REVIEW
最高にパンクでエロティックなBruce LaBruce版『テオレマ』:映画『来訪者』(レインボー・リール東京)
レインボー・リール東京上映作品レビューその3は、パゾリーニの伝説的な映画『テオレマ』を、『ハスラー・ホワイト』のブルース・ラブルースが現代版に再構築した最高にパンクでエロティックな作品『来訪者』です

『テオレマ』とは
ゲイであり、『ソドムの市』などで知られ、神聖と汚穢の両極を往復する映像美とスキャンダルで映画界やアートシーンに大きな影響を与えたピエル・パオロ・パゾリーニの伝説的な映画『テオレマ』(1968年製作、1970年劇場初公開)。ある日、突然、ミラノのブルジョワの家に絶世の(オム・ファタール的な)美男子がやって来て、その魔性の魅力で家族全員をトリコにし、セックスし、やがて去って行く、すると残された家族はおかしくなってしまい、家族は崩壊…という寓話的な物語で、男女関係なくセックスするバイセクシュアル(あるいはパンセクシュアル)な性のありようを正面から描いたという功績だけでなく、資本主義と現代の家族制度が抱える根源的な虚無を抉り出した作品としても評価されています。アルヴェルト・モラヴィアは「聖性を失った近代世界で行なわれる奇蹟の物語」と評し、澁澤龍彦は「絶対の探求」と述べ、パゾリーニ自身は「スキャンダルとしての破壊の神」だと語っています。ちなみに魔性の魅力で家族を狂わせる(キリストにも喩えられる)謎の美青年を演じたのは、あの『プリシラ』で品のいいバーナデットを演じていた若き日のテレンス・スタンプでした。
2022年、ほとんど上映される機会のなかった『テオレマ』がパゾリーニ生誕100年を記念してデジタルリマスター版で劇場公開され、鑑賞することができました。ので、今回の『来訪者』が(ただの“過激”なポルノではなく)『テオレマ』という作品の本質的な部分をきちんと踏まえた作品であることは間違いありません、とお伝えしておきます。
『来訪者』レビュー
<ストーリー>
英国の大邸宅に暮らす裕福な一家の前に、ある日突然、見知らぬ美しい青年が現れる。品の良い父親、その夫に寄り添う美しい妻、アーティストの息子、多毛症の娘、そしてクィアなハウスボーイ。何の前触れもなく同居を始めたその青年は、それぞれを魅了し、関係を持つことで、ブルジョワの穏やかな日々をかき乱していく。青年の性的魅力と、神聖な不可解さに挑発され、狂わされた家族たちは、青年が去ると同時に崩壊の道を辿っていく…。






一般の映画館で上映される作品だと思っていたので、そこまでハードではないだろうと思っていたのですが、予想を大幅に上回り、たぶん映画祭史上、最もkinkyなハードコア・ポルノ映画だったんじゃないかと思います(2番目は『ハスラー・ホワイト』です)。まさかここまでとは…。引いてるお客さんもいれば、興奮した方もいらしたと思います。このような作品を選択肢から排除せず、堂々と上映に踏み切った映画祭のスタッフの皆さんに心からの拍手を送ります。
マッチョで巨根な黒人男性を<来訪者>に据えたブルース・ラ・ブルースは、『テオレマ』という作品の物語構造や精神を忠実になぞりながらも、『テオレマ』が批判していた資本主義それ自体よりも、いまの欧州が抱く「移民フォビア」「人種差別」にフォーカスしていたようです。黒人男性の肉体を最高にエロティックなものとして崇拝し、神格化させ、ハードコアなポルノを描きつつ、同時に、退屈しきった家族4人が<来訪者>との素晴らしいセックスによって、生きてるってことを実感させられ、未来というか運命を変えられる様を描いています。
セクシャルなシーンについては、ここまでやる?って思うくらいkinky要素てんこ盛りで、なかには目を覆いたくなるシーンもあったと思うのですが、なぜあそこまで?というところがポイントですよね。
ブルース・ラブルースはもともとそういう人(ポルノ作品を作りたい人)だし、50年前の『テオレマ』と同レベルだなんてありえない、もっと21世紀らしい”過激”なセックスじゃなければ、人の人生を変えることにはならないだろう、という直感があったのではないかと想像します。
劇中でも「宇宙からやってきた」というセリフがありましたが、白人のお金持ちの家にやってくる<来訪者>にマッチョな黒人男性を据え、何か未知の、「こんなの初めて」って言っちゃうような、とんでもなくセクシーで蠱惑的な存在である必要があり(そのことを、現代の欧米のホット・イシューである移民の問題と絡め)、なおかつ、“普通”でつまらないセックスじゃなく、思いっきりkinkyに振れることで、こんなスゴい快楽を知ってしまったらもう後戻りはできない、という感覚への共感を強固にしているのではないでしょうか。
テクノな音楽が流れ、
Sex has no borders
Make love not war
Family value
Queer liberation
Open boundary, open legs
といったフレーズがビカビカ光りながらセックスの最中に挿入されるのは、とてもブルースらしい演出でした。
『テオレマ』では最後、パパが自分の所有する大工場を労働者に与え、ミラノ中央駅で全裸になり、彷徨い、その姿でどこか荒涼とした場所にやってきて咆哮するのですが、この映画も同じように、パパが路上で服を脱いで行って、街を彷徨い、あれは美術館なのか、そういうアート作品を作ったのかどうかわからないのですが、「GOVERNMENT」「CAPITALISM」という崩れかかった巨大な文字の立体作品のある場所にやってきて、「CAPITALISM」をファックし、そのあとも続きがあって、これがラストシーンなので詳細は伏せますが、パパは「CAPITALISM」と最も遠い所に行くのです。唸らされました。(願わくば、パパがもっと成金っぽい太ったおじさんだったらもっとリアリティがあったかも、と思いました)
とてもハードなsexが描かれていることはご承知いただきつつ、なかなかこういう映画は日本では観られないので、ぜひご覧いただければ、と思います。
来訪者
英題:The Visitor
監督:ブルース・ラ・ブルース
2024|英国|101分|英語 *日本初上映
ベルリン国際映画祭パノラマ部門出品
6月21日(日)11:30-
7月11日(土)17:00-
INDEX
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