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REVIEW

ミュージカル『LuckyGuyにおまかせあれっ!』

『LuckyGuyにおまかせあれっ!』は現代日本を舞台とした男女逆転版の『マイ・フェア・レディ』。ゲイのキャラクターが一人ならず登場します。プロの役者陣がお送りするハイクオリティなミュージカル・コメディです。

ミュージカル『LuckyGuyにおまかせあれっ!』

 古典的名作『マイ・フェア・レディ』(ブロードウェイは『サウンド・オブ・ミュージック』のジュリー・アンドリュースが、映画はオードリー・ヘップバーンが主演)は観たことがないという方も、『マイ・フェア・レディ』を下敷きにした映画『プリティ・ウーマン』(ジュリア・ロバーツ)のことはきっとご存じなのでは?と思います。
 
 『マイ・フェア・レディ』は、言語学のヒギンズ教授が、ひょんなことから粗野で下品な言葉遣いの娘イライザを一人前のレディに仕立て上げることになり、初めは仕事の関係だったものの、次第に彼女に魅かれていき…というストーリー。『プリティ・ウーマン』では、実業家とコールガールという設定になっています。




 その『マイ・フェア・レディ』の男女を逆転させ、舞台を今の日本に設定したミュージカル・コメディが『LuckyGuyにおまかせあれっ!』です。
 
 不動産会社に就職したものの、「無理ですよ~」が口癖で、全くうだつが上がらない(見た目もダサめな)新人営業マン・純平。女社長・赤坂はそんな純平を「磨けば光る原石」と見込み、風水の世界で有名な姫宮女史に3ヵ月間で一人前の男に仕立てるよう依頼します。姫宮のスパルタ教育の合間に、純平はスポーツジムにも行かされ、そこでオネエなイントラや、元野球選手の剛志らにもアドバイスを受けます。そうして、3ヵ月後、純平は見事にカリスマキャラとして仕事で成功をつかみました。晴れて一人前の男になれた純平は、これからは自由に生きていいと言われ、内なる恋心に向き合おうとします。が、そんな矢先…。
 中盤、あっと驚く事件が起こり、後半はゲイ色濃いめな展開となります(オネエキャラな方の登場の必然性も納得できます)

 これまで、日本でゲイが登場するコメディといえば、だいたいは女装したゲイバーのママが華やかに陽気に盛り上げ、細やかな気遣いや粋な計らいを見せて主人公の恋が成就するように手助けする(自分自身は一歩引いたところから見守っていて、決して恋愛関係にはならない)というような設定が多かったと思います。このミュージカルも、確かにそういうキャラクター、そういうシーンもあるのですが、それだけではありません。全くオネエ系ではないタイプのゲイが登場します(たぶん、ずっとこのミュージカルを観ていても、いったい登場人物の中のどの人がゲイなのかはわからず、「まさか!」と驚くことでしょう)。そして、彼は自分自身が恋愛を成就させ、幸せをつかもうとするのです。
 そして、その人がゲイだからといって、周りの人たちから気持ち悪がられたり嘲笑されたり、排除されたり、不幸に陥る(昔からのステレオタイプだと、命を落としたりとか)ということはありません。そこが素敵でした。

 たぶん、このミュージカルのテーマは「本当の自分に目覚め、成長する」ということです。
 自分の気持ちを偽らず、自分を信じ、前向きに努力することで、人は本当に変われるし、人生の勝者になれる(勝ち組とかではなく、自分に打ち勝ち、なりたい自分になれる)、そして幸せになれるということです。
 その文脈のなかに、とてもいい形でゲイのことが織り込まれているのです。
 なかなかこういう作品って日本の商業演劇界にはなかったな、と思います。

 小さい劇場ですが、役者さんが『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』などに出ているような方たちなので、歌やダンスのクオリティがハンパなく(特に女社長役の方の歌の素晴らしさに驚嘆しました)、贅沢さを感じさせました。
 それから、音楽もよかったです。ミュージカルが苦手という方は、その「突然歌い始める感じ」に違和感を覚えるのではないかと思いますが、舞台の流れに合わせて生バンドが演奏していることもあり(豪華!)、自然にすっと入ってきます。
 ミュージカル好きな方もそうでない方も、ノンケの方もゲイの方も、「ああ楽しかった」と思えるようなミュージカル・コメディでした。観てよかったです。


LuckyGuyにおまかせあれっ!
日程:2月27日(木)18:45、2月28日(金)18:45、3月1日(土)13:00/17:30、3月2日(日)13:00/17:30、3月3日(月)13:00/18:45、3月4日(火)13:00
会場:萬劇場(JR大塚駅より徒歩5分)
料金:5500円
脚本・演出:渡辺光喜
出演:野島直人、池谷京子、上野哲也、杉村理加、倉田英二、藤咲みどり、佐藤弘樹、川島大典ほか
ミュージシャン:天野一平(ピアノ)、村田暢宏(ドラム)、野崎尭(ベース)、藤春彦(バイオリン)

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