REVIEW
「夢の国」の黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から暴いた傑作ドラマ『ハリウッド』
『glee』『ノーマルハート』のライアン・マーフィが製作した、「夢の国」ハリウッドの黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から捉え直し、今まで語られなかった真実を生き生きと描き出したエキサイティングなドラマです。

『glee』『アメリカン・ホラー・ストーリー』『ノーマルハート』『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』『POSE』など、数々の名作ドラマ(その多くがLGBTを描いた作品)を世に送り出してきたオープンリー・ゲイのライアン・マーフィが製作したNetflix2作目のミニシリーズ『ハリウッド』が、ついに公開されました。「夢の国」ハリウッドの黄金時代をゲイや女性や有色人種の視点から捉え返し、今まで語られなかった真実を生き生きと描いたドラマで、公開前からアメリカのLGBTメディアでは話題騒然でした(いま、大勢のゲイの方たちが夢中になって観ていると思います)
<あらすじ>
俳優志望だけど芽が出ない、もうすぐ子どもが生まれるというのに電気代すら払えないジャックは、バーで呑んだくれているところを紳士に誘われ、給油所で働きはじめる。マッチョな美男揃いの給油所の裏の商売は、セレブ御用達のエスコート(セックスを売る)サービスだった。生活のためにと割り切り、老女(実はハリウッドの映画会社の社長の妻)の相手をするが、コール・ポーター(ミュージカルや映画音楽の多数のスタンダードを手がけた音楽家)は受け付けなかった。男性の相手ができないなら代わりのボーイを連れて来いと脅されたジャックは、ハッテン映画館に潜入し、脚本家志望のゲイの男の子、アーチーを発掘。アーチーが意気揚々と手がけた最初の男性客は、ロイ・フィッツジェラルドと名乗った。彼こそが、のちにアメリカを代表するスター俳優となるロック・ハドソンだったのだ…。
ライアン・マーフィが手がける作品はどれも面白くて、ハズレはないのですが、正直、今までの作品のなかでもいちばんエキサイティングで、ワクワクさせてくれて、セクシーな作品だと思います。
ゲイ的な見所としては、まず第一に、とにかく裸とセックスのシーンが満載だということを強調しておきます。これぞハリウッド!的な夢のようなシーンは、ジョージ・キューカー(『マイ・フェア・レディ』『スタア誕生』の監督)の豪邸で開かれるパーティで、深夜に俳優志望の青年や大学のアメフト部員らがプールで裸になって戯れ、ハリウッドの大物たちを喜ばせるという場面です。
史実とフィクションがないまぜになった作品で、ロック・ハドソン、コール・ポーター、ジョージ・キューカー、ノエル・カワード(英国の俳優・映画監督)など、実在のゲイの人物がたくさん登場します(ジョージ・キューカー邸でのパーティは史実だそうです→こちら)
ロック・ハドソンを俳優として育てていくヘンリー・ウィルソンというハリウッドの大物マネージャーが当然のように見返り(体)を要求したり、いわゆる「枕営業」というセクハラが横行していたことも描かれますが、それを当然視するのではない展開になっていき、現代の#metoo世代をも納得させます。
一方、ゲイではないキャラクターももちろん登場しますが、女性や有色人種が主役です。戦後間もない頃のハリウッド映画では、白人が主演するのが当然で、黒人にはメイドか執事の役(それも、おどけてみせたり、間抜けだったり)という役しかなかった、アジア系俳優なんてもっと出演のチャンスがなかったという現実を、彼らは変えていこうと立ち上がります。その先頭にいるのが、ダレン・クリス演じる監督志望のレイモンドです(ダレン・クリスは『glee』のブレイン役でブレイクし、ライアン・マーフィのミューズとなった俳優。母親がフィリピン出身で、半分はアジア系の血が流れています)
有色人種だったりゲイだったりする俳優や脚本家や監督を志望する青年たちが、時に体を差し出したり、様々な壁にぶつかったりしながらも、ハリウッドで夢を掴もうとしていく姿に共感し、思わず応援してしまうようなドラマです。
後半になると、さらに、力を持った女性がそこに加わり、人々をあっと驚かせるような、物議を醸すような、勇敢なチャレンジを、周囲の反対を押し切って敢行していくのですが、その、女性、ゲイ、有色人種とアライの人たちとの連帯によって、白人異性愛男性が牛耳る社会を変えていこうとする葛藤の物語と、登場人物たちが既成の古臭い慣習や規範やなんかにとらわれていた自分を超克して、より正しいこと、人々に感謝されることを成し遂げようと決意したり、どうせ世間が許さないとあきらめていた自分を見つめ直し、自分に正直に生きるようになっていく物語とがドラマチックに交差して、本当に感動的です(特に第6話が素晴らしいです。泣きました)
『ハリウッド』は、ロック・ハドソンが1985年、エイズで亡くなる時にゲイであることが公になり、アメリカ社会に衝撃を与えた(それまでクローゼットにいた)という史実を、より現代的に、思わず拍手したくなるようなやり方で塗り替えています(同様に、ハリウッド初の中国系女優であるアンナ・メイ・ウォンや、『風と共に去りぬ』のメイド役で黒人として初めてアカデミー助演女優賞を受賞したハティ・マクダニエルのような、人種ゆえに不遇な扱いを受けた女優たちにも光を当てています)
当時の社会の偏見ゆえに不当に肩身の狭い思いをさせられていたハリウッド・アイコンの人生を、ハリウッドらしく夢のあるやり方で生き直させている、そういうところも素晴らしいです。
『POSE』では大量のゲイやトランスジェンダーのアクターが起用されていましたが、今回はヘンリー・ウィルソン役のジム・パーソンズ、リチャード・サミュエルズ役のジョー・マンテロ、アーチー役のジェレミー・ポープくらいです。必ずしもゲイの役をゲイの俳優が演じているわけではなく、いかにロック・ハドソンの垢抜けない「ミルクの匂いがする」感じを体現しているか、みたいなところでキャスティングされているようです。
個人的には、ジム・パーソンズがゲイテイスト全開なダンスを「見せつける」シーンで笑わせてもらいました。さすがは『ビッグバン★セオリー/ギークなボクらの恋愛法則』でブレイクしたコメディ俳優。笑いのツボを心得ています。
全7話というミニシリーズ・ドラマなので、もう終わっちゃうの? もっとこの「ドリームランド」にひたっていたい…と後ろ髪を引かれる思いがするかもしれませんが、それくらいがちょうどいいのかもしれません。きっと夢中になってあっという間に観てしまうはず。ぜひご覧ください。
Netflixドラマ『ハリウッド』
https://www.netflix.com/title/81088617
INDEX
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