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COLUMN

円山てのるの「For The New World」(2)日本での同性愛者の自殺予防対策の現状

4ヶ月にわたって欧州のゲイシーンを見てきた円山てのるさんによる、ゲイの未来(まだ見ぬ世界)を夢見る不定期コラム連載「For The New World」。第2回目は日本での同性愛者の自殺予防対策の現状について、お送りします。

円山てのるの「For The New World」(2)日本での同性愛者の自殺予防対策の現状

円山てのるさんの不定期連載コラム「For The New World」。第2回目は、日本での同性愛者の自殺予防対策の現状についてお届けします。(編)

 

アメリカで相次いだ10代ゲイの自殺報道

 このところアメリカでは、10代のゲイが自殺した事件が立て続けに報道され、大きな社会問題として注目を集めています。

 ニュージャージー州のラトガース大学に通っていた18歳のゲイ青年・タイラー・クレメンティくんは、部屋で男性と愛し合っている様子を、ルームメイトらによって、密かにインターネットでライブ中継されてしまい、後日、その屈辱に耐えきれず飛び降り自殺しました。(922日)

 テキサス州・ヒューストンのハミルトン中学校に通っていたアッシャー・ブラウンくん(13歳)は、ゲイであったことなどを理由に、同級生から2年間にわたってイジメを受け、両親の学校への訴えも空しく、ついに自宅で拳銃自殺しました。(923日)

 カリフォルニア州・テハチャピのジェイコブセン中学校に通っていたセス・ウォルシュくん(13歳)も、やはりゲイであることをカミングアウトしていたことから、数年にわたってイジメを受け、ついに自宅の裏庭で首を吊って自殺しました。(919日)

 ほかにも、インディアナ州の高校生・ビリー・ルーカスくん(15歳)が、ゲイであることを理由にイジメられ、自殺に追い込まれた事件が伝えられています。(99日)

 アメリカには「The Trevor Project」や「White Ribbon Gay-Teen Suicide Awareness Campaign」といった、10代ゲイの自殺問題に取り組む活動があります。映画『ハリー・ポッター』シリーズの主演俳優・ダニエル・ラドクリフさんは、筋金入りのゲイフレンドリーとしても知られていますが、この自殺問題に心を痛め、「The Trevor Project」を通じて活動をサポートしてくださっています。

 また、アメリカ政府の教育庁長官は、この問題に関して「今まさに、私たちすべて――両親や教師そして生徒たち、選ばれた公職者たち、志ある人々は、あらゆる不寛容に対抗するために立ち上がり、声をあげるべき時なのです」とのコメントを出しているそうです。

 

見えてこない日本の実態

 日本は先進国で最も自殺率が高い国となっています。加えて、10代の自殺もまた、深刻な社会問題になっています。でも、これまで、いったいどれだけの10代の自殺が報じられてきたことでしょうか。

 『09年版自殺対策白書』によりますと、日本における08年中の自殺者は総計32,249人で、そのうち、小学生を含む生徒・学生は972人(前年比:99人増)だったそうです。1日に約3人…ものすごい数です。が、自殺事例のすべてが報じられているわけではないことは、報道の頻度で見当がつきます。これだけ多くの子どもたちの自殺者がカウントされているのに、報道されるのはごく一部なのです。

 また、私たちは「イジメを苦に自殺」という報道にしばしば出くわします。しかし、どんなイジメだったのか、その詳細について明らかにされることは少ないように思います(もちろんプライバシーの問題も含むでしょうが)。日本では「同性愛の子ども、イジメを苦に自殺」という報道を聞いたことがあるでしょうか? そこまで報道されることはほとんどないのではないでしょうか。

 アメリカでは、ヘイトクライムに対する社会意識が高いことから、10代の自殺と言っても、10代のどんな自殺だったのか、そこに焦点が当たります。ゲイであったことが理由でイジメられていたことまで、しっかり報道されるのは、そのためでしょう。

 いっぽう、079月に朝日新聞が「ゲイ・バイセクシュアル男性、14%が自殺未遂経験」と題する記事を掲載したことがあります。

 京都大学大学院の日高庸晴研究員らが実施した『REACH online2005』という調査研究の結果をベースにしたこの記事は、ゲイ・バイセクシュアル男性の約半数が学校時代にイジメに遭い、約2/3が自殺を考えたことがあり、そして14%が自殺未遂を経験したことがある――という、かなりショッキングな実態を伝えています。

 また、日高氏や市川誠一・名古屋市立大学看護学部教授らが中心となってまとめた「わが国における若者の自殺未遂経験割合とその関連要因に関する研究」によると、「セクシュアルマイノリティの自殺未遂率は異性愛者の約6倍に相当する」との結果が示されています。(調査期間:20018月~9月:大阪)

 こうしたデータから、とても悲しい推測が成り立ちます。私たちが知らないだけのことで、日本でも相当数の10代のゲイたちが自ら命を絶っているのでは…ということです。

 

 

どこへ相談したらよいのか

 セクシュアルマイノリティの自殺防止に取り組む活動は、日本でも様々に行われています。主に当事者団体が行っているものです。

 秋田・宮城・東京などを拠点に、多様な性についての理解を深めるための交流会や講演会の開催、行政への働きかけなどに取り組んでいる「性と人権ネットワーク・ESTO」というグループがあります。「ESTO」は10月から3回にわたって「性的少数者の自殺防止プロジェクト」と題する研修会を秋田で開催します。セクシュアルマイノリティの自殺についての社会的認識を高め、セクシュアリティやジェンダーの視点から、自殺防止対策を問い直そうというものです。

 また、AGP(同性愛者医療・福祉・教育・カウンセリング専門家会議)とLGBT系若者のための学びの場「ロドス」による共同開催で、「セクマイ学生のための、学生相談室活用術!」と題するシンポジウムが、1031日に東京で行われます。これは、セクシュアルマイノリティの学生が、学校内の「学生相談室」をいかに活用し、学生生活をいかに快適にしてゆけるか、現状と実態さらに今後について、一緒に考えようというものです。

 今この瞬間も自殺を考えてしまう人たちがいる、ということを念頭において、命をつなぎとめるためのホットラインを稼働させることも本当に大事です。現状、以下の団体が電話相談を行っています。

AGP(同性愛者医療・福祉・教育・カウンセリング専門家会議)
 電話相談(こころの相談) 03-5385-0996
 毎週火曜 20:0022:00
 4つの無料電話相談を行っています。
 電話番号や時間などの詳細はこちらのサイトを見てください。 

NPO法人アカー(動くゲイとレズビアンの会)
 電話相談 03-3380-2269
 祝祭日を除く火曜・水曜・木曜 20:0022:00
 研修を受けた専門スタッフがプライバシー厳守で対応します。
 詳細はこちら 

"共生社会をつくる"セクシュアル・マイノリティ支援全国ネットワーク
 電話相談 0120-37-7867
 毎週月曜 18:0021:00
 20111月末まで延長決定
 詳細はこちら

○すこたんソーシャルサービス
 電話相談 047-411-6777
 第2・第4金曜 19:0022:00
 あなたのプライバシー厳守で専門スタッフが担当します。
 詳細はこちら 

HSA札幌ミーティング
 電話相談 011-242-3321
 毎週月曜 20:0022:00
 様々な性の悩みにお答えする電話相談を開設しています。
 詳細はこちら

 このように、当事者団体による時間限定の電話相談は行われていますが(ボランティアで運営されています。頭が下がります)、アメリカの「The Trevor Project」のような24時間のホットラインはまだ実現していないのです。

 また、行政サイドとしては、川崎市が(原則として在住・在学・在勤者を対象に)性同一性障害についての悩みを聞く電話相談を開設しておりますが(行政サイドでセクシュアルマイノリティを対象とした相談インフラを設置したのは初めて?)、同性愛者のための電話相談を行っている自治体は、今のところ、まだ確認できていません。1日も早い対応が望まれます。

 

私たちみんなの問題として

 内閣府の「自殺対策に関する意識調査」によりますと、「不安や悩みを受け止めてくれる人」として最も多かったのは「同居している家族」で、7割近くがそう回答したそうです。特に10代のゲイの場合、ほとんどが親と同居しているでしょうから、本来は身近な家族に相談できるのがいちばんいいのです。が、(地方は特に、だと思いますが)ゲイだと家族に打ち明けることは、まだまだ簡単ではありません。学校でも家でも相談できないとすると、10代のゲイの子たちは簡単に孤立してしまいます。学校でイジメを受け、家族も頼れず、追い詰められた末に――そういう悲惨な出来事を防ぐために、いつでも相談できるような窓口が用意されていたら…と切望するものです。

 そして、同性愛者の自殺は、何も10代に限った話ではありません。年齢を問わず、多くの同性愛者の方たちが、社会的に孤立したり、うつを患ったり、HIVに感染したり、さまざまな悩みによって、命を絶とうとする人がいます。なかなか表立って見えてはきませんが、同性愛者であることに起因する苦悩ゆえに、絶望の淵に立っている仲間たちがいるということは、私などよりみなさんのほうが身近にリアルに感じているかもしれません。

 この記事をお読みになっている方の中にも、もしかすると、自殺を考えてしまうほど苦しんでいる人がいるかもしれません。あるいは、周りのお友だちの中にも、何か深刻な悩みを抱えている人がいるかもしれません。うつで苦しんでいる人もいるかもしれません。
 声をかけてあげましょう。「どうか、ひとりで悩まないでください――」と。

 まずは身近なところから、できる範囲で、おたがいに支え合えるような関係性を作っていきましょう。うつは「こうすれば防げる」という決定的な予防策はないと言われています(まだメカニズムも完全に解明されていません)。決して他人事ではありません。いつ自分が同じようなことになるとも限らないのです。

 行政や団体によるサポートが足りないと言うことは簡単ですが、まずは自分やパートナーや友達がうつになったら…という前提で、できることを考えてみてはいかがでしょうか? 「ありがとうのキモチ。~ボクとカレのうつ日記」(NHKオンライン・LGBT特設サイト『虹色』)というサイトがヒントになるかもしれません。

(円山てのる)

 

 

円山てのる:プロフィール

青山学院大学在学中から音楽(声楽)や映像製作に携わっていましたが、その後もオペラに出演したり、小説を執筆したり、様々な表現活動に携わってきました。2008年から「日本インターネット新聞 JanJan)」記者としてセクシュアルマイノリティの人権に関する記事を書き始めました。2009年には「TOKYO Pride」事務局長として、5月の東京プライドフェスティバルの成功に貢献しました。また『Out』2009年11月号に新宿二丁目についての記事を寄稿しました。そして今年、4ヶ月にわたるヨーロッパ旅行を完遂し、想像を絶する規模のスペインのプライドパレードや、ケルンのゲイゲームズなどを取材しました。

円山てのるさんのblog「【GAY】タイムズ

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