REVIEW
世界が熱狂する学園コメディドラマ『セックス・エデュケーション』
世界的に話題沸騰、驚異的な視聴数と評価を獲得しているNetflixドラマ。学園生活の悩みをセックスにフォーカスした、ミュージカルじゃない版の『glee/グリー』とでもいうべき青春コメディです。
昨年Netflixで配信されるやいなや驚異的な視聴数を記録、世界的に話題沸騰となり、高評価を獲得しているドラマ『セックス・エデュケーション』。いろいろなさじかげんが絶妙で、理想的な性教育ってこうだよね、と思わせるものがあります。学園生活の悩みをセックスにフォーカスした、ミュージカルじゃない版の『glee/グリー』とでもいうべき青春コメディです。
<あらすじ>
セックス・セラビストの母親と二人暮らしの高校生・オーティスには、母親にも言えない悩みがあった。それは、セックスはおろか、オナニーすらできないということ。学校では目立たない地味キャラで、友達はゲイのエリックだけ。しかし、ひょんなことから、スレた雰囲気で人目を引くメイヴと知り合いになる。メイヴは校内の廃屋で、同級生のエイミーから、巨根の彼氏・アダムがイカないという不満を聞く。この騒動に巻き込まれたオーティスは、アダムに対してセラピーを行うが……
面白いです。ゲラゲラ笑えます。
冒頭、かなり大胆なセックスのシーンで始まりますが、すぐにこれがコメディだとわかります。
母親がセックス・セラピストであるおかげで、家がまるで秘宝館のようになっていて(ちんこのオブジェやら春画やらがそこらじゅうに…)性教育に関する知識は山ほどあるけど(耳年増)、自分自身ではオナニーすらできない(けどそれを母親に知られたくなくてわざとらしくエロ本を部屋に広げてみたりする)地味な男子高校生のオーティスが、自身もセックス・セラピストの才能を開花させ、学園生活がガラリと変わります。
オーティスの親友がゲイのエリックで、オープンというか、あからさまにゲイです。第1話のクライアントであるアダムは、エリックをいじめるようなイヤな奴ですが、一方で、「同性愛嫌悪は古臭い。ダサいぞ」と言ってかばう男子生徒もいたりして、リアルです。さりげなくレズビアンも登場したりします。
アダムは、校長の息子で、門限があるような厳格な家庭。でも学校ではただのアホで、おまけにびっくりするような巨根で、彼女はいるけど、キモチよくイクことができないという悩みを抱えています。オーティスの母親は、大麻が射精障害の原因ではないかと言いますが、オーティスは心理的な問題が阻害要因だと指摘します。果たして、正しいのはどちらでしょうか?みたいな面白さもあります。
第1話はオープニングって感じですが、第2話でいよいよオーティスが学内でセックス・セラピストとして有名になっていきます。各回でセックスにまつわる何をフィーチャーするか(テーマ)が変わっていくようです。
※以下、ネタバレを含みます(第1話の結末にふれています)
『セックス・エデュケーション』がただの下ネタドラマではなく、むしろ『glee/グリー』とかに近い、いろんな悩めるマイノリティが登場する学園モノ青春ドラマの傑作だと思えたのは、第1話の終盤、オーティスがアダムに「他人にどう思われようと関係ない。自分は自分だ。自分の境遇やペニスにPRIDEを持つんだ」と諭し、直情的なアダムは、学校の食堂で大胆な「カミングアウト」をするのです(キャー!って感じです)。やってることはちょっとアレですが、PRIDEを持ち、カミングアウトすることで、自分を受け入れることができ、ハッピーになれたというお話は、ゲイと同じだなって思います。感動しました。
TOXIC MASCURINITY(有害な男らしさ)ということが最近、よく取り沙汰されますが、アダムというアルファメール(群のボスになるタイプ)な男の子が、セックスの悩みを通じて自分の弱さをさらけ出し、人間として成長していく様が描かれているのも、素晴らしいと思いました。
世の男性にとって、男らしくしなければいけない、強くなければいけないというプレッシャーは相当なものですが、「有害な男らしさ」にとらわれる不幸から脱却するために、オーティスのような(あるいはエリックのような?)「男らしさ」にとらわれない人の生き様や人生のスタンスがヒントになる気がします。
セックスを恥ずかしいこととか、隠すべきこととか、ゴシップだと感じてるうちは人生うまく行かなくて、受け入れて、オープンにして、プライドを持つことなんだな、と学ばされますし、セックスって生の根幹なんだな、と改めて気づかされました。
セックス・エデュケーション
2019/イギリス/原作・制作:ローリー・ナン/出演:エイサ・バターフィールド、ジリアン・アンダーソン、ンクーティ・ガトワ他
NETFLIXで配信中
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