てきてクラブに変身したかと思うと、警官の制服を着たジョージがディスコ調の曲に合わせて歌い踊るという痛快なPVでした(警官どうしがキスするというオチも傑作!でした)
2005年に日本でも公開されたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル~素顔の告白』では、ジョージのセクシュアリティのことも語られていました。1992年、リオデジャネイロでライブをしていた時に、ステージ前にいたブラジル人衣装デザイナーのアンセルモ・フェレッパに一目惚れし、恋に落ちました。しかし、その5ヶ月後、アンセルモがエイズを発症。ジョージは1993年に彼が亡くなるまで生活を共にしていました。しばらくは恋人を失った悲しみから立ち直れずにいましたが、1995年にアンセルモに捧げた「Jesus To A Child」を発表、これをきっかけに音楽制作活動に戻っていくことができました。そして1996年、ジョージは、LAのレストランで美術品ディーラーのケニー・ゴスに出会い、ケニーがジョージのかけがえのないパートナーとなりました。2004年のシングル「アメイジング」はケニーに捧げられた歌でした(同年のアルバム『PATIENCE』には、やはりケニーに捧げた「アメリカン・エンジェル」という曲も収録されています)。しかし、2008年、ジョージがロンドンのトイレで逮捕され、薬物も所持していたことで起訴されるという事件を起こしたことをきっかけに、二人の関係は終焉を迎えました。2010年頃からジョージはオーストラリアのヘアスタイリスト、ファディ・ファワズと交際を始めましたが、亡くなるまで二人の関係が続いていたのかどうかは不明です(ケニーと再び会うようになったという報道もありました)
ジョージ・マイケルがゲイとして偉大なのは、ハッテントイレで逮捕されるという、セレブとしてはあまりにもセンセーショナルな仕方でカミングアウトを余儀なくされたにもかかわらず、そうしたセクシャルな部分を恥じたり卑下したりせず、堂々と開き直っていたところです。
(追悼記事もぜひご覧ください)
ジョージ・マイケルのドキュメンタリーとしては、本人が生前最後に手がけ、2022年に公開された『ジョージ・マイケル:フリーダム』もあります。こちらはナオミ・キャンベルをはじめとするスーパーモデルやエルトン・ジョンをはじめとする大御所ミュージシャン、ジャン=ポール・ゴルチエらが出演する絢爛豪華な(ジョージがいかに偉大だったかを美しくまとめた)ものでした。
この、ある意味「キレイすぎる」作品に対して、もう少し客観的に、ジョージ・マイケルのすぐ近くにいて彼のことを見てきたゲイの人物によってまとめられた、ゲイのことがど真ん中にあるようなドキュメンタリーが、この『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』です。監督を務めたのはワム!のマネジャーだったサイモン・ネイピア=ベル。英国のレコードプロデューサー/音楽マネージャー/作家/ジャーナリストでオープンリー・ゲイの人物です。
もはや世間からは忘れられかけているかもしれない、若い方などはよく知らないかもしれないジョージ・マイケルですが、ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルへのリスペクトの気持ちと、この作品で彼の新たな一面を知ることができるかもしれないという期待から、観に行くことにしました。1月1日、kino cinema新宿での上映は満席でした(レズビアンの友人にも会ったりしました)
<あらすじ>
1981年、18歳のジョージ・マイケルは、12歳の時からの友人であるアンドリュー・リッジリーとボップデュオ・ワム!を結成。当初契約したインナーヴィジョン・レコーズとの契約の問題でシングルが出せない状況となるが、賢く乗り切る。しかし、人気絶頂でも、ジョージ自身は幸せを感じられず、1986年にはソロシングル「ディファレント・コーナー」でセクシュアリティの葛藤を歌い、直後にワム!は解散を発表。1987年に発表したソロ・デビューアルバム『フェイス』はグラミー賞を受賞するが、1990年発表の「フリーダム!‘90」のMVでは、『フェイス』のキーアイテムだった革ジャンを燃やし、ポップスターのイメージから脱却。葛藤とジレンマを抱えていたジョージは1991年、ブラジル人衣装デザイナーのアンセルモ・フェレッパと運命的な出会いを果たす。が、幸せな日々を過ごしていたのもつかの間、アンセルモはエイズを発症し、急逝…。1993年、所属レコード会社の幹部の一人がジョージに対してゲイ差別用語を使ったという噂を聞いて怒ったジョージは、自分のためでなく、業界全体のためにと、他の業界では改善されているアーティスト個人の権利の確保のために裁判で闘うことに…。







ジョージがデビュー前にロンドンのゲイクラブに出入りしていたことや、(ゲイであることが世界に伝わる方法には失敗したかもしれないけれども)セックスやゲイネスを肯定することが大事だという信念を持って語っていたということ、最愛の恋人・アンセルモが本当に魅力的な人で、彼がいるとその場がパッと明るくなった、スタッフもみんな何も言わず二人の関係を受け入れていたということなど、以前のドキュメンタリーよりももっと深く、ジョージのゲイライフヒストリーや、セクシュアリティのことが彼の人生にとってどんな重みを持っていたかということが掘り下げられていたように感じます。アメリカで公演を行なっていたとき、サンフランシスコ市が同性婚の許可を出したことに触れて、自身もサンフランシスコで(パートナーのケニー・ゴスと)結婚することも考えてると発言していたのも、この映画で初めて知りました。
そもそも監督のサイモン・ネイピア=ベルもゲイですし、英国で最も有名なLGBTQ活動家の一人であるピーター・タッチェルや、俳優/タレント/作家/ジャーナリストのスティーブン・フライ、ミュージシャンのトム・ロビンソンやルーファス・ウェインライトといったゲイの著名人が出演し(ほかにもいたと思います)、ジョージについて語っていたのもよかったです。LAの例の事件のときの反応もそうですが、ゲイコミュニティがどれくらいジョージを応援していたかということがよくわかりました。元パートナーのケニー・ゴスがジョージのことをどう思っていたかということも聞けました。
一方、まだゲイだと公表できなかった頃、1988年のテレビ番組でインタビュアーが不意打ちのように「君はゲイか?」と質問する事件があったのですが(ジョージは面食らった様子で「違うけど、誰にも関係ない」と答えていました)、そういう心ない人たちがどれだけジョージを追い詰め、苦しめてきたかということもよくわかりました。メディアがそうやってセクシュアリティを詮索したり(ホモフォビアがにじむ態度を取ったり)するなか、世界的なスターにはなったものの、プライベートの行動が著しく制限され、自由に恋愛することもできず…という苦悩に苛まれていたのです。それでも、その苦悩を歌に昇華させたり、アンセルモとの交際を身内には隠さず、ツアーにも同行させたり(しかし、最愛の恋人はあっという間に悲劇的な死を遂げてしまい…)、ゲイとしての幸せもあきらめず、「OUTSIDE」のPVでは堂々とゲイであること(そして人間のセクシャルな一面)を表現しました。が、長年チクチクとジョージの心を蝕んできた世界の悪意(ホモフォビア)は、薬物への依存やメンタルヘルスの悪化を招くことになったのです。
今回の作品で知っていちばん感銘を受けたのは、ジョージ・マイケルが(自身も精神的に苦しんでいたにもかかわらず)エイズ患者を支援する団体や、本当にさまざまな団体に匿名で多額の寄付をしていたことです。時にはアルバムの収益のすべてを寄付したりもしていました。ジョージは、困っている人たちがいると聞くと、スーパーマンのように飛んで行く代わりに、そうやって匿名で寄付をして慈善団体を支援していたのです(なぜ匿名にしたのかはわかりませんが、当時、イラク戦争を批判してメディア王・マードックに睨まれ、ゴシップ紙などでひどく叩かれるようになっていたため、そういう自分が関わることで団体のイメージが悪くなることを心配したのではないかと思われます)
デビュー当時にレコード会社が12インチには印税を払わないというひどい契約をしていたことに対して裁判を起こして無効にさせ(レーベルを移籍し)、作った曲の著作権は本人じゃなくレコード会社が所有するという音楽産業の理不尽な構造に対しても裁判を起こしたりなど、ジョージはその類稀な才能を搾取され、騙され、音楽産業のシステムに翻弄されながら、その巨大な壁と闘ってきた人でした。
ゲイのポップスターがカムアウトしてやっていける時代、アーティストが食い物にされず、自身の権利を守りながら活動していける時代に生まれていたら、ジョージの人生はもっと幸せなものになっていたかもしれないし、もっと長生きして今も音楽を作りつづけてくれていたかもしれないと思わずにはいられませんでした。
そして、そんな困難な時代に生きながら後に続く人たちのために道を切り開いてくれたことの功績は、ジョージ・マイケルの音楽の素晴らしさとともに、もっと語り継がれていくべきだと思いました。
※なお、kino cinema新宿での1月1日の上映の後、元『CROSSBEAT』の荒野政寿さんによるトークショーがあり、ワム!が日本で独自のアイドル的なマーケティングを展開され、ワム!人形などのグッズが売られていたことなどを振り返ったり、ミュージシャンが大手と組まずとも自分でいろいろコントロールしてやっていけるような今の環境ができてきたのはジョージのような人が闘ってきてくれたおかげだ、といったお話もあって、面白かったです(劇中に登場していたサナンダ・マイトレイヤという方がテレンス・トレント・ダービーであることも教えてくれました)。12月28日のアフタートークはサイモン・ネイピア=ベル監督が登壇したそうで、こちらにその模様がレポートされています。「彼は以前私に『後悔することは一つもない』と言いました」という言葉が印象的でした。最後に監督は、「カムアウトしてから彼は出来るだけ“普通に”生きました。“普通に”というのは、自分ではない何かだと偽ろうとしなかったということです。彼はみんなに、“なりたい自分になろう”と影響を与えられたと思っているのではないかと思います」と語ったそうです。
ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇
原題または英題:The Real George Michael: Portrait of an Artist
2023年/英国/94分/監督:サイモン・ネイピア=ベル/出演:ジョージ・マイケル、アンドリュー・リッジリー、スティービー・ワンダー、スティーブン・フライ、ルーファス・ウェインライトほか
ヒューマントラストシネマ有楽町やアップリンク吉祥寺などで公開中
INDEX
- 異国情緒あふれる街で人と人とが心通わせる様にしみじみと感動させられる名作映画『CROSSING 心の交差点』
- ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
- アート展レポート:ネルソン・ホー「鏡中花、水中月 - A Mere Reflection of Flower and Moon」
- レポート:グループ展 “Pink”@オオタファインアーツ
- アート展レポート:東京都写真美術館「総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol.22」
- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』







