REVIEW
ミュージカル『プリシラ』
12月8日(木)、日生劇場でミュージカル『プリシラ』が幕を開けました。エスムラルダさんが脚本の翻訳に携わり、オナンさんも出演するドラァグクィーン・ミュージカルです。初日レポートをお届けします。
2016年12月8日(木)、日生劇場でミュージカル『プリシラ』が幕を開けました。永遠の名作、映画『プリシラ』を、同じ脚本家がミュージカル化し、その脚本をエスムラルダさんが日本語に訳し、一流キャストに混じってドラァグクィーンのオナンさんも出演する作品、そして演出は宮本亜門さんです。会場の雰囲気なども併せて、初日レポートをお届けします。(後藤純一)
今年の小倉のパレードでリリー・チャンさんが『プリシラ』を観てクイーンを志したと語っていたように、影響を受けたゲイの方は少なくないはずです(もちろん、私も例外ではありません。死ぬ前に、最後に何か1本だけ観ていいよと言われたら、『プリシラ』を選ぶかもしれません。1997年のシドニー・マルディグラ・ツアーで、バスの出発地点にある「インペリアル・ホテル」というゲイバーで『プリシラ』ショーを見ることができて、『マンマ・ミーア』の時に会場のおじさんたちが一斉に楽しそうに合唱していた光景は、一生忘れられません)。おそらくですが、90年代後半の、ゲイシーンがこれからどんどん海外のように発展していくだろうという希望や、ゲイカルチャーってカッコイイという感覚が共有されていた時代を象徴するような、記念碑的な作品でした。
『プリシラ』が海外でミュージカル化されたという話はずっと前から知っていて、日本にはいつ来るんだろう…と首を長くして待っていました。そして昨年、日生劇場で2016年末に上演、演出は宮本亜門さん、というチラシを見て、ついに来たか!とワクワクしていました。そして今年、ドラァグクィーンのオーディションが行われたり、エスムラルダさんが脚本の翻訳を担当することになったり、ドラァグクィーンのみなさんが多数出演してレスリー・キーさんが宣伝用写真を撮影したり(写真右上。AiSOマンスリーの表紙も飾りましたね)、ちゃんと日本のドラァグクィーンたちとガッツリ組んで、進められてきました。
そして、満を持して迎えた初日。会場にはエスムラルダさんやアルピーナさん(写真右)らドラァグクィーンの方も何名かいらしていましたし、芸能人の方もお見かけしましたし、とても華やいだ雰囲気でした。予想通り、お客さんはほぼ女性とゲイ(と思しき方)でした。
上演までの間のBGMは、マドンナの『ホリデイ』やドナサマーの『ホット・スタッフ』といったゲイアンセム(というより、ミュージカルで使用されている曲でした)。そして、オナンさんが「携帯の電源は切ってね」的な場内アナウンスを、いつもクラブでやってるMCのような感じでやっていました。
今か今かとワクワクするお客さんの熱気が伝わってくるなか、幕が開くと、最初に「これは、まだLGBTが世間で受け入れられていなかった時代のお話です」というテロップが表示され、正直、ジーンときました(こういう舞台でデカデカと「LGBT」という文字が出てくることってほとんどなかったですよね…)。そこから先はもう、夢のような時間。楽しい音楽とダンスとセリフとショーの連続にウットリ…。18:00から上演が始まって終わったのが20:45頃でしたが、あっという間でした。
感想は、まず、衣装が本当に素晴らしかったです。オリジナル版と同じ方が担当していることもあり、これぞプリシラ!と思わせる最高に素敵なドレスが次々に、ふんだんに、惜しげもなく使われていました(全部で500点くらいあったそうです。ちゃんとあのエリマキトカゲやゴムサンダルも登場します)。主役の3人はもちろん、どんどん新しい衣装に着替えていくのですが、アンサンブルキャストの男性ダンサーの方たちも全員、さっきまで男っぽく踊っていたのに、次のシーンではヒールを履いてドラァグクィーンとして華麗に女性的に踊る、といったことをやっていて(切り替えが結構大変だと思います)、感心させられました。
全体的にオリジナル(映画版)の『プリシラ』に忠実に作られていて、映画版を愛する人の期待を裏切るようなことはありませんでした。田舎町のバーにアダム(映画ではフェリシア)が男を引っ掛けに行って殴られるというシーンも、女性器からピンポン球を飛ばす女性のシーンも、ちゃんと描かれていました(ピンポン球を飛ばす女性の役はキンタローさんが演じていたのですが、ホント最高。声を上げて笑いました)
エスムラルダさんの脚本の日本語訳もよかったと思います。例えばレズビアンを「レズ」と言ってしまったりするようなことが全くなく、気持ちよく観ることができました。
女装したゲイが登場する作品にありがちな、女装自体への蔑視で笑いをとるような場面もありませんでした(いちばん笑いをとってたのはキンタローさんでした)
そして、ところどころ、たぶんオリジナルにはなかったようなシーンやカーテンコールなどでレインボーカラーが使われる演出があり、冒頭のテロップと相まって、これはLGBTのミュージカルなんですよ、私たちはLGBTを応援していますよ、というスタンスの表明になっていたと思います。感動いたしました。
映画ではあまり意識されなかったのですが、このミュージカルでは、3人のドラァグクィーンのうち1人が生粋のゲイで、1人はトランスジェンダー、そしてもう1人は過去に結婚していたけど今はゲイ(またはバイセクシュアル?)という人で、その違いがちゃんと描かれていたと思います。多様性、そしてリアリティですね。
キャストに関しては、まず、ミス・アンダースタンディングという冒頭に登場する狂言回し的なドラァグクィーンの役をオナンさんが演じていたのですが、他のプロのキャストの方にも少しも引けを取らない、堂々たる演技でした。お客さんをいじるアドリブの部分も、ふだんショーでやってるような感じで、余裕すら感じさせました。さすが、20年以上ステージで歌ったり踊ったりしゃべったりしてきた方です。拍手! それから、主役のティック(映画ではミッチ)を演じた山崎育三郎さん、今回初めて拝見したのですが、本当に歌が上手いなぁ…と惚れ惚れしました。それから、アダム(フェリシア)はWキャストなのですが、今回は古屋敬多(Lead)さん。もはや地でやってるんじゃないかと思うくらい、ゲイでした(イヤな感じではなく、二丁目のゲイバーのミセコにいそうな感じのリアルさでした)。そしてバーナデット役の陣内孝則さん。最初は正直、違和感もあったのですが、こういうトランスジェンダーの方もいるかもしれない…とだんだん思えてくるから不思議です。カーテンコールでちょっとしたギャグをやってくださっていましたが、生来の人柄の良さがにじみ出ていました。東京レインボープライドや映画祭公式パーティにも来られていた、歌を担当していた3人の女性たちも、とてもよかったです(基本的に生演奏、生歌です)
音楽が映画版と少し異なっていたのだけは、残念でした。「I’ve Never Been To Me」も「Save The Best For Last」も「Finally」も「マンマ・ミーア」も使われていませんでした…その代わり、マドンナやシンディ・ローパー、ドナ・サマーの歌が新たに付け加えられていて、それはそれでよかったかも、と思いました。特に、困難を乗り越えて「さあ行くぞ!」的なシーンでドナ・サマーの『マッカーサー・パーク』が使われていたのはシビれました。
幸いカーテンコールは撮影OKだったので(動画はNG)、写真を掲載いたします。みんなで踊ろう!みたいなノリノリのダンスタイムもあり、本当にゴージャスで楽しいカーテンコールでした!
12月29日まで上演されています。まだチケットをお求めでない方はぜひ、お早めに!
『プリシラ』"PRISCILLA" QUEEN OF THE DESERT -the musical -
日程:12月8日(木)~12月29日(木)
会場:日生劇場
出演:山崎育三郎、陣内孝則、ユナク(超新星)/古屋敬多(Lead)、オナン・スペルマーメイドほか
INDEX
- 1920年代のベルリンに花開いたクィアの自由はどのように奪われたのか――映画『エルドラド: ナチスが憎んだ自由』
- クィアが「体感」できる名著『慣れろ、おちょくれ、踏み外せ』
- LGBTQは登場しないものの素晴らしくキャムプだったガールズムービー『バービー』
- TORAJIRO 個展「UNDER THE BLUE SKY」
- ただのラブコメじゃない、現代の「夢」を見せてくれる感動のゲイ映画『赤と白とロイヤルブルー』
- 台湾映画界が世界に送る笑えて泣ける“同性冥婚”エンタメ映画『僕と幽霊が家族になった件』
- 生き直し、そして希望…今まで観たことのなかったゲイ・ブートキャンプ・ムービー『インスペクション ここで生きる』
- あらゆる方に読んでいただきたいトランスジェンダーに関する決定版的な入門書『トランスジェンダー入門』
- 世界をトリコにした名作LGBTQドラマの続編が配信開始! 『ハートストッパー』シーズン2
- 映画『CLOSE クロース』レビュー
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- 映画『ココモ・シティ』(レインボー・リール東京2023)
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- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
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