REVIEW
劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
ゲイの劇団フライングステージの記念すべき第50回公演は、シェイクスピアの傑作喜劇『十二夜』、ロマンス劇『冬物語』を現代の新宿・歌舞伎町・二丁目を舞台に翻案し、過去に「gaku-GAY-kai」で上演された2作品を座・高円寺で再演するものです。シェイクスピアの時代に少年俳優が演じたヒロインたちを「女装」という設定で再構成=贋作化した、ゲイの劇団によるクィア演劇としての「贋作シェイクスピア」。誰でも楽しめるハッピーな作品です。初日のレポートをお届けします
2024年10月30日(奇しくも東京高裁判決があった日)の19時から、「gaku-GAY-kai 2020」で上演された『贋作・十二夜』が劇団フライングステージ第50回記念公演として再演されました。座・高円寺の大ホールでの上演ということで、ちょっと格調高い趣のお芝居になっていましたし、また、キャストや演出なども「gaku-GAY-kai」のときとは異なっていて、新鮮な印象がありました。
まず、劇場に入って感じたのは、「舞台が広い!」「舞台セットがある!」ということでした。シアターミラクルでの上演時は舞台セットが何もない狭いステージでしたので、ずいぶん印象が違います。
会場で配られたプログラムに座長の関根信一さんが書いた「シェイクスピアと私と私たち」というエッセイが挟まれていて、とても興味深く読ませていただきました。関根さんが初めて観たシェイクスピアはBBC政策の『ハムレット』で、主演俳優はデレク・ジャコビ。21世紀に入ってからカムアウトし、同性婚もしているそうです、といった感じで、いかにシェイクスピア劇とゲイの関わりが深いかということが綴られ、それから、2017年の『贋作・真夏の夜の夢』でアルピーナさんとエスムラルダさんが主演で、がらかめのパロディも交えて上演し、といったシェイクスピア劇の贋作シリーズを始めるようになったきっかけについても綴られていました。「贋作と言いながらも、これこそが僕たちのとっての本当だよと言いたい気持ちでの、あえての「贋作」です」という言葉がとても素敵でした。
場内に流れていた軽快なジャズがキンプリの「koi-wazurai」に代わり、音楽が大きくなるとともに照明が暗転。お芝居が始まりました。
こんなストーリーです。
双子の兄妹セバスチャン(野口聡人さん)とヴァイオラ(モイラさん)の乗った船が嵐に遭い、ヴァイオラは二丁目の海岸に打ち上げられる。彼女は消息の分からない兄を死んだと思い、身を守るため兄そっくりに男装してシザーリオと名乗り、二丁目のセレブであるオーシーノ(さいとうまことさん)に小姓として仕えることにする。
オーシーノは伯爵の娘であるオリヴィア(エスムラルダさん)に恋をしていたが、オリヴィアは兄の喪に服したいという理由で断り続けていた。オーシーノは、シザーリオをオリヴィアのもとに遣わし、自分の気持ちを伝えるよう命じる。密かにオーシーノに淡い思いを抱いていたヴァイオラはその命令に苦しむが、その務めを果たす。オリヴィアは使者としてやって来た「美少年」シザーリオにすっかり心を奪われてしまう。
一方、遭難でヴァイオラと生き別れとなった双子の兄セバスチャンは、別の船の船長アントーニオ(とつかおさむさん)に助けられており、彼と共に二丁目にやって来ていた。アントーニオはセバスチャンを気に入っていたが、二丁目を出禁になっており、セバスチャンと別れて人目に付かないよう行動していた。
オリヴィアにはオーシーノのほかにも求婚者がおり、オリヴィアの叔父トービー(岸本啓孝さん。女装)の遊び仲間であるアンドルー(水島和伊さん)もその一人だった。アンドルーは愛しいオリヴィアが小姓に熱を上げているとトービーにそそのかされ、シザーリオに決闘を申し込む。シザーリオは仕方なくその決闘を受けるが、シザーリオのことをセバスチャンだと思い込んだアントーニオが割って入り、決闘を止める。しかし、アントーニオは警官(若林正さん)に捕まってしまい、シザーリオ(ヴァイオラ)は彼が自分のことをセバスチャンと呼ぶのを聞いて、兄が生きていることを知る。
その頃、二丁目見物をしていたセバスチャンは、偶然、オリヴィアと出会い、見ず知らずの美しい姫に求婚されて夢ではないかと戸惑うも、その申し出を受ける。オリヴィアはシザーリオ(本当はセバスチャン)が求婚をOKしてくれたと喜び、気が変わらぬうちにとすぐに結婚式を挙げる。
オーシーノは、オリヴィアが自分の小姓(本当はセバスチャン)を夫と呼ぶのを聞いて、裏切られたと激怒する。身に覚えのないシザーリオ(ヴァイオラ)はそれを否定するが、今度はオリヴィアが裏切られたと叫ぶ。そんな口論の最中にセバスチャンが現れ、一同は驚く。ヴァイオラとセバスチャンは互いに素性を確かめ合い、生き別れになっていた兄妹の感動の再会を果たす。一方のオーシーノはシザーリオが実は女だったと知り、改めて求婚する。こうして2組のカップルがめでたく誕生する。
階段というか「棚田」のようになった舞台セットを使ってキャストが登場したり、登ったり、降りたり、ハケたりするので、動きもずいぶん立体的に、ダイナミックに見えました。
照明も本格的でしたし、いろいろ立派になってました。
シェイクスピア劇を演じるのにふさわしい風格を感じさせる舞台だなぁと思いました。
そんな立派な舞台で、「二丁目が」とか「女装が」というセリフがバンバン出てくるお話が展開されるわけで、新鮮な面白さがありました。逆に、「gaku-GAY-kai」は(建前としては一般に開かれているのですが)まだまだ二丁目のゲイバーみたいなイベントだったんだな、と気づかされました。マスターの友達や顔見知りのお客さんが集まってワイワイする感じです。そういう意味で「gaku-GAY-kai」の空間は(場所が歌舞伎町であっても)二丁目そのものだし、今回の公演は僕らのホームである「二丁目」を飛び出して「よその街」でストレートプレイ(ダブルミーニング)を上演したということなのだな、と思いました。
脚本も出演俳優も大幅には変わってなくて、モイラさん、エスムラルダさん、関根さん、岸本さん、オバマさん、坂本さんといった女装系キャストは全く同じなのですが、比べてみていちばん印象が違ったのは、執事マルヴォーリオが騙されて女装する羽目になるくだりです。いつも威張り散らしていて横柄で感じの悪い、「有害な男性性」がだだもれになっているマルヴォーリオを懲らしめようとして侍女のマライアが女装するよういたずらを仕掛けるわけですが、「gaku-GAY-kai」では結構恰幅のいい、見た目男っぽい感じの俳優さんがマルヴォーリオを演じていたので、女装姿にインパクトがあり、エスムラルダさんに「私はノンケがネタで中途半端な女装してるのがいちばん嫌いなの」と怒られてドッと笑いが生まれました。個人的にはそこがいちばん面白かったのですが、今回の中蔦さんは、もともとスリムな方なので、女装してもあまり違和感がなく、ふつうにキレイに見えるんですよね…なので、あまり笑いにつながらなかった気がします。
全体として、あのような立派なホールでの、ちょっとかしこまった雰囲気での上演でしたので、お客さんも「ここで笑っていいものかどうか…」と遠慮してしまっていたかもしれません(でも心の中で面白いと思ってくれていたはず)
ラストシーンの美しさは、さすがに際立っていましたし、ちょっと昔の舞踏会のような趣もありました(鹿鳴館みたいな)
以前「gaku-GAY-kai」でご覧になった方も、いろんな意味で「gaku-GAY-kai」とは異なっている、その面白さをぜひ、味わってみてください。
なお、もう一つの上演作品である『贋作・冬物語』は「gaku-GAY-kai 2018」で上演された作品で、「二丁目のドラァグクイーン vs 歌舞伎町のホスト」シリーズの一つでありながら、最後にはうっかり泣けてしまうようなお芝居です。『真夏の夜の夢』のように神がかり的な魔法が物語のキーになる作品でもあります。ゲネプロの様子のお写真をいただきましたので、ご紹介します。
座・高円寺は高円寺駅から徒歩数分の場所でとても行きやすい劇場です。中野・高円寺・阿佐ヶ谷辺りにお住まいの方は自転車でも行けます。3日まで上演されますので、ご都合よろしければぜひ、足を運んでみてください。
座・高円寺 秋の劇場18 日本劇作家協会プログラム
劇団フライングステージ第50回公演
贋作・十二夜/贋作・冬物語
日程:10月30日(水)〜11月3日(日祝)
会場:座・高円寺1(杉並区高円寺北2-1-2)
料金(全席自由・税込):一般4,000円、学生2,500円、高校生以下無料(未就学児を含む)、ペアチケット(2名)7,000円、2作品目(A+B)/リピート(A+A,B+B)2,500円
チケットはこちらから
原作:ウィリアム・シェイクスピア
作・演出:関根信一
出演:石関準(フライングステージ)、エスムラルダ、オバマ、岸本啓孝(フライングステージ)、木内コギト(\かむがふ/)、さいとうまこと、坂本穏光、シュウ、関根信一(フライングステージ)、とつかおさむ、中嶌聡、野口聡人、水島和伊、モイラ、若林正(さんらん/大沢事務所)
<タイムスケジュール>
10月31日(木)14:00A / 19:00B
11月1日(金)14:00B / 19:00A
2日(土)14:00A / 19:00B
3日(日)14:00B
(A:『贋作・十二夜』、B:『贋作・冬物語』)
INDEX
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- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
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- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
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