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レポート:TOKYO AIDS WEEKS 2017
11月23日(祝)〜26日(日)、中野区でTOKYO AIDS WEEKS 2017が開催されました。映画上映や写真展、トークイベントなど、連日イベントがもりだくさんで、ゲイコミュニティの方々が多数参加し、あたたかで素晴らしい4日間となりました。
2017年11月23日(祝)から26日(日)まで、中野区でTOKYO AIDS WEEKS 2017が開催されました。特集:TOKYO AIDS WEEKS 2017でもお伝えしたように、TOKYO AIDS WEEKS 2017は中野区で開催された日本エイズ学会に関連した市民向けプログラムでしたが、連日イベントもりだくさんで、映画上映や写真展などのお楽しみどころも多く、ゲイコミュニティのパワーを感じさせ、また、あたたかな空気感で、とても有意義でした。レポートをお届けします。(後藤純一)
実際は、いろいろなプログラムが重なってしまっていたので、オープニングの『BPM』上映会と、土日に中野区産業振興センターで開催された映画上映イベントにしか行けていないのですが(Gay Men’s Chorusを聴けなかったのはとても残念でした…)、映画好きとしては、とても楽しく、また、様々な情報も得られて(アップデートされて)、本当に有意義でした。
「OUT IN JAPN」展では
HIV陽性者のメッセージも
中野区は(体感ですが、多くの方がきっと「そうそう」と思ってくださるのではないかと思いますが)日本でも有数のゲイ率が高い(ベッドタウン的な)街で、実際、中野に住んでいてGGに通っているようなガチムチ系な方も来られていたりしました。
中野区産業振興センターは駅にも近く、入ってすぐのホワイエで「OUT IN JAPAN」展が開催されていたり(東京の方を中心に。HIV陽性であることをカミングアウトしている方のメッセージもありました)、喫茶店でくつろぐことができたり、自販機で飲み物を買って屋外の喫煙所で(紅葉を見ながら)友達とお話したりもして、いい場所だなぁと思いました。
土日の間じゅう、会議室ではセミナー的なイベントが、地下の多目的ホールでは映画上映のイベントが開催されていました。日曜の『売買ボーイズ』上映会には、なんと200名くらいの方が行列を作り、会場に入れなかった方もいらしたほどの大盛況ぶりとなりました。
中野区役所に大きなレッドリボンが、そして中野駅やサンモール商店街にTOKYO AIDS WEEKSの垂れ幕が掲げられたことも、感慨深いものがありました。
オープニングの11月23日(祝)は、なかのZERO小ホールでの『BPM』上映会に行き、胸が張り裂けそうな、魂を鷲掴みにされたような気持ちのまま、二丁目のAiSOTOPE LOUNGEに向かい、ジューシィー!20周年パーティに参加しました。ジャンジさんの「Living Together / STAND ALONE」の再演やオナンさん、メロウディアスさんらのショーには間に合わなかったのですが、楽しいDJタイムと、韓国からのゲスト・MOAさんの素晴らしいショーを堪能し、また、久しぶりに会ったお友達としゃべったりして、楽しい夜を過ごしました。
24日(金)は仕事などの都合で参加できなかったのですが、25日(土)・26日(日)は日がな中野区産業振興センターで開催された映画上映イベントを満喫しました。
「Giant Girls」や参加者のみなさん
『始まりの駅』『咲きこぼれる夏』映画上映。『始まりの駅』は、メルボルンに暮らす中華系のゲイの青年が主人公で、リスキーなセックスをしてしまい、感染が怖くてPEP(曝露後予防)を受け、薬の副作用で吐いたり、気持ちを演劇のワークショップで吐き出したり…。結局、恋は実らなかったものの、希望のある終わり方で、素敵な短編でした。韓国のゲイカップルに密着した『咲きこぼれる夏』の方は、昔ウリ専をやっていて、女性からHIVに感染し、チョンノ(ゲイタウン)でひどく冷たい扱いを受け、うつを患ってしまったバイセクシュアルのドゥヨルが、ガブリエルとつきあうようになって少し前向きになれたのですが(一緒に集会に出たり、ビラ配りをするまでになったのは、感動的でした)、ガブリエルも出演した映画『チョンノの奇跡』を一緒に観に行こうと言われて、ドゥヨルはどうしてもチョンノに足を向けることができず(あの頃の怨みが晴れず)、とうとう…。メンタルヘルスを悪化させた方をここまでリアルに描く作品は貴重だと感じました。とても切ないドキュメンタリーでした。
Visual AIDSによる短編映像集『ALTERNATE ENDINGS』と『やめられない習慣』の上映会は、個人的にはとても有意義でした。『ALTERNATE ENDINGS』は、Normal Screenのwebサイトで詳しく解説されていますが、7組のアーティストが実に多彩な方法でHIV/エイズを表現していて、とても興味深く観ることができました(特にアーティストのPVのパロディのような、ある種キャンプなパフォーマンスをしていた『Counterpublicity』が面白かったです)。『やめられない習慣』は2度目でしたが、それでも新たな発見や感動がありました。
『トークバック 沈黙を破る女たち』上映会&トーク。多くの女性たちが過去にレイプされた経験やそれによるトラウマを抱えていたことにショックを覚えつつ、元受刑者だったりHIV陽性だったりする彼女たちが演劇を通じてパワーや自尊心を取り戻し、輝いていく姿に感銘を受けました。レイプの被害者である日本人女性が「セックスは身体と心と魂への感謝。互いの価値を認め合うこと。尊いもの」と語ったシーンには、涙が出そうになりました。この演劇の制作費を集めたのがゲイの方だったというのも、素敵でした。
『PrEP 17』上映会については、たくさん語ることがあります。『PrEP 17』という映画自体は35分という短めの作品で、彼氏ができてPrEP(曝露前予防)を中断した方や、PrEPを始めたけどほぼ唯一HIVに感染した(始める直前に陽性になっていたと考えられる)方へのインタビューなどが盛り込まれていたほか、ロンドンのゲイタウンにあるクリニックのことが紹介されていて(PrEPは3ヵ月ごとの定期検診を受ける必要があるため、多くの人がここを訪れるようになりました)、簡単に性感染症のセルフチェックができる機械が設置されていて、予防や治療、そして行動変容(セーファーしなきゃという意識の変化)にもつながったことが描かれていました。なお、このクリニックでは、HIV新規感染が93%減少した(2017年10月にはたった4名だった)という報告もありました。
上映の前後に、医師の方からPrEPについての詳細な説明があり、また、砂川秀樹さんや主催したカラフル@はーとの方が登壇してのトークセッションもありました。HIVの感染のメカニズムの観点から言うと、ウイルスが体の中に入ってからやっつけるのは大変だけど、PrEPをしていると直腸内での薬の濃度が非常に高くなり、比較的簡単にやっつけられるということ、毎日の服薬を7割以上の方が継続できていて(日本でも治療としての抗HIV薬の服用は9割の方ができている)、飲めている方の9割以上が予防に成功しているということ、PEP(曝露後予防)の場合、弱い薬だとウイルスが耐性を持つ(薬が効かなくなる)可能性があること、などがわかりました。同時に、課題もたくさんあり、コンドーム使用率の低下で他のSTIへの感染が増加する懸念、腎障害や骨量減少などの副作用(これはツルバダという薬の話ですが、現在、この副作用を軽減する薬も開発されていると、別の先生からお聞きしました)、中途半端に服用することで耐性ウイルスができてしまう懸念、日本では予防に保険が適用されず、ツルバダを正規価格で購入すると毎月11万円以上かかってしまうこと、コミュニティと医療機関が協働して体制を整えていく必要があること、などでした。
トークセッションの最後に、メンタルヘルスや依存症に関する自助グループである(こうした活動は本当に大切で貴重だと思います。全面的に応援したいです)カラフル@はーとの方が、今回このプログラムを企画したきっかけは、会に参加しているゲイ・バイセクシュアル男性の方から(メンタルヘルスの悪化や依存症や様々な心理状況で、生でヤリたがる相手を断れなかったりして)「どうしてもコンドームが使えない」という声をたくさん聞いていたからです、とおっしゃっていました。それはとてもリアルな声だし、コンドームが使えないことをお説教のように非難するのではなく、切実さに寄り添い、仲間のことを思って、ひとつの希望としてPrEPを学ぶ機会を設けた、ということに感銘を受けました。
コミュニティ内では必ずしも日本での導入に賛成する方ばかりではないようなのですが、現実問題としては、すでにツルバダ(やジェネリック薬)を海外から個人輸入している方もいらっしゃるそうで、今後そうした方がどんどん増えていくだろう、そして病院にアクセスせずにPrEPをやってしまうことによって、開始前に検査を受けて陰性であることを確認するという前提をスルーしたり、中途半端に飲んだり飲まなかったりすることで耐性ウイルスができてしまう懸念もあり、そうした事態を避けるためには、日本でもこれをきちんと導入する(あるいは英国のように、制度が固まる前にコミュニティ内で正しい情報を伝えるWebサイトなどを作り、支援する)方向に進んだほうがよいのではないかと思いました。
このように、ゲイ・バイセクシュアル男性だけでなく女性やトランスジェンダーのことも、また、日本だけでなく韓国や欧米の事情も知ることができ、最新の(欧米で絶大な効果を上げていて、台湾でもすでに始まっている)予防法のことも深く理解することができて、本当に有意義でした。また、トークセッションに登壇された方だけ見ても、お医者さん、研究者の方、活動家の方、セックスワーカーの方、映画監督の方、ゲイ、トランスジェンダー、女性、外国人の方、本当にいろんな方たちがいらして、HIVイベントの面白いところ、醍醐味の一つだと感じました。
TOKYO AIDS WEEKS 2017は、どなたでも参加できる市民に開放されたプログラムでしたが、中野区への働きかけには石坂区議が尽力し、日本エイズ学会の代表はぷれいす東京の生島さんが務め、TOKYO AIDS WEEKSの代表はTRP共同代表の山縣さん、事務局長は日本HIV陽性者ネットワークJaNP+代表理事の高久さんが務め、スタッフとしても大勢のゲイの方が参加していて、ある意味、ゲイコミュニティの力でこの素晴らしいイベントを運営し、支えていたと言えると思います。そのことを誇りに思います。みなさん、本当におつかれさまでした。ありがとうございました。
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