REVIEW
レビュー:『クィア・アイ in Japan!』
Netflixで配信が始まった『クィア・アイ in Japan!』。料理やファッション、美容など各分野のプロフェッショナルである「ファブ5」が悩みを抱えて自信を失くした人たちにセルフケアの大切さを伝えるリアリティ番組『クィア・アイ』が、日本でロケを行ったスピンオフ企画です。
料理やファッション、美容など各分野のプロフェッショナルである「ファビュラスな5人(通称:ファブ5)」が、悩みを抱えて自信を失くした人たちにセルフケアの大切さを伝えるリアリティ番組として人気の『クィア・アイ』。今年初め、日本でロケを行ったスピンオフ企画『クィア・アイ in Japan!』が、いよいよ2019年11月1日からNetflixで配信がスタートしました。これは見逃せません!というわけで、レビューをお届けします。(後藤純一)
『クィア・アイ』のオリジナル版(最初のシリーズ)は、2003年から数年間、米TVネットワーク「Bravo」で(日本では「FOXチャンネル」で)放送されていましたが、「ダサ男改造計画」というサブタイトルが付いていて、だいたいは太ってたりダサかったりして女の子にモテない、イマイチ輝けないでいるノンケ男性を、ゲイの5人が見事に変身させ、パーティでのちょっとしたおもてなしのコツも教えたりして、最後に友人たちを招いたパーティに生まれ変わった本人が登場し、拍手喝采、みたいな感じでした。
今回の『クィア・アイ』は、自信を失っている依頼人を魅力的に生まれ変わらせるというベースは一緒ですが、もっとパワーアップしています。お部屋までリフォームしちゃう、そして海外遠征までしちゃう(日本の超有名人がゲスト出演)っていうゴージャスさです。それと、ファブ5の5人が5人とも、オトナというか、人格者というか、自信を持てずにいる依頼者にかける言葉が、とても素晴らしく、感動を呼ぶものになっています。
そんな新生『クィア・アイ』は、2018年、2019年とテレビ界最高の栄誉であるエミー賞を多数受賞していますが、その勢いに乗って、海外のリアリティ番組としては珍しく(ゲイ関連としては初めて?)、今年1月から2月にかけて東京でロケを行い、スピンオフ企画が実現することになりました。そしてこの11月1日、ついに配信がスタートしました。
第1話と第2話のレビューをお届けします。
まず第1話でガツンとヤラれました。がんだった姉が病院で管だらけで亡くなり、自宅で家族に看取ってもらって天に召されたほうがよかったのでは…という後悔の念に苛まれ、自宅を改造して終末期ケアを行うホスピスを運営するようになったヨーコさんという60歳近い女性が選ばれたのですが、ファブ5のみんなが、365日働きづくめで自身は(自分の部屋も患者さんに提供したため)まともに寝る場所もない、身だしなみなども気にしている余裕がないヨーコさんのために「あなたは人生を他人のために捧げてきてるけど、もっと自分を褒めてあげよう」「自分を愛していいんだよ」「自分を大事にする権利があるんだよ」と励まし、手早く身ぎれいにするコツを伝授したり、美味しいアップルパイの作り方を教えたり、コミュニティセンターになっているホスピスの隣りの家を美しくリフォームしたり、というかたちで、彼女の人生をより素敵なものに変える手助けをするというエピソードでした。
正直、ずっと涙があふれて、止まらなかったです。私が田舎にいた頃、親戚やなんかのおばちゃんたちは、みんなヨーコさんみたいに、贅沢もせず、家事や介護に追われ、日々を献身的に生きてる方たちで(お正月とかも、男たちは居間で飲み食いしてる一方、女たちは台所に立って、休むことがありませんでした)、そういう無数の名もない献身的な女性たちに(私の分も)エールを贈ってくれているように思えました。ちょっとでも鏡を見て身だしなみに気を遣ったり、少し自分がよく見えるような服を着たり、美味しいものを食べたりして、ヨーコさんの表情が見違えるように明るくなって、もしかしたら新しい恋も生まれるかも、とまで思えるようになる姿が、本当に素敵でした。幸せになってほしいと心から思えました。
ファブ5は、単に見た目とか洋服とかお部屋とかをキレイにするだけでなく、一貫して、自分を認め、愛し、肯定できるようになるような言葉をかけてて(めっちゃ褒めるんですよ)、現代のヒーラー(セラピスト)なんだなぁって思いました。ヨーコさんが癒されて、号泣している様が、それを雄弁に物語っていました。
第2話は、カナダや英国に留学していた時は自分らしくいられたけど、日本に帰って就職した今はイマイチ輝けずにいるゲイのカンさんのエピソードです。彼は、ロンドンに素敵な彼氏がいて、若くて、英語が堪能で、華やかなお仕事をしてて、行こうと思えば海外にも行ける、とても恵まれた環境にあって、一体何が不満なの?っていう感じなのですが、実はずっと吐き出せずにいたトラウマ的な体験があり(身につまされました)、それをファブ5が引き出し、癒しながら、今の日本でもゲイプライドを持ってやっていけるよう、手助けしていくのでした。
この回は、僧侶でメイクアップアーティストでゲイである西村宏堂さんがゲストで登場したほか、二丁目でロケをしているところも見どころで、水原希子さんが実際に行っているという老舗ディスコ『ニューサザエ』でファブ5と希子さんがダンスしていたり(あの場末な空間がオシャレに見えるからスゴい)、AiiRO Cafeでお話したりするシーンがあったりします(DJのpoipoiさんなども登場しています)
ファブ5は、依頼人の本当のニーズ、心の奥底にある気持ちを引き出しながら(依頼人が号泣するのは、ふだん言えずに胸にしまっていた思いをやっと吐き出せたから、という部分も大きいと思います)、その道のプロとして「ファビュラス」なソリューションを提供できる人たち。きっと彼らも、学校でいじめられたり、親に追い出されたり、虐げられたり、罵倒されたり、何かしら肩身の狭い思いをしてきた(苦労を経験してきた)と思うんですが、そういうマイノリティだからこそ、人情の機微がわかるし、優しくなれる、そしてきめ細かなケアができるんだと思います。決して上から目線でもなく、押し付けがましくもなく。その人が心の奥で求めてることや言えずに抑圧してきた思いを上手に掬い上げて、解放してあげてるんですよね(ある意味、ゲイだからこそできる離れ業と言ってもよいのでは?) だからこそ、みんな惜しみない拍手を贈るし、この役は本当に彼らが適任だと誰もが思えるし、そこが今の『クィア・アイ』が世界中で愛され、エミー賞に輝き、支持される理由なんだと思います。
話題の番組だから、日本でロケやってるから、くらいのライトなモチベーションでもいいですし、自分に自信がない、自分にも人にも向き合えない、自分を愛するということがわからない、といった方などはぜひ、この「クィア・アイ in Japan!」(や、本家の「クィア・アイ」シーズン1〜4)をご覧いただきたいと思います。
クィア・アイ in Japan!
11月1日(金)〜
Netflixで独占配信
INDEX
- 誰にも言えず、誰ともつながらずに生きてきた長谷さんの人生を描いたドキュメンタリー映画『94歳のゲイ』
- 若い時にエイズ禍の時代を過ごしたゲイの心の傷を癒しながら魂の救済としての愛を描いた名作映画『異人たち』
- アート展レポート:能村個展「禁の薔薇」
- ダンスパフォーマンスとクィアなメッセージの素晴らしさに感動…マシュー・ボーンの『ロミオ+ジュリエット』
- 韓国のベアコミュニティが作ったドラマ「Cheers 짠하면알수있어」
- リュック・ベッソンがドラァグクイーンのダーク・ヒーローを生み出し、ベネチアで大絶賛された映画『DOGMAN ドッグマン』
- マジョリティの贖罪意識を満たすためのステレオタイプに「FxxK」と言っちゃうコメディ映画『アメリカン・フィクション』
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
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