REVIEW
加藤健一事務所『夢一夜』
クロスドレッサー(女装した男性)とアーミッシュ(18世紀の生活をする教団)というあまりにも対照的な人たちがモーテルで一緒になり、ドタバタの喜劇を繰り広げます。現代に生きてくうえでのアイデンティティを問い、アメリカで話題を呼んだ作品の、日本初演です。

『夢一夜』の舞台は史上最悪の吹雪により停電に見舞われたニューヨーク州バッファローのモーテル(安宿)。そこに泊まることになったクロスドレッサー※とアーミッシュという、あまりにも対照的なライフスタイルの人たち。ひょんなことから、その間に交流が生まれ、ドタバタの喜劇を繰り広げます。しかし、驚くべき事実が明らかになり…。現代に生きてくうえでのアイデンティティを問い、アメリカで話題を呼んだ作品の、日本初演です。レビューをお届けします。(後藤純一)
※女装や男装などの異性装を行う人は「トランスヴェスタイト」とも呼ばれてきましたが、これはもともと「ホモセクシュアル」と同様、医学用語で、精神の病、性倒錯の一種と見なされていました。その差別的なニュアンスをいやがった当事者の方が(「ゲイ」のような感じで)自ら生み出した呼称が「クロスドレッサー」です。
<あらすじ>
ニューヨーク州バッファロー(州の西のはずれにあり、ナイアガラ観光の基点として知られる街)のモーテル。ある日の午後、「ミス・バッファロー・コンテスト」に出場するために集まったクロスドレッサーたちが、史上最悪の吹雪の中をどやどやとロビーになだれこんできました。と同時に、電気を使わず質素な生活を送るアーミッシュの集団も、雪で足止めを食らい一夜の宿を求めて押し寄せてきました。しかも突然停電に見舞われたせいで、支配人のジョアンは客室の案内と停電の対応に追われています。そのモーテルの一室で、ジャッキーとバービーは、翌日のコンテストに向けてダンスの練習に余念がありません。隣りの部屋にはアーミッシュの父娘が入って来ますが、厳格な父エイモスと娘のレベッカの間には、わだかまりがある様子。バスルームを共有しなくてはいけなかったため、レベッカはジャッキーたちの部屋を訪れ、交流が生まれます。が、レベッカの父親を顔を見たジャッキーは、ひどく取り乱しはじめ…
『夢一夜』、とても面白かったです。たくさん笑いました。
ふと、これを観て、2005年の映画『トランスアメリカ』のことを思い出しました。「女装した男性」への偏見があからさまに描かれていますが、でも、人と人との正直なぶつかりあいのなかで、少しずつ相手を受け容れ、認めていく、その過程が感動を呼ぶ作品でした。
この舞台でも、クロスドレッサーへの偏見はあからさまに表現されています。冒頭、狂言回しとして登場したモーテルの女主人・ジョアンは、「女装趣味の男たちがたくさんやって来て大騒ぎするもんだから、うるさくてしょうがないよ」「だから少しでも静かになるように、女装とアーミッシュの部屋が交互になるようにしてやったんだ」と言います(ダメウーマン!ですね)
信仰に忠実に、18世紀の清教徒そのままの暮らしを守るアーミッシュの厳格な男・エイモスも、おしゃべりするバービーに対して苦虫をかみつぶしたような顔で拒絶を隠さず、関わり合いたくないオーラを全身から放ちます。とてもじゃないけど理解しあえないだろうな…という感じです。
でも、彼らは同じ部屋で過ごし、ああでもないこうでもないとしゃべったりドタバタしているうちに、次第に打ち解け、互いを受け容れていくのです(相手のことなどおかまいなしでどんどん懐に飛び込んでいき、また、おせっかいを焼いたりもする、バービーの社交性と人柄のおかげでもあります)
現代社会の複雑さを象徴するようなクロスドレッサーと、電気を使わず旧時代の生活を続けるアーミッシュという極端な生き方の対比…とても相容れないように見えますが、実はどちらも社会から見ればアウトサイダーで、そして、どんなにかけ離れているように見える人々であっても友達になれるという、ある種の「福音」をもたらしてくれる作品だと思いました。
クロスドレッサーがどのように描かれているかは大事なポイントです。今までさんざん繰り返されてきたような、偏見にまみれたノンケさんが演じる、中途半端で、ヒゲの剃り跡が青々としてたりするような女装だったら、イヤですよね。でも、決してそういうものではありませんでした。
初めは、スパンコールのドレスを着てダンスの練習をしたり大騒ぎしているジャッキーとバービーが、二人ともドラァグクイーンなんだろうなと思っていました。バービーのほうはゲイで、美意識が高く、乳パッドや尻パッドを入れてたりもするので、たぶんドラァグクイーンですが(この俳優さんの演技が板につきすぎていて、驚愕しました。たぶん今までもさんざんこういう役をやってきたんだろうな、と思いました)、男性がにじみ出てしまっていてイマイチ垢抜けないジャッキーのほうは、妻子もいるストレートで、どうやら仕事のストレスを解消するためにときどき女装をしているらしいということがわかりました。そして第二幕では、コメディから一転してシリアスな(宗教的ですらある)場面が展開し、ジャッキー(ジェイク)の女装欲求の切実さや、それゆえに過去に経験した仕打ち…せつない身の上話が語られました。世の中には、ゲイでもトランスジェンダーでもないけど生まれつき女装をしたいという衝動を抑えられない人がいて、ともすると「変態」扱いされてしまいがちであるという話、それから、トランスジェンダーコミュニティからはじかれてしまうドラァグクイーンもいるという話、州によっては公の場所で女装すると逮捕されることがあるという話…これまであまり語られてこなかったようなエピソードがいろいろあって(おそらくアメリカのリアルなのでしょう)、身につまされました。
この芝居(戯曲)を書いたのは、フランス系アメリカ人女性のカトリーヌ・フィーユという劇作家で、例えばアフリカ系アメリカ人の話だったり、社会的マイノリティに光を当てるような作品を書いてきました。彼女はたぶん、きちんとクロスドレッサーの方たちにヒアリング(取材)をして、当事者の声を反映させる形でこれを書いたんだろうなと思います。
原題は「All Dressed Up and Nowhere to Go(おめかししたってどこにも行くとこがない)」と言います。このタイトル、物語を見事に言い表しています。そういえば、おめかしというか、服装についての語りが過剰に、偏執的に(主にバービーによって)展開されていて、舞台を彩る飾り糸のような役割を果たしていました。よくできた戯曲だと思います。
加藤健一さんは海外の芝居をもう30年以上も上演している大ベテランです(女装もさんざんやってますが)。顔が大きくて女装が似合わないタイプなので、自然とおかしみが生まれます。ジャッキーはハマり役だったと思います。とにかく役者さんは皆さん本当に達者です。安心してご覧いただけます。
加藤健一事務所 vol.100『夢一夜』
日程:~12月17日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアター TAKASHIMAYA
作:カトリーヌ・フィユー
訳:常田景子
演出:堤泰之
キャスト:加藤健一、横堀悦夫、加藤忍、速水映人、吉田芽吹、新井康弘
チケット:こちらから
INDEX
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