REVIEW
ダンスパフォーマンスとクィアなメッセージの素晴らしさに感動…マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
4月10日〜21日、渋谷のシアターオーブでマシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』来日公演が行なわれます。天才的な振付とダンサーたちの驚異的な身体が生み出す奇跡的なパフォーマンスと、このあまりにも有名な古典をクィア的に脱構築し、同時代的な意味を持たせたゲイの演出家の心意気に感動させられました

(マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』より (Rehearsal Images by Johan Persson))
特集:2024年春のオススメ舞台作品でもご紹介したマシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』。男性だらけで演じられ、まるで夜のハッテン公園のようにエロティックなシーンもあり、世界にセンセーションを巻き起こした『白鳥の湖』をご覧になった方もいらっしゃるかと思いますが(『白鳥の湖』はこれまで5度も来日公演を行なっています)、英国のコンテンポラリーダンス演出・振付家でオープンリー・ゲイのマシュー・ボーンはバレエの古典に新解釈を加えたり、バレエというよりもミュージカルに近いようなダンスパフォーマンス公演で人気を博し、数多くの作品を発表し、成功を収めてきましたが、そのマシュー・ボーンの2019年の舞台作品『ロミオ+ジュリエット』が待望の来日公演を果たしました。
ロミジュリといえば、ミュージカル『ウエストサイド・ストーリー』にも翻案されるなど、様々なかたちで現代にまで息づいている古典中の古典です。あまりにも有名で多くの人々に愛されているだけに、そのロマンチックさや悲劇性を変えることはできませんし、かといってオリジナル通りにやっても新鮮味がない、ある意味、取り上げるのが難しい作品なのではないかと思いますが、マシュー・ボーンがロミジュリを作品化しようと思ったのは、若いダンサーたちに刺激を受けたからだそうです。「作品が生まれたのは、私のカンパニーが新たな才能を求めていた時期。若いダンサーの話を聞くうち、『ロミオ-』に入れ込みたいと思った。若い人どうしの片時も離れられないような情熱を描きたくなった」とのことです。
キャッチコピーは「最も残酷で痛ましく、そして最もセクシーな『ロミオとジュリエット』」、舞台は反抗的な若者を収容する近未来の矯正施設、ストーリー的にも大胆な変更が加えられている、といったこともさることながら、ロミオの親友であるマキューシオがゲイとして描かれていることが前情報として明らかにされていたため、十数年ぶりにマシュー・ボーンの舞台を観に行くことにしました。
<あらすじ>
舞台は、反抗的な若者たちが収容され、厳しい監視下に置かれている矯正施設「VERONA INSTITUTE」。そこでは厳しい監視下で自由を奪われた若者たちが男女の接触を禁じられて暮らしていた。暴力的な看守のハラスメントにおびえるジュリエット、有力政治家の両親から見放されて施設に入れられたロミオ。二人はダンスパーティでめぐりあい、たちまち恋に落ち、看守の目を盗んで逢瀬を重ね、仲間たちに祝福されながら愛を誓いあう。しかし……




まずはニュー・アドベンチャーズのダンサーたちの驚異的な身体能力の高さや表現力に感服しました。マシューの才能がほとばしり、心躍らせるような、驚くべき発想の振付の数々を舞台上で可能にし、もはや「奇跡」と言っても過言ではないダンスパフォーマンスを具現化しているダンサーたちに、心の中で何度も拍手を贈りました。
そして、今まで誰も観たことがないような、極めて現代的で大胆な、しかしプロコフィエフの音楽にピッタリと合った刺激的なストーリー展開に衝撃を受けました。ダンス公演を観る悦び――もはやこれは快楽です――をひさしぶりに味わい、アドレナリンが出まくりました。
舞台はイタリア・ベローナの矯正施設。個性的だったり、人と違ったりする若者を“正常”にするための施設です。そこに入れられた若者たちは(どうしてそこに入れられたのか、バックグラウンドはよくわからないのですが)看守や医師にコントロールされ、抑圧を感じながら、退屈な毎日を送っています。背の高いマッチョな看守は(この男こそはティボルトです)ジュリエットに特別な感情を持っており、彼女を自分のものにしようとします(自室に連れ込み、性行為を強要しているように見えるシーンもあります)。そこに新たにロミオという美青年がやってきて、傷ついたジュリエットを慰め、二人は恋に落ちます。
原作ではカーニバルの喧騒のシーンがありますが、そこは天井からミラーボールが降りてきて修道僧ローレンス(女性が演じていました)がDJとしてパーティを開くというシーンに置き換えられていました(素敵)、パーティの後、中央で見つめ合うロミオとジュリエットの周囲で、男女だったり男どうしだったり女性どうしだったりな組み合わせで愛し合う展開になり、たいへんエロティックでした。
その後のストーリーには触れないでおきますが(看守の名前がティボルトであるというところで、ある程度想像がつく方もいらっしゃることでしょう)、ローレンスが仮死状態になれる眠り薬をジュリエットに与え、ジュリエットが死んだと思い込んだロミオが…という原作とは全く違うものになっていました。
ゲイがふつうに何人も登場し、物語の中で重要な役割を与えられています。マキューシオがゲイとして描かれているというのはオンラインニュースなどでも伝えられていた通りですが(そういう話を隠蔽しがちな日本映画の宣伝会社と異なり、ちゃんとそれを伝えてくれたおかげで今回、観に行こうと思えました)、マキューシオと恋愛関係にあるバルサザー、それからたぶんもう一人、ゲイのキャラクターが登場していました。マキューシオとバルサザーは舞台上で何度もキスしたりしていて、カップルであることが明示されています。仲間たちはそれをふつうのこととして受け容れていますが、施設の側はそうではなく…。
原作のモンタギュー家とキャピュレット家の争いが招いた悲劇というストーリーラインは、「自身のtoxic masculinity(有害な男性性)を自覚せずミソジニー(女性蔑視)やホモフォビア(同性愛嫌悪)に毒された哀れな男が招いた悲劇」に置き換えられていました。そこにこそ現代性(2024年に観る意味)があるし、ゲイであるマシューの面目躍如だと感じました。
振付の多くは男女の区別がなく、群舞なども男女が入り混じって同じ振付で踊るシーンがほとんどで、女性も力強く踊るし、男性もしなやかに踊るようになっているところもよかったです。ダイナミックさとしなやかさとエレガントさが同居した素敵なダンスでした。ロミオとジュリエットが踊るシーンではも、ジュリエットのほうがリードしたり、ロミオのほうが控えめに見えたりするようなところも多々ありました。
性表現がちょっと女性っぽい男性や、パッと見男性にも見えるような女性もいて、そういう意味でもクィアでよかったです。
バレエというと女性がチュチュを着てトゥシューズをはき、男性はもっこりタイツで女性をアシストといったイメージをお持ちの方もいらっしゃるかもしれませんが、この舞台は全然違っていて、むしろドラァグクイーンのショーのバックダンサーがやってるようなダンスパフォーマンスに近いと思いますので、どなたでも観て楽しめると思います。
ダンスパフォーマンスの素晴らしさを堪能するという意味でも、マシュー・ボーンが投げかけるクィアなメッセージに感じ入るという意味でもぜひご覧いただきたい、観て損はない舞台でした。
なお、カーテンコールの途中から「撮影OK」のプラカードが出ますので、写真を撮りたい方はご準備を。キャストの見送りサービスもあるので、会いたい方は少しホワイエでお待ちいただくとよいでしょう。

マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
期間:2024年4月10日(水)~21日(日)
会場:東急シアターオーブ 渋谷ヒカリエ11階
主催・企画制作:ホリプロ
原作:ウィリアム・シェイクスピア
音楽:セルゲイ・プロコフィエフ
演出・振付:マシュー・ボーン
美術・衣裳:レズ・ブラザーストン
照明:ポール・コンスタブル
音響:ポール・グルースイス
オーケストレーション:テリー・デイヴィス
INDEX
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