REVIEW
劇団うりんこ『わたしとわたし、ぼくとぼく』
名古屋の児童向け劇団が、劇団フライングステージの関根信一さんの書き下ろし作品を上演しています。ゲイの主人公が20年前にタイムリープし、子ども時代の自分とFtMのクラスメートの冒険を見届け、世界が変わるというお話です。初日レポートをお届けします。

2017年、名古屋の児童向け劇団うりんこが劇団フライングステージの関根信一さんの書き下ろし作品『わたしとわたし、ぼくとぼく』を上演しました。ゲイの主人公が20年前にタイムリープし、子ども時代の自分とFtMのクラスメートの冒険を見届けるという、ちょっとドラえもんっぽいところもある(子どもが好きそうな)作品で、セクシュアルマイノリティのことを扱いながら、子どもにもちゃんとわかるような、大人が観ても楽しめて共感できる作品です(いかにも子ども向けっていうあの独特のノリとかはないので、ご安心ください)。名古屋のお子さんや保護者のみなさんにも好評をいただけたこともあり、このたび、東京公演が実現しました。初日レポートをお届けします。(後藤純一)
劇団うりんこは、名古屋を拠点に長年、学校公演を中心に活動してきた児童向けの劇団です。2017年、劇団うりんこのアトリエ公演として、劇団フライングステージの関根信一さんが作・演出を手がけ、ゲイやトランスジェンダー(という言葉は出てこないものの)をフィーチャーした『わたしとわたし、ぼくとぼく』が上演されました。児童向け演劇でこのようなテーマの作品が上演されたことはとても感慨深いものがあります。この公演が好評を博したこともあり、東京での再演が決定しました。
関根さんがお知らせくださったこともあり、1月24日(木)の初日の舞台を観ることができました。ちょうど終演後に関根さん、砂川秀樹さん(2000年のパレードを立ち上げた方)、劇団の方お二人のアフタートークもありました。
児童劇団ということで、お子さんが多いのかな?とかまえていたら、そんなことはなく、客席は大人の方でいっぱいでした。
二丁目も出てこないし、ドラァグクイーンも出てこない、子どもたちが中心だけど、確かにフライングステージ的なお芝居。そんなフライングステージ的な(関根節の)お芝居をほかの劇団が演じているという新鮮み。お子さんでも堪えられる75分という上演時間にまとめられているのもよかったです。とてもわかりやすく、それでいてひねりも効いていて、笑いあり、涙ありの、誰もが共感できるような作品でした。
<あらすじ>
保育園に勤める30歳の健人は、男性保育士に女児のおしめをかえてほしくないという保護者からのクレームにショックを受け、ゲイであるとも言えず、ひどく落ち込み、引きこもってしまっていた。ふと鏡を見ると、ひとりの少女が現れ、「世界を救ってほしい」と言った。少女に強引に導かれて1997年の自分自身に会うため、タイムリープする。10歳のときの自分と会った健人。当時、健人は「男らしくない」といじめられており、クラスメイトでスカートをはきたくないみどりがかばってくれていた。二人は周囲に「男らしさ」や「女らしさ」を押し付けられ、悩んでいたが、札幌でパレードが開催されることを新聞で知り、名古屋から札幌へと向かうことを決意する…
今の健人は、30歳だけどまだまだ子どもというか、割とダメダメ感漂うキャラです。でも、20年前の、ひたむきな10歳の自分に出会って、忘れていたことを思い出して、そして意外な形で「世界を救う」に繋がるのですが、これまでのフライングステージにはなかったような発想、子どもを物語の中心に据えることで生まれる感動があり、とても新鮮でした。
子ども時代、多かれ少なかれいじめられたりからかわれたりという経験をした方は多いと思いますが、(自己防衛的に)それを忘れたり、否認したり、別につらい思いなんてしなかったとうそぶいたり、そういう人間の心理機制ってあると思うんです、生き延びるために。そして、いつの間にか、世間のホモフォビアにも慣れてしまって、そんなもんだ、と思って、どこか屈折した(後ろ暗さを抱えた)大人になったりすることもあると思います。『わたしとわたし、ぼくとぼく』を観た方は、10歳の子どもの、どこまでも真っ直ぐな思いや、ひたむきさ、大人がびっくりするほどの勇気と行動力に触れて、遠い昔に置いてきてしまったもの、忘れていた大切なことを思い出し、癒されると思います。
終盤、客席から嗚咽がもれるのが聞こえました。もう、声が出ちゃってるくらいの嗚咽です。子ども時代に「男らしさ」や「女らしさ」を押し付けられて苦しい思いをした経験があったけど、ずっと本当の気持ちを押し殺して生きてきた方なのかなぁ、とか、あるいは、お子さんが当事者だったりするのかなぁ、とか、想像しました。
かく言う僕も泣きました。きっと泣けた方、多かったと思います。
アフタートークで砂川さんがおっしゃってましたが、このお芝居は「自分を救うことが世界を救うことにつながる」という物語だったと思います。世界をよくしたいとか言いながら、その実(承認欲求を満たすとか有名になるとか)自分のためにやっていたということが往往にしてあると思うのですが、そうではなく、自分が子どもの頃に受けた傷を認め、癒してあげること、フタをしていた本当の気持ちを解放してあげること、そういうことによって結果的に世界もよくなる、ということ。子ども時代の自分は今の自分の中にいるのであって、決していなくなったわけではないのです。
もしこんなお芝居が子ども時代にあったら、ずいぶん救われただろうなぁと思います。
今の子どもは幸せだなぁ、とか。
このお芝居を観た子どもたちが、将来、何か世の中にプラスになるようなことをしてくれるかもしれない、と思ったり。
余談ですが、1997年の6月に札幌で行われたパレードのシーンで、結構寒い日だったので、終着地点の中島公園でドラァグクイーンの巨大なスカートの中にコタツのように入って暖をとるというエピソードがあり、これは実話なのですが(僕らのグループがやりはじめました)、すっかり忘れていた遠い昔の出来事がこうやって子ども向けの作品で再現されていたことが、うれしい驚きでもあり、感慨深くもありました。
この日曜日まで上演されていますので、ご都合よろしければぜひ、ご覧ください。
劇団うりんこ『わたしとわたし、ぼくとぼく』
日時:2019年1月24日(木)-27日(日)
24日(木) 15:00★ 19:00
25日(金) 15:00★
26日(土)11:00 15:00
27日(日)11:00 15:00★
★=終演後、アフタートークあり
会場:こまばアゴラ劇場
料金:一般 前売2500円 当日3000円、U25:前売2000円 当日2500円(4歳以上有料)
※日時指定・全席自由・整理番号付
チケット:劇団うりんこ、ローソンチケット
作・演出:関根信一(劇団フライングステージ)
出演:下出祐子、にいみひでお、宮腰裕貴、鷲見裕美、山内まどか、児玉しし丸、栗本彩、村上綾菜
主催:劇団うりんこ
提携:(有)アゴラ企画・こまばアゴラ劇場
※写真は劇団うりんこ様からご提供いただきました(撮影:清水ジロー)
INDEX
- ミニマムなのにとんでもなくスリリングでクィアな会話劇映画『アバウトアス・バット・ノット・アバウトアス』
- 異国情緒あふれる街で人と人とが心通わせる様にしみじみと感動させられる名作映画『CROSSING 心の交差点』
- ワム!のマネージャーだったゲイの方が監督した真実のドキュメンタリー『ジョージ・マイケル 栄光の輝きと心の闇』
- アート展レポート:ネルソン・ホー「鏡中花、水中月 - A Mere Reflection of Flower and Moon」
- レポート:グループ展 “Pink”@オオタファインアーツ
- アート展レポート:東京都写真美術館「総合開館30周年記念 遠い窓へ 日本の新進作家 vol.22」
- レポート:國學院大學博物館企画展「性別越境の歴史学-男/女でもあり、女/男でもなく-」
- 実は『ハッシュ!』はゲイカップルに育てられた子どもの物語として構想されていた…25年目の真実が明かされた橋口監督×田辺誠一さんによる映画『ハッシュ!』スペシャルトークイベント
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
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