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COLUMN

サル痘(mpox)が感染拡大しています。予防に努め、みんなで力を合わせて感染拡大を防いでいきましょう

今年に入ってポツリポツリと感染報告が増えてきました。いよいよ国内でサル痘(M痘、mpox)の感染拡大が始まっていると見られています。感染症の専門家の方々のお話をお聞きしましたので、簡潔にまとめてお伝えします。

サル痘(mpox)が感染拡大しています。予防に努め、みんなで力を合わせて感染拡大を防いでいきましょう

2月9日、国立感染症研究所感染症危機管理研究センター等の専門家からゲイメディア向けの説明会がありました。国立感染症研究所感染症危機管理研究センターの齋藤智也センター長、国立感染症研究所 薬剤耐性研究センター第四室室長(実地疫学研究センター併任)の山岸拓也先生(国で性感染症のデータを扱ってきた方)、国立国際医療研究センター病院国際感染症センターの石金正裕先生(臨床医で感染症の専門医)の3名からお話があり、質疑応答も行われました。以下、なるべく簡潔に、わかったこと、今言えることを整理してお伝えいたします。

※最後にリンク集を追加しました。最新情報はそちらのWebサイトでご覧いただければと思います。
(最終更新日:2023年7月10日)
 

 サル痘(M痘、mpox)は、サル痘ウイルスによって引き起こされる病気で、密接な接触により、人種や年齢、性別、性的指向、性自認などを問わず、誰でも感染する可能性があります。
 現在、関東(首都圏)を中心にサル痘(M痘)が感染拡大していると見られています。
 2月9日までに19例が確認されていて、すべて男性です。最も多いのは30代で、ほぼ20代〜40代の方です(1名だけ60代の方)。重症化したり死亡したりしたケースはありません。
 今のところ19例ですが、実際はもっとたくさん(桁が違うくらい)感染が広がっている可能性があるかもしれません。


症状
 これまで報告された患者さんは全員、発疹が現れています(水ぶくれを伴う発疹が、特に性器や肛門周り、口の周りや口中に現れます)
 発熱が見られた方は10例で、必ずしも熱が出るわけではありません。以前から見られた発熱、だるさ、リンパ節の腫れなどのほか、喉の痛み、筋肉痛、背中の痛み、肛門や直腸の痛みという症状を訴える方もいるそうです。症状が軽い人や、なかには無症状でも感染がわかった方もいます(レアケースです)


潜伏期間
 通常は6日〜13日です(短いときは5日、長いと21日というケースも)

 
感染経路
 以下のような密接な接触により、感染します。(◎は主要な項目)
◎感染している人の発疹、水ぶくれ、かさぶたに触れる
・感染している人が使用した物、布地(衣服、寝具、タオル)、ドアノブやデスクなどに触れる
・感染している人の咳やくしゃみを浴び、唾液がかかる

 例えばセックスにおいては、以下のようなパターンが考えられます。(◎は主要な項目)
◎感染している人の性器や肛門に触る、感染している人の精液や唾液と自分自身の粘膜が触れる
・感染している人との濃厚な皮膚接触やキス、至近距離での会話
・感染している人が使用した布団やタオル、下着、セックスに使用したグッズなどに触る

※ウイルスは、水ぶくれやかさぶたの液や膿などに多く含まれています。精液にも含まれるとの研究結果が海外で発表されています。
※空気感染する可能性はとても低いと言われています。


予防
・発疹、水ぶくれ、かさぶたに触らない
・コンドームの使用はとても有効です

※今は性的接触が感染の主要な機会になっていると考えられているため、多くの人と(無防備な)性的接触があればあるほど感染の確率も高くなります。暗くて相手の体に発疹があるかどうかわからないような場所は避けたほうがよいかもしれません。
※無症状の感染者から他の人に感染するかというと、明確な答えが世界でもほとんどありません。診断された時に無症状でも時間が経つと症状が出ることもありますし、本当に無症状だったのかを学術的に証明するのは難しい、とのこと。今のところ無症状の感染者からの感染はレアケースと考えてよさそうです。


治療
 もし感染している方と濃厚な接触があったと思われる時から1週間くらい経った後、上記のような発疹や発熱などの症状が現れた場合は、かかりつけ医でもいいですし、可能であれば性について話しやすそうなところ(感染症の専門医やクリニック)を受診しましょう。
 厚生労働省から自治体・保健所に通知が出ていて、情報は行き届いているはずですし、全ての都道府県に指定医療機関が設置されており、受診や検査や治療が受けられるようになっています。医療機関も行政も保健所もプライバシーに最大限配慮しています。
 「サル痘だということになったら、自分がゲイだとバレるのではないか」などと心配する方もいらっしゃるかと思いますが、誰もが感染する可能性がある病気ですし、病院や保健所などもそのような偏見を持たないように周知されていますので、(追跡調査のために、感染経路について聞かれることがあるかと思いますが)そこは信頼してください。
 
 感染がわかった場合、痒くても発疹を引っ掻いたりしないようにしましょう。(詳しくはこちらをご覧ください)
 すべての発疹が治るまでの間は隔離(自宅療養や入院など)が推奨されます。(詳しくはこちらをご覧ください)
 

接触者に知らせましょう
 もし感染がわかった場合、直近で性的な接触や、発疹との接触、キスやハグ、長時間のスキンシップ、寝具やタオルや食器などのシェアをした方がいれば、知らせるようにしましょう。過去14日以内に接触した方で無症状の方は、研究に参加するかたちでワクチン接種を受けることができます。(詳しくはこちらをご覧ください)
 
 
ワクチン
 アメリカではゲイ・バイセクシュアル男性向けに大規模なワクチン供給を行ない、感染拡大を抑えましたが、日本ではそのような大規模ワクチン供給の話は出ていません…ので、今はみなさん一人ひとりの予防行動が頼りです。(ただし、上記のような濃厚接触者で無症状の方はワクチンを受けられる可能性があります)
 
 50代以上の人は子どもの頃に天然痘ワクチンを打っているから大丈夫だと思われているかもしれませんが、昨年9月に60代の方の感染が報告されていますので、完全に予防できるというわけではありません。全く打ってない人よりは抗体価が高いだろうということは言えます。
 

HIV検査を受けましょう
 海外で重症化したり亡くなったりしている方のほとんどは、HIVに感染していながら治療をしておらず免疫力が下がっているなど、免疫不全を起こしていた方でした。コロナ禍の間、HIV検査を受けずにきた方もいらっしゃるかと思いますが、これを機に、検査を受けるようにしましょう。
(現在、梅毒やクラミジアなども増えていますので、併せて検査を受けるとよいでしょう。例えば東京都新宿東口検査・相談室では、梅毒も同時に検査しています)


陽性者への偏見を持たないようにしましょう
 HIVもそうですが、たった1回のセックスで感染する方もいれば、1000人以上とセックスしてきても感染していない人もいます。サル痘に感染した人=インランな人、などといった偏見を持つのはやめましょう。コミュニティや社会の偏見やスティグマ(烙印、汚名)が強くなればなるほど、受診をためらう人が出てきたり、感染がわかっても接触した人に伝えなかったりといったことにもつながります。


 少し古くなった情報も含まれますが、以前上げたコラムに、さまざまな詳しい情報を載せていますので、お時間あるときに読んでみてください。


<リンク集> 
 感染症の専門家の方たちが提供するWebサイトで最新の情報が提供されていくと思いますので、ぜひご覧ください。

サル痘について(国立国際医療研究センター国際感染症センター)
https://dcc-irs.ncgm.go.jp/material/manual/monkeypox.html

mpox(サル痘)関連情報(ぷれいす東京)
https://ptokyo.org/news/15728

サル痘のきほんの情報β(akta)
https://akta.jp/information/4181/
 

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サル痘(MPOX)についての大事な情報がまとめられた「MPOX GUIDE BOOK」がリリースされました

 ぷれいす東京の公式サイトでサル痘(MPOX)についての大事な情報がまとめられた「MPOX GUIDE BOOK」が発表されました。ぜひダウンロードして読んでみてください。
(※以下は4/10のニュースの転記です。大事な情報なので、コラムにも掲載しました)

 エムポックス(サル痘)の感染が大阪府、徳島県、茨城県などでも確認これまでの感染者の累計が95名にといったニュースでお伝えしてきたように、今年に入ってからエムポックス(サル痘)への感染が急増しています。
 aktaやぷれいす東京、MASH大阪、国立感染症研究所、国立国際医療研究センター、厚労省、東京都は「感染症コミュニケーション円卓会議」を設け、感染症についての情報発信などについて検討してきました。その「感染症コミュニケーション円卓会議」をはじめ何人かの医師が協力し、この「MPOX GUIDE BOOK」が制作されました。
 海外での研究報告なども参照し、これまでにわかってきたエムポックス(サル痘)についての最新情報が、ゲイ・バイセクシュアル男性コミュニティの視点で(差別や偏見がないかたちで)まとめられていて、安心して読むことができます。
 
 感染経路は「主に接触感染」で、発疹や水疱、かさぶたのある皮膚や粘膜の病変部に触るなど、皮膚や粘膜同士の接触によって感染します。感染者とのキスやマッサージ、口腔内、校門、膣への成功し、性器や肛門に触る(舐める、挿入する)、体液に触れるなど、性的接触による感染が、全体の7割と高い割合を占めており、それが今回の人から人への感染の最大の特徴だと言えます。
 また、飛沫感染(咳やくしゃみなどしぶきを浴びる、至近距離での会話)については、感染者と至近距離で長時間過ごしている場合に限り、リスクが高まります。日常生活における飛沫感染のリスクは、起こりにくいと考えられています。

 また、「すぐに始められる感染リスクを下げる予防対策」として、以下のことが挙げられています。これまで具体的な予防策があまり明らかではなかったと思いますので、とても有益な情報ではないかと。ご参考になさってください。
・手を石鹸や流水でよく洗ったり、アルコール消毒をする 感染している人の使った物の共用を避ける
・お互いの体全体に異変がないかチェックする
・セックスをのパートナーを限定したり、セックスをの相手を少なくする
・感染リスクの高い場所やプレイを避ける
・コンドームを使用する
・具合の悪いときはセックスを控える


 それから、重要な事柄として、HIV陽性の方のエムポックス感染があります。
 昨年の東京都新宿東口検査・相談室城所室長へのインタビューでも述べられていた「HIV検査を受けずにいて、感染に気づかずに発症したり、免疫が低下している方がサル痘に感染してしまうと、命にかかわるようなことになる危険性があるのではないか」という懸念について、「致死率は低く、命を脅かすような病気ではないものの、HIV感染に気づかずに免疫が低下している状態で感染してしまうと、入院治療が必要になる場合や命に危険が及ぶ可能性が高くなります」とはっきり述べられました。
 
 これはガイドブックではなく、ぷれいす東京公式サイト内の「mpox(サル痘)関連情報」のページに掲載されていた情報ですが、有名な医学雑誌『ランセット』に発表された「Mpox in people with advanced HIV infection: a global case series(症状が進行したHIV陽性者におけるMpox)」という研究論文によると、免疫を表す指標であるCD4が350以下の方382名が研究に参加しましたが、そのうち107名(28%)が入院し、27名(25%)が死亡、27名全員がCD4数200未満でした。CD4数200未満の参加者のうちウイルス量が高い群は低い群と比べて死亡率が高くなりました。ART(HIV治療で広く実施されている多剤併用療法)を開始/再開した85名のうち、21名(25%)に免疫再構築症候群が認められ、内12名(57%)が死亡しました。また、CD4数100未満の群は300以上の群と比べて重篤な合併症(皮膚病変、肺病変、敗血症)が多く見られました。「2022年のMPOXのアウトブレイクの38〜50%をHIV陽性者が占めている」という記述もあります。免疫力の低下がMPOXへのかかりやすさや重症化に関係することが如実に示されています。
 ぷれいす東京のサイトでは「この研究は、MPOXの症例においてHIVとCD4数の検査を行なうことが重要であることに加え、HIV陽性かつCD4数が200未満でMPOX感染リスクの高い集団には、ワクチンを優先的に接種する必要があることを示しています」とコメントされています。
 
 ぷれいす東京の生島さんによると、厚労省エイズ動向委員会の報告で新規にHIV感染者と報告された人たちのうち、CD4が200以下の人たちが30%弱にも上っています。さらにエイズ患者(発症でHIV陽性と気づく人)を加えた場合、より高い割合に上るという研究もあります。
「地域に自分の感染を知らないで生活しているHIV陽性者の割合は、100人のうち10人くらいという推計値が複数あります。HIV検査をより多くの人に受けていただき、免疫状態を確認しながら、行動を変える、プラス、ワクチン接種という選択肢を増やすことが必要なのではないでしょうか」


 昨年の欧米でのサル痘(エムポックス)感染者の多くがゲイ・バイセクシュアル男性で、その半数近くをHIV陽性者が占めていました。治療をしてHIVが検出値以下になっていたり、免疫値が安定している方であればよいのですが、HIV感染したことを知らずにいたり、エイズを発症したりして免疫力が著しく下がっている方は、重症化の危険があり、なかには命を落とす方もいるということが明らかになりました。
 4/7のニュースでもお伝えしたように、現状、日本で承認されているワクチンは「生ワクチン」で、HIV陽性者に接種した場合の安全性が明らかになっていません※。であれば、海外の安全なワクチンを輸入し、使えるようにしていただきたいですよね。エムポックスの流行が、どういう方たちにとって「命に関わる」問題なのかということが明らかになったわけですから、「命を救う」ための施策を進めていただきたいです。

※国内での臨床研究で用いられるワクチン「LC16」を製造しているKMバイオロジックスの新島氏は、2022年9月15日に厚労省で開かれた第67回厚生科学審議会感染症部会において、「(LC16は)弱毒生ワクチンになりますので、免疫抑制剤とか免疫機能が低下した方というのは基本的に禁忌となっております。先ほど御質問いただきましたHIV陽性者の方につきましても、臨床試験でこのような方を対象にしたデータというのはとっておりませんので、人でのデータはないというところになりますので、やはり基本的には接種は禁忌ということになります」と明言しています。JaNP+の声明「Mpoxワクチン接種の前に知ってほしいこと ――なぜいま「臨床研究」なのか...背景と疑問」によると、KMバイオロジックスは、長くHIV/AIDSに取り組む国内のコミュニティの間では薬害HIV事件の被告企業・化学及血清治療法研究所(化血研)の系列会社としても知られています。「このような状況になっている理由は未だ不明ですが、国が特定企業の経済的利益を優先し、患者の健康を後回しにしているのではないかと疑わざるを得ません。すでに臨床レベルで安全性・有効性が認められているワクチンを導入する決定を行わずに、HIV陽性者やゲイ・バイセクシュアル男性等を“実験台”にしてまで、あえてリスクのあるワクチン開発を国が後押ししているのは、なぜなのでしょうか?」
 
 
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ゲイバーやイベントなどで掲示できるポスターがリリースされました

 二丁目の「akta」が、お店のオーナー、スタッフ、イベント主催者の方向けにエムポックス(サル痘)の新しい啓発資材となるポスターを制作しました。ゴールデンウィーク周辺で多くのイベントを安全に楽しむために、ぜひお店などでご活用ください。
 こちらにPDFがアップされていますので、ダウンロードして印刷などご自由にお使いください。
 




エムポックスを積極的に受け入れる病院・クリニック(東京都内)

 HIVマップ「エムポックス(サル痘)に感染したかも?と思ったらまずはこちら。症状・受診などのまとめ」で、エムポックスかも?と思った方の受診を積極的に受け入れてくれる病院・クリニックが紹介されていました。たくさんのHIV陽性者の診療を手がけてきた国立国際医療研究センター病院や都立駒込病院など11の病院、同様に性感染症の診療を手がけてたKARADA内科クリニックやプライベートケアクリニック東京など6のクリニックが一覧で掲載されています。まずはお電話でご相談してみてください。

「エムポックス(サル痘)は2022年までは非常にまれな病気でしたので、日本ではエムポックスの患者を診断・治療した経験があるクリニックや病院はそれほど多くありません。そのため、ある程度の受け入れ準備が整ったクリニック・病院を受診したほうが、よりスムーズに診断・治療につながるでしょう。
 東京都内には、エムポックスを積極的に受け入れている総合病院、ゲイフレンドリーなクリニックなどがあります。「エムポックスかな?」と思ったら、まずはこうした医療機関に連絡を取ってみることをお勧めします。そのほかにも、エムポックスに関して保健所が連携している地域の医療機関がある場合もあります。保健所に相談をしてみるのもよいでしょう。
 また、HIV陽性で通院中の人は、エムポックスの症状があるかもしれないと思ったら、HIV感染症の主治医に連絡をとって相談をしましょう」とのことです。


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