REVIEW
女子はスラックスOKで男子はスカート禁止の“ジェンダーレス制服”をめぐるすったもんだが興味深いドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』
7月14日から放送がスタートした月10ドラマ『僕達はまだその星の校則を知らない』(カンテレ)の第1話「#1 臆病なスクールロイヤー、男女共学化高へ」がよかったです。生徒会長の男子がスカートをはいて壇上に上がったのち、不登校になったことをめぐり、校内で議論が…というお話です。レビューをお届けします

<あらすじ>
弁護士の白鳥健治は、独特な感性を持ち感覚が周囲と違うことで集団行動になじめず、不登校になった過去がある。現在、法律事務所で働く健治は、スクールロイヤーとして高校に派遣されることに。ところが、赴任した「濱ソラリス高校」は男子校と女子校が合併したばかりで、次々と問題が勃発。生徒会長と副会長がそろって不登校になる前代未聞の事態が発生。健治は学校から打開策の提案を求められるが、学校が苦手な健治は法的なアドバイスこそするものの、問題解決の糸口は見出せない。やがて生徒たちの間では2人の不登校の理由が合併による校則の変更なのではないかという憶測が広がり、制服を廃止するよう学校を訴えるという生徒が出てくる。そこで健治は、“制服裁判”なる模擬裁判を提案するが…。




そろって不登校になった理由と思われる出来事は、副会長の女子・斎藤がスラックスで壇上に上がり、生徒たちが少しざわつき、その様子を見ていた生徒会長の男子・鷹野(ちなみに丸刈りの柔道部員です)がスカートに着替えて登場し、さらに生徒たちが騒いだというものでした。
二人が休んでいる間に、先生たちと議長団(生徒会長たちをサポートする事務局みたいな役割)の生徒たちが話し合い、元女子校のほうの校長が4月、スラックスで登校した斎藤に「あら素敵ね。あなたそっちだったのね」と言い、斎藤が「え?」と驚き、翌日からスカートに戻ったということがわかり、それはひどい、と。元校長は「何度も謝ったんだけど…」「ただ理解したくて」と。この場面だけでもいろんな問題が含まれているわけですが、話は男子がスカートをはくことに移り、この学校では女子のスラックスは認められているけど、男子のスカートは禁止なのはなぜですか?という生徒からの問いに、先生側が「ビックリ度合い」が違うでしょ、と、電車に乗ったら「あの制服、どこの子?」って言われると、挙げ句の果てに、「スラックスは見せて恥ずかしいものがないから」「見せて恥ずかしい…それってすね毛のことですか?」「じゃあ、剃ってればいいんですか?」「とにかく、すべてを常識的に総合的に考えれば」という、差別まるだしな会話が繰り広げられたのでした。このシーンは世間がスカート男子のことをどう見ているかがものすごくよくわかる、PC的に海外ではありえないだろう、ある意味、貴重なシーンだったと思います。(デイリースポーツによると、ネット上では「そりゃ女子がパンツOKなら男子がスカートでもOKでしょ」「なんで男子がスカート履くのは違和感なんだろうね」「表面だけ多様性謳いやがって!」「男子のスカートは違反なの!?」「令和じゃん。男子もスカートはきますよ」「校則違反?」「令和の価値観とか言ってるくせに男子スカートだめとか意味わからん」「男子がスカートを選択できないのは変だよなとずっと思っていた」「謎すぎるよね」「ジェンダーレスをうたうなら、スカートの男子学生を認めないのは変でしょ」「ジェンダーレスのバランス悪いわかりやすい例だなと思う」と反応する投稿が相次いだそうです)
その後、議長団も務める女子生徒が、制服の自由を求めて裁判を起こしたいと言い、スクールロイヤーの白鳥も味方し、校内で模擬裁判が行なわれます。その顛末はぜひ、実際のドラマでご覧になってください。
実際は斎藤も鷹野もジェンダーマイノリティでは全くなく、ただスラックスを穿いてみたかっただけなのに、なんでこんなに面倒なことになるんだろう?と斎藤がボソッと本音を語ったのを聞いた鷹野が、彼女に味方したいと思ってスカートを穿くことを思い立ったのでした。アライというか、友情のような気持ちですね。
(ちなみに2021年、アライとしての意識に目覚めた鹿児島の女子高生が、学校で誰もスラックスをはいている女子がいなかったので、自らスラックスをはいて登校しはじめたという話や、シンプルにカッコいいと思ってスカート通学を始めた広島県の男子生徒のことがニュースになっています。その男子生徒はこんなことを言っています。「男性なのにスカートをはいているから、女性なのにズボンをはいているから、LGBTQなのではないかという意識が世間に埋め込まれていると、無理に性自認をカミングアウトすることになってしまうのではないでしょうか。そういう社会だと自分がはきたいほうを選びづらくなってしまいます」)
今回のドラマでは結局、上戸彩さんが『金八先生』でトランス男子の役を演じたような感じでトランスジェンダーの生徒が登場したわけではなかったのですが、制服の自由化がジェンダーマイノリティだけでなくすべての生徒にとって選択肢が増えることにつながるからいいことだね、という前提のもとで、なぜ女子のスラックスは受け入れられるのに男子のスカートはダメなのかという問題に鋭く迫ったところや、そもそも制服が何のためにあるのか、実際の高校生たちは本当に制服の廃止を求めているのか、というリアリティにも迫っているところがよかったです。そして、多数決で決められたからといって、少数意見(マイノリティ)の人たちをないがしろにしていいわけじゃない、という民主主義や人権の基本を押さえるシーンがあったのもよかったです。
このドラマ、実はキャスティングも魅力的というか、これまでのクィア作品を踏まえて見ると面白いです。
まずは主演の磯村勇斗さん。『きのう何食べた?』でわがままを言って彼氏を振り回すジルベールの役をつとめていたのはみなさんご存じのとおりですが、もうひとつ、『正欲』という映画で性的嗜好のマイノリティを演じていたということにも触れておきたいと思います(同じ作品で、今回理事長役をつとめている稲垣吾郎さんも、やはりマイノリティに対して抑圧的な“おえらいさん”の役で出演していました)
それから男子校側の校長の役を演じている尾美としのりさんは、同級生の女子(小林聡美さん)とぶつかって階段から転げ落ち、体が入れ替わってしまうという大林宣彦さんの名作映画『転校生』に主演して有名になった方です。そんな尾美さんがジェンダーに関して旧態依然とした小言を言う頭の固い校長を演じているのが面白かったです。
それから、『ゼンタイ』や『恋人たち』など橋口作品への出演で知られる(GMPD好きゲイの間で人気が高い)シノアツさんが体育教師役(!)で出ています。
その他、『虎に翼』に出演していた平岩紙さんや、『あまちゃん』に出演していた木野花さんなども。
宮沢賢治をモチーフとして使っているところにも惹かれました。『銀河鉄道の夜』の「ほんとうのさいわいは一体なんだろう」というジョバンニのセリフが効果的に使われていました。(宮沢賢治には生涯をかけて愛した一人の男性がいました。詳しくはこちらをご覧ください)
いろんな意味で素敵なドラマでした。
僕達はまだその星の校則を知らない
フジテレビ系
月曜22:00-
TVerで第1話を見る
https://tver.jp/episodes/ep44447jnax
参考記事:
『僕達はまだその星の校則を知らない』など、分断が煽られる現代を映した今期ドラマ3作品を紹介(CINRA)
https://www.cinra.net/article/202507-summerdrama_hrtkzm
月10ドラマ 「男子がスカート」→校則違反にネットも物議「意味わからん」 問題提起に「表面だけ多様性」「謎すぎる」「男子もはく」女子のスラックスOKでも(デイリースポーツ)
https://origin.daily.co.jp/gossip/2025/07/15/0019232368.shtml
INDEX
- レポート:短編集「Meet Us Where We’re At」上映会
- レビュー:BSSTO「世界の・周りの・私のジェンダー」を見つめるショートフィルム特集
- たとえ社会の理解が進んでも法制度が守ってくれなかったらこんな悲劇に見舞われる…私たちが直面する現実をリアルに丁寧に描いた映画『これからの私たち - All Shall Be Well』
- おじさん好きなゲイにはとても気になるであろう映画『ベ・ラ・ミ 気になるあなた』
- 韓国から届いた、ひたひたと感動が押し寄せる名作ゲイ映画『あの時、愛を伝えられなかった僕の、3つの“もしも”の世界。』
- 心ふるえる凄まじい傑作! 史実に基づいたクィア映画『ブルーボーイ事件』
- 当事者の真実の物語とアライによる丁寧な解説が心に沁み込むような本:「トランスジェンダー、クィア、アライ、仲間たちの声」
- ぜひ観てください:『ザ・ノンフィクション』30周年特別企画『キャンディさんの人生』最期の日々
- こういう人がいたということをみんなに話したくなる映画『ブライアン・エプスタイン 世界最高のバンドを育てた男』
- アート展レポート:NUDE 礼賛ーおとこのからだ IN Praise of Nudity - Male Bodies Ⅱ
- 『FEEL YOUNG』で新連載がスタートしたクィアの学生を主人公とした作品『道端葉のいる世界』がとてもよいです
- クィアでメランコリックなスリラー映画『テレビの中に入りたい』
- それはいつかの僕らだったかもしれない――全力で応援し、抱きしめたくなる短編映画『サラバ、さらんへ、サラバ』
- 愛と知恵と勇気があればドラゴンとも共生できる――ゲイが作った名作映画『ヒックとドラゴン』
- アート展レポート:TORAJIRO 個展「NO DEAD END」
- ジャン=ポール・ゴルチエの自伝的ミュージカル『ファッションフリークショー』プレミア公演レポート
- 転落死から10年、あの痛ましい事件を風化させず、悲劇を繰り返さないために――との願いで編まれた本『一橋大学アウティング事件がつむいだ変化と希望 一〇年の軌跡」
- とんでもなくクィアで痛快でマッチョでハードなロマンス・スリラー映画『愛はステロイド』
- 日本で子育てをしていたり、子どもを授かりたいと望む4組の同性カップルのリアリティを映し出した感動のドキュメンタリー映画『ふたりのまま』
- 手に汗握る迫真のドキュメンタリー『ジャシー・スモレットの不可解な真実』
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