REVIEW
舞台『Take me out』
2003年度トニー賞作品賞受賞作。メジャーリーグチームのロッカールームを舞台にした、男だけの芝居『Take me out』の日本初演です。スター選手のカミングアウトによってチーム内に微妙な空気が流れるなか、新たな問題が…。セクシュアリティ、人種、出自も様々なメンバーたちの葛藤。予想外にして衝撃的な展開は、いろいろなことを考えさせます。ぜひ、ご覧ください。

『Take me out』は2002年にロンドンで初演され、2003年にブロードウェイに進出、そして同年、トニー賞作品賞、助演男優賞(デニス・オヘア)、演出賞に輝いた作品です(ちなみにこの作品を書いたリチャード・グリーンバーグはゲイの方だそうです)。その待望の日本初演となる日本版『Take me out』(同じタイトルです)が、現在上演中です。レビューをお届けします。(後藤純一)





野球界という男社会でカムアウトしたゲイの選手には、いろんな困難が待ち受けていて、きっとチームメイトとぶつかったりもするけど、最終的には受け入れてもらえて、めでたしめでたし、というストーリーなのかな?と思いきや、とんでもない! そんな単純な話ではありませんでした。見事に予想は裏切られ、一瞬たりとも目が離せず、食い入るように観ることになりました。
舞台は、選手たちが着替えたりシャワーを浴びたりするロッカールームです。
ゲイだとわかったダレンに対し、「俺たちの裸をそんなふうに見てたのかよ」などとあからさまにイチャモンをつける選手もいました。それでもダレンは、(野球でトップクラスの成績を収めているスーパースターだという自信もあり)決して卑屈にならず、いつも堂々として、自信に満ちています。チームでいちばん男らしく見える選手かもしれません。ちゃんと、味方になってくれる選手もいました。
チームメイトたちは、ロッカールームの中にホモセクシュアルな欲望が潜んでいるという事実に気づかされ、愕然としたのでした。ダレンがいない時に、あるチームメイトがこう言います。「あのことが起こる前は、俺たちは無邪気にハグしたり、じゃれあったりしていた。だが、今はどうだ。楽園は失われた。俺たちは裸だ」
しかし、問題はゲイのことだけにとどまりません。チームにはヒスパニック系の選手もいれば、日本人もいます。ダレン自身も南アフリカ出身で、白人(オランダ系?)とアフリカ系のハーフという有色人種でもあります。二重にマイノリティなのです。
日本人のピッチャー、カワバタは英語があまりできないので、寡黙に過ごしています。ところが、もっと無口な選手が入ってきました。カワバタの不調を補う救世主として入団したピッチャーのシェーンです。シェーンは栗原類さんが演じていて、ちょ…全然野球選手っぽくない(失礼)と最初は思っていたのですが、後半、栗原さんの鬼気迫る演技を目の当たりして、この役は栗原さん以外考えられないかも…と、納得させられました。
人種やセクシュアリティや、出自のことなどが複雑に交錯し、誰かが善人で誰かが悪人、誰かが加害者で誰かが被害者ということが単純には言えないような展開は、緊張感をはらみつつ、衝撃的でもありました。大統領選でトランプが選ばれた後にヘイトが噴出しましたが、この芝居は、ある種のヘイター(差別者)の内面のリアリティをも描き、今の状況を予言しているようにも感じました。
こういうシビアな現実も描かれています。結局、球団の至上命令は試合に勝つことであり、選手は球団に雇われた身であるがゆえに、選手の思いは、球団の使命の前に無力である(しばしば、選手の個人的な感情はないがしろにされる)と。
『Take me out』で描かれていることは、プロ野球じゃなく、カイシャや、あらゆる組織に置き換えてみても、リアリティを失わないと思います。
多様な人々が集う組織で、組織自体が最大のパフォーマンスを発揮するために、個々人はどのように行動するべきか?というのは、もしかしたら「答えのない問い」なのかもしれません(今まさに、世界中で問題になっていることに通じる問いかもしれません)。たとえ組織が勝負に勝ったとしても、後味はとても苦いものかもしれません…
善悪が図式的な構図に収まらない、ステレオタイプに陥っていないがゆえに、物語は意外性や驚きの連続で、とても面白かったです。とはいえ、注意深く見ると、ゲイのキャラクター(ダレン以外にももう1人、登場します)は、他の人物よりも魅力的に描かれていて、シンパシーを感じさせます(それだけスポーツ界におけるホモフォビアが未だに強力だということなのでしょう)。ダレンは、他チームの有力選手、デイビー(マッチョなイケメン。いかにもアメリカ人という感じ)と親友だったりもしますが、このデイビーとの対比も印象的でした。やはり、ダレンは二重のマイノリティ性を乗り越えて活躍する、人々に勇気を与えるロールモデルとして構築されたキャラクターなんだと思います。
それから、舞台がメジャーリーグのロッカールームということで、役者さんたちが舞台上で着替えたりシャワーを浴びたりするシーンがあるのでは…と期待する方もいらっしゃるかと思います。その通りです! 真ん中でセリフをしゃべっている役者さんの周りで、特にセリフがないのに(ある意味、舞台に出ている必要はないのに)端の方で、チームメイトが着替えたりするのです。それも一度や二度ではありません。
ただ、海外で上演されてきた『Take me out』は、実際に野球をやってそうなガッチリした役者さんによる、たいへん露出度の高い舞台になっており、男性同どうしのキスシーンなども含まれているのに対し、日本版は、腹筋の割れた美しい役者さんたちによる、そこまで露出度が高くない(ダレン役の方はパン一のシーンがあります)、キスシーンなどもない、ソフトなものになっています。だからこそ(男性の裸体に露骨な嫌悪を示す)ストレートのお客様などにも「安心して」楽しんでいただけるのでしょうし、そこが日本の限界だとも言えるのかな、と思いました。いつか海外で観てみたいですね。

Take me out
作:リチャード・グリーンバーグ/翻訳:小川絵梨子/演出:藤田俊太郎/出演:良知真次、栗原類、多和田秀弥、味方良介、小柳心、渋谷謙人、Spi、章平、吉田健悟、竪山隼太、田中茂弘
東京公演
日程:2016年12月9日(金)~21日(水)
会場:DDD AOYAMA CROSS THEATER
料金:指定席8,800円、ベンチシート8,800円(全席指定・税込)
兵庫公演
日程:2016年12月23日(金祝)・24日(土)
会場:兵庫県立芸術文化センター 阪急中ホール
料金:1階席6,000円、2階席3,000円、ステージシート[当日指定席]6,000円(全席指定・税込)
※画像はCATプロデュース様よりご提供いただきました(撮影:岡千里)
INDEX
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- 異国情緒あふれる街で人と人とが心通わせる様にしみじみと感動させられる名作映画『CROSSING 心の交差点』
- ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
- アート展レポート:ネルソン・ホー「鏡中花、水中月 - A Mere Reflection of Flower and Moon」
- レポート:グループ展 “Pink”@オオタファインアーツ
- アート展レポート:東京都写真美術館「総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol.22」
- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
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