REVIEW
ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
1950年代にワシントンDCで出会い、ラベンダー狩りの脅威にもめげず、愛をあきらめなかったホークとティムの40年にわたる壮大なラブストーリーを描いたドラマです。ゲイのクリエイターが製作し、マット・ボマーとジョナサン・ベイリーというゲイのイケメン俳優が共演しているところも見どころです。3話まで観たところでレビューをお届けします
エイズ禍の時代にゲイたちが直面する悲惨な現実や苦悩を描いた作品は数多くありますが、1950年代、政府機関で働く“性倒錯者”を追放処分とする「ラベンダー狩り」と呼ばれる政策の下で実際に追放されたり、仲間の同性愛者を売ったりといった「地獄」をリアルに描いた作品は今まであまりなかったと思います。
『フェロー・トラベラーズ』はゲイの作家トーマス・マロンの小説を原作とし、ゲイの脚本家ロン・ナイスワーナー(『フィラデルフィア』『ハンズ・オブ・ラヴ 手のひらの勇気』)が企画し、脚本を書き、ゲイのダニエル・ミナハン(『ホルストン』『ハリウッド』)が監督を務め、そして主演のマット・ボマーがエグゼクティブ・プロデューサーにも名を連ねています。これは、ハリウッドのゲイたちがタッグを組んで世に送り出した渾身のゲイドラマなのです。
<あらすじ>
第二次世界大戦の退役軍人でカリスマ的な存在感を放つ国務省職員ホーキンス・“ホーク”・フラーは、理想主義的で敬虔なキリスト教徒の若き議会職員ティモシー・“ティム”・ラフリンと出会い、恋に落ちる。時は1953年、冷戦を背景に、マッカーシー上院議員と顧問検事(右腕)のロイ・コーンが共産主義者の排除(赤狩り)とともに“性倒錯者”を追放処分とすること(ラベンダー狩り)を宣言した暗い時代の幕開けであった。ホークとティムは、誰にも気づかれないよう、秘密のロマンスをスタートさせるのだが…。
第二次大戦で勲章をもらうほどの活躍を見せたホークは、国務省の職員として勤務し、共和党内でもまだ良識のある(ローゼンバーグ夫妻の処刑にも反対した)スミス上院議員の娘と婚約し、省内で出世し、という将来を約束された身。そんなホークにとって“性倒錯者”として糾弾され、ワシントンDCを追放されることは恐怖でしかなく、自分自身もハッテン場に行ったり秘密のゲイバーに出入りしていたにもかかわらず、ゲイであることがバレないようにするため慎重に行動し、あらゆる策を講じていました。時には、そういう場所で知り合った同じゲイの仲間を売ったりもして…。ゲイであることがバレると生きていけない、“密告”が奨励されるような恐怖政治的な社会で、自分の身を守るためにゲイたちがどのような行動をとるかということが、吐き気をもよおすようなリアルさで描かれていました…それは決して現代に生きる我々と無関係ではない、と感じる方も多いはずです(そんな地獄とは対照的に、LGBTQのホームパーティも描かれていて、そちらは実に温かくて人間味のある、幸せな光景でした)
そんなホークを好きになってしまった一途で純粋な(敬虔なカトリック信者でもある)ティムは困惑し、その恋を終わらせるべきじゃないかと悩んだり、教会で祈ったりするのですが、ホークへの恋心を振り切ることはなかなかできず、行ったり来たりの繰り返しです。マット・ボマー演じるホークがそれだけ魅力的な男性だったからということもありますが、若い頃に本気で好きになった人のことは忘れられないよね、そう簡単にはあきらめられないよね、という恋のリアルがそこにはあり、共感させられること必至です。
そして、これも重要なポイントですが、二人ともゲイの俳優であるだけに、SEXのシーンが(何もつけずいきなり挿入するようなこれまでの不自然なゲイSEXシーンとは全く異なる)とても自然で、リアルで、ドキドキするほどセクシーでありながら、安心して見れます。
ホークの初恋の人・ケニーや、同僚であるメアリーや、友人の記者や、ドラァグクイーンやトランス男性がジャズを歌ったりするアンダーグラウンドなゲイバーに集う人々など、たくさんの当事者も登場します。LGBTQ(クィア)の一大群像劇です。当時の黒人男性の集団におけるゲイの扱われ方のリアリティ、そして40年後のサンフランシスコのゲイコミュニティなども描かれます。
たぶんティムのことを本気で好きになってしまったからこそ、だと思いますが、ホークも、ゲイであることを罪だと認めるよう迫られる場面で、悩んだ末に、自分なりのPRIDEを示す場面があって、素晴らしいと感じました。50年代は地獄でしたが、クィアピープルはそれぞれに幸福を追求し、(その言葉が唱えられる以前から)PRIDEを持ち、できる限りの抵抗もしていたことがわかり、そんな小さなPRIDEが69年のストーンウォールで爆発し、ゲイ解放運動へとつながるのだな、と思いました。
(マッカーシズムの時代の「赤狩り」の急先鋒であり、自分もゲイなのに他のゲイを弾圧する政策を推進した)ロイ・コーンが登場するあたり、不朽の名作『エンジェルス・イン・アメリカ』のスピンオフのような、アメリカ社会の暗部を大胆に描く、政治的で社会的で宗教的でもあるような壮大な時代絵巻だと感じました。40年以上にわたる秘密の恋を描いた『J・エドガー』をも彷彿させる作品でした。
描かれている事柄がものすごく多岐にわたっていて、実に多彩で深い、濃密な作品であるため、全てをお伝えすることはできないのですが(観てください、としか…)、これが大傑作であることは間違いないです。
2021年に米国でサービスを開始したストリーミングサービス「Paramount+」のオリジナルドラマで、日本では「WOWOWオンデマンド」と「J:COM STREAM」、「Prime Videoチャンネル」でサービスが提供されています。アマプラに加入している方は「Prime Videoチャンネル」でご覧ください。
フェロー・トラベラーズ(全8話)
2023年/米国/原作:トーマス・マロン/脚本:ロン・ナイスワーナー/監督:ダニエル・ミナハン/出演:マット・ボマー、ジョナサン・ベイリーほか
INDEX
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- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
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- アート展レポート:ジルとジョナ
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- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』
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- 最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』
- 時代に翻弄されながら人々を楽しませてきたクィアコメディアンたちのドキュメンタリー 映画『アウトスタンディング:コメディ・レボリューション』
- トランスやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
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