REVIEW
ドラマ『偽装の夫婦』
10月7日(水)から日テレで放送開始されたドラマ『偽装の夫婦』。沢村一樹さんがゲイ役を演じることや、久々にゲイをフィーチャーしたドラマということもあり、注目を集めていました。レビューをお届けします。

10月7日(水)から日テレで放送開始されたドラマ『偽装の夫婦』。沢村一樹さんがゲイ役を演じることや、久々にゲイをフィーチャーしたドラマということもあり、注目を集めていました。レビューをお届けします。(後藤純一)
10月7日(水)の夜は、『偽装の夫婦』についてのつぶやきでTLがにぎわっていました。「とてもよかった!」という声もあれば、「あれでわざとらしいオネエでさえなければよかったな」という声も上がっていました。
見逃した方のために、第1話のレビューをお届けします(ストーリーを全部書いてしまうかたちになっていますが、ご了承ください)。気になる方はぜひ、来週以降、ご覧になってみてください。
ヒロ(天海祐希)は図書館で働く地味な女性ですが、つくり笑顔の裏で、心の中で周りの人に毒づいています。
そんなヒロの前に突然現れたのが、学生時代につきあっていた超治(沢村一樹)。近くの幼稚園の園長代理をしていて、図書館でヒロが園児たちに絵本を読み聞かせているところに居合わせたのです。『100万回生きたねこ』を読んでいたとき、園児の一人・水森由羽ちゃんが突然外に飛び出し、木に登ろうとします(子猫が木の上にいたのです)。由羽ちゃんは子猫を抱いたまま木から落ちてしまいますが、ヒロが受けとめ、事なきを得ます。ヒロはもともと陸上で鳴らしたスーパーウーマン(実は運動神経バツグン)だったのです。
超治は、ヒロとの再会を懐かしむと同時に、ゲイであることをカミングアウト(というか、入った喫茶店のウェイターがゲイ友達だったので、バレた)。そのせいでヒロと別れてしまったことをお詫びし、もうすぐガンで亡くなる母親のために、ヒロに婚約者のフリをしてくれと頼み込みます。ヒロは初めこそ心の中で毒づきながら無下に断りますが、(部屋の本が重過ぎてアパートの床が抜けるという惨事に見舞われ)お金に困っていたこともあり、しぶしぶ「小芝居」につきあいます。ヒロは家で超治の手料理を食べて、心の中で「うまい!」と初めて賛辞を発しました。
一方、由羽ちゃんですが、お母さん(内田有紀)が足が悪く、女手一つで娘さんを育てているシングルマザーで、なんとなく周囲の子たちとも打ち解けず、引っ込み思案な感じでした。そんななかでも、ヒロには心を許しています。由羽ちゃんは運動会に行きたくないと言っていましたが、それは、親子参加の障害物競走があったせいでした。でも、ヒロに「足が悪いお母さんのことを恥ずかしいと思ったりしてないですよね? お母さんだって恥じたりしないと思いますよ」と言われ、参加を決意します。そして障害物競走の本番。借り物競走のように紙に書かれた指示に従わなくてはいけないという場面で、由羽ちゃんが引いたのは「かぞく」というカード。超治に呼ばれたヒロは、お母さんを背中に乗せ、ゆりちゃんを抱っこして颯爽と走ります…
個人的な話で恐縮ですが、運動会のシーンは、わりと本気で泣いてしまいました。ゴトウの母親も足を引きずっている人で(親子参加の障害物競争はなかったけど)、思わず感情移入してしまったからです。このシーンを見れただけでも、録画しといてよかった、と思いました。
今回のヒロというキャラクターは、天海祐希さん自身が演じた『女王の教室』の阿久津先生…というよりも、『家政婦のミタ』の三田さんみたいな、感情を表に出さない(本だけを生き甲斐とする)キャラクターです(と思っていたら、脚本が「家政婦のミタ」の遊川和彦さんでした)。自分が活躍すると周りの人が迷惑するという経験が重なって、このような偏屈な人になってしまったようです。
超治が「ヒロは本当は周りの人をたくさん幸せにできるんだよ。アナ雪のエルザ気取りで氷の城に籠ってないで、出てきなよ!」と諭すシーンがありますが(ヒロは冷たく「エルサです」と訂正)、たぶん本当のヒロを理解しているのは超治だけで、二人は結婚したほうがいいんじゃないか、偽装っていうよりは「友情結婚」みたいな感じでうまくいくんじゃないか、と誰もが思うと思います。超治はただ女性とセックスできないというだけで、人間的にも魅力的だし、子ども好きだし、人生のパートナーとしては文句なしの素晴らしい人として描かれています。
かたくなだったヒロも、運動会のあと、足に包帯を巻きながら再三の「プロポーズ」をしてきた超治には、きっとOKを出すだろうな、と思わせる流れだったのですが、ヒロは『かもめ』の一節を語り、お断りします。その代わり、別の人がヒロに「家族」になってほしいと申し込んできます。それは由羽ちゃんとお母さんでした…
ゲイと女性の偽装結婚の話かと思いきや、来週は、女性どうしの関係という新たな展開を見せそうです。ヒロは水森さん親子からのラブコールにOKするのか? 超治との関係はどうなるのか? とても楽しみです。(実は内田有紀さんは、ボーイッシュな見た目もそうですが92年の『その時、ハートは盗まれた』というドラマでガールズラブな役柄を演じていたこともあり、レズビアンの方たち(の一部)に絶大な人気がある方です)
制作陣に直接会ったというゲイの方が書いていたのですが、このドラマはけっこういろんな当時者の方にお話を聞いて、制作が進められたそうです(真摯な態度が見えたそうです)。興味本位でゲイを面白おかしく描く(今までさんざん繰り返されてきた)タイプの番組と違って、今回はぼくらが安心して見られるドラマになっているのでは?と期待が持てそうです。
『偽装の夫婦』
日テレ 毎週水曜22時~
出演:天海祐希、沢村一樹、内田有紀、工藤阿須加ほか
脚本:遊川和彦
プロデューサー:大平太、高明希、田上リサ
演出:深川栄洋、石尾淳、日暮謙
INDEX
- アート展レポート:ノー・バウンダリーズ
- 御涙頂戴でもなく世間に媚びてもいない新世代のトランスコミック爆誕!『となりのとらんす少女ちゃん』
- アメリカ人とミックスルーツの若者のアイデンティティ探しや孤独感、そしてロマンスを描いた本格長編映画『Aichaku(愛着)』
- 米国の保守的な州で闘い、コミュニティから愛されるトランス女性議員を追った短編ドキュメンタリー『議席番号31』
- エキゾチックで衝撃的なイケオジと美青年のラブロマンス映画『クィア QUEER』
- アート展レポート:浦丸真太郎 個展「受粉」
- ドリアン・ロロブリジーダさんがゲスト出演したドラマ『人事の人見』第4話
- 『グレイテスト・ショーマン』の“ひげのマダム”のモデルとなった実在の女性を描いた映画『ロザリー』
- アート展レポート:藤元敬二写真展「equals zero」
- 長年劇場未公開だったグレッグ・アラキの『ミステリアス・スキン』がついに公開!
- アート展レポート:MORIUO EXHIBITION「Loneliness and Joy」
- 同性へのあけすけな欲望と、性愛が命を救う様を描いた映画『ミゼリコルディア』
- アート展レポート:CAMP
- アート展レポート:能村 solo exhibition「Melancholic City」
- 今までになかったゲイのクライム・スリラー映画『FEMME フェム』
- 悩めるマイノリティの救済こそが宗教の本義だと思い出させてくれる名作映画『教皇選挙』
- こんな映画観たことない!エブエブ以来の新鮮な映画体験をもたらすクィア映画『エミリア・ペレス』
- アート展レポート:大塚隆史個展「柔らかい天使たち」
- ベトナムから届いたなかなかに稀有なクィア映画『その花は夜に咲く』
- また一つ、永遠に愛されるミュージカル映画の傑作が誕生しました…『ウィキッド ふたりの魔女』
SCHEDULE
記事はありません。