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映画『イヴ・サンローラン』

「”フランスの国宝”とも言われる天才デザイナー、イヴ・サンローランの生涯を美しく描いた映画」という予想を見事に覆すような、ゲイカップルの「ありのまま」を描ききったスゴい作品でした。

映画『イヴ・サンローラン』

 2011年公開のドキュメンタリー映画『イヴ・サンローラン』は、ピエールがイヴをどれだけ愛してきたかを語る(あるゲイカップルのパートナーシップを記録した)映画でした。
 それに対して現在公開中の伝記映画『イヴ・サンローラン』は、本人そっくりなピエール・ニネという美青年を主演に据えたところからして、おそらく「”フランスの国宝”とも言われるイヴ・サンローランの、デザイナーとしての才能の部分を中心に、その生涯を美しく描いた映画」なのではないか?と予想していたのですが(なんたってキャッチコピーが「あなたは目撃する。永遠のエレガンス 誕生の瞬間を。」です)、その予想は見事に覆されました。
 
 まず、ちょっと挙動不審にも見えるような独特の仕草で、女たちに囲まれて物静かに談笑するイヴの姿は、若くて美しい天才デザイナーの神々しさというよりも、「ファッションオタク」という言葉の方がピッタリきます。ショーのときに髪を短く切ってきたモデルにキレたりするあたりも、そんな感じです。
 そして冒頭から、女性は性的に惹かれるのではなく美的な対象でしかないこと(性愛は男性に向いていること)が描かれます。イヴは、画家のベルナール・ビュフェと8年間つきあっていたピエール・ベルジェと、ベルナールの別荘に遊びに行っている間に、恋に落ちます(いわば「略奪愛」です。が、ベルナールの反応はサラリとしたものです)
 そうして電撃的に始まった二人の恋は、決して一筋縄ではいかないものでした…
 ドキュメンタリーの方はピエールが公私にわたって長年、イヴを支え続け…という、美談めいたテイストだったと思いますが、この映画では、二人の関係が決してキレイではなかったことや、イヴのダメさ加減や非道さがありのままに描かれ、ちょっとビックリさせられます。浮気とか、ハッテンとか、誰が誰と寝たかといったところまで、すべてありのままに描かれています。
 
 終盤、マリア・カラスの歌う歌劇『トスカ』のアリア『歌に生き、愛に生き』(生前、カラスと親交があったそうです)が流れる美しいショーのシーンでなんとなくごまかされるかもしれませんが、あの素晴らしい作品や輝かしい成功の裏ではこんなことが…と、ファンの方などは複雑な気持ちになるのではないでしょうか(ゲイがどうこうではなく、二人の関係のドロドロさ加減に)。あるいは、「芸術家とは、かくも業の深い生き物なのか…」といった反応です(フランシス・ベーコンの『愛の悪魔』のように)
 
 この映画、イヴ・サンローランのヒストリーを全体的にバランスよくまとめる、といった発想は最初から皆無で(確かに、モンドリアン・ルックとかスモーキーとかの作品史なんて、ファッション番組の特集でやればいいことであって、今さら感が漂いますよね)、どんだけイヴが「ファッションオタク」のゲイで、デザイン以外のすべてをピエールに依存していたかっていう部分をことさら強調してドラマ化しているようにも見えます。
 でも、よく考えてみると、「デザイン以外何も能がない(しかも躁鬱病の)イヴがどうしてデザイナーを続け、世界的成功を収めることができたのか、それはひとえにピエールの献身的なサポートのおかげだった」という真実に忠実なだけなのだと思います。いわば、透徹したリアリズムです。
 
 しかし、この映画をゲイのパートナーシップの物語として捉え返したとき、おそらく、観る方によって、さまざまな反応を引き起こすと思います(ある意味、物議を醸すというか)。多くの方が「イヴってひどい。許せない」「自分だったら絶対に別れる」「ピエール、よく堪えるよね…」と思うことでしょう。(自身の経験を重ね合わせたりしながら)「惚れた弱みさ…」と苦々しく思う方もいらっしゃることでしょう。もっとドライに「莫大な遺産を相続したんだし、我慢した甲斐があったよね」という見方もあるかもしれません。
 いずれにせよ、YSLの輝かしい成功よりも、一抹の後味の悪さを感じながら映画館を後にする方は少なくないはずです…
   
 イヴを演じたピエール・レニがマジ本人にソックリ!ということで本国で話題騒然だそうですが(『カポーティ』のフィリップ・シーモア・ホフマン並み?)、ピエール・ベルジェを演じたのが『不機嫌なママにメルシィ!』のギヨーム・ガリエンヌであるというところもまた、見どころです。ぜひ、合わせてご覧になってください。


イヴ・サンローランYves Saint Laurent
2014年/フランス/配給:KADOKAWA/監督:ジャリル・レスペール/出演:ピエール・ニネ、ギョーム・ガリエンヌ、シャルロット・ルボン、ローラ・スメット、マリー・ド・ビルパンほか