g-lad xx

TRAVEL

レポート:IGLTA総会in大阪

2024年10月23日〜26日、アジア初となる歴史的なIGLTA総会がスイスホテル南海大阪で開催されました。おそらくLGBTQコミュニティでは本邦初となるIGLTA総会のレポートをお届けいたします

レポート:IGLTA総会in大阪

こちらの特集でもお伝えしたように、IGLTA(国際LGBTQ+旅行協会)は毎年、年次総会を開催していて、全世界から会員である旅行会社やホテル、航空会社、国や都市の観光局の方など、LGBTQツーリズム関連の方々が数千人規模で集まり、昼間はIGLTAの活動報告や最新のLGBTQツーリズムに関する調査・研究の発表、各種セミナーや分科会、LGBTQツーリズム関連のブースが並ぶ展示会や商談会、ネットワーキング・ランチなどが開催され、夜にはレセプションパーティやチャリティパーティなどが開催されるというものです(ドラァグクイーンが活躍したりします)。このIGLTA年次総会のホストシティは、米国の都市と米国以外の国の都市が交互に選ばれることになっていて、これまでは専ら欧米や豪州の都市で開催されてきました(来年は米パームスプリングス、再来年はスペインのセビリアです)。が、今回、大阪観光局が招致に成功し、初めてアジアで開催されることになったのです。この歴史的なIGLTA総会in大阪を体験することができましたので、レポートをお届けします。
(取材・文:後藤純一)


【1日目:10月23日(水)】

◎空港からホテルまでレインボーに!
 水曜日に飛行機で大阪入りしたのですが、伊丹空港の荷物受取のレーンがレインボーカラーになっていて素敵!と思いました。

 なんば駅から総会の会場であるスイスホテル南海大阪へと向かいましたが、やはりあちこちがレインボーカラーに彩られていて、総会の参加者を歓迎する仕様になっていました。






◎オープニングパーティ
 その夜、大阪城を望む「Landmark Square Osaka」のルーフトップでオープニング・パーティが開催されました。スイスホテル南海大阪からシャトルバスが出ていて、大阪城まで楽々行くことができました(たまたまバスの隣の席に金沢で旅行会社を営む(共同代表のダイアナさんのパートナーである)直海さんが座り、いろいろお話でしました)。橋を渡って本丸に入ると、ライトアップされた大阪城が見えて、みなさん感激した様子でした。たまたまそこに(今年NHKでインタビューさせていただいた)西村宏堂さんがいらして、一緒に写真を撮ってもらいました。そして「Landmark Square Osaka」に入ると、今度は関西が誇るドラァグクイーンのみなさんがお出迎えしてくれて、なんとも豪華でした。来場者のみなさんも喜んで一緒に写真を撮っていました。

 すぐ目の前に大阪城が見える、幻想的にして素敵なロケーションで、ドラァグクイーンのマキシムさんがDJで盛り上げ、参加者のみなさんはドリンクや軽食に舌鼓を打っていました。フードは1階下の階でも提供されていて(ビュッフェ形式ですが、ちょっとびっくりするくらい美味しかったです。一流のシェフが作ったに違いないと思いました)、いちばん奥のお部屋で石川県や東京都などの観光局の方たちがブースを出展していました。
 IGLTAのトニー・ワーナー副会長と、理事長であるドゥーガル・マッケンジーさんが登場し、ご挨拶。大阪観光局の溝畑局長やはるな愛さんらとともに鏡開きを行ない、日本酒が振る舞われました。みなさんたいへん華やかな夜になりました。










【2日目:10月24日(木)】

◎オープニングセッション
 司会として、IGLTAの理事会メンバーであるエースホテル(元グランヴィア京都)の池内志帆さんが(ゲイゲームズ@シカゴのシンディ・ローパーのような)全身レインボーのいでたちで登場しました。
 もう一人、ドゥーガル・マッケンジー理事長も羽織袴で登場し、今回の総会に世界50ヵ国から545人が参加し(最終的に51ヵ国から約570人の参加となったそうです)、USで開催された以外の総会で過去最多を記録したと発表されました。志帆さんは「夢が叶った。泣きそう」とコメントしていました。

 大阪府の吉村知事の挨拶の動画が流れました。ジョン・タンゼラ会長をはじめ80ヵ国にわたるメンバーの方たちがLGBTQツーリズムの普及に尽力してきたことに敬意を表します、大阪府は性の多様性についての様々な施策を進めてきており、プライド月間にも取組みをしてきた、大阪はどんなジェンダーアイデンティティや性的指向の方であっても安心して旅することができる街です、といったお話でした。

 スイスホテル南海大阪を経営するアコーホテルズのSocial Care & Impact部門のSVP(シニア・バイス・プレジデント)であるAnne-Sophie Beraudさんが登壇し、「皆様を歓迎します」と述べたあと、アコーホテルズのLGBTQへの取組みについてお話しました。

 それから、IGLTAの顔であるジョン・タンゼラ会長の登場…の前に、羽織袴姿の会長が大阪弁講座をする動画が上映されました。みんなで「おおきに!」とか「あかん!」とか「かまへん!」とか復唱、最後は会長さんのウインク(キュン死するかと思いました)という、素敵な動画でした。こういうお茶目なことをやってくれる会長さんっていいなあと思いますし、みんなに愛されてる方なのだなぁだと実感しました。
 舞台に上がった会長は、今回たくさんの参加があったことに感謝しつつ、IGLTAの新しいビジョンやミッションについて説明していました。



 その後、Gen C Travellerの創設者であるPeter Jordanさんが登壇し、LGBTQユースにとっての旅行というテーマで簡単にお話しました。若い世代の人生における重要なステージにおいて、旅行が自信や独立心を持てるようになったり、世界の人たちと繋がれるきっかけともなる、グローバリゼーションが進む世界にあって彼らはリアルなカルチャーに浸りたいと思っている、といったお話でした。

 セッションの最後に「IGLTA Honors Presentation」の授賞式が行なわれ、日本をはじめアジア地域でのLGBTQツーリズムの普及に尽力してきた小泉伸太郎さんがパイオニア・アワードを受賞しました。小泉さんは、2011年に初めてIGLTA総会に参加したとき、アジア人がほとんどいないばかりか、アジア在住のアジア人は私一人だけでした、と振り返りました。そこから訪日LGBTQ旅行客のアテンドだけでなく、日本やアジアの他の地域でIGLTAに加盟する団体を増やしながら(アンバサダーとして受賞もしています)、ホテル等に研修を行ない、受入れの環境を整えていき、大阪観光局に協力し、ついに日本でアジア初のIGLTA総会が開催されれるまでになったわけですから、本当にスゴいことです。そんな小泉さんに対して、会場の皆さんからスタンディング・オベーションが送られたのは、胸熱な瞬間でした(思わず涙が出たよね、と多くの方たちがおっしゃってました)




◎ジェネラル・セッション
 初めにLGBTQツーリズムにおける日米の連携というテーマでのセミナーが実施されました。
 まず、ニューヨーク市観光局のツーリズムマーケット推進副代表をつとめるマキコ・マツダ・ヒーリーさんがモデレーターを務め、米国政府観光局のBrian Beallディレクターと大阪観光局の溝畑局長が登壇しました。
 マキコさんは旅行先としても絶大な人気を誇るNYがインクルーシブな旅行に力を入れていると話し、溝畑局長は、おもてなし精神の大阪は国籍や性別等を問わず旅行客を受け入れてきたし、ムスリムやビーガン、LGBTQツーリストに対してもそうだ、大阪がハブとなり地方にも送客していきたい、観光はサプライヤーだけでなく地域住民も誇りに思えるようなものであるべきで、政府と連携してプラットフォームを整え、満足度の高いきめ細かなおもてなししていきたいと語っていました。


 続いて、「Women in Leadership」のキーノート講演として、ゲイゲームズ香港のLisa Lam共同代表が登壇しました。
 アジア初開催となった昨年のゲイゲームズ香港ですが、とても興味深かったのは、その経済効果です。40ヵ国から5600人が訪れ、25.64ミリオンドルの経済効果を上げた。ローカルアーニングは13ミリオンドルの上昇。直接的・間接的な(地元民以外の)消費は12.17ミリオンドル。31%の人たちが、日本やフィリピンなど他の国にも観光旅行に行かれたそうです。また、メディア報道は1600に及び、ほとんどが好意的なものだったそう。同性婚への賛同は2017年に50%だったのが、60%に上昇したそうです。


 再び「IGLTA Honors Presentation」の授賞式が行なわれ、虹色ダイバーシティの村木真紀代表が(日本における企業のアライ化の促進に多大な貢献を果たし、道を切り開いてきた団体として)パスファインダー・アワードを受賞しました。村木さんは「2013年の創立以来、私たちのゴールは『よりインクルーシブな世界を作ること』、職場と安全な空間を同時に作ることでした。LGBTQ+の誰もが歓迎され、支援を受け、安全であると感じられる場所を提供したいと考え、コミュニティセンターであるプライドセンター大阪も設立しました。今回の受賞を励みに、私たちがこういった模索の旅を続け、真に多様性が受け入れられる社会を築いていきたいと思います」と挨拶しました。



◎ネットワーキング&ランチ
 スイスホテル南海大阪の8階は、フロアの全てがIGLTA総会のために使われていたのですが、セミナーが行なわれた大広間を出ると、フロアに様々な屋台が出ていて、和食や洋食、スイーツなどを自由に取って食べれるランチ・ビュッフェの会場になっていました。海外の方たちは板前さんが作るお寿司や天ぷらなどを堪能していた様子で、(たぶん大阪ノリを再現したと思われる)ビールケースを重ねた簡易テーブルに取ってきたフードやドリンクを置いていただくスタイルだったのですが、昨日お会いした直海さんをはじめ以前から面識のある観光業界の方などとお話をしながら、また、初めましてとなる自治体の観光局の方やホテルの方などとも名刺交換&お話しました。
 セミナーが行なわれた大広間の隣の広間では、前夜と同様、いろんな企業や観光局のブースが並んでいて、みなさん思い思いにブースを回っていました。2日目には、ここで和太鼓の演奏などもありました。









◎南海なんば駅や商店街がレインボーに
 朝早く起きて通勤客で激混みの御堂筋線に乗ってなんばに来て、初めての国際会議に参加するという緊張もあり、昼食後にちょっと疲れが出てきたり、午後はそれほど魅力的なセミナーもなかったので、至る所レインボーカラーだと話題になっていた南海なんば駅周辺を散策することにしました。
 スイスホテルも入口にレインボーのバナーが大きく掲示されていましたし、エレベーターやなんかもそうでした。
 南海なんば駅は人通りの多い3階のコンコースに設置されているデジタルサイネージがレインボーになっていました。
 外に出てみると、高島屋の巨大看板がレインボーになっていました。
 なんば戎橋筋商店街の入口にもバナーが出ていました。
 これらはVisaの協賛で実現していたようです。






 海外から大阪に来られたLGBTQの方たちは、空港でもレインボーを目にするし、会場のホテルや周辺の町もレインボーになっているのを見て、歓迎されていると感じ、大阪は実にLGBTQフレンドリーでインクルーシブな街だと実感し、安心してLGBTQ旅行客が旅できると思っていただけたはずです。ニューヨークやバンコクをはじめ多くの街が、プライドシーズンともなると空港から街中までレインボーカラーになり、LGBTQ旅行客を歓迎するわけですが、大阪が日本で初めてそういう空気感の醸成に成功したのではないでしょうか。画期的なことだと思います。

◎ZEN ROOMでのくつろぎのひととき
 セミナーなどが行なわれる8階の1つ上の階である9階は「ZEN ROOM」というくつろぎのスペースになっていました。あちこちにたくさんソファがあって、一人で仕事をしたり、簡単な打ち合わせをしたりできるようになっていました。
 抹茶を点ててくれるサービスもあって、せっかくなのでお願いしました(美味しいのはもちろんですが、とても心が落ち着くような、贅沢な体験でした)


◎ファンドレイジングパーティ「Voyage」
 この日の夜は「Voyage」というファンドレイジング(資金集め)パーティが開催されました。このパーティの収益はすべてIGLTA財団に寄付され、LGBTQ+ツーリズムに関する研究・教育費用として活用されます。
 会場は、全国にある住吉神社の総本社であり、大阪を代表する由緒ある神社の一つとも言える住吉大社の吉祥殿でした。
 やはりスイスホテルからバスで来られたみなさんは、提灯を持ったスタッフの方に案内されながら、境内の風情ある様子に感銘を受けながら、吉祥殿へと向かいました。
 初めて入ったのですが、建物の中は、神社にまつわる絵や掛け軸などが展示されていて、博物館か美術館かという趣もありつつ、ゆったり座れるスペースもたくさんあって、実に素敵でした。ここでも和の装いが素敵な関西のドラァグクイーンの方たちがお出迎えし、また、パーティを楽しむための小道具(光る指輪とかサイリウムとか)が配られていました。



 お料理やお酒をいただきながら、パームロイヤルNAHAの高倉さん(ちゃんと参加費を払って資金集めに協力しているのがえらいと思いました)などとお話をしたり。インド洋の美しい島国・モルジブから来たという(たぶんゲイの)方が話しかけてくださって、「モルジブにはLGBTQツーリズムってあるんですか?」と尋ねると、「今までなかったけど、私が始めたところです」とおっしゃっていたので「素晴らしい」とお答えしました。アジアでの初の国際会議の開催ということで、こうして南アジアの方たちも参加するようになったと思うので、やはりアジアで開催したことの意義があるなぁと実感しました。
 そうこうしているうちに、ステージで和太鼓演奏が始まりました。海外の方のためにアレンジされているのかどうかわかりませんが、若くてイケメンな方たちがエネルギッシュに演奏し、終盤は大きな太鼓の上に乗って叩くアクロバティックなパフォーマンスもあり、みなさんたいそう喜んでいらっしゃいました(「太鼓の上に乗るのはバチあたりなのでは?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、弘前ねぷたなどで伝統的に行なわれてきたパフォーマンスです)
 その後も、関係者の方の挨拶があったり、音楽に乗ってクイーンさんがフロアで踊ったり、いろいろな見せ場があり、最後に、ステージで「連獅子」が披露されました。初めて観たのですが、二人の演者さんの息の合った舞にすっかり魅了されました。(自分がやったら首を捻挫しそうな)長い髪をグルングルン振り回すところも圧巻でした。歌舞伎の演目を間近で観られるということ自体、滅多にない、貴重な機会なので、本当によかったです。
 とてもいい経験をしたという、満たされた気持ちになりました。










【3日目:10月25日(金)】

◎アジアの目を通したLGBTQツーリズム
 この日も朝からセミナーが行なわれました。
 1コマめ「LGBTQ+ travel and tourism through the (Pan-)Asian lens」は、タイ人で現在は香港Metropolitan Universityでアジアのインクルーシブ・ツーリズムを研究しているVongvisitsin Bella博士を講師に迎えたセミナーでした。個人主義の欧米と異なり、調和を重んじるアジア社会では地域社会やコミュニティに属さないと生きていけない面があり、まだまだ発展途上で平等が達成されていない地域では家族の伝統やルーツの尊重と本当の自分(マイノリティなSOGI)との板挟みになり、LGBTQがカムアウトすることには困難が伴うことを理解してほしい、という出だしで、そんなアジアのLGBTQにたくさんインタビューを行なってきたので、その結果を7つのストーリーにまとめたので紹介しますね、と言って、同性間の性交渉が犯罪であるような国においても、ホテルのフロントに賄賂を渡してこっそり部屋に入って相手と会ったりできるというお話や、トランス女性が(雇用から疎外され、貧しさの中で生きているた目に)物乞いと見られたりする、というリアルなストーリーが語られ、私たちはアジア的な文脈における社会文化的なニュアンスを理解する必要がある、私たちの文化は間接的になりがちなので起こった差別の無形性や微妙さを監視する必要がある、と述べる、実に興味深いお話でした。
 では、そのようなアジアで欧米のこれまでの達成を生かす方法はあるのか、とか、(死刑にされる可能性がある)サウジアラビアのような国に送客することは避けたほうがいいのか、といった質問も活発に出され、実に濃厚で有意義な議論が展開されました。ネパールから来られたトランス女性の方は、活動家の古い世代と新しい世代の間での争いもあると指摘していました。
 

◎婚姻平等とインクルーシブ・ウエディング
 2コマめの「INTRODUCTION to Marriage Equality: Supporting Inclusivity and Diversity in the Wedding Industry」という婚姻平等がテーマのセミナーにも参加してみました。
 講師はイタリアのウエディング会社「Let's Wed!」の創設者であるRiva Roseli "Rosy"さんでした。彼女はイタリアでシビルユニオンが認められるずっと前からLGBTQを歓迎する結婚式を手がけたレジェンダリーなウエディングプランナーです。初めに映像とともに解説してくれたお話がたいへん興味深かったです。ルネサンス期に芸術が花開いたフィレンツェは、メディチ家の庇護のもと、ダ・ヴィンチやミケランジェロ、ボッティチェリなど多くのゲイの芸術家が集っていて、「フィレンツェの人」と言えば同性愛者のことを指すほどでした。1494年に戦争でメディチ家がフィレンツェから追放され、同性愛者が迫害を受けるようになったのですが、4年後には30人の貴族から成る「Bad Guys」が当局に対し、同性愛者への処罰をやめるよう要求、その1ヵ月後、メディチ家が戻り、ジュリアーノ・デ・メディチが、フィレンツェでは同性愛に対するいかなる処罰も禁止するという法律を承認。これが世界最初のゲイ革命だと紹介されました。1857年にはトスカーナ州が世界で初めて同性愛を非犯罪化する州となったそうです。
 いまでは世界36ヵ国(来年からは38ヵ国)で同性婚が認められるようになりました。同性カップルは結婚式を通じて間接的に多様性の受容と祝福を広げ、平等についての力強いメッセージを発信しています。そのため、海外で結婚式を挙げることは、その地域の人々が多様性を受け容れるための新しいアプローチにもなります。昨年のイタリアでの海外挙式のうちの7%(1000件近く)がLGBTQでした。ウエディングプランナーの役割は重要です。もちろん飛行機のチケットやホテルの手配などをしているあなたたちの仕事も重要です。平等な結婚の背後には勇気とレジリエンス、そして逆境への勝利という美しいラブストーリーがあります。保守的な業者からの拒絶を恐れるカップルもいますが、私たちは優れたコミュニケーション能力、創造性、美しいデザインに対する目を養い、全てのサプライヤーに対し、ホモフォビアへの寛容はゼロであると厳しく躾け、クライアントの希望を叶えるためにベストを尽くしてきました。といったお話でした。ツーリズムと並び、ウエディング産業もまた、広い意味でLGBTQが生きやすい社会の実現に貢献できるのだということがよくわかるセミナーでした。


◎クロージングセッション
 総会の最後を締めくくるクロージングセッションでは、スリランカの「Foozoo Travel」の創設者・Perera Dineshさん、ブータンの「QVoB Tours and Travels」のGurung Regitaさん、インドで「Mitr Trust」「Sexual Minority male Association for Rights」を設立したChhetri Rudraniさん、ネパールの「Queermandu Tours and Travel」の創設者・Poudel Aayamさんの4人が登壇するパネルトークが行なわれました。スリランカにはいまだにソドミー法が残っている(けれども実際に逮捕されたりはしない)、LGBTQコミュニティへの支援がなく疎外されている、大きなホテルであってもジェンダークィアなお客様に対してからかいや差別的対応があるといった課題がある、しかしピンクツーリズムが同性愛の非犯罪化に貢献する可能性もある、といったお話などを聞けて、とても有意義でした。南アジア地域でもこんなに頑張っている仲間たちがいるのだと知ることができました。


 それから、IGLTA財団が選んだインパクト賞として、「FIRST NATURE TOURS」という大自然のなかで持続可能な旅を経験できるツアーを手がける旅行会社が受賞していました。


 続いて、Googleの生成AIに関するプレゼンが行なわれましたが、登壇したGoogleのTanimura Hiroki さんという方が、壇上でゲイであることをカムアウトし、拍手を送られていました。

 そして、来年のIGLTA総会のホストシティである米パームスプリングスにバトンを渡す式典として、大阪観光局の溝畑局長からパームスプリングス観光局のスコット・ホワイトCEOにだるまがプレゼントされ、スコットさんが片目を塗って成功を祈願するというセレモニーが行なわれました。続いてパームスプリングスのジェフリー・バーンスタイン市長がご挨拶し、パームスプリングスは全米でも最もLGBTQ人口が多い街の一つであり(市長さんもオープンリー・ゲイの方です)、人口比で最もたくさんのドラァグクイーン・ショーが行なわれている街だとアピールしていました。





 最後にジョン・タンゼラ会長が登壇し、全てのパートナーやスポンサーの皆さんへの感謝を表明するとともに、LGBTQツーリズムに関する教育への渇望があるため、この総会がアジアで開催できたことは素晴らしい選択であり、良い決断だったと語り、IGLTA理事会に感謝を述べ、IGLTAスタッフをステージに呼んで、一人ひとりとハグし、感動的な締めくくりとなりました(再びスタンディング・オベーションが起こっていました)



◎クロージングレセプション
 クロージングセッションと同じ部屋で行なわれたレセプションは、軽食やお酒を楽しみながら自由にお話する感じのパーティで、特にステージ上の出し物などはなかったのですが、京都のドラァグクイーンパーティ「DIAMONDS ARE FOREVER」のレジデントDJであるkorさんがDJをつとめ、ABBAの「ダンシング・クイーン」など定番の曲をたくさんかけて会場を盛り上げていました。



◎LGBTQ+ MIX PARTY
 心斎橋の「CRAZY LAND x CHEVAL」(関西で最もラグジュアリーなクラブだそう)で行なわれた「LGBTQ+ MIX PARTY」では、大阪観光大使であるKENTO MORIさんのライブやはるな愛さんのライブ、ドラァグクイーン、GOGO BOYsによるショーも行なわれ、海外から来られたみなさんは待ってましたとばかりにダンスを楽しみ、盛り上がっていました。










【IGLTA総会を振り返って】

 国際会議というものに本格的に参加したのが初めてだったので(2005年に神戸で開催されたアジア太平洋地域エイズ国際会議は一般公開されていた関連イベントのみ参加しました)、何もかもが新鮮でした。IGLTA総会は基本、旅行業界や自治体の観光局などビジネスパーソンの方々が集まっているので、リッチな雰囲気でありつつ、話し合われているテーマはLGBTQですし、集まっている方たちの多くがゲイなので、興味・関心もあるし、場違い感や居心地の悪さを感じるということもなく、また、日本の旅行業界のいろんな方たちにもお会いできて、一人ポツンとなることもなく(そもそも主催者側で働いているのがOut Asia Travelの皆さんでしたし)、楽しく過ごすことができました。
  
 セミナーやシンポジウムが行なわれたのは正味2日間だったのですが、プレパーティやクロージングパーティ、レインボーフェスタも含めて水曜から日曜まで5日間連続のイベントで、朝から晩までLGBTQっていうのもものすごくひさしぶりでしたし、その中にアカデミックなシンポジウムもあれば日本の伝統文化を感じられる催しもあれば、クラブパーティもあればパレードもあるという、実に多彩なイベントが詰まっていて、本当に充実していたし、一生忘れられない思い出になりました。
  
 2002年にシドニーのゲイゲームズを取材し、2010年・2011年にゲイクルーズを体験し、2019年にNYのワールドプライドに参加したので、今年のIGLTA総会という国際会議で、主要な国際LGBTQイベントはほとんど体験したなぁという満足感もありました(思い残すことがあるとすれば、フォルサムストリートフェアと、アムステルダムの水上パレードを観てみたいということ。欲を言えばもっと世界中のパレードやゲイイベントを体験してみたいです)
 
 ゲイゲームズとかゲイクルーズとかも全部そうなのですが、結局欧米ってパーティ文化なので、毎日のようにパーティをやるんですよね。必ずしもクラブで踊らなくても、素敵な場所で、ドリンクやフードがあって、ちょっとアトラクションがあれば、あとはお友達としゃべったりして楽しむ感じです。そこで話しかけられることも多々あるので、とにかく英語がしゃべれないとつらいし、社交性も大事だなと思いました。
 でも、今回の総会に参加して、アメリカだけでなく、南米や(地球の裏側からわざわざお越しくださることだけでもうれしいです)ヨーロッパなど、本当に世界中の方たちが来られていたことがわかりましたし、なかには同性パートナーや高校生くらいのお子さんと一緒に参加している方もいました(「This is my son.」と誇らしげに言っているのが素敵でした。おそらく養子縁組や代理出産などによって授かったお子さんだと思うのですが、とても愛している様子が伝わってきて、ジーンときました)。そういう様子を身近に感じられたことだけでも、意味があったなぁと思いました。
 
 ものすごく個人的な振り返りですが、ゲイとして生まれて、基本は恋愛とかパートナーシップとか親や周囲との関係に恵まれているかどうかということですが、20歳でゲイ人生をスタートしてからこれまでの「特別にハッピーだった経験」を振り返ると、97年のシドニーのマルディグラツアーに参加したことが「人生観が変わるような体験」のファーストインパクトで、2010年のゲイクルーズがセカンドインパクトでしたが、やっぱり海外旅行が自分の人生においてものすごい刺激や栄養になっていて、(そりゃあどんな人生が最良と感じるかは人によってちがうでしょうけど)もっと海外に行きたいというのが人生の目標というか生きる目的の一つになっていました。もちろん国内旅行も楽しいのですが、人種や民族も違う、言葉も違う、食べ物も文化も違う異国での体験はレベチなんですよね。そこでアバンチュール(死語?)とかあったらもう、一生モノの思い出です。
 たぶん海外に住むゲイのみなさんも同じように感じていて、ニューヨーカーであれば、夏はファイアーアイランドで過ごすでしょうし、西海岸にもヨーロッパにもカリブにもメキシコにも行くでしょう(日本のみなさんが台北やバンコクやソウルに行く感覚で)。パレードだったり、ビーチパーティだったり、レザーイベントだったり、ゲイクルーズだったり。ちょっと遠出してバンコクやバリ島や南半球に行く方もいらっしゃるでしょう。(Z世代はちょっと変わってきたようですが)パーティとリゾートがゲイ旅行のメインテーマでした。
 そういう海外のゲイの方たちが、いま、(安いし、旅行しやすい)日本に熱視線を注いでいて、IGLTA総会(と、それに合わせて行われたインフルエンサーのFam Trip)をきっかけに、今後もっと海外から来てくれるだろうと見られています。日本の自治体の観光局やホテルの方たちなども受入れ態勢を整え、今回の総会でもブースを出したり、海外のLGBTQの人たちと交流したりということをしていました。たぶん一回、成田か関空に降り立って、二丁目や堂山も楽しみつつ、東京や大阪から地方の観光地に向かうというコースが定番になるのではないでしょうか。二丁目や堂山がますます海外の方たちでにぎわうようになると思います。
 そういうLGBTQインバウンドでこれまで以上に潤う方たちも増えると思うのですが、それは、小泉伸太郎という人が、単独でIGLTA総会に乗り込んだ日から10年以上かけて日本(をはじめとするアジア地域)のLGBTQツーリズムの振興に尽力し、大阪観光局と協力して総会の誘致にも成功し、状況を大きく変えてきたおかげだということを知っておいていただければ幸いです。
  
 そして、何年先かわかりませんが、日本でワールドプライドやゲイゲームズを開催したいと思う方が現れたとしたら、今回総会の運営に携わっていた小泉さん(をはじめOut Asia Travelのスタッフの皆さん)の経験が大いに役立つはずなので、ぜひ参考にしてほしいと思います。
 私は当日参加して楽しんだだけなのですが、彼らはこの日のために死ぬほど多忙な日々を過ごしてきました(小泉さんなどは体調を崩しながらも総会の成功のために全力を注いできました。文字通り「命を削って」取り組んでいました)。もし二丁目で見かけたらねぎらいの言葉をかけてあげていただければ幸いです。


INDEX

SCHEDULE