REVIEW
ルポールとSATCの監督が贈るヒューマンドラマ『AJ&クイーン』
全米を旅するドラァグクイーンのルビー・レッドと、そのオンボロキャンピングカーに忍び込んだ生意気な10歳のAJ。凸凹コンビの2人旅が、いま幕を開ける…… ルポールとSATCの監督がタッグを組んで世に贈る、2020年版『プリシラ』とも言うべきドラァグクイーン・ヒューマンドラマです。

『AJ&クイーン』は、『ルポールのドラァグレース(RPDR)』で大成功を収めたルポールが、『セックス・アンド・ザ・シティ』のマイケル・パトリック・キングとタッグを組んで、脚本・監督・制作に携わり、鳴り物入りで発表されたNetflixドラマです。RPDRファンの方は、すでにご覧になっていることでしょう。
ルポールといえば、なんだから知らないけど大御所と言われてるドラァグクイーンで、自分の番組ではツンとすまして新人クイーンたちを辛辣に批評してる、みたいなイメージかもしれません。『ルポールのドラァグレース』って(それぞれに素晴らしい魅力を持っているはずの)クイーンたちに優劣をつけて、毎回振り落としていくスタイルがあまり好きじゃないという声をドラァグクイーンの方からも聞いたりしますが、もしルポールに意地悪なイメージを持っていたり、『ルポールのドラァグレース』が好きじゃないという方も、『AJ&クイーン』ではきっと見方が変わると思います。
ルポールの演技力とかはともかく、あの『セックス・アンド・ザ・シティ』のマイケル・パトリック・キング監督が作っているので、間違いなく面白いです。脚本がしっかりしてます。
今年還暦(という言い方が妥当かどうかわかりませんが)を迎えるドラァグクイーン(素顔はおじいちゃん)が、この年でドラマに挑戦し、毎回ショーも見せつつ(パフォーマーとしてのルポールの姿を堪能できます)、自分のいろんな部分をさらけ出しながら、これまで生きてきて学んだ世の中の真実や生きるうえで「たいせつなこと」をみんなに伝えようとしている、そんな「贈り物」感があります。

<あらすじ>
ショークラブの花形であるルビー・レッドは、ギャラをケチる劇場主に「私はクイーンズに自分のクラブを作る」「アンタはろくでなしだ」とタンカを切ってやめたが、意気揚々と開業予定のハコに行ってみると、愛するダンナに裏切られ、お金を全部持って行かれたことがわかり…。ルームメイトの盲目のドラァグクイーン・ルイスは、心からルビーを慰さめてくれたのだが、泣き面に蜂で、ルビーの最後の出演料をホームレスのクソガキに持って行かれる。ルビーは激怒してクソガキをとっちめるが、まんまと逃げられる。一文無しになったルビーは、起死回生を図り、テキサスで行われるクイーンのコンテストに出場すべく、バスでNYを後にするのだが、そこにはAJが…。


AJというのは、このクソガキのことです。手癖が悪く、かわいげがなく、本当に憎たらしい。けど、ジャンキーの母親に見捨てられ、10歳の小さな体で生き抜こうともがいている。その身の上を不憫に感じ、ルビーは、AJをバス(キャンピングカー)に乗せて、AJの祖父がいるというテキサスまで連れて行くことにするのです。こうして、AJとクイーンの珍道中が始まります。行く先々のクラブでショーをやりながらのバスの旅です。第1話では「I will survive」を歌うシーンがありました(素敵でした)。これは『プリシラ』へのオマージュ以外のなにものでもないですよね。
『プリシラ』ですから、行く先々でショーをやります。第2話では、ティナ・ターナーの「Proud Mary」(バビ江さんがパフォーマンスしてるのをご覧になった方も多いはず)という振付が激しめな曲を、高齢のルポールが見事に踊っていて、よくやったなぁと思いました(ちなみにそのショーの時にルポールとぶつかっていたのは、劇場版SATC2の冒頭でスタンフォードと結婚式を挙げたアンソニーを演じていたマリオ・カントーネです)。毎回『ルポールのドラァグレース』のクイーンたちがカメオ出演しているのも、ファンにとってはたまらない、見どころの一つです。
ドラァグクイーンの本来の魅力を伝えてくれるようなショーや、ゲイテイストな(キャンプな)笑えるシーンがふんだんに盛り込まれ、たまにセクシーガイのサービスショットもあり(RPDRのように)、AJという一筋縄ではいかない子と年老いたクイーンが次第に心を通わせていくヒューマンドラマもあたたかい気持ちにさせてくれます。ルビーはときどき、AJに「世の中を生き抜いていくうえで大切なこと」を教えてあげます。それは、ルポール自身が(今でこそあれだけセレブに見えますが)これまで黒人の女装者としてさんざん壁にぶちあたり、苦労してきたなかでつかみとってきた人生の真実だと思います。
考えてみれば、RPDRでは毎週、若手クイーンたちが次から次に課題にチャレンジし、ハードルを乗り越えていきますが、このドラマでは、ルポール自身が次から次に災厄に見舞われ、翻弄されているわけで、困難な状況に陥ったとき人はどう振る舞うべきかということを、身を呈して見せてくれているように感じます。
ルポールは『ニューヨーク・ポスト』紙のインタビューで、こう語っています。
「これは、雨をよけることについてではなく、いかに雨のなかでダンスし、生き抜くかを学ぶための作品です」
AJ&クイーン
原題:AJ and the Queen
2020年/アメリカ/製作:ルポール・チャールズ、マイケル・パトリック・キング
INDEX
- アート展レポート:TORAJIRO個展「A Light That Never Goes Out」
- ゲイのリアルも描かれたドキュメンタリー映画『沼影市民プール』
- すべての裸は素晴らしい――ブロードウェイミュージカル『フルモンティ』
- セクシーさもありつつ胸が締め付けられるような映画『君の見る世界をなぞる』
- マーティン・シャーマンが『BENT』より前に書いたラブリーなゲイカップルの演劇作品『パッシング・バイ』
- 性的指向とは何か?という根源的な問いに迫る目からウロコな本:『パンセクシュアル宣言』
- CBC「ハートフルワールド」第22話「東京・新宿二丁目編」がなかなかよかったです
- アート展レポート:西村宏堂展「Cells - 細胞 -」
- かつてこんなにゲイゲイしいバレエがあったでしょうか…ベルリン国立バレエ『ヌレエフ』レビュー
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- 涙、涙の真実の物語:映画『シークレット・オブ・ミー』(レインボー・リール東京)
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- 奇想天外にしてノンジャンルな、まったく新しいクィア(ゲイ)映画『ユースフル・ゴースト』
- マレーシアで奮闘する人たちの姿を追った感動のドキュメンタリー映画『クィア・アズ・パンク』(レインボー・リール東京)
- 最高にパンクでエロティックなBruce LaBruce版『テオレマ』:映画『来訪者』(レインボー・リール東京)
- 恋する男子たちの姿に胸キュン…心に残る名作映画『せき止められた水』(レインボー・リール東京)
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- 当事者でなければ作り得ない、トランスジェンダーのリアルに迫った傑作短編映画『トランジット・デイズ』
- アート展レポート:2人展 男たちの昼と夜
- 最高に素敵な国⺠的ドラァグクイーン“パンティ”の生き様を描いたドキュメンタリー映画『クイーン・オブ・アイルランド』






