REVIEW
フライングステージ『ワンダフル・ワールド』
劇団フライングステージの新作『ワンダフル・ワールド』の初日レポートをお届けします。観終わったあとに余韻がひたひたと押し寄せてくるような、深くて、ものすごく大切なことを問いかけてくるような作品でした。

7月4日(水)、下北沢駅前劇場で劇団フライングステージの新作公演『ワンダフル・ワールド』が初日を迎えました。レポートをお届けします。(後藤純一)
フライングステージのメルマガで作・演出の関根さんが、こう書いていました。
「今回の『ワンダフル・ワールド』は、2011年のことを思い出しながらの芝居作りをしています。いつの間にか忘れてしまっていたいろんな気持ちを、一つ一つ確認しているようなかんじです。一番最近の一年間を何でもなく、自然に舞台にしたいなと思ったのですが、やっぱりそうもいかなくなってきました。でも、それはそれ、記録や主張ではなく、舞台ならではのものになりますよう。祈ることの何かと多いこの頃ですが、これもまた僕にとって大切な祈りの中身です」
これを読んで、たぶん新作は震災にからめた作品…被災地のセクシュアルマイノリティとか、被災者支援をしているゲイの話とかなのかな…と漠然と予感していました。ある意味、その通りではあったのですが、ある意味、予想を超えるものでした。
『ワンダフル・ワールド』は、ゲイテイスト全開なコメディでもなく(それでも随所に笑えるツボが仕込まれていました)、お涙頂戴でも予定調和でもなく、安易なリアリズムでもなく、これまでのフライングステージの芝居とは(いい意味で)異なる、観終わったあとに余韻がひたひたと押し寄せてくるような、抑制の効いた、深くて、しかしものすごく大切なことを問いかけてくるような作品でした。舞台芸術として観たとき、間違いなく、これまでの最高傑作だと思います。
あらすじはこうです(ネタバレを避けるため、ほんのさわりだけ書きます)
海辺の田舎町(たぶん山形県)で犬と暮らすシュウイチ。パートナーのナオトが休みの度に家に来ます。大家さんも二人の関係を承知で、ときどき作りすぎたおかずを持って来てくれます。ひょんなことから、過去のことを語るはめになったシュウイチ。東北で酒蔵を営む名家に生まれ育ち、跡取りとなることを家族一同に所望されていたものの、10年前に家族にカミングアウトし、父親に勘当されてしまっい…東京で映画関係の仕事に就くも、うまくいかず、師と仰ぐ映画監督の地元であるこの町に流れ着いたのでした。シュウイチは震災後、実家(たぶん宮城県)が津波で流されたことを知り、10年ぶりに実家の家族に連絡をとるのですが、それでも父親は会ってはくれませんでした…
いくら勘当されたとはいえ、今は頭を下げて父親に会い、被災した家族を支えるために実家に戻るべきではないか…だけど、ゲイを決して受け入れようとしない父親のために、なぜナオトと離ればなれにならきゃいけないんだ…シュウイチの葛藤は、ある意味「答えのない問い」であり、本当にせつなく、胸がギューっと締めつけられるようでした。
そしてこの「問い」は、家族を大事にしながら生きているストレートの方たちにも、僕らゲイにも等しく投げかけられる(胸を打つ)ものでした。
秀逸だと思ったのは、他の家族は全員舞台に登場しているにもかかわらず、父親だけは登場しなかった(顔が見えなかった、不在だった)ということです。この演出が、芝居によりいっそうの深みや余韻を与えている気がしました。
演出的にもこれまでにない意匠が光っていましたし、役者さんの演技も出色だったのですが、やはり今回は、脚本が本当に素晴らしかったと思います(これは誉め過ぎかもしれませんが、岸田戯曲賞をもらってもいいんじゃないかと思ったくらいでした)
聞けば、今回の脚本の完成は、過去最悪に遅かったそうです…(苦笑)。それでも、初日であれだけの芝居ができるなんて…と、逆に役者さんの実力のスゴさに感服しました(拍手!)。8日の千秋楽に向けて、日々さらにクオリティが上がっていくことでしょう。
フライングステージの芝居ですから、もちろん、たくさんの(いろんなタイプの)ゲイが登場します。シュウイチのパートナーのナオトのように「だだ漏れ」な人もいますが(Grindrネタとか、ウケます)、舞台が東北なだけに、そうじゃないタイプの人が多いのが、とても新鮮でした。なかでもシュウイチの「自然さ」(ゲイっぽくなさ)は、驚異的。ノンケの役者さんが演じているので当然と言えば当然ですが、彼の佇まいというか、空気感というか、さりげない男の色気みたいなものは、ちょっとスゴイ(惚れちゃう人、多いと思います)。今までにないタイプのものでした(もしかしたら、ゲイの劇団なのに主役があれでいいのかな?と思う方もいらっしゃるかもしれません)。でも、東北の話を描く時、ああいう人が主人公でも全然いいし、むしろリアルなんじゃないかと思いました。
ともかく、8日(日)まで上演されておりますので、お時間ある方はぜひ、観に行ってみてください。
フライングステージ公演「ワンダフル・ワールド」
作・演出:関根信一
出演:石関 準、遠藤祐生、大地泰仁(zacco)、岸本啓孝、木村佐都美(おちないリンゴ)、小林高朗、阪上善樹、坂本穏光、羽矢瀬智之、藤 あゆみ、水月アキラ、吉田日曜、関根信一
日程:7月4日(水)19:30 5日(木)19:30 6日(金)19:30 7日(土)14:00/18:00 8日(日)14:00/18:00
会場:下北沢 駅前劇場
チケット:全席指定 前売予約3,500円(予約は各公演日前日まで) ペアチケット 6,500円 トリプルチケット9,000円 当日券3,800円(開場と同時に発売)
WEB予約:
https://ticket.corich.jp/apply/35909/(PC)
http://ticket.corich.jp/apply/35909/(携帯)
メール予約:
yoyaku@flyingstage.com(劇団フライングステージ)
※「お名前(フルネーム)/ご希望日時/枚数/連絡先電話番号」の明記をお願いいたします
TEL/FAX予約:03-6803-1250
※日時、チケット種類、枚数、連絡先電話番号をお知らせ下さい。
※お電話にて、留守電の際は「お名前、連絡先電話番号」をお残し下さい。折り返しご連絡を差し上げます。
※いずれも、チケット代は当日精算で承ります。
お問い合せ:フライングステージまで
stage@flyingstage.com
tel/fax:03-6803-1250
携帯:080-3082-8156(公演期間中のみ)
INDEX
- 「第三の性」「文化の盗用」そして…1秒たりとも目が離せない映画『フィンランディア』(レインボー・リール東京2022)
- バンドやってる男子高校生たちの胸キュン青春ドラマ『サブライム 初恋の歌』(レインボー・リール東京2022)
- 雄大な自然を背景に、世界と人間、生と死を繊細に描いた『遠地』(レインボー・リール東京2022)
- 父娘の葛藤を描きながらも後味さわやかな、美しくもドラマチックなロードムービー『海に向かうローラ』
- 「絶対に同性愛者と言われへん」時代を孤独に生きてきた大阪・西成の長谷さんの人生を追った感動のドキュメンタリー「93歳のゲイ~厳しい時代を生き抜いて~」
- アジア系ゲイが主役の素晴らしくゲイテイストなラブコメ映画『ファイアー・アイランド』
- ミュージシャンとしてもゲイとしても偉大だったジョージ・マイケルが生前最後に手がけたドキュメンタリー映画『ジョージ・マイケル:フリーダム <アンカット完全版>』
- プライド月間にふさわしい名作! 笑いあり感動ありのドラァグクイーン演劇『リプシンカ』
- ゲイクラブのシーンでまさかの号泣…ゲイのアフガニスタン難民を描いた映画『FLEE フリー』
- 男二人のロマンス“未満”を美味しく描いた田亀さんの読切グルメ漫画『魚と水』
- LGBTQの高校生のリアリティや喜びを描いた記念碑的な名作ドラマ『HEARTSTOPPER ハートストッパー』
- LGBTQユースの実体験をもとに野原くろさんが描き下した胸キュン青春漫画とリアルなエッセイ『トビタテ!LGBTQ+ 6人のハイスクール・ストーリー』
- 台湾での同性婚実現への道のりを詳細に総覧し、日本でも必ず実現できるはずと確信させてくれる唯一無二の名著『台湾同性婚法の誕生: アジアLGBTQ+燈台への歴程』
- 地下鉄で捨てられていた赤ちゃんを見つけ、家族として迎え入れることを決意したゲイカップルの実話を描いた絵本『ぼくらのサブウェイベイビー』
- 永易さんがLGBTQの様々なトピックを網羅的に綴った事典的な本『「LGBT」ヒストリー そうだったのか、現代日本の性的マイノリティー』
- Netflixで今月いっぱい観ることができる貴重なインドのゲイ映画:週末の数日間を描いたロマンチックな恋愛映画『ラ(ブ)』
- トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
- 宮沢賢治の保阪嘉内への思いをテーマにしたパフォーマンス公演「OM-2×柴田恵美×bug-depayse『椅子に座る』-Mの心象スケッチ-」
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
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