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Netflix視聴者数1位を記録中の衝撃実話『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』

Netflix視聴者数1位を記録中の『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』。よくある動物映画のほのぼの感は期待できない、手に汗握る、衝撃実話です。主役の「タイガーキング」ことジョー・エキゾチックがゲイの人物で、たいへん濃いキャラです。

Netflix視聴者数1位を記録中の衝撃実話『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』

 Netflix視聴者数1位を記録し(10日間で3430万人)、サム・スミスなど多くのセレブもハマっている『タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?』は、自宅待機中の人々を魅了してやまない、手に汗握る衝撃実話ドキュメンタリー。そのあまりの人気ぶりに、公開からまだ1ヵ月も経っていないのに早速、後日談のスピンオフやTVドラマ化、はたまたオーランド・ブルーム主演で映画化されるといった話も出ています。クレイジーで「ヤバい」話が次々に繰り広げられるなか、主役の「タイガーキング」ことジョー・エキゾチックが(ダサいとかヤバいとかはさておき)ゲイとして自分語りをするシーンや、2人の彼氏と一緒に結婚式を挙げるシーンなどは共感ポイントかもしれません。
 
 トラやライオン、ヒョウなど(まとめて「big cat」と言うそうです)の私設動物園がアメリカにはいくつかあって、日本の動物園のように動物の生態を学びましょうという研究的な趣旨や、動物とふれあうことで子どもの情操を涵養しましょうという教育的な趣旨よりも、トラと一緒に写真を撮ってインスタ映えをねらいましょうとか、サーカスに近い見世物的なものだったりします(一部、野生動物保護を訴える趣旨の動物園もあります)。しかし、人々が目をキラキラさせながらトラの赤ちゃんとふれあったり、写真を撮ったり、ショーを楽しんだりしている裏で、動物の虐待が行われていたり、カルト的な集団が形成されていたり、殺人まで…『タイガーキング』は(『ライオンキング』とはあまりにも対照的に)クレイジーな動物園主たちに数年にわたって密着したドキュメンタリーで、衝撃の連続で、異世界感がスゴいです。トラのいったい何がそうさせるのか、わかりませんが、とにかく誰も「まとも」な人がいません。トラの動物園の社会は、ある意味「裏社会」だったのです。○○を殺したのは誰なのか?というサスペンス的な要素もあります(「絶対この人が犯人よ!」と2000万人くらい叫んだはず)


 
 主役の「タイガーキング」ことジョー・エキゾチックは、マレット・スタイルという襟足を長くのばすダサい髪型の自己顕示欲が強そうな派手好きキャラで、(自身がゲイだからということもあるのでしょうが)行き場のない「社会のはみ出し者」的な人たちをたくさん雇い、世界一巨大なトラの動物園を運営しています。銃をガンガンぶっ放すところや、賞味期限が切れた肉をもらってきてトラに与えてたりするところは引きますが、かつてはショッピングモールで動物が飛び出すマジックショーをやってたくらいにはショーマンで、人を惹きつける魅力や才能もあるのでは?と思います(飼育中の事故で片手を失ったサフというトランス男性は「ジョーはカメレオンのような人物だ」とかっています)
 そんなジョーが師と仰ぐのがドクです。知性を感じさせ、自信に満ち、カリスマ性がある人物に見えますが、9人の妻を囲い、彼女たちに動物園のいろんな仕事をやらせてこき使っているというあたりが、カルト教団的です。その妻たちの中の1人が、どのようにして彼のハーレムに入信していったかを語るシーンは、実にリアルです。
 いちばん胡散臭くて危険なのが、トラなどの希少種の飼育に反対し、飼い主が放棄した動物を集めた保護区というていでボランティアを使って動物園を運営しているキャロルです。ネットをうまく使って支持者を増やし、ジョーを執拗に攻撃しています。彼女は恵まれない家庭に育ちましたが、富豪と結婚し、動物園の運営に携わるようになりますが、ある日、夫が突然失踪するのです…
 キャロルとジョーの抗争は次第にエスカレートし、ジョーは収監されるはめになるのですが、本当の極悪人は誰なのか?を視聴者に考えさせるようなところもあるようです(最後まで観ていないのでわかりませんが)
 
 貧すれば鈍するという言葉もありますが、格差の激しいアメリカでは、貧困家庭で生まれ、教育も受けられず、何も持っていないような人たちが安定した仕事に就いたり、注目されたり、生き生きと輝けたりするような場所を見つけるのは大変なことで、トラの動物園に希望を求めてやってくる人たちには、それだけの切実さがあります。一方で、トラのような野生の希少種を狭いオリに閉じ込めて見世物にすることの是非というのもあって(たぶんすべての動物園に共通する「答えのない問い」です)、一筋縄ではいかないことが幾重にも複雑にからまっている印象です。情報量が多すぎて、にわかにはシンクロできないかもしれませんが、いろいろ出てくる登場人物のうちの誰かにはきっとシンパシーを覚えたり、この現実から考えさせられる部分もあったりして、そういうところも人気の秘密なのかな?と思います。
 
 ジョー・エキゾチックがジョンとトラヴィスという2人の彼氏とお揃いのピンクのシャツを着て3人で結婚式を挙げるシーンは、素敵だなぁと感じました。『Advocate』もこのシーンにインスパイアされて「3人でのつきあい」について論じています。最近はポリアモリー(合意の上で複数の人とつきあう)という言い方もされてきて、支持する人も増えてますね、でも反対する人もいれば、別に気にしないよという人もいることでしょう、みたいな記事でした。
 それはともかく、ジョー・エキゾチックがゲイであるということ自体はセンセーショナルではなく、当たり前に描かれているところは好感が持てます。
  
 第1話は「さわり」くらいな感じですが、第3話くらいまで観ていただくと面白く感じられるかな、と思います。各話46分くらいです。興味のある方はぜひ、ご覧ください。


タイガーキング:ブリーダーは虎より強者!?
原題「Tiger King: Murder, Mayhem and Madness」
2020年/アメリカ/監督:Eric Goode、Rebecca Chaiklin

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