REVIEW
GLAADメディア賞に輝いたコメディドラマ『シッツ・クリーク』の楽しみ方を解説します
2020年のGLAADメディア賞に輝き、エミー賞にも5部門でノミネートされるなど、LGBTコミュニティからも一般視聴者からも愛され、高く評価されている『シッツ・クリーク』。その見どころをお伝えします。
今年4月、感動のうちにファイナルを迎え、GLAADメディア賞コメディドラマ賞を受賞し、エミー賞でも作品賞と俳優賞4部門(家族全員)にノミネートされるなど、LGBTコミュニティからも一般視聴者からも愛され、高く評価されてきたコメディドラマ『シッツ・クリーク』。そのゲイ的な見どころをお伝えします。
税金を払い忘れたせいで、セレブから一文無しになってしまったローズ家。唯一残ったのは、息子の誕生日プレゼントにとジョークで購入した田舎町「シッツ・クリーク」だけ(ちなみに「シッツ・クリーク」は「肥溜め」みたいな意味だそう)。没落したローズ家は、ニューヨークからこの田舎町に「都落ち」して来て、ボロボロのモーテルで一からのスタートを余儀なくされる…。というのが、このカナダ発のシットコム(シチュエーション・コメディ・ドラマ)のあらすじです。
ローズ家は、父ジョニー、母モイラ、息子デヴィッド、妹アレクシスの4人家族です。パパは割と普通なのですが、デヴィッドがファッション命でコテコテのゲイ(寄りのバイセクシュアル)、アレクシスが自由奔放でわがままで派手で遊び好きなキャラ、そしてモイラが元女優で、事あるごとに「私、女優よ」的に振る舞う、時々ドラァグクイーンかと見まごうような衣装で登場したりする、たいへん素敵なキャラです。
こんな家族が、ほぼダサい人しかいない田舎町に突然やって来て、町の人たちと齟齬を起こしまくるところが、基本的な見どころです。
笑いとはズレである、というのは、よく言われることだと思いますが、根っからのお金持ちでセレブな暮らしをしていた4人家族が、ダサい田舎町の住民と何から何までいちいちズレまくっているところが、まず面白いですし、さらに、デヴィッドはあまりにもファッションやノリが周囲とズレていますし、モイラも毎回「出落ちか」と思うくらい(ゴージャスなのですが)ズレまくった格好で登場し、笑わセてくれます。みんなが周囲に適応していくなか、モイラだけは徹頭徹尾、自分を貫いていて、本当に面白いし、素敵です(元女優として小学生に演技指導するシーンとか、ゲラゲラ笑いました)
1話20分の短いドラマではあるのですが、全13話×6シーズンありますし、割とゆっくり、淡々と進んでいく感じで(笑いも「力づく」じゃなく、どっちかというと「ジワる」系の笑いです)、ゲイ的な出会いとかセックスとか恋愛とかを期待して見ると、シーズン2までは、やや退屈に感じるかもしれません。ただでさえデヴィッドは変わり者とみなされ、完全に浮いてますし(唯一、友達になったのが、モーテルの管理人のスティービーで、彼女はなかなか味のあるキャラではあるのですが、時々デヴィッドのおしゃべりにうんざりしてる感じです。友達だと思ってたら、酔っ払った勢いで寝てしまうというアクシデントもあったり…)、それに田舎町に出会いなんてそうそうあるはずもないよね…と、デヴィッドも視聴者もあきらめかけていたところに、シーズン3で奇跡が起きます。
見た目はともかく、しゃべり方とか仕草とかセンスとかがあからさまにゲイだし、クセが強めで、決してモテるタイプではないと思われるデヴィッドに、男性との恋愛は初めてという超素朴で純朴な、やや地味だけど実直で男っぽくてどっしり構えてて誠実なタイプのパトリックという素敵な恋人ができるのです(そういう出会いってありますよね!)。あまり詳しくは書きませんが、パトリックは愛ゆえに両親にカミングアウトしたり、本当にスウィートな愛情表現をしたり、とにかくよくできた素晴らしい人で、デヴィッドも本当の幸せに目覚め、パトリックのおかげで仕事も軌道に乗り、人として成長していきます。愛がデヴィッドを変えていったのです。そして、ドラマのフィナーレで、二人はみんなに祝福されながら…という、感動のハッピーエンディングを迎えます(でも、パトリックがデヴィッドをリラックスさせるために頼んだマッサージ師が、手違いで性的なサービスを…といった笑いもちゃんと入っていました)
『モダン・ファミリー』のキャメロンとミッチェルのゲイカップルも、どっちも「ボケ」的なキャラで面白かったですし、養子を育てたりもして、とても素敵だったのですが、『シッツ・クリーク』のデヴィッドとパトリックのカップルは、また違った意味で共感を呼んだのです。デヴィッドのようなタイプのゲイは、リアルだし、ドラマでもたくさん描かれてきたと思いますが、パトリックのような素朴で男らしいタイプのゲイ(きっと皆さんの周りにもいらっしゃると思います)を登場させたことは、大きな意味があったと思います。田舎町でもゲイは幸せに暮らせるんだ、こんな奇跡があるんだ、と思わせてくれたところも、高く評価された理由だと思います。
このドラマは、デヴィッドを演じている(実生活でもゲイであることをオープンにしている)ダニエル・レヴィが、セレブたちの生活に密着するリアリティ番組を観ていてこの作品のアイデアを思いつき、父親役を演じていて実生活でも父親であるユージン・レヴィと共に作り上げたものだそうですが、たぶん、パトリックには、ダニエル・レヴィの理想像が投影されてるんだろうな、と思います。
そんなわけで、2015年から始まり、ジワジワと人気が出て、今年4月に大団円を迎え、拍手喝采を贈られた『シッツ・クリーク』は、GLAADメディア賞コメディドラマ賞を受賞し、エミー賞でも作品賞と俳優賞4部門(家族4人全員!)にもノミネートされました(エミー賞の発表が楽しみですね)
ダニエル・レヴィは今年のプライドの顔の一人となり、NYC PRIDE SPECIAL BROADCAST EVENTにもメインのゲストとして出演しています。
シッツ・クリーク(シーズン1〜6)
Netflix
INDEX
- 絶望の淵に立たされた同性愛者たちを何とか救おうと奮闘する支援者たちの姿に胸が熱くなる映画『チェチェンへようこそ ―ゲイの粛清―』
- スピルバーグ監督が世紀の名作をリメイク、新たにトランスジェンダーのキャラクターも加わったミュージカル映画『ウエスト・サイド・ストーリー』
- 同性愛者を含む4人の女性たちの恋愛やセックスを描いたドラマ『30までにとうるさくて』
- イケメンアメフト選手のゲイライフを応援する番組『コルトン・アンダーウッドのカミングアウト』
- 結婚もできない、子どももできないなかで、それでも愛を貫こうとする二人の姿を描いたクィアムービー『フタリノセカイ』
- 家族のあたたかさのおかげで過去に引き裂かれた二人が国境を越えて再会し、再生する様を描いた叙情的な作品――映画『ユンヒへ』
- 70年代のゲイクラブ放火事件に基づき、イマの若いゲイと過去のゲイたちとの愛や友情を描いた名作ミュージカル『The View Upstairs-君が見た、あの日-』
- 何食べにオマージュを捧げつつ、よりゲイのリアルを追求した素敵な漫画『ふたりでおかしな休日を』
- ゲイの青年がベトナムに帰郷し、多様な人々と出会いながら自身のルーツを探るロードムービー『MONSOON モンスーン』
- アウティングのすべてがわかる本『あいつゲイだって ――アウティングはなぜ問題なのか?』
- ホモソーシャルとホモセクシュアル、同性愛嫌悪、女性嫌悪が複雑に絡み合った衝撃的な映画『パワー・オブ・ザ・ドッグ』
- 世紀の傑作『RENT』を生んだジョナサン・ラーソンへの愛と喝采――映画『tick, tick… BOOM!:チック、チック…ブーン!』
- 空を虹色に塗ろう――トランスジェンダーの監督が世界に贈ったメッセージとは? 映画『マトリックス レザレクションズ』
- 人種や性の多様性への配慮が際立つSATC続編『AND JUST LIKE THAT... セックス・アンド・ザ・シティ新章』
- M検のエロティシズムや切ない男の恋心を描いたヒューマニズムあふれる傑作短編映画『帰り道』
- 『グリーンブック』でゲイを守る用心棒を演じたヴィゴ・モーテンセンが、自らゲイの役を演じた映画『フォーリング 50年間の想い出』
- ショーや遊興の旅一座として暮らすクィアの生き様を描ききったベトナム映画『フウン姉さんの最後の旅路』
- 鬼才ライナー・ベルナー・ファスビンダー監督の愛と性をリアルに描いた映画『異端児ファスビンダー』
- ぜひ映画館で「歴史」を目撃してください――マーベル映画初のゲイのスーパーヒーローが登場する『エターナルズ』
- 等身大のゲイの恋愛を魅力的なキャストで描いたラブリーな映画『クロスローズ』
SCHEDULE
記事はありません。