REVIEW
映画『カプチーノはお熱いうちに』
『あしたのパスタはアルデンテ』の監督フェルザン・オズペテクが贈るヒューマン・ラブストーリー。ゲイが非常に重要な役で登場する本作は、このうえなくロマンチックでありながら、たぶんゲイテイストでもある現代の「愛の讃歌」です。ぜひご覧ください。
『あしたのパスタはアルデンテ』の監督フェルザン・オズペテクが、またまた泣ける傑作を届けてくれました。ゲイが主人公ではないものの、ある意味、主人公の女性の夫以上にパートナーらしいパートナーとしてゲイが重要な役割を果たしています。イタリアらしい、このうえなくロマンチックなラブストーリーでありながら、たぶんゲイテイストでもある現代の「愛の讃歌」です。レビューをお届けします。(後藤純一)
イギリスにジェームズ・アイボリーやスティーブン・ダルドリーやトッド・ヘインズが、フランスにフランソワ・オゾンが、スペインにペドロ・アルモドバルが、ポルトガルにジョアン・ペドロ・ロドリゲスがいるように、イタリアにはフェルザン・オズペテクというオープンリー・ゲイの映画監督がいます。
フェルザン・オズペテクはアルモドバルやオゾンほど世界的に有名な方ではないかもしれませんが、人情の篤さや人生の素晴らしさを描いた、笑いあり涙ありの作品は、本国で絶大な支持を得ており(イタリアのアカデミー賞「ダヴィッド・ディ・ドナテッロ賞」を多数受賞)、ある意味「イタリアの山田洋次」的な方なのかな?と想像します。他の欧州の国に比べて同性愛に厳しいイタリアで、このようなオープンリー・ゲイの監督が活躍していることはとても意義があるのではないでしょうか。
以前紹介した『あしたのパスタはアルデンテ』も本当にいい映画でした。今回の『カプチーノはお熱いうちに』も、心から観てよかった!と思えるロマンチックなラブストーリーでした。
舞台は南イタリアの風光明媚な街・レッチェ。エレナとファビオは同じカフェで働く親友どうし。ゲイのファビオは、やはりカフェの同僚であるシルヴィアとルームシェアしているが、彼女が外泊ばかりしていることに気をもんでいる。あるとき、ホームパーティにシルヴィアが連れて来た彼氏のアントニオは、見た目はセクシーだが、ホモフォビアがひどく、みんなを憤慨させる(それ以前にエレナは、アントニオが移民差別に加担したことをきっかけにケンカしたことがあり、快く思っていなかった)。数年後、エレナとファビオは素敵なカフェをオープンし、エレナは2児の母になっていた。父親はなんと、あのアントニオだった。幸せいっぱいの順風満帆な生活。しかし、乳がんの検査を受けたエレナは、陽性であることが発覚し、生活が一変する…
大胆なストーリーのカットがあり、終盤にいろいろなことがわかるようになっています。
そのおかげで、乳がんの深刻さよりも愛や生の輝き、明るい笑顔が印象的な(救いのある)終わり方になっています。
この映画のメインテーマは、エレナという、モデルのように美しくて、知的で、稼ぎもいい女性が、アントニオみたいな野性的で色気ムンムンな男(そして頭が悪くて差別バリバリな男)と運命的な恋に落ち、あまつさえ結婚までしてしまうというところです。監督はインタビューで「人は強さや美しさでなく、弱さにひかれることもある。恋は理屈で説明できない」と語っています。
ゲイ的には、知的な上流階級の女性(または男性)がちょっとバカだけど男らしさが素敵なタイプの男とくっつくというパターンは「わかる〜」って人、多いと思います(『セックス・アンド・ザ・シティ』のミランダとスティーブしかり。『モーリス』しかり。ある意味、古典的な組み合わせなんですよね)
で、実際に観ていただければご賛同いただけると思うのですが、アントニオは本当にセクシーです。ザ・イタリア男って感じ。若い時だけじゃなく、ちょっと年がいって髪が薄くなりお腹が出てきたりした辺りも、やっぱりセクシーです(そっちの方がいい!という人も多そう)。監督もたぶんこの役者さんの色気に惚れ込んだうえで、女性とかゲイの観客へのサービスの意味でそうしてると思うのですが、脱ぐシーンがやたら多いです(パンツ一丁だったり、一瞬「アントニオ自身」がうっすら見えたり!)。でも、あの手のタイプは、結婚したら苦労します(実際、稼ぎも悪く、家事や子守りもしない夫に、エレナが不満をぶつけるシーンもあります)。でも、それでも、アントニオは本当にイイ男だと思うし、エレナは彼と結婚して幸せだっただろうなあ…って思わせてくれます。対等なパートナーではなかったかもしれないけど、「女としての幸せ」っていう意味で(でもそれは、ゲイの考える「女の幸せ」なのかな、とも思います。だからこの映画は「ゲイテイスト」なのです)。正直、終盤の展開にはヤラれました。「ああ、アントニオ…」って、ボロボロ泣けました。まだエイズが死に至る病だったころ、ああいうことが実際にあったと聞いています。その話も思い出し、よけいに泣けました。
この映画で次に重要な登場人物が、ゲイのファビオです。エレナの無二の親友で、ものすごく人がよくて、チャーミング(後半はヒゲとかはやしてて、けっこうセクシーです)。それでいて、ゲイのキャラでありがちな「女性を盛り立てる都合のよい友達」で終わっているわけでもなく、ちゃんとファビオ自身の物語も持っています(なぜファビオがエレナと親友になったのか、という秘密も、最後に明らかにされます。ゲイならではの、ちょっとせつない、リアルなエピソードです)。第一印象最悪だったアントニオとも、エレナを介して友情を深めていきます。
ちなみに、エレナが入院していた病院の、隣りのベッドの女性が、見舞いに来たファビオとアントニオを見てエレナに言ったことが、とても笑えました。秀逸なギャグでした。
ほかにも、エレナの叔母(菜食主義に走ってショートカットにしたりするけど、結婚してないところをみると、もしかしたら…と思ったり)や、二人の子どもたちなんかも、どこか変わっていたり、おかしかったりして、笑わせてくれます。家族ってこうだよね、人生ってこうだよね、っていうほほえましさ(どんなにダメ人間でも、娘はちゃんとパパを愛しているっていうあたりも、泣かせます)
人生でいちばん大切なのは愛!というイタリアらしいテーマを、ゲイテイストに見せてくれた映画でした。
川島なお美さんの死や北斗晶さんのニュースに胸を痛めた方などもぜひ観ていただきたいと思います。
『カプチーノはお熱いうちに』Allacciate le cinture
2014年/イタリア/監督:フェルザン・オズペテク/出演:カシア・スムトゥアニク、フランチェスコ・アルカ、フィリッポ・シッキターノ、カロリーナ・クレシェンティーニほか/配給:ザジフィルムズ/シネスイッチ銀座にて公開中
INDEX
- クィアでブラックなミュージカル・コメディ・アニメドラマ『ハズビン・ホテルへようこそ』
- 涙、涙…の劇団フライングステージ『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第二部
- 心からの拍手を贈りたい! 劇団フライングステージ 『こころ、心、ココロ -日本のゲイシーンをめぐる100年と少しの物語-』第一部
- 40代で性別移行を決意した人のリアリティを描く映画『鏡をのぞけば〜押された背中〜』
- エストニアの同性婚実現の原動力になった美しくも切ない映画『Firebirdファイアバード』
- ゲイの愛と性、HIV/エイズ、コミュニティをめぐる壮大な物語を通じて次世代へと希望をつなぐ、感動の舞台『インヘリタンス-継承-』
- 愛と感動と「ステキ!」が詰まったドラァグ・ムービー『ジャンプ、ダーリン』
- なぜ二丁目がゲイにとって大切な街かということを書ききった金字塔的名著が復刊:『二丁目からウロコ 増補改訂版--新宿ゲイ街スクラップブック』
- 『シッツ・クリーク』ダン・レヴィの初監督長編映画『ため息に乾杯』はゲイテイストにグリーフワークを描いた素敵な作品でした
- 差別野郎だったおっさんがゲイ友のおかげで生まれ変わっていく様を描いた名作ドラマ『おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!』
- 春田と牧のラブラブな同棲生活がスタート! 『おっさんずラブ-リターンズ-』
- レビュー:大島岳『HIVとともに生きる 傷つきとレジリエンスのライフヒストリー研究』
- アート展レポート:キース・へリング展 アートをストリートへ
- レナード・バーンスタインの音楽とその私生活の真実を描いた映画『マエストロ:その音楽と愛と』
- 中国で実際にあったエイズにまつわる悲劇を舞台化:俳優座『閻魔の王宮』
- ブラジルのHIV/エイズの状況をめぐる衝撃的なドキュメンタリー『神はエイズ』
- ドラァグでマジカルでゆるかわで楽しいクィアムービー『虎の子 三頭 たそがれない』
- 17歳のゲイの少年の喪失と回復をリアルに描き、深い感動をもたらす映画『Winter boy』
- 愛し合う美青年二人が殺害…本当にあった物語を映画化した『シチリア・サマー』
- ホモフォビアゆえの悲劇的な実話にもとづく、重くてしんどい…けど、素晴らしく美しい映画『蟻の王』
SCHEDULE
- 03.19XO7
- 03.20RADWIMPSナイト3 〜無人島に持っていき忘れた一曲〜