REVIEW
あの感動をライブで!ブロードウェイ版『ドリームガールズ』
2006年、世界中のゲイたちを熱狂させた映画版『ドリームガールズ』。昨年9月にニューヨークのアポロ劇場でリバイバル上演されたばかりの『ドリームガールズ』がオリジナルキャストで来日公演を果たすという、まさに夢のようなことが、渋谷のオーチャードホールで今、行われています。とにかく素晴らしい舞台です。あの感動をぜひ、本物のキャストで味わってください。
意外にも大型LED液晶パネル5台、350台のライト、88台のムービングライトを駆使するステージのハイテクさにまず圧倒されます。アポロ劇場のネオンも、TV画面も、ラスベガスやロンドンの街並みも、すべてその巨大スクリーンで表現されるのです。伝説の(80年代の)ミュージカルがこうして21世紀に蘇ったのです。が、もちろん、主役はあくまでも、ソウルフルに歌い、踊ってくれたドリーメッツ(とその周りの男たちで)す。カーテンコールでスタンディングオベーションが起こったのも、素晴らしいキャスト陣(や演奏したバンドやスタッフや演出家など)に贈られたものだったと思います。
ほとんどアフロアメリカンなキャストで繰り広げられたブロードウェイ版『ドリームガールズ』は、映画のようにビヨンセもジェニファー・ハドソンも出演していませんが、だからこそ(キャストにとって、そのステージが夢にまで見た舞台だからこそ)『ドリームガールズ』のストーリーにシンクロし、輝きを増し、感動を誘うのです。
ミュージカルならではのライブの臨場感やアンサンブルが素晴らしく、バンドの生演奏に乗って全身で表現される歌の1つ1つが魂を揺さぶり、日々の喧噪の中でともすると忘れてしまいがちな感情を喚び起こしてくれたような気がしました。
『ドリームガールズ』と言うと、ジェニファー・ハドソンの名を世界に轟かせた『And I'm Telling You…』に期待する人も多いと思いますが、そこ以外にも素晴らしいシーンがたくさんありました。ジミー(スター)、カーティス(プロデューサー)、C.C.(エフィの弟。ソングライター)、ウェイン(カーティスの部下)による『Steppin' To The Bad Side』のグルーヴ感あふれる迫力やオドロキの演出、『Family』の美しいハーモニー、『Lorrell Loves Jimmy』でローレルが聴かせた熱い歌も拍手モノでした(いちばんソウルを感じさせたかも)。そして、ディーナとエフィーによる『Listen』やラストシーンときたら…ハンカチなしには観ることができません。
思わず立ち上がっていっしょに踊りたくなったり、いっしょに歌いたくなったり、思いっきり(目の幅で)涙を流したり…これ以上の作品ってあるでしょうか。これがミュージカルというものです。
ダイアナ・ロスとザ・シュープリームスがデビューしたのは1961年。まだジャクソン5が誕生する以前、黒人解放運動が始まろうかという時代でした。彼女たちの夢は、そのまま虐げられていた人たちにとっての夢でもありました。
また、『ドリームガールズ』は、太っていることを理由にセンターをダイアナに奪われ、自暴自棄になり、シュープリームスから解雇され、その後の歌手活動もうまくいかず、1976年に亡くなった実在のフローレンス・バラードという悲劇のヒロインへの鎮魂歌でもあります。(そういう意味でも、『ドリームガールズ』の主役はエフィなのです)
時代を変え、歴史を作った少女たちと、彼女たちを意のままに支配しようとした男たち…名声の影で女たちは泣いていました。しかし、最後に彼女たちは報われます…女たちの友情こそがこの作品の主役でもあるのです(ある意味『SEX AND THE CITY』のように)。事実をベースにしているだけあって、このステージで繰り広げられる人間模様は、未だにリアリティをもって胸に突き刺さります(たとえゲイが登場しなくても)
1981年に初演され、ブロードウェイで大ヒットした『ドリームガールズ』は、『コーラスライン』のマイケル・ベネットが演出・振付を手がけたものでした(彼は1987年にエイズで亡くなりました。『ドリームガールズ』はマイケル・ベネットの遺作になったのです)
様々な人たちの思いを、希望を、夢を託された「ドリームガール」たちは、今日も歌い、踊り、輝き、人々に感動を与えています。
ぜひこの機会に、本物のブロードウェイ版のステージを。きっと一生忘れられない体験になるはずです。
ストーリー
1960年代、デトロイトのライブハウスへの出演を賭けたオーディションに参加した3人の少女—―エフィ、ディーナ、ローレル。彼女たち「ドリーメッツ」に目をつけたプロデューサーのカーティスは、売れっ子歌手ジミー・アーリーのバックコーラスとして雇うことにする。C.C(エフィの弟)の作曲した『Cadillac Car』を聞いて売れると思ったカーティスは「Rainbow Records」というレコードレーベルを立ち上げる。黒人局のみで流され、ヒットしたこの歌が白人によって盗まれたことを知ってカーティスは憤り、手段は選ばない、と心に誓う。一方、ついにソロデビューを果たすこととなった「ドリーメッツ」のセンターをエフェイではなく美女のディーナとすることに決まってから、メンバーの中に亀裂が生まれはじめるのだった…。
ブロードウェイ・ミュージカル『ドリームガールズ』
日程:〜6月5日(土)
会場:Bunkamura オーチャードホール (東京都)
Photos by Joan Marcus
INDEX
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
- ゲイである父、娘たち、元彼の人間模様を描き、人間の「尊厳」や「愛」を問う映画『すべてうまくいきますように』
- レビュー:リン・モンホワン『同棲時間』公演記録映像上映+アフタートーク
- レビュー:リン・モンホワン『赤い風船』『アメリカ時間』
- 大興奮!大傑作!本当に面白いクィアSFアクションムービー『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』
- 実にポップでインテレクチュアルでエモーショナルで画期的な『極私的梅毒展』@akta