REVIEW
劇団フライングステージ 第48回公演『Four Seasons 四季 2022』
11月2日、劇団旗揚げからめでたく30周年を迎えたゲイの劇団フライングステージの本公演『Four Seasons 四季 2022』が幕を開けました。初日のレポートをお届けします。
2022年11月2日(水・祝前)、劇団フライングステージの本公演『Four Seasons 四季 2022』が幕を開けました。フライングステージは今年、劇団旗揚げからめでたく30周年を迎えたそうです(おめでとうございます)。一貫してゲイにこだわって芝居をつくり続けてきたフライングステージ。ゲイを取り巻く世の中の状況も反映しながら、テーマも少しずつ変わってきました。団員の皆さんも今や50代とかアラカンになっています。この30年の間には、池袋演劇祭で大賞を獲ったり、札幌でも公演を行なったり、座長の関根さんがパレードの実行委員長を務めたり、はやせくんというアイドル的な団員の方が若くして急逝したり、本当にいろんなことがありましたが、こうして30周年を迎えられたこと、本当に感慨深いです。万感の思いを込めて、初日のレポートをお届けします。
(文:後藤純一)
11月2日(水・祝前)、とてもきれいになった下北沢の駅と、すっかり様変わりした下北沢の駅前の様子に驚きながら、下北沢 OFF・OFFシアターに着きました。
まず、配られたご挨拶文に胸を打たれました。30年前は「ゲイの劇団」と名乗って公演を行なうことがどれだけ大変な勇気が要ったかということが綴られていました(私は1996年から観ているので、旗揚げ当初のそういう大変さはよく知りませんでした…。あらためて、リスペクトを捧げます)。「ゲイの劇団なんて、差別や偏見がなくなったら、やれなくなっちゃうのに」ということも言われたそうです(いまだに差別や偏見はなくなっていないですし、たとえオランダレベルの国になったとしてもゲイ演劇の存在意義がなくなることってないと思うんですけどね…)。そんなことがあっても、こうしてゲイの劇団、ゲイのお芝居を続けてきたみなさんに拍手を贈りたい気持ちになりました。
<あらすじ>
ゲイばかりが住む世田谷区のアパート「メゾン・ラ・セゾン」。突然、住人の平谷さんが亡くなってしまった。近くに住んでたのに、気づくことができず…どうしたらよかったんだろう?と住人たちは悔やむ。そして、平谷さんがなぜ「同性パートナーシップ宣誓」にこだわったのかということを考える。そんなみんなの思いを踏みにじるかのような、平谷さんのお兄さんの無下な態度。季節は巡り、「メゾン・ラ・セゾン」にも黄昏が訪れる――
私事ですが、1ヵ月前に母親を亡くしたばかりでしたし、3年前に仲の良かった友人が亡くなってお部屋の片付けをしたことなども思い出したりして、いろいろと身につまされました。
たとえ自治体の「同性パートナーシップ宣誓」をしていても法的効力はない、パートナーに遺産を相続する権利はないということが演劇作品として描かれたこと、意義深いと思います。相続などの権利はないけど、それでも同性パートナーシップ証明制度ができたおかげで生命保険の受取人になることはできたし、それはものすごく意味があるなぁとも感じさせられました。いま僕らはどんな地点に立っているのかということがとてもリアルに描かれていたと思います。
もしパートナーや仲の良い友人が亡くなったら、葬儀に参列できるのだろうか、遺品の整理やお骨の処し方などにどこまで関われるのだろうか…ということや、もし親族のいないゲイの方が亡くなってしまったら誰がいろんな手続きをするのだろうか…といった話は、きっとみなさん、自分事として考えさせられると思います。
しかし、今回のお芝居は、悲劇性を強調したり、声高に同性婚実現を訴えたりとかではなく、(オネエだったりする)住人の方たちのコメディタッチなドタバタや、ほのぼのした会話や、僕らの日常と地続きだと感じさせるようなテイストで、何度となく笑いも起きていましたし、涙を誘うシーンもあり、それでいて含蓄深いものがありました(そこがフライングステージらしさですよね)
詳しくは言いませんが、最後にとても素敵なエピソードもありました(映画『スワンソング』のラストシーンを彷彿させました)
フライングステージは文字通り「舞台」ですが、僕らゲイは、二丁目であったり、クラブイベントであったり、いろんな「舞台」で何かしらの素敵なことをやったり輝いたりして、でもいつかそこを降りて若い方たちに「舞台」を譲り、それまで培ってきたものを引き継ぎ、世代交代していく…というようなことがあると思います(まさに今現在、そんな心境にある方、少なくないと思います)。そういう部分も描かれていた気がします。
もう還暦も間近な年代になった方たちだからこその、渋みや円熟味が感じられました(それでも、劇中でも語られていましたが、みなさんとても若く見えますよね)
そして今回は、初期の頃からずっとフライングステージに出演し、支えてくれた石関準さんがとてもいい役で活躍していて、よかったです。考えてみれば、90年代初めから、ゲイだとカミングアウトして舞台に立つことの大変さを関根さんとともに分かち合い、道を切り開いてきたわけですから、頭が下がります。
(ちなみに「平谷さん」という名前は、フライングステージを熱心に応援している、とあるゲイの方の名字だったりするので、もしかしたらオマージュなのかもしれません)
満席だった客席は、いつにも増してゲイと思しき方たちで埋められていて、カップルだと思われる素敵な二人組もいましたし、なんだかよかったです。
公演は6日の日曜まで行なわれていますので、ぜひ足を運んでみてください。
劇団フライングステージ第48回公演「Four Seasons 四季 2022」
日程:2022年11月2日(水)〜11月6日(日)
会場:下北沢 OFF・OFFシアター(京王井の頭線・小田急線下北沢駅東口徒歩1分)
作・演出:関根信一
出演:石関 準、井手麻渡、岸本啓孝、関根信一、中嶌 聡
チケットはこちらから
INDEX
- マジョリティの贖罪意識を満たすためのステレオタイプに「FxxK」と言っちゃうコメディ映画『アメリカン・フィクション』
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
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- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
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- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
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- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
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