REVIEW
セクシーさもありつつ胸が締め付けられるような映画『君の見る世界をなぞる』
工事現場で働く16歳の少年(とてもかわいい)が、先輩であるウクライナ出身の青年に恋をしてしまうが…というお話で、セクシーさもありながら(それだけに)ズシンと重いテーマに胸が締め付けられる…今までになかったような作品です

不朽の名作『BPM ビート・パー・ミニット』のロバン・カンピヨ監督が、盟友ローラン・カンテ監督が2024年にがんで亡くなったため、その遺志を継いで完成させた映画です。陽光降り注ぐ南フランスを舞台に、現代という複雑な時代に生きる思春期の少年の葛藤と恋をみずみずしくつづった青春ドラマです。
<あらすじ>
南フランスの裕福な家庭に育った16歳のエンゾ。学校になじめず建築現場で働く彼は、そこで出会ったウクライナ出身の青年ヴラドに心を寄せるが、彼は兵役のため戦争へ行かなければならない。順調な日々を過ごす家族に対する不信感、将来への不安、そして親しい人が奪われていく戦争の現実。自分の感情を制御できないまま、エンゾが過ごす夏は静かに流れていく。






初めて男性に恋をする16歳の少年の「ひと夏の恋」を描いた『君の名前で僕を呼んで』のような映画かと思いきや(揺れる恋心を、思春期の少年の暴走する感情を描いた作品ではあるのですが)、もっと複雑かつ重いテーマの映画でした。『BPM ビート・パー・ミニット』のロバン・カンピヨ監督だけあって、ラストの胸がギューっとなるような切なさが凄いです。当分引きずりそう…。
学校にうまくなじめず、(本当はブルジョワの家庭で甘やかされて育ったのですが)建築現場で働き、かつての誰かの歌のようにうそくさい大人たちの世界に中指を立て、反抗的な気分で生きているエンゾが、建築現場で尊敬する兄貴分を慕い、(まるで『さぶ』やなんかの小説のように)兄貴についていきます、俺、兄貴のためなら命張れます!とばかりに、感情をつのらせ、やがてその感情が師弟関係を超えた本気の恋になっていくが、バリバリノンケの兄貴はエンゾの気持ちに応えることができず…行き場のない思いを抱えたエンゾは自暴自棄になり、アブナイ行動に出てしまうという、非常に痛々しい展開になってしまうのですが、エンゾが、というかエンゾを演じたEloy Pohu(エロイではなくエロワと読みます)という俳優が、あまりにも男の子っぽさと青年らしさのあわいの奇跡的なセクシーさとHOMME FATAL的な魔性の魅力を放つ(たぶんOFとかやったら世界レベルで人気が出そうな)SEXY BOYなので、すべては許されてしまい、観客を庇護者の気持ちにさせてしまうという(こちらの記事でも「本気で涙を流した」と書かれています)なかなかお目にかかれないタイプの作品になっているのですが、一方で、エンゾが本気で好きになってしまう兄貴分の(ちょっとジャン=ポール・ベルモントっぽさもある)ヴラドはウクライナから来た青年であり、戦争という残酷な現実に直面しているわけで、二人の生まれ育った環境(もっと言うと社会的地位や階級)の違い――片やフランスのマルセイユあたりの海が見える豪邸に住まうボンボンであり、片や徴兵の年齢を迎えたらウクライナで兵役に就くことを余儀なくされ、そうなれば明日をも知れぬ命――の対比がものすごくて、実はそのことこそが(あるいは反戦ということが)この映画の真のテーマだと感じずにはいられませんでした。
もしここまで読んで、エンゾがゲイであるかのように受け取った方がいらしたら申し訳ないので、大急ぎでつけ加えると、エンゾは典型的なゲイでは全くなく、徹頭徹尾ノンケっぽい(男っぽい)男の子です。これまでもそういうタイプのゲイを描いた作品はありましたが、自ら進んで肉体労働を選び、ラップを聴き、不器用で、時に暴力的な衝動に身を任せてしまうほどのノンケっぽいキャラクターは観たことがありませんでした。そこが危なっかしくもあり、セクシーでもあり…。この映画の稀有な魅力になっているのかもしれません。エンゾはたぶんノンケ(女好き)なんだけど、ヴラド兄貴だけは特別な存在として好きになってしまったんじゃないのかな…バイセクシュアルなのかもしれないし、もしかしたらパンセクシュアルかもしれないし、デミセクシュアルとかかもしれないし(まだ16歳ですし…きっと本人にもわからないですよね)…セクシュアリティって本当に奥深いですよね。
ゲイの観客へのアピールだと思いますが(それか監督の趣味)、やたらとシャワーシーンや脱ぐシーンが盛り込まれています。セクシーな男たちの魅力をご堪能ください。そして、好きな人と結ばれることがどうしてこんなに困難なのか、私たちは(こんなに可愛いのに)なぜ愛から遠ざけられてしまうのか、ということに思いを馳せましょう。
君の見る世界をなぞる
原題または英題:Enzo
2025年/フランス・ベルギー・イタリア合作/102分/PG12/監督:ロバン・カンピヨ/出演:エロワ・ポユ、ピエルフランチェスコ・ファビーノ、エロディ・ブシェーズ、マクシム・スリビンスキーほか
INDEX
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SCHEDULE
- 10.25SYNTRA






