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k.d.lang & Tracy Young "Constant Craving (Fashionably Late Remix)"
トレイシー・ヤングがk.d.ラングの名曲「Constant Craving」のリミックスを手がけた新曲がリリースされました。共にレズビアンでありグラミー受賞アーティストである二人の世紀の競演。ぜひダンスフロアで聴きたい極上のクラブミュージックです。
k.d.ラングは、バンクーバー冬期五輪の開会式に全身白のスーツで登場し、「ハレルヤ」を歌ったことでも知られるカナダの国民的シンガーソングライターです。1992年に『Advocate』誌でメインストリームのアーティストとして初めてレズビアンであることをカミングアウトした人でもあります。グラミー賞、MTVビデオ・ミュージック・アワード、アメリカン・ミュージック・アワードなどの音楽賞を受賞しているほか、カナダ勲章も受章しています。
k.d.ラングは1992年、カントリーミュージックから離れてアダルト・コンテンポラリーな『Ingénue(アンジャニュウ)』というアルバムを発表、そのアルバムの代表曲「Constant Craving」は大ヒットを記録し、グラミー賞で最優秀女性ポップ・ボーカル・パフォーマンス賞を受賞しました。
1993年、ラングが男物のスーツを着て理髪店の椅子に座り、モデルのシンディ・クロフォードがその顔に剃刀を当ててヒゲを剃るという素敵な写真が『ヴァニティ・フェア』誌の表紙を飾りました。この号で彼女は、カミングアウトによってカントリーミュージック界から追放されるのではないかという不安を抱いていたと述べています。しかし実際は、カミングアウトがキャリアに影響を及ぼすことはなく、その勇気が評価されました。k.d.ラングはキャリアを失うことを恐れずにカミングアウトし、批評家たちの評価とビルボード・チャートの上位進出を成し遂げた偉大なアーティストであり、「粋なレズビアン」の代表として絶大な支持を得た時代のアイコンなのです。
インターネットがなかった時代、90年代の日本のゲイ&レズビアンコミュニティでもk.d.ラングのことは比較的よく知られていて(たしかタワーレコードの「レインボータワー」にも置かれていましたし、『バディ』誌でもマーガレットさんが紹介してたと思います)、「Constant Craving」はレズビアンのアンセムとしてよく聴かれていたと思います。ミディアムテンポでせつないメロディを歌い上げ、「constant craving has always been(いつも満たされない思いがあった)」というフレーズを繰り返すサビが印象的な、美しい楽曲です。craving(欲求不満)とはいったい何を指しているのか?とラングに訪ねた人がいたそうですが、それに対して彼女は「聖なる不満」と答えたそう。きっと、恋愛だったり、世の中に対する不満だったり、聴く人それぞれが、自身の内なるcravingを共鳴させることができたからこそ、この歌が熱く支持されたんだと思います。
参考記事:
Queer Music Experience.「k.d.ラング」
https://queermusicexperience.web.fc2.com/queer_musicians/overseas/kd_lang_profile.html
アメリカ音楽史におけるクイア及びトランスジェンダーの女性アーティストたちの系譜(udiscovermusic)
https://www.udiscovermusic.jp/stories/lgbtq-women-in-music-history
そんな90年代ゲイ&レズビアンコミュニティにとっての記念碑的な名曲「Constant Craving」が、やはりオープンリー・レズビアンであるトレイシー・ヤングの手によって、素敵なハウス・リミックスのクラブミュージックとして新たに生まれ変わり、ニュー・シングルとしてリリースされました。
トレイシー・ヤングはこれまでレディ・ガガやシェール、セリーヌ・ディオン、ブリトニー・スピアーズ、マライア・キャリーなど100人以上のトップアーティストのリミックスを手がけていて、50曲以上がビルボードのクラブチャートで1位を獲得しています。マドンナの『I Rise』のリミックスを手がけたことで、昨年のグラミー賞で女性として初めて最優秀リミックス・レコーディング(ノン・クラシック部門)を受賞しています。
グラミーにノミネートされた際の『Adovocate』誌のインタビューで彼女は、「私は、バージニア州出身の音楽を愛する女の子でした。そして今、歴史を作り、マドンナの曲でグラミーにノミネートされることになりました。もしあなたに夢があるなら、それに向かって突き進んで。きっと夢は叶うから」と語っています。
実はk.d.ラングは、今年の5月28日(プライド月間の直前)に『Makeover』という初のリミックス・アルバムをリリースしています(ジャケ写には、未公開だったデヴィッド・ラシャペル(有名なゲイのフォトグラファー)による、今までのラングのイメージとは正反対のフェミニンな写真が使われていて、逆にインパクトを与えました)
「インターネットやスマートフォン、デート・アプリといったものがなかった頃、どうやってコミュニティを作っていたんだろう、と考えていた時に、このダンス・リミックス・コンピレーションのアイデアが浮かんできた。90年代ではまだ"アンダーグラウンド"って呼ばれていたけど、こういったダンス・クラブっていうのは世界に続く鍵だったよね。加えて、自分のキャリアにおける、隠されたシークレット・ゾーンという感じのエリアがあることに気付いて、自分自身で驚いていた。このエリアにはまったく手を付けてこなかったし、自分でも見落としていたところだったんだ。ここにある楽曲の内2曲は、ダンス・チャートで1位を記録したっていうのに!」 (プレスリリースより)
しかし、このアルバムには肝心の代表曲「Constant Craving」は収録されず、ようやく今、満を持してトレイシー・ヤングのリミックスによって世に送り出されたのです(たぶんトレイシーが多忙なので、時間がかかったんだと思います)
9月17日に発表された"Constant Craving (Fashionably Late Remix)"は、k.d.ラングののびやかで美しい歌声がそこなわれることなく、トレイシーの素晴らしいオリジナル・トラックに乗っていて、フロアでかかったらさぞかし気持ちいいだろうと思われる極上のダンス・ミュージックになっていました。90年代ゲイ&レズビアンコミュニティにとっての記念碑的な名曲が、レズビアンのグラミー受賞リミキサーの愛とリスペクトあふれる職人技によって、このような素敵なクラブミュージックに生まれ変わったことには感慨を禁じえません。
ミュージック・ビデオは、「Constant Craving」のオリジナルのMV、『Ingénue』などのアルバムのジャケ写、そして『Makeover』に付録として収録されていた、Katja Virtanenというファンの方が作ったk.d.ラングのペーパードールをモチーフにした独特の世界観の(k.d.ラング・ワールド的な)アニメーション映像になっています。
説明が非常に長くなって恐縮ですが、ぜひ聴いてみてください。もしクラブや街中などで耳にする機会があったら、そう言えばこの曲にはこういう意味があったんだっけ、と思い出していただければ幸いです。
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