REVIEW
トランスジェンダーのリアルを描いた舞台『イッショウガイ』の記録映像が期間限定公開
トランスジェンダーの若林佑麻さんが企画・脚本を務めた『イッショウガイ』の舞台動画が3/31まで期間限定で公開。素晴らしい作品なので、ぜひご覧ください。
トランスジェンダーのタレント・若林佑麻さんが企画・脚本を務め、2017年に新宿シアターモリエールで上演された舞台『イッショウガイ』の記録映像(2018年のレインボー・リール東京でも上映されています)が、3月31日の「国際トランスジェンダー可視化の日」に合わせて期間限定で無料公開されました。
<あらすじ>
ある日、母が倒れた。高校生のマユに降りかかった大きな不幸だった。高次脳機能障害…母親が、母親でなくなっていく。あの日から、幸せだったはずの家族は確実に変わった…
素晴らしかったです。泣けます。ぜひ大勢に観ていただきたいです。
これは、自身もトランス男性である若林さんの実体験、半生をもとに生み出された作品ですが、トランスジェンダーであるということが、性別違和の問題(出生時に割り当てられた性別と自認する性別の食い違い)だけでなく、家族に理解してもらえるかどうかということや、好きな人と結ばれて家庭を持つということの難しさ、それから、戸籍上の性別が以前は違っていたということを周囲に気づかれないようひっそりと暮らしたいという人もいるし、もっと世間に認知してもらいたいという人もいる(考え方が異なるがゆえの摩擦もある)ということ…実にいろんな大変さがあるということが、このうえなくリアルに描かれています。
そして、トランスジェンダーとしての人生を生きるということだけでも大変なのに、若林さんは高校生の時、お母さんがくも膜下出血で倒れ、高次脳機能障害を抱えるようになり、ヤングケアラーとしてお母さんの介護もするようになり、本当に苦しい日々を過ごしました。そのお母さんの障害と、(今は性別違和と言いますが、上演された2017年当時は「性同一性障害」と呼ばれていたことから)自身の障害をかけて『イッショウガイ』というタイトルになっています。
あまり詳しくは言わないようにしますが、いくつもの「どんでん返し」があり、感動の涙が乾かないうちに、どん底に突き落とされたような気持ちにさせられたり、ハラハラ・ドキドキの展開になっています。芝居として実によくできた、ドラマチックな脚本です。
それでいて、トランスジェンダーの人たち(だけでなく、いま苦しい思いをしているすべての人たち)が勇気づけられ、希望を感じられるような作品になっています。
役者さんがすごくちゃんとしてる方ばかりで、ビックリしました(あとで知ったのですが、主演は「仮面ライダーフォーゼ」にも出演した土屋シオンさんと、元AKB48の田名部生来さんでした)。めっちゃプロフェッショナルな舞台でした。
そして、若林さんが関わってるから当然なのかもしれませんが、ちゃんとトランス男性の役は男性が演じていて、しかもちゃんとトランス男性に見えるような方がキャスティングされていたと思います。
あと、主人公の冬麻(男性の役者さんが演じています)が上半身裸になるシーンがあるのですが、パンツが少し見えていて、SOLUNA ESPERANZAというトランス男性の方のためのアンダーウェア・ブランドだったのがさすがだなと思いました。
知ってるようで意外と知らなかったりするトランスジェンダーのリアリティをぜひ、この機会に感じてください。
イッショウガイ
英題:liFeTiMe
2017年/日本/108分/
企画・脚本:若林佑麻
プロデューサー:丸若薫
脚色・演出:谷碧仁
出演:土屋シオン、田名部生来、柴小聖、上田悠介、薫太、中島大地ほか
製作・配給:ニジーローモーチャー
INDEX
- 女性と同性愛者を抑圧し、ペストで死ぬ人々を見殺しにする腐敗した権力者への叛逆を描いた映画『ベネデッタ』
- トランスジェンダーへの偏見や差別に立ち向かうために読んでおきたい本:『トランスジェンダー問題: 議論は正義のために』
- 『痛快!明石家電視台』ドラァグクイーン大集合SP
- 殺伐とした世界に心を痛めるすべての人に観てほしいドラマ『THE LAST OF US』第3話
- 3人のドラァグクイーンのひと夏の旅を描いたハートフル・コメディ映画『ひみつのなっちゃん。』
- 40歳のゲイの方が養護施設で育った複雑な生い立ちの20歳の男の子を養子に迎え入れ、新しい家族としての生活を始める姿をとらえたドキュメンタリー映画『二十歳の息子』
- 貧しい家庭で妹の面倒を見る10歳のゲイの男の子が新しい世界を切り開こうともがき、成長していく様を描いた映画『揺れるとき』
- ゲイコミュニティへのリスペクトにあふれ、あらゆる意味で素晴らしい、驚異的な名作『エゴイスト』
- ドラァグクイーンの夢のようなロマンスを描いたフランス発の短編映画『パロマ』
- 文藝賞受賞、芥川賞候補の注目作――ブラックミックスのゲイたちによる復讐を描いた小説『ジャクソンひとり』
- ドラァグクイーンによる朗読劇『QUEEN's HOUSE〜あなたの知らないもうひとつの話〜TOKYO』
- 伝説のゲイ・アーティストの大回顧展『アンディ・ウォーホル・キョウト』
- 謎めいたゲイ・アーティストの素顔に迫るドキュメンタリー映画『アンディ・ウォーホル:アートのある生活』
- 『ボヘミアン・ラプソディ』の感動再び… 映画『ホイットニー・ヒューストン I WANNA DANCE WITH SOMEBODY』
- 近年稀に見る号泣必至の名作ゲイ映画『世界は僕らに気づかない』
- ぼくらはシンコイに恋をする――『シンバシコイ物語』
- ゲイカップルやたくさんのセクシャルマイノリティの姿をリアルに描いた優しさあふれる群像劇『portrait(s)』ほか
- TheStagPartyShow movies『美しい人』『キミノコエ』
- Visual AIDS短編集『Being & Belonging』
- これ以上ないくらいヘビーな経験をしてきたゲイの方が身近な人たちにカミングアウトする姿を追ったドキュメンタリー映画『カミングアウト・ジャーニー』
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