REVIEW
田亀源五郎『僕らの色彩』単行本
世界中でアワードに輝いた不朽の名作『弟の夫』に続く田亀先生の一般向け連載『僕らの色彩』、待望の単行本が発売されました。ぜひ一冊、お手元に!

文化庁メディア芸術祭優秀賞をはじめ、世界でいろんな賞を受賞し、昨年にはNHKで実写ドラマ化されて大きな反響を呼んだ『弟の夫』、その輝かしい栄光のあとに、田亀さんが世に送り出した(現在も連載中な)のが『僕らの色彩』です。
「俺は男が好きだ」その秘密が、自分を、相手を、追い詰める――高校生の井戸田宙(いとだそら)はクラスメイトの吉岡健太に片想いする、ゲイの高校生。幼なじみの仲村奈桜(なかむらなお)にも秘密にしていたが、「ホモなんて気持ち悪い」と友人達とふざけあう吉岡の姿にショックを受け、学校を飛び出してしまう。海辺で佇んでいると、年配の男性から突然「好きだった」と告げられ…。"当たり前"が誰かを傷つける――心ヒリつく青春ドラマ。(公式サイトより)
『弟の夫』は、カナダからマイクというクマ系のゲイのおじさん(ダブルミーニング)がやってきて、義理の兄弟だと(亡くなった双子の弟の夫だと)告げられた弥一の戸惑いや葛藤、そして弥一の娘・カナちゃんのあっけらかんと懐く様を描き、家族とは何か?を新しく塗り替えていく物語でした。初めはホモフォビアを持っていた弥一が、それをあらわにしたりしつつも、マイクの人間性の魅力に触れて次第に変わっていく様が丁寧に描かれていました。ゲイという経験に対しては理解も共感も難しいような読者の方も、家族になるということの素晴らしさはわかるし、感情移入しやすいですよね。だからこそ『弟の夫』は普遍性を獲得し、世間にも、世界にも評価されたのではないかという気がします。
『僕らの色彩』のほうは、一歩進んで、正攻法で、ゲイという経験がどのようなものかを、読者に理解していただこうとするチャレンジをしていると思います。吉岡が「ホモなんて気持ち悪い」と言うクラスメートと一緒に笑っているのを見て、好きなのに、とてもじゃないけど好きだと言えなくなってしまった宙の苦悩、そして、その苦しさを誰にも相談できないつらさは、多くのゲイの方々が経験してきたことですが、ストレートの読者にも、どうしてカミングアウトがそんなに困難なのかというリアリティとして伝わるはずです。また、信頼できる(できれば当事者の)大人が身近にいて、こうした悩める高校生のよき相談相手になってくれたらどんなにいいだろう、ということも描かれています。自分の高校時代を振り返ってみると、宙のように同じクラスで好きになった人がいたけど、告白もできず、その恋の苦しさを友達に相談することもできず、周りに同じゲイの人もおらず(田舎なので市内にゲイバーなどもなく)、同性愛について書いてる本なども全て「異常性欲」と書いてあり、半ば人生に絶望し、暗い気持ちで過ごしていました。もし宙のように、居場所があり、相談できる人がいる環境だったらどんなによかっただろう…と思ってしまいます。
主人公の宙と幼なじみの奈桜が美術部の部員であるという設定が、この漫画のカラーの一つです。
例えば吉岡が「ホモなんて気持ち悪い」と言うクラスメートと一緒に笑っているのを見て、海の底に沈んでいくような、世界が灰色になってしまったような描写になっていて、一方で、初めてゲイだと名乗る人と出会い、世界が急に鮮やかな色に感じられたり、宙の心象風景が色彩として表現されていて、印象的です。
最初の1巻が発売されたばかりですから、これからあのカフェのマスターがどんな役割を果たすのか、また、奈桜や吉岡、高校のクラスメートたちとの関係性がどんなドラマを生み出していくのか、楽しみです。
単行本は1巻の売れ行きが非常に重要だそうなので、全話完結を待とうと思っている方もぜひ今、お買い求めください。20日にはサイン会もあります(詳細はこちら)
『僕らの色彩』(1) (アクションコミックス)
著:田亀源五郎
INDEX
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
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