REVIEW
「神回」続出! ドラマ『きのう何食べた?』season2
待望の「何食べ」シーズン2が10月から放送されています。ますます円熟味を増した感、そして毎回違ったテーマのドラマが繰り広げられるバラエティ感。「神回」が続出した素晴らしいドラマでした
遅ればせながら、『きのう何食べた?』season2のレビューをお届けします。みなさんご覧になってるのにここでわざわざ紹介しなくても…と思ってしまっていたのですが、5話のラストシーンにいたく感動したので、書き留めておこうと思いました。
待望の「何食べ」S2は10月6日からスタートしました。毎月の食費を二人で25000円以内に収めるという離れ業をずっと続けてきたシロさんですが、物価も上がってるし、なじみのお安いスーパーが突然閉店してしまうしで、ショックを受け…、一方のケンジは歳をとって体重も増えるし健康診断でコレステロール値が基準値超えしてしまい…という出だしでした。
第2話では、シロさんが勤め先の法律事務所の所長から、そろそろ引退するから息子と共同で事務所を継いでほしいと言われ、自分はこのままでいいと言い、久しぶりに佳代子(田中美佐子さん)の家に行くと孫(娘のミチルの子)も来ていてにぎやかで…というお話でした。ストレートのライフコースとゲイの違いが浮き彫りになるような、一抹の寂しさがありました。
第3話では、ひさしぶりの小日向さん&ジルベールが登場。ハロウィンのホームパーティの喧騒が描かれつつ、小日向さんとジルベールのオドロキのなれそめが明かされます(なぜ「ジルベール」なのかもわかります。『風と木の詩』のジルベールの年齢がポイントでした)。シロさんのご両親が久々に登場し、現代風のお墓を見学に行くシーンもあったのですが、ゲイカップルが一緒のお墓に入れるのかどうかという話もからんできて、とても印象的でした。
第4話は、ケンジが働く美容室の若手・田渕くん(『フタリノセカイ』の坂東龍汰さんが演じています)がどうして彼女にフラれてしまったのかというお話がメインです(ノンケさんってそんな理由で別れちゃうんだ…いや、待て、ゲイも同じ?とか考えてしまったり)。塩味の効いたカルボナーラが食べたくなりました。
そして第5話です。キホン、ほのぼの路線で、そんなにドラマチックになりすぎない「何食べ」で、そして、どっちかっていうとケンジに対しては友達のような接し方でそんなに愛情表現はしてこなかった(劇場版なんて何度ケンジのキスを拒んだことか)シロさんが、たぶん初めて、二人のパートナーシップに対する思いを熱く表現し、素晴らしくエモかったです。「何食べ」でシロさんがああいう姿を見せたのは初めてじゃないでしょうか。
回想シーンでシロさんがケンジの前に付き合ってた人が登場したのですが(実にイヤな奴でした)、シロさんが「惚れたら負け」で本理想の彼氏に甘くしてしまう、けど、結局は長続きせず、ツライ思い出になってしまっているというのが実にリアルで(きっとそういう恋を経験したことある方、少なくないと思います)、それがあったからこそ、ケンジとの今の生活のありがたみを実感する的なお話で、ともすると「当たり前」に流れていってしまう日常生活の一つひとつのことがシロさんを感動させるという描写の、ぼくらの生活とのシンクロ率の高さが本当にスゴくて、泣いちゃいました。
恋愛ってやっぱり見た目とかSEXの相性とかが大事で、燃え上がったかと思うと奈落に突き落とされたり、ジェットコースターのようで、心が休まらなくて、ということが往々にしてあると思うのですが、恋の熱が冷めて、セックスも無くなったりして、それでもパートナー(「家族」でも「腐れ縁」でもいいのですが)として一緒にやっていけるかどうか、要は関係が長続きするかどうかの真髄みたいなことが描かれていた気がします。ゲイに限らずでしょうけど。
たぶん「今年のクリスマスはビーフシチューにしようかな」と思った家庭が全国が100万世帯くらいあるんじゃないでしょうか。
本当に素敵な回でした(神回って言うんでしょうか)
家でパートナー(彼氏、アイカタ、ダンナ)と一緒に「何食べ」のようなドラマを観ることができる時代に感謝です、あらためて。幸せなことです。
放送はまだ続きます。
過去回はTVerで配信中です(第5話の見逃し配信は11/11の1:21までです)
この後も楽しみにしましょう。
【追記】2023.11.13
第6話も、第5話とはまた違う意味で、神回と言っても過言ではない回でした。お正月に実家に帰ると「結婚しないの?」攻撃にあうから憂鬱よね、という「ゲイあるある」が描かれるとともに、もしかしたら日本のメジャーなTVドラマでは初かもしれない「東京都パートナーシップ宣誓制度」にも(意外な切り口から)触れられていたり、職場では誰にも言ってないシロさんが一歩を踏み出したり、それでいて笑えるシーンも多く、素晴らしかったです。(なお、第6話のTVer配信は18日の0:51までですので、見逃した方はぜひTVerでご覧ください)
【さらに追記】2023.12.24
第10話も「神回」でした。泣いた方、多かったんじゃないかと思います。
ケンジの実のお母さんとお姉さんたちが、シロさんと初めて会うことに(ちなみに場所はシロさんが選んだ上野の「伊豆榮」。なに食べとしては珍しい高級店ですが、たぶんずっと以前から、下町の方たちがこういう親族や大切な人とのお食事の際に利用してきた、温かさも感じさせるようないいお店だと思い、さすが、よしなが先生はわかっていらっしゃる、と思いました)。お母さん役が鷲尾真知子さんだったというのもまたよくて(お姉さんたちを演じたお二人も、あまり存じ上げないのですがとてもいい人だと一目でわかるような雰囲気で)、最初はなんだかあまりシロさんのことよく思ってないのかなと勘ぐってしまうような微妙な感じだったのですが、会食の席をもうけてシロさんと会うことにした理由が、もしケンジが先に亡くなったときにちゃんと家族としてお葬式に出られるようにという気遣いだったと知って、まず涙腺が崩壊、そして、お店を出た上野公園のところで「一目見たときから『ああ、この人なら大丈夫』って思ってました」と、「これからもケンジをよろしくお願いします」と言って頭を下げる姿に号泣させられました。
パートナーシップのことを描いた最終話もよかったです。本格的に老いじたくを進めようとするシロさんの覚悟が描かれ、不器用ながらもケンジに「俺の人生で、俺の遺産を譲ろうなんて思う相手はお前ぐらいだよ」と照れくさそうに語るシロさんの姿にジーンとさせられました(「完全にプロポーズ」との声、多数)。シロさんが弁護士らしく「法務省で自筆の遺言書を保管してくれる」制度のことを話していたのは公正証書しか知らない方にとっては新鮮に感じられたことと思います。
『きのう何食べた?』season2
テレビ東京系
毎週金曜24:12〜
TVer『きのう何食べた?』season2
1,2,3話無料配信中、最新話は放送の1週間後まで配信
INDEX
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- 劇団フライングステージ第50回公演『贋作・十二夜』@座・高円寺
- トランス男性を主演に迎え、当事者の日常や親子関係をリアルに描いた画期的な映画『息子と呼ぶ日まで』
- 最高!に素晴らしい多様性エンターテイメント映画「まつりのあとのあとのまつり『まぜこぜ一座殺人事件』」
- カンヌのクィア・パルムに輝いた名作映画『ジョイランド わたしの願い』
- 依存症の問題の深刻さをひしひしと感じさせる映画『ジョン・ガリアーノ 世界一愚かな天才デザイナー』
- アート展レポート:ジルとジョナ
- 一人のゲイの「虎語り」――性的マイノリティの視点から振り返る『虎に翼』
- アート展レポート:西瓜姉妹@六本木アートナイト
- ラベンダー狩りからエイズ禍まで…激動の時代の中で愛し合ったゲイたちを描いたドラマ『フェロー・トラベラーズ』
- 女性やクィアのために戦い、極悪人に正義の鉄槌を下すヒーローに快哉を叫びたくなる映画『モンキーマン』
- アート展レポート「MASURAO GIGA -益荒男戯画展-」
- アート展レポート:THE ART OF OSO ORO -A GALLERY SHOW CELEBRATING 15 YEARS OF GLOBAL BEAR ART
- 1970年代のブラジルに突如誕生したクィアでキャムプなギャング映画『デビルクイーン』
- こんなに笑えて泣ける映画、今まであったでしょうか…大傑作青春クィアムービー「台北アフタースクール」
- 最高にロマンチックでセクシーでドラマチックで切ないゲイ映画『ニュー・オリンポスで』
- 時代に翻弄されながら人々を楽しませてきたクィアコメディアンたちのドキュメンタリー 映画『アウトスタンディング:コメディ・レボリューション』
- トランスやDSDの人たちの包摂について考えるために今こそ読みたい『スポーツとLGBTQ+』
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- アート展レポート:Tom of Finland「FORTY YEARS OF PRIDE」
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