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REVIEW

台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』

台湾同性婚第3号であるゲイの劇作家、リン・モンホワンが書き下ろした新作戯曲『ミラクルライフ歌舞伎町』は、戦前に台湾から日本に渡って来た台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんが主人公。歌あり、ダンスあり、ロマンスありの、温かくて楽しい舞台です。初日のレビューをお届けします

台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさんを主人公にした舞台『ミラクルライフ歌舞伎町』

 今年3月に舞台『同棲時間』の記録映像の上映+アフタートーク『赤い風船』『アメリカ時間』のリーディングなどが行なわれた台湾同性婚第3号であるゲイの劇作家、リン・モンホワン。そのリン・モンホワンが書き下ろした新作戯曲『ミラクルライフ歌舞伎町』が10月20日から新宿のサンモールスタジオで上演されます。
 歌舞伎町にある架空の高齢者介護施設「ミラクルライフ歌舞伎町」が舞台。入所者の一人、台湾華僑でトランスジェンダーのおばあさん・シンコーが主人公です。台湾の日本統治時代(1895~1945年)に内地と呼ばれた日本に台湾・嘉義から渡って来た少年・陳新高は、戦後、歌舞伎町で歌声喫茶を切り盛りし、この街に根を張って生きていきます。その思い出と共に、町の軌跡をたどります。
 戦後、ほぼ焼け野原だった新宿駅前に闇市が出現しましたが、そこには戦前から日本に留学していた台湾人らの姿もありました。やがて商才にたけた台湾人は歌舞伎町にも進出していきます。淡谷のり子さんら名だたる歌手も出演した音楽喫茶劇場「ラ・セーヌ」、名曲喫茶「でんえん」「スカラ座」、娯楽施設「風林会館」「アシベ会館」「地球会館」なども台湾人が手がけたといいます。リン・モンホワンは、こうした台湾人の歩みを追った書籍『台湾人の歌舞伎町―新宿、もうひとつの戦後史』(紀伊国屋書店)などを読んで触発され、戯曲を書き下ろし、演劇ユニット「亜細亜の骨」(山﨑理恵子主宰)がこれを再構成する形で今回の劇を作り上げたんだそうです。

<あらすじ>
新宿歌舞伎町の老人介護ホーム「ミラクルライフ歌舞伎町」。戦中戦後、大正~令和といくつもの時代を生き抜いた老人たちが余生を穏やかに楽しく過ごしている。なかでもひときわ存在感を放つシンコーは、台湾華僑のトランスジェンダーのおばあちゃん。歌舞伎町がにぎわいはじめた時代、歌声喫茶を切り盛りしていた彼女は、今もみんなからシンコーママと呼ばれ、親しまれています。そんなシンコーママも認知症がはじまっていて…。




 
 歌もダンス(手話も入ったり)もある楽しい舞台でした。「ムーランルージュ新宿」というキャバレーのシーンでは華やかな衣装も見れます(男性陣も踊ります)
 
 驚いたのは、新宿駅東口の中央通りにある名曲喫茶「らんぶる」(昔デートで何度か行ったことがある)とか、「東京大飯店」(昔「タックスノット」の周年パーティでショーをやったことがある)なども台湾の方が創業したお店だということ。歌舞伎町という街は、もともと草むらだったところに台湾の人たち(や「湾生」という台湾で生まれた日本人)が映画館やキャバレーや名曲喫茶やいろんな娯楽施設を作って発展した街だということがよくわかりました。
 台湾はパレードも盛り上がってるし、とても日本に近くてたくさんの人が訪れている、親しみの持てる国だと思いますが、実は身近な(というか同じ)新宿の街の中でも台湾の人たちが一緒に生きてきたし、僕らにもなじみのあるお店を作ってくれていたということは、もっと知られてもいいんじゃないかな?と思いました。
 台湾から来た人たちが家族のように助け合う様も印象的でした。お金を持ち逃げされても怒らないなんて、オドロキです。今の日本の「自己責任」と突き放しがちな空気感とは真逆な、人間味や温かさにあふれていました。
  
 いちばんグっときたのは、何と言ってもクィアであるシンコーママの物語です。
 戦地に行ったり、いろんな仕事も経験したうえで名曲喫茶を開いたシンコーママは、スカートをはいていて、かといって完全に女性になっているわけでもなく、トランスジェンダーというかゲイというか…なのですが、そんなママに惚れている男の子がいて、でもママは「あなたまで変人のように見られてしまってはいけないから」と言って彼の求愛を断り続け…という、その男の子にとっては切ない片思いだったのですが、「ミラクルライフ歌舞伎町」で奇跡が…という素敵なロマンスなのです。
 実のお兄さんが(このお兄さんはギャンブル好きでダメ男なバリバリのノンケなのですが)、スカートをはいたママと対峙し、いろいろ話し、最終的にその性を受け容れるシーンにもちょっとジーンときました。戦後の、たぶん1950年代とかにその包容力はスゴい、と思います。
 台湾はもう同性婚が認められてる一方、日本は(明治以来)同性愛に不寛容な社会だったし、まだ同性婚もできない、といった説明もありつつ、でも、もし何十年後かに同性婚が認められて、まだ生きていたら、その時は…的なくだりもあって、胸を熱くさせました。
 
 さすがはリン・モンホワンの戯曲だと思いました。
 新宿という街は、外国から来た人や、クィアや、はみ出し者やならず者、いろんな人たちが「ここでなら生きられる」と集まり、肩を寄せ合って(時にはいがみ合ったりもしながら)暮らしてきた「るつぼ」のような街だったわけなので、このクィアでアジアンな演劇作品が新宿の街で観られることには感慨もありますし、本当に素敵だなと感じました。
 来週末、台湾のパレードに行かれる方など、ご覧になってみてはいかがでしょうか。 
 
 
ミラクルライフ歌舞伎町
日程:2023年10月20日(金)〜25日(水)
会場:サンモールスタジオ
料金:【一般】前売・当日:5,500円、前半夜割:4,500円 【U25】前売・当日:3,500円(25歳以下対象/要年齢証明証提示)
作:リン・モンホワン(林孟寰)
翻訳:山﨑理恵子
ドラマトゥルク:辛正仁(台湾)
構成・演出:E-RUN

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