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レポート:カナイフユキ個展『ゆっくりと届く祈り』、『SOMOS 多様性とLGBTQ+カルチュラル・ナラティヴ』、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展《人魚の領土ー旗と内臓》

カナイフユキ個展『ゆっくりと届く祈り』、『SOMOS 多様性とLGBTQ+カルチュラル・ナラティヴ』、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展《人魚の領土ー旗と内臓》のレポートをお届けします。

レポート:都内で開催中のアート展

現在開催中の、カナイフユキ個展『ゆっくりと届く祈り』、『SOMOS 多様性とLGBTQ+カルチュラル・ナラティヴ』、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展《人魚の領土ー旗と内臓》のレポートをお届けします。GWの休みの日、昼間は特に何をするか決めてないけど、どうしよう?という方など、ふらっとお出かけしてみてはいかがでしょうか。



カナイフユキ個展『ゆっくりと届く祈り』

 「個人的な体験と政治的な問題を交差させ、あらゆるクィアネスを少しずつでも掬い上げ提示できる表現をすることをモットーに、イラストレーター、コミック作家として活動する」カナイフユキさんは、直接はお話したことはないのですが、Twitterはフォローしていて、今回の個展はとてもいい機会だと思い、TRP会場からの帰り道に渋谷PARCOに寄って、個展を拝見しました。
 今回のフライヤーにもなっている赤ちゃんの絵のような、とてもやわらかくて優しいタッチの絵もあれば、アメコミ風のポップな作品もあり、漫画もあり、写真の周りにメモ(言葉)が付箋のように貼られている作品などもあって、多彩でしたが(きっと「これ好き」と思える作品に出会えると思います)、一貫して、ご自身の体験や日々感じていることと、クィアに関する社会的なメッセージや思いが表現されていると感じました。
 一つひとつ、どれも素敵だったのですが、特に印象に残ったのは、会場の真ん中に大きく展示された作品です。お墓の前で、男性が横たわる男性(亡くなっているようにも見えるし、眠っているようにも見える)を抱きかかえていて、墓碑銘にはSEXISM(性差別)、HETEROSEXISM(強制異性愛主義)、TRANSPHOBIA(トランスフォビア)、PATRIARCHY(家父長制)、HOMOPHOBIA(同性愛嫌悪)、MISOGYNY(女性差別)と書かれています。これまでヘイトクライム(ゲイバッシング)などで亡くなった方たちへの追悼であり、静かな抗議にもなっているような、美しい作品でした。その左隣には、三島由紀夫やデレク・ジャーマンがフィーチャーした「聖セバスチャンの殉教」が、右隣には女性の力強さを表現したと思われる絵(一瞬、メイプルソープが撮ったリサ・ライオンかな?と思ったのですが、違うっぽい…)が並べられ、さらにその上に、ジョン・ウォーターズの肖像画、心臓の絵、そして『さらばわが愛 覇王別姫』のレスリー・チャンの肖像画(3枚ともハートマークの中に描かれています)が並べられています。一面に古今のゲイカルチャーへの愛やリスペクトが表現されているような、とても印象的な壁面でした。
 ​会場では展覧会開催記念グッズや、展覧会に合わせてカナイ氏自らが執筆した短編小説や小説内容をイメージしたイラストなどの作品が収録されたミニブックも販売されているそうです(うっかりして見逃してしまいました…)





カナイフユキ個展『ゆっくりと届く祈り』
会期:2022年4月22日(金)~5月9日(月)
会場:渋谷PARCO B1F GALLERY X BY PARCO
営業時間:11:00-20:00 
無料

 
 なお、同じ渋谷PARCOの1Fの外壁(スペイン坂に近い、駐輪場のところ)に、美輪様の『愛する権利』の歌詞がART WALLとして展示されています。「しょせん、歌詞でしょ?」と思うかもしれませんが、「人が人を愛することは悪ではない罪ではない」「男と女が 女と女が 男と男が」「どんな力も奪えるものか この権利を守りぬくのだ やっと手にした愛の権利を あなたを愛する権利を」という言葉が、本当に大きな字で展示されている光景には、グッときたし、この詞を選んでくれた方の思いに感謝したくなりました。想像以上に、よかったです。ぜひカナイさんの個展とあわせてご覧ください。

美輪明宏「愛する権利」詞のART WALL
会期:2022年4月15日(金)〜5月9日(月)
会場:渋谷PARCO 1F 壁面 ART WALL
無料





SOMOS 多様性とLGBTQ+カルチュラル・ナラティヴ

 スペイン大使館が、スペインと日本のLGBTQ+の歴史や文化についての展覧会を開催しています。
 スペインのパートは、過去50年にわたる映画、文学、視覚芸術、舞台芸術、スポーツやファッションなどの様々な分野におけるLGBTQ+の文化的表現をパネル的に展示したものがメインで、例えば映画では、ペドロ・アルモドバルが大きくフィーチャーされていたり、2005年の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭で上映された名作『ベアー・パパ』のポスターなども見ることができます。ドラァグクイーンもたくさん描かれていて、ウィッグや、実際に着てみることができる衣装なども展示されています。
「日本との文化間対話を実現するため」ということで、LGBTQ+をテーマにした日本のアーティストたちの作品も展示されています。三島由紀夫と横尾忠則を題材にした作品や(映像が面白かったです。神社で、がちむち男性が六尺一丁で、とか)、ダム・タイプ、アキラ・ザ・ハスラー、ブブ・ド・ラ・マドレーヌ、森栄喜、甲秀樹といったアーティストの作品もご覧いただけます。漫画では『弟の夫』や『きのう何食べた?』、映画では『片袖の魚』などが紹介されていました。あと、高橋睦郎さんの詩がとても素晴らしかったです。
 実はオープン前夜のレセプションに行ってきたのですが、オープンリーゲイのメイクアップアーティスト&僧侶である西村宏堂さんがゲストとしてこのようなお話をされてました。「18歳のときにスペイン旅行をして、セルヒオという友達ができて、ゲイクラブに誘ってくれました。当時の私はゲイクラブに行くなんていけないことだと思っていて、心配だったのですが、セルヒオのお母さんが、『ちょっと待ちなさい』と呼び止めて、『これを持って行きなさい』と言って、ハモンが挟まったサンドイッチを渡したんですね。セルヒオのお母さんはゲイである息子を受け容れ、応援し、愛情を示してくれていた、その様をみて、僕もカミングアウトしてもいいかもしれないという希望が芽生えたんです」 日本とスペインのLGBTQの交流の場にふさわしい、素敵なエピソードでした。そんな宏堂さんは今回、子どもの頃に見ていたアニメでいつもクィアが悪者のように描かれていたのを超克して、リベラドールというクィアのヒーローをデザインし、展示しています。LGBTQを解放するヒーローです。こちらもぜひご覧になってみてください。
 観るところが本当に多い、素晴らしい展覧会です。こんなに充実した展覧会を、スペイン大使館が、無料で開催しているというところがまた素晴らしい。感謝です。グラシアス!
 なお、スペイン大使館に行かれる際は、六本木駅ではなく、多少遠回りになっても六本木一丁目から行ったほうがいいです(六本木駅からだと、ものすごい坂を登ることに…つらいです)









SOMOS 多様性とLGBTQ+カルチュラル・ナラティヴ
会期:2022年4月27日(水)〜6月8日(水)
会場:スペイン大使館 エントランスホール(東京都港区六本木1-3-29)
開場時間:月〜木 10時-17時、金曜 10時-16時
入場無料・予約不要





ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展《人魚の領土ー旗と内臓》

 ハスラー・アキラさんの個展も度々開いてきた素敵なギャラリー、六本木のオオタファインアーツでブブ・ド・ラ・マドレーヌさんの個展《人魚の領土ー旗と内臓》が開催されています。
「人魚の旗は
 死者たちへの哀悼
 不服従のしるし
 そして
 地上の呪縛からの解放のお祝い」
という言葉にまず感動させられます。女性でありセックスワーカーでありドラァグクイーンであるブブさんの、女性や性的マイノリティなど「地上」の掟や規範に苦しめられ、周縁化されてきたあらゆる人々を「人魚」に喩え、追悼や祈り、闘いへの連帯、そして祝福やエールの気持ちを込めたメッセージだと感じました。
 人魚とは、死の国であり生命の源でもある海と、人間たちの文明や社会が複雑に圧倒的に聳え立つ陸の狭間で生きている存在です。ブブさんは、人魚のお腹(子宮?)から、たくさんの旗を纏った地球のような球体が表われ出る絵を、繰り返し描いています。このイメージは、まさにブブさんが、ダムタイプの記念碑的な作品《S/N》で、『アマポーラ』の甘い調べをバックに全裸で横たわり、股間からスルスルと万国旗を繰り出して舞台をゆっくりと横切るという、あまりにも素晴らしいパフォーマンスで全世界を号泣させた、あのシーンにつながります。
 旗は、ブブさんにとって特別な意味を持っているのです。『美術手帖』のインタビューでブブさんは、「旗はLGBTQのプライドパレードなどにおける「差別への抵抗と自分たちへの祝福」の象徴でもある」と語っています。たくさんの三角の旗のなかにピンクと黒の旗が見えるのは決して偶然ではありません。
 脱皮した後に残された人魚の皮を表現した大きな金網からこぼれ落ちるカラフルな鱗たちは、よく見ると、サテンだったり、ファーだったり、スパンコールだったり、ドラァグクイーンの衣装のような素材で作られたりしています。ピンクのスパンコールを白いレース生地でくるんだものは、まるで赤ちゃんのように見えます。これは人魚の鱗というより、人魚がお腹を痛めて産んだ、宝物のようなものたちなのではないかと思いました。
 そうした作品が展示された会場内を、ひとつのミラーボールがゆっくりと回りながら照らしています。このミラーボールは、堂山のEXPLOSIONでの「RED HOT」などのクラブイベントや、MASH大阪の「switch」、そして東京(や大竹)でも様々なドラァグクイーンのイベントを開催してきたアラタさんから借りたそうです(つまり、たくさんのゲイの方たちを照らしてきたミラーボールです)
 ゲイに対する限りない愛やリスペクトがあふれています。ブブさんからのメッセージをぜひ受け取ってください。





ブブ・ド・ラ・マドレーヌ個展《人魚の領土ー旗と内臓》
会期:2022年4月9日(土)〜5月28日(土)
会場:オオタファインアーツ(東京都港区六本木6-6-9ピラミデビル3F)
開館時間:11:00-19:00
日・月・祝休廊 
※GWは4月29日〜5月5日の間、休廊だそうです。5月6日(金)7日(土)は通常通りオープンします


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