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ゲイ旅コラム:知られざるゲイの聖地・シカゴ(1)ビッグなストリート・フェス 

ニューヨークやサンフランシスコに比べるとあまり印象がないかもしれませんが、実はシカゴってスゴいんです。今回のゲイ旅コラムは、知られざるゲイの聖地とも言うべきシカゴの魅力を、お伝えいたします。(1)は超ビッグなゲイタウンのストリート・フェスをレポート!

ゲイ旅コラム:知られざるゲイの聖地・シカゴ(1)ビッグなストリート・フェス 

8月11日(土)12日(日)にシカゴのゲイタウンで開催されたストリートフェス「NORTHALSTED MARKET DAYS」をはじめ、HOUSEミュージックの聖地であり、レザーカルチャーの聖地でもあるシカゴのゲイシーンや観光情報をレポートします。第1回は、マーサ・ウォッシュ、クリスタル・ウォーターズ、ウルトラ・ナテらがフリーライブを行った夢のようなイベント「NORTHALSTED MARKET DAYS」のレポートをお送りします。(後藤純一)


はじめに

 カ〜モンベイビーアメリカ〜♪という歌にのせられて、今が旬のU.S.A!に行ってまいりました(ちなみにあの振付け、アメリカでもちょっと知られてきてるようですね)。でも、行ったのはNYでもLAでもなく、シカゴです。今回は、アメリカ最大級のゲイタウンのストリートフェスティバル「NORTHALSTED MARKET DAYS」を中心に、シカゴの旅行記をお届けします。
 
 みなさんはシカゴといえば何を思い浮かべるでしょうか? そうですよね、2003年公開の映画『シカゴ』です。音楽もダンスもキャスティングもストーリーも最高で、ボブカットのキャサリン・ゼタ=ジョーンズのカッコよさのトリコになった方、本当に多かったと思います(当時、二丁目でどれだけ「キャサリン・ゼタ=ジョーンズ」というワードが飛び交ったことか…)。もしかしたら、♪エビバディニザリルタイマウェー(「Hard to Say I'm Sorry/Get Away」)のバンド「シカゴ」とか、原宿の古着屋「シカゴ」を思い浮かべる方もいらっしゃるかもしれませんね。
 
 それはさておき、現在のリアルなシカゴは、いったいどんな街でしょうか? 摩天楼が建ち並ぶ(世界最初のスカイスクレイパーは1888年、シカゴに作られたオーディトリアムビルディングです)、洗練された美しい大都会であり、シカゴ美術館をはじめとする多くの美術館・博物館があり、そしてシカゴ・リリック・オペラ劇場、シカゴ交響楽団、ブルース、ジャズなど「音楽の都」としても知られ、ミシガン湖に面したリゾート地でもあり、数多くのレストランが評判を読んでいる、『タイムアウト』誌の2018年都市調査で堂々の世界第1位に輝いた街でもあります(「シカゴが世界最高の都市である6つの理由」より)。へええ、って感じですよね。では、シカゴのゲイシーンってどんな感じなの?と聞かれると…ほとんどの方が何も印象を持ってないと思います。パレードだとかクラブシーンだとかを求めてアメリカに旅行しようとすると、やはり、ニューヨーク、サンフランシスコ、ロサンゼルス(ウェストハリウッド)を目指す方が大多数でしょう。しかし、ひとたびシカゴの魅力を体験すれば、きっと「そのリストにシカゴも入れてあげて」「むしろシカゴ最高」と、声を大にして言いたくなるはずです。
 

 

GAY CHICAGO

 LGBTの歴史を振り返ったとき、1969年にニューヨークでストーンウォール暴動が勃発し、1977年にハーヴェイ・ミルクがサンフランシスコ市議に当選し、翌年、レインボーフラッグが誕生し、というように、重要な出来事はニューヨークやサンフランシスコで起こったという印象を多くの方が持っていると思います。しかし、シカゴという街も、実はゲイピープルにとって非常に重要な意味を持っています。ある意味、聖地と言っても過言ではありません。なぜなら、HOUSEというクラブミュージックが誕生した街だからです。
 

 1970年代からディスコDJとして活躍していたフランキー・ナックルズが、1977年、シカゴのクラブ「WAREHOUSE」の音楽ディレクターに就任し、そこで四つ打ちのリズムの部分で曲をつないで音が途切れないようにプレイする革命的な手法を発明し、HOUSEというクラブミュージックが誕生したのです(「WAREHOUSEでかかっているような音楽」の「WAREHOUSE」が略されて「HOUSE」と呼ばれるようになりました)。HOUSEの誕生によって、世界の音楽シーンは様変わりします。
 2004年、シカゴ市はフランキーの功績を讃え、8月25日を「フランキー・ナックルズの日」と制定し、また「WAREHOUSE」跡地の前の道路に「HONORARY "THE GOD FATHER OF HOUSE MUSIC" FRANKIE KNUCKLES WAY」と書かれた標識を掲げ、「HOUSEの神」フランキー・ナックルズの通りとしました。 
 2014年にフランキー・ナックルズが亡くなると、シカゴ市長のラーム・エマニュエル氏は「今日、シカゴは最も偉大な文化的パイオニアの一人を失った」と追悼のメッセージを発しました。
 クラブミュージック自体はとてつもなく発展を遂げ、世界中に素晴らしいクラブができ(もちろんTokioにも)、シカゴはもはやクラブシーンの中心地ではないかもしれませんが、それでもシカゴは、HOUSE MUSICの故郷であり、聖地として、人々に特別な感慨を抱かせる街であり続けています(「NORTHALSTED MARKET DAYS」でクリスタル・ウォーターズやウルトラ・ナテもそのように語っていました)
 
 もう一つ、これは知られざる事実かもしれませんが、シカゴはレザーコミュニティの中心地(ある意味、聖地)でもあります。
 パレードなどのプライドイベントで、レインボーフラッグとは別にレザープライドフラッグが掲げられているのを見たことがある方も多いと思います。レザー(に象徴されるBDSMをはじめとするKINKYでフェティッシュなセクシャリティ)のイベントといえばサンフランシスコのフォルサムストリートフェアが有名ですが、実はアメリカのレザーコミュニティの中心はシカゴであり、レザープライドフラッグもシカゴで誕生したのです。1989年、シカゴのレザーコミュニティのリーダーの一人、Tony DeBlaseが、毎年開催されている「International Mr. Leather」という一大イベントでレザープライドフラッグを提案し、世に広まることになりました。シカゴには「Leather Archives and Museum」という博物館もあって、コミュニティの結束力の強さを物語っています。
  
 このようにゲイシーンにとっての大切な宝物が誕生した背景には、シカゴが成熟したゲイコミュニティを誇ってきたということがあります。
 ニューヨークのグリニッジ・ヴィレッジと並んでアメリカでも最も長い歴史を持つゲイタウンであり、2014年『アウトトラベラー』誌の「世界最高のゲイエリア」にも選ばれたBoys Town(ボーイズタウン)。ゲイバーやレストラン、バスハウス、ショップなどが建ち並び、レインボーカラーをあしらったモニュメントも立ってたりして、これぞゲイタウン!って感じのイカニモな街です。6月のプライドシーズンにはパレードとコラボして「PRIDE FEST」というストリートフェスを開催してますし、8月のサマーシーズンには大規模なストリートフェス「NORTHALSTED MARKET DAYS」を開催(こんな大きなイベントを毎年やってる振興会組織のパワーに感服)。活気にあふれ、華やかでにぎやかな街です。ただの歓楽街ではなく、LGBT支援のコミュニティセンターなどもあります。
 ボーイズタウンとはまた別に、Andersonville(アンダーソンビル)というLGBTのベッドタウンもあります。大通りにはゲイバーやレストラン、ショップ、本屋などが並び、でもちょっと横道に入ると閑静な住宅街という、本当に暮らしやすそうなネイバーフッド(地区コミュニティ)です。ほかにも、レザー系のベニューが集まっている地区もあったりします(第2回の原稿で詳しくお伝えします)
 

 


NORTHALSTED MARKET DAYS


 ここからは「NORTHALSTED MARKET DAYS」をレポートします。
 全米各地でイベントが開催されるサマーシーズン真っ盛りな8月11日(土)12日(日)の2日間、ボーイズタウンのメインストリートであるNorth Halsted Street(Northalstedと略されます)の周辺エリアを通行止めにして、第37回「NORTHALSTED MARKET DAYS」が開催されました。これはボーイズタウンの振興会組織「Northalsted Business Alliance」が主催するお祭りで、2日間で約30万人を動員したようです(実際、暗くなるにつれてお客さんが増加し、普通に歩くのが困難なくらい、たくさんのお客さんでごった返していました)
 
 入場時にドネーションとして10ドルを払い(何ヵ所かある入り口に柵が設けられています)、中に入ると、N.Halsted Street沿いにたくさんのブースが並んでいます。もしかしたら画像を見たことがある方もいらっしゃるかもしれませんが、「Steamwork」というバスハウス(ゲイサウナ)が、パンツ一丁のイケメンモデルのツイスターをやっていて、人だかりができています。ほかにも、ドラァグクイーンがショーをやってたり、ライフガードみたいなイケメンが水を撒いてたり、ボールを当てると人がドスンと落ちるアメリカならではのアレをやってたり、Tシャツなんかを売ってるブース、飲食ブース、いろいろです。通り沿いのゲイバーなども昼間から営業していて、たいへんな賑わいです。

 8月の暑い時期なので、シャツを脱いで歩いてる方もたくさんいて、なかにはホットパンツ姿のガチムチ系の集団とか、スケスケのパンツの方とか、あからさまにセクシーさをアピる方たちも多かったです。個人的には、胸毛ボウボウなアメリカン・ベアーの裸体をたくさん拝めて眼福でした。
 もちろん、手をつないで仲良くカップルもいましたし、あと、ベビーカーを押したり、子どもと一緒に歩いてるダディベアーのカップルもいて、胸キュンでした。





 
「MARKET DAYS」がスゴイのは、なんと言ってもゲストライブの豪華さです。
 これまでに出演したことのあるアーティストをご紹介すると、アーロン・カーター、アンディ・ベル(イレイジャー)、ベリンダ・カーライル、C+C ミュージック・ファクトリー、CeCe Peniston、シャリース、ダレン・クリス、デボラ・コックス、ダイアナ・キング、En Vogue、Exposé、グロリア・ゲイナー、ジェニファー・ホリデイ、ジョディ・ワトリー、オリビア・ニュートン=ジョン、ソルト・ン・ペパー、シーナ・イーストン、ポインター・シスターズ、ティファニー、ビレッジ・ピープル(アルファベット順)などです。毎年入れ替わり立ち替わりこんなスゴいアーティストが、しかも1回に何組もがやって来たりするなんて、夢のよう…。
 そんな「NORTHALSTED MARKET DAYS」の今年のゲストは?というと、マーサ・ウォッシュ、クリスタル・ウォーターズ、ウルトラ・ナテ、クリスティン・WといったHOUSEファンにとっては感涙モノのアーティスト、そして80年代ディスコのレジェンドであるExposé、アメアイ出身の人気歌手キンバリー・ロック、Trenyce、「Lights Down Low」をヒットさせたMAX、オーストラリア出身のベティ・フー、タイ・ハーンドン、クィア・ラッパーのトッドリック・ホールなどなど。DJも大物Tom Stephan(昨年のMUSCLE BEACHで来日)をトリとして5人をクレジット、その他、シカゴゲイメンズコーラスやジャズの方たちも含めると総勢約30組の多彩なアーティストが出演、という豪華さでした(一覧はこちら
 
 会場内4ヵ所にステージが設けられ、うち3つがライブのステージで(NISSAN PARTNERS OF PROGRESS STAGE、BUD LIGHT STAGEとネーミングされているように、NISSANとBUD LIGHTがスポンサーになっていました)、1つがHYDRATE STAGEというクラブとして盛り上がるゾーンでした。
 2日間まるまるライブを観たり、クラブゾーンで踊ったり、という楽しみ方も全然アリだったのですが、諸事情あって12日(日)は参加できなかったため、8月11日(土)に行われたクリスタル・ウォーターズ、ウルトラ・ナテ、そしてマーサ・ウォッシュのライブに絞って鑑賞させていただきました。
 
 17:45、NISSAN PARTNERS OF PROGRESS STAGEでクリスタル・ウォーターズのライブがスタートしました。マッチョなダンサーをしたがえたクリスタル・ウォーターズは、『Gypsy Woman (She's Homeless)』『What I Need』『100% Pure Love』など5曲ほどをパフォーマンスしました。僕が二丁目デビューした頃、「ZIP」とかでかかっていた、ある意味青春ソングである「ジプシー・ウーマン」を、目の前で、本人が歌っています…まさかあの頃、こんな日が来るなんて夢にも思いませんでした。ちょっと涙がこぼれました。最後には、お客さんをステージに上げて、一緒に踊ったりして、フレンドリーでアットホームな雰囲気となりました。
 ちなみにこのステージの真横にセブンイレブンがあったのですが、どんなサイズでも(1リットルくらいでも)アイスコーヒーを99セントで大放出するという太っ腹な企画をやってくれていて、マジ感謝!でした。 



 日も暮れかけた19:00過ぎ、BUD LIGHT STAGEではキンバリー・ロックのライブが行われていました。キンバリー・ロックは2003年にアメリカン・アイドルに出演して有名になりましたが、2004年に発売したデビューアルバム『One Love』の最後の曲が『Somewhere Over the Rainbow』だったりして、アメリカのゲイシーンでは結構な人気を誇っています(2011年のAtlantisゲイクルーズにも出演していました)。今回、改めて彼女の歌を聴いて、その歌唱力の素晴らしさにウットリとさせられました。そして、ライブの最後に、心を込めて『Somewhere Over the Rainbow』を歌ってくれて、胸に沁みました(涙を拭ってるお客さんもいました…)

 
 続いて19:50、同じBUD LIGHT STAGEでウルトラ・ナテのライブがスタートしました。MVが素晴らしくゲイテイストな『Automatic』や『Found A Cure』、そして大ヒット曲『If You Could Read My Mind』『Free』などを次々に歌ってくれて、大盛り上がりでしたし、本当に感激でした。MCで彼女は広場を埋め尽くするゲイたちに「シカゴはHOUSEの故郷だものね。そうでしょ、みんな? だからフランキー・ナックルズに感謝しなきゃ」と語り、「フランキー・ナックルズ!」とコールしていたのが印象的でした。



 20:40にはこの日の大トリとして「The Queen Of Clubland」マーサ・ウォッシュが降臨! 真っ赤なスパンコールのジャケットを着たマーサが(ボタンがはじけ飛ぶんじゃないかとヒヤヒヤさせつつ)C+C MUSIC FACTORYの『エヴリバディ・ダンス・ナウ!』を歌いながらステージに登場しました。MCでは「シカゴのみんな、元気?」「イェーイ、マーサ愛してる!」「マジで?」と気さくなトークを繰り広げ(その一挙手一投足、すべてがラブリーで舌)、そしてBlack Boxの『Everybody Everybody』、人生応援ソング的な『It's My Time』を歌い上げ、そして最後に、今年登美丘高校ダンス部が選んだことも記憶に新しい、ウェザー・ガールズの大ヒット曲であり永遠のゲイアンセムである『It's Raining Men』を熱唱してくれました。アンコール!の掛け声もかかり、熱気も冷めやらぬなか、ライブは幕を閉じました。



 一生に一度は会いたいと思いながらも、日本ではその夢はかなわない、そんなアーティスト(ゲイアイコン)の方たちの姿を、1人だけでもスゴイのに、1日のうちにこんなにたくさん、間近で拝むことができて、夢のようでした。感無量。本当に幸せでした。シカゴに来て本当によかった!シカゴ最高!と思えました。
 たぶん、毎年、いろんなゲストが登場すると思いますし、フリーライブで、しかも割と簡単に間近で見れてしまうので(ちょっと前に行けば最前列を陣取れます)、これは本当にイイです。皆さんもぜひ、行ってみてください。
 今回レポートできたのは、2daysのうちの半分だけで、後半の12日(日)もまた違った盛り上がりがあったはずです(例えばExposéのライブもありましたし、クラブゾーンの大トリのDJはトム・ステファンでしたから)。2日間「MARKET DAYS」を満喫するためだけでも、行く価値があると思います。
 ゲイタウンのストリートフェスといえば、サンフランシスコの「Castro Street Fair」のほうが有名かもしれませんが、実はこちらのほうがエンタメ的に上を行ってるんじゃない?と思いました。

★NORTHALSTED MARKET DAYSのフォトアルバムはこちら

 

協力:シカゴ観光局

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