REVIEW
リアルなゲイたちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEに寄り添う、心揺さぶる舞台『すこたん!』
35年間連れ添った実在のカップルと、その周囲の様々なゲイの方たちの愛や喜び、苦悩、希望、PRIDEを描いた舞台『すこたん!』。泣けるお芝居です! レビューをお届けします。
昨年、すこたん企画のお二人をモデルにしたお芝居、その名も『すこたん!』が上演されると聞いて、「何それすごい!」と思って興味津々だったのですが、残念ながらコロナ禍で中止になってしまいました。その後、作・演出の詩森ろばさんが、古くからの友人である伊藤悟さん&簗瀬竜太さんにお話を聞くなかで、一から脚本を書き直し、お二人の30年間の道のりに加え、周囲のお友達など8人のゲイの方たちの恋だったり恋じゃなかったりする様々な軌跡を描く作品として生まれ変わったそうです。詩森さんは公演チラシに「とても愛しい物語になるのではないかという予感がします。そして、いろいろありましたが、ふたりとの時間は、相変わらず楽しく、辛い時間を生きるわたしを生かしてくれました。これは、男同士の恋が、圧倒的な対話を経て、人生を創り上げていく30年の話であると同時に、わたしの数少ない大切な大切な友人についての物語です」と綴っています。
そんな『すこたん!』がついに上演されることになり、serial numberさんのご厚意でゲネプロ(通しリハ)におじゃまし、一足お先に舞台を拝見させていただくことができました。会場は中野駅徒歩5分の「ザ・ポケット」というハコで、結構大きな、本格的なステージです。レビューをお届けします。(後藤純一)
予想をはるかに上回るスケールの大きさ、内容の深さでした。伊藤悟さん&簗瀬竜太さんの35年間(!)のパートナーシップの重みと愛しさが中心であることは間違いないのですが、親に勘当されてホームレス状態になった人だったり、自分は「そっち」じゃないという思いに縛られている人だったり、既婚者だったり、未成年だったり、実に多彩なゲイたちが登場し、出会ったり、すれ違ったり、愛し合ったり、愛し合わなかったりする青春群像劇。ストーンウォールから今に至る歴史の流れのなかで、ともすれば誰にも顧みられずに寂しく生きて死んでいきがちな名も無いゲイたち、一人ひとりの確かな実存に光を当て、その愛や喜び、苦悩、希望、そしてPRIDEに少しでも寄り添おうとするような、応援歌というか「讃歌」のような作品でした。
最初は正直、出演者の中にゲイに見える人が誰もいないな…と思って、ノンケの人たちが一生懸命、ゲイの出会いとかおつきあいとかを演じているけど、一抹の違和感というか「入り込めなさ」が拭えず…でも、観ていくうちにだんだん、どんどん、引き込まれていきました。それは、脚本の素晴らしさであり(てんでバラバラに展開されているように見えた多彩なカップルたちの物語が、あとで「ここにつながるのか!」ということになったり、ドラマとして見事だと思いました)、役者さんたちの力量であり(あとで知ったのですが、結構有名な映画やドラマに出演してる役者さんたちだったんですね。さすがはプロ。ちゃんとしてます)、舞台美術や音楽や照明や…のおかげです。極めてプロフェッショナルで真っ当な、きちんとした舞台でした。
ノンケの役者さんたちが、ゲイの出会いやデートなんかを演じるとき、ステレオタイプな表現とか、わざとらしい誇張した仕草とかって、今まで結構あったと思うのですが、この舞台では、そういうところが全く、1ミリもなかったです。ゲイを尊重しようとする気持ち、敬意が感じられました。それだけでもスゴいことだと思います。
こうした商業演劇の世界で、日本のゲイコミュニティやゲイ団体のことをこんなに正面から取り上げ、支援的なスタンスで舞台化した例って今までなかったと思います。画期的です。記念碑的と言ってもよいのではないでしょうか。
実にいろんなゲイの人が登場します。ご覧になった方はきっと、その誰かには感情移入できると思います。
僕がとても惹かれたのは、主人公であるリュウタの役でした(もこみち似の高身長のイケメンさんが演じていました)。ぶっきらぼうで言葉遣いも乱暴で、どこか荒んでいたリュウタ。お父さんがお母さんに手を上げるようなDV家庭で育ち、心に傷を負っていて、人ごみに入ったり、人の視線が気になったりすると、パニック発作が起きてしまいます。そんなリュウタを、サトルは全身全霊で受け止め、守り、情熱的に愛していくのです。ニューヨークでパレードを経験したリュウタは、生まれて初めて、自己肯定のシャワーを浴び、滝に打たれたような衝撃を受けました。そして、ハーヴェイ・ミルク・スクールという(家を追い出されたりした)LGBTQのための高校の光景に感銘を受け、帰国後、学校の生徒さんたちに向けてゲイとしてお話する人になるのです…あれだけ人ごみや人の視線が苦痛だったのに、それをおしてまで…。涙なしには観られないシーンでした…。
伊藤悟さん&簗瀬竜太さんカップルを美化しすぎていないところもよかったです。決して順風満帆ではなく、出会いの最初から不安だらけで、喧嘩もするし(とことん話し合うことで乗り越えていき…ここら辺にパートナーシップが長続きする秘訣があると思います)、講演の後で会場からひどい言葉を投げつけられてボロボロになったり、親の介護のこと、経済的なこと、長くつきあっているカップルにありがちな問題…いろんな危機がうそ偽りなく描かれていて、それでも、それだからこそ、35年間もパートナーシップを築いてきたことが奇跡のような、かけがえのないことに感じられるし、パートナーシップ制度はうれしいけど、それだけじゃなく結婚も認められてほしいっていう思いにも説得力があります(これが衆院選の時期に上演されるなんて、何という偶然でしょう)
コメディではないものの、シリアスなストレートプレイというわけでもなく、キャストのみなさんが歌ったり踊ったりするシーンが盛り込まれています(ちなみに舞台後方で生ピアノ演奏している方もいます)。約2時間のお芝居でしたが、全然長さを感じさせませんでした。もっと観たいと思ったくらいです。
大切な友人である伊藤悟さん&簗瀬竜太さんへのオマージュとしてこのお芝居を創った詩森ろばさんの思いの真っ直ぐさ、あたたかさ、尊さに胸を打たれます。この作品が世に送り出されたこと自体が、映画『パレードへようこそ』にも匹敵するようなアライシップだと思います。
11月7日まで上演されています。みなさんぜひ、お出かけください。
serial number「すこたん!」
日程:2021年10月28日(木)~11月7日(日)
※11/1(月)は休演日です
会場:中野ザ・ポケット(東京都中野区中野3-22-8)
作・演出:詩森ろば
原作:伊藤悟・簗瀬竜太全著作
出演:鈴木勝大、近藤フク(ペンギンプルペイルパイルズ)、根津茂尚(あひるなんちゃら)、佐野功、大内真智(水戸芸術館専属劇団ACM)、中西晶、辻井彰太(シヅマ)、工藤孝生、河野賢治、吉田晴登
詳細・チケット:こちらをご覧ください
※11/22から配信も行なわれます。予約はこちら
INDEX
- かけがえのない命、かけがえのない愛――映画『スーパーノヴァ』
- プライド月間にふさわしい観劇体験をぜひ――劇団フライングステージ『PINK ピンク』『お茶と同情』
- 同性と結婚するパパが許せない娘や息子の葛藤を描いた傑作ラブコメ映画『泣いたり笑ったり』
- 家族的な愛がホモフォビアの呪縛を解き放っていく様を描いたヒューマンドラマ: 映画『フランクおじさん』
- 古橋悌二さんがゲイであること、HIV+であることをOUTしながら全世界に届けた壮大な「LOVE SONG」のような作品:ダムタイプ『S/N』
- 恋愛・セックス・結婚についての先入観を取り払い、同性どうしの結婚を祝福するオンライン演劇「スーパーフラットライフ」
- 『ゴッズ・オウン・カントリー』の監督が手がけた女性どうしの愛の物語:映画『アンモナイトの目覚め』
- 笑いと感動と夢と魔法が詰まった奇跡のような本当の話『ホモ漫画家、ストリッパーになる』
- ラグビーの名門校でホモフォビアに立ち向かうゲイの姿を描いた感動作:映画『ぼくたちのチーム』
- 笑いあり涙ありのドラァグクイーン映画の名作が誕生! その名は『ステージ・マザー』
- 好きな人に好きって伝えてもいいんだ、この街で生きていってもいいんだ、と思える勇気をくれる珠玉の名作:野原くろ『キミのセナカ』
- 同性婚実現への思いをイタリアらしいラブコメにした映画『天空の結婚式』
- 女性にトランスした父親と息子の涙と歌:映画『ソレ・ミオ ~ 私の太陽』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 女性差別と果敢に闘ったおばあちゃんと、ホモフォビアと闘ったゲイの僕との交流の記録:映画『マダム』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 小さな村のドラァグクイーンvsノンケのラッパー:映画『ビューティー・ボーイズ』(マイ・フレンチ・フィルム・フェスティバル)
- 世界エイズデーシアター『Rights,Light ライツライト』
- 『逃げ恥』新春SPが素晴らしかった!
- 決して同性愛が許されなかった時代に、激しくひたむきに愛し合った高校生たちの愛しくも切ない恋−−台湾が世界に放つゲイ映画『君の心に刻んだ名前』
- 束の間結ばれ、燃え上がる女性たちの真実の恋を描ききった、美しくも切ないレズビアン映画の傑作『燃ゆる女の肖像』
- 東京レインボープライドの杉山文野さんが苦労だらけの半生を語りつくした本『元女子高生、パパになる』