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レポート:金沢プライドウィーク2022(3)金沢の伝統文化を楽しむ体験・ツアー

9月16日〜19日、4日間にわたって開催された金沢プライドウィーク2022のレポートをお届けします。第3弾は19日に開催された「金沢伝統文化レインボー体験」と「美味しい金沢プライド巡り」の模様です。金沢の街の魅力やあたたかさが感じられるとても楽しい時間でした。

レポート:金沢プライドウィーク2022(3)金沢の伝統文化を楽しむ体験・ツアー

 昨年、北陸初のプライドイベントとして金沢プライドウィークが開催され、(コロナ禍の影響で日程変更を余儀なくされたにもかかわらず)初回にして大成功を収めました(レポートはこちらこちら)。今年も9月16日(金)〜19日(月祝)の4日間にわたって金沢プライドウィーク2022が開催されました。レポート第3弾は「金沢を楽しむLGBTQ+フレドリーツーリズム」です。
 今年の金沢プライドウィークは、(ロバート キャンベルさんも絶賛していたように)古都・金沢の伝統産業×LGBTQのコラボに力を入れていて、それが見事に成功していました。「伝統」というと、保守的でLGBTQとは相性が悪いものというイメージがあると思うのですが、それを覆し、400年もの歴史を誇る老舗菓子司「森八」をはじめ様々な伝統産業のお店がレインボーカラーに塗り替えられ、LGBTQフレンドリーな伝統文化体験プログラムが実施されたり、老舗の銘店を巡るLGBTQバスツアーが開催されたりしました。19日(月祝)の「森八」オリジナル上生菓子作り体験と、ブルボンヌさんがバスガイドをつとめる「美味しい金沢プライド巡り」の模様をレポートいたします。
(写真・文:後藤純一)


「森八」オリジナル上生菓子作り体験
 
 今回企画された「金沢伝統文化レインボー体験」は、「森八」のオリジナル上生菓子作り体験のほか、「加賀友禅 本格彩色体験」「レインボー水引縁起ストラップ作り」「金沢塗り体験」「誰でも簡単!型染ミニトート彩色体験」「陶芸ろくろ体験」など、実に多彩なプログラムが用意されていたのですが、バスツアーの前に、「森八」オリジナル上生菓子作り体験だけ参加させていただきました。
 寛永2年創業、約400年の歴史を誇る加賀藩御用菓子司「森八」。日本三名菓の一つに数えられる「長生殿」でも有名です。そんな「森八」は金沢プライドウィークに合わせてオリジナルのレインボーカラーの上生菓子を作ったり、パレードにもブースを出店してくれただけでなく、パレードの一行が差し掛かるとお店の方たちが外に出て手を振ってくださったりと、本当にフレンドリーでビックリしました。こちらの記事にもあるように、17日には小島慶子さん、ロバート キャンベルさん、ブルボンヌさんらがお菓子作り体験に挑戦し、ニュースになりましたが、私たちも19日には同じようにレインボーカラーの上生菓子作りを体験させていただきました。
 
 取材ということで現場にいて写真を撮ったりするだけの予定だったのですが、女将さんが一緒に作りませんか?と言ってくださって、急遽、私も参加させていただくことに(そのご親切に感謝申し上げます)。名古屋から来られたASTAの方たちが混ぜてくださって、いっしょに和菓子作りを楽しむことができました。
 あらかじめ用意された丸いあんをのばしたり、形を整えたり、レインボーの6色(全てくちなしとか天然の着色料を用いているそう)のあんを細長くのばして並べ、端っこを切って上にのせて、最後に透明な丸いパーツを飾って完成、と職人さんがお手本を見せてくれたのですが、とてもできる気がしませんでした…とても繊細な作業で、手先が器用だったりセンスがよくないと綺麗には仕上がらないなぁと思い、実際、(料理は毎日のようにしていますが)自分が作ったものは寿司か蒲鉾かという角ばった形で、全く美しくはなりませんでした。どちらかというと「工作」とか「技術」のようなスキルが必要なのかもしれないと思ったり(苦手分野)
 もう一品、ピンクを基調とした花びらのような形のお菓子に挑戦。白と黒のあんを丸めて、棒で切れ目を入れて、黄色と緑のあんを小さくちぎって花粉のようなイメージで真ん中に少しだけ載せるというものですが、切れ目も均等じゃないし、全然美味しそうに見えないシロモノになってしまい…それでも、みんなでワイワイ言いながら作るのはとても楽しかったです。
 最後に抹茶をいれていただいて、和菓子といっしょに美味しくいただきました(自分で作ったものはお土産としてお持ち帰りもできます。金沢レインボープライドのロゴが入った特別な袋を用意してくれました)
 とても楽しく、職人さんのスゴさもわかる、有意義な体験でしたし、何より、「森八」の方たちがとてもフレンドリーで、親切で、その心遣いにいたみ入りました。今度から金沢土産は「森八」にしようと心に決めました。










バスツアー「美味しい金沢プライド巡り」

 「美味しい金沢プライド巡り」は、こちらの記事でも紹介された金沢のLGBTQフレンドリーな旅行会社「UIGI(ゆういぎ)」が主催していて、社長の直海さんやブルボンヌさんがガイドをつとめ(金沢レインボープライドの奥村さんも地元金沢の歴史や文化について話してくれました)、老舗の銘店を巡りながら金沢の魅力を堪能できるような楽しいツアーでした。
 
 10:30過ぎにバスが「森八」まで迎えに来てくれて、ツアーがスタート。ASTAのみなさんやエスムラルダさん、WAKUWAKUサセコさんとその彼氏さん、よしひろまさみちさん、東京から来ていたゲイのお友達なども参加していました。
 道中、金沢の街についてのガイドもためになりましたし、金沢は20分行けば山、15分行けば海、というお話にブルボンヌさんが「ユーミンの『サーフ天国、スキー天国』を楽しめるんですね!」という素敵なコメントを返してくれたり、笑いが絶えませんでした。事前の告知に書かれていた「ゲーム」も行なわれたのですが、予想の斜め上をいく「ゲーム」で、面白かったです。初めての方とも気さくに話せて打ち解けられるような、終始なごやかで和気藹々とした雰囲気でした。


 
 最初に、お寺がたくさん集まる地区の中にある発酵食品で有名な400年の歴史を誇る「四十萬谷本舗(しじまやほんぽ)」へ。歴史を感じさせる建物で、趣がありました(掛軸や日本刀などもさりげなく飾られていました。たぶん年代物だと思います)。店主さん自ら、発酵とはどういうことか?といった解説をしてくださって、かぶら寿司、クリームチーズ、大根に身欠きニシンをのせたおつまみ的なものを甘酒といっしょにいただいたのですが、どれも絶品でした。なれ寿司などの発酵ものが苦手な方でもきっと大丈夫だと思います。とてもクリーミーで美味しかったです。









 
 次に、やはり400年の歴史を誇る老舗酒蔵「福光屋」へ。
 酒蔵に入る前に、通りに面して、お水が湧き出ていてどなたでも飲めるようになっているところがありました。白山から湧き出る、地層を通って100年かかって金沢の人々に届く天然のお水です。このお水があるから、この美味しいお酒ができます。でもお水自体は自然の恵みなので、地域のみなさまにも還元したいということで、このようにしているんだそう。入り口にはしめ縄(悪い菌が入らないようにという願掛け)や杉玉(お酒の神である三輪神社の境内の杉。毎年11月に変えます。防腐効果もあるそう)も飾られていました。 
 中に入ると、最初に「福光屋」の日本酒づくりを紹介する映像が上映されたのですが、酒造りの職人である「杜氏」の方たちの中でひときわ精悍な、俳優かと思うくらいの堂々とした風格の方(ゲイ的に言うと野郎系イケメン)に目がハートになっていたところ、なんと、上映後にご本人が登場し、会場がにわかに色めき立ちました(“黄色い声”が上がりました)
 4種類の日本酒を飲ませていただきました。蔵元限定「純米大吟醸 金澤」、「加賀鳶」純米吟醸冷おろし、有機純米酒「禱と稔(いのりとみのり)金紋錦」、純米大吟醸原酒「瑞秀 MIZUHO」という、いずれも名品であることがよくわかる、フルーティだったり、こくがあったり、たいへん高級感のある味わいでした(実は日本酒苦手なのですが、すごく美味しく感じました) 
 そのあと、1階のショップに移動し、お買い物タイム。「UIGI」さんが日本酒の「加賀鳶」のスパークリングをプレゼントしてくれて、みんなで乾杯しました。シャンパンよりも飲みやすくて芳醇な味わいでした。そして、イケメン杜氏さんを囲んで写真を撮ったり、日頃から麹に触れているおかげでしっとりしているという御手に触らせてもらったり、なんだかアイドルの握手会みたいな雰囲気に(そしてみなさんガンガン買い物もしてました。その辺りもファンミーティングっぽさ、ありました。ちなみにマスクを取ったお姿はこちら)。とても楽しかったです。










 
 最後に、金沢港の方に移動し、醤油醸造店が集まる大野町という町にある老舗の割烹寿司屋「宝生寿し」へ。日本酒ですっかりゴキゲンになった一行は、贅沢な懐石コース料理に舌鼓を打ちました。こちらも板前さん(一般的なイケメンさん)が登場し、食材について説明してくれました。のどぐろ、アオリイカ、バイ貝、カレイの煮付けなど、金沢の豊富な海産物を使った、感動的に美味しいお料理でした。お食事をいただきながら、松中権さんが共同代表のダイアナさんと金沢でどのように知り合ったのかというエピソードを話してくれたり、ドラァグクイーン談義が繰り広げられたり、なごやかに談笑しました。
 「宝生寿し」は建物も趣があってとても素敵でした。
 すっかり満足したツアー客のみなさんは、お店の前で記念写真を撮ったあと、一路、金沢駅へと向かいました。










 
 仕事でツーリズムにも関わってきて、いろんなツアーを体験していますが、今回のバスツアーは日本を代表するドラァグMCであるブルボンヌさんがバスガイドということもあって、笑いの絶えない、ゲイテイストなツアーで(ゲイだけじゃなくどなたでも楽しめると思いますが)、こんなに楽しくて美味しくてゲイテイストで「有意義」なツアーはなかなかないんじゃないかなと思いました。
 企画してくださったUIGIや金沢レインボープライドのみなさんに感謝です。




4日間の金沢プライドウィークを振り返って

 金沢の街の大きな魅力の一つである伝統文化とのコラボを見たことは、今年の大きな収穫だったと思います。
 パレードのステージでの箏の演奏&加賀友禅(黒留袖)とドラァグクイーンのコラボには「素敵!」というだけでない、感動に近い素晴らしさがありましたし、「森八」のような老舗の銘店がプライドのためにオリジナルの和菓子を作り、ブースを出展し、パレードで手を振ってくれて、和菓子作り体験もやってくれたというサポーティブな姿にも感銘を受けました。
 ”伝統”を言い訳にして同性婚の議論が進まなかったり、どうしても伝統という言葉には保守的な響きを感じてしまいますが、こうして(ロバート キャンベルさんの言葉を借りれば)金沢の文化の一丁目一番地であり、金沢の人々の誇りであり、アイデンティティの一部ともなっているような加賀藩御用菓子司や加賀友禅の着物とLGBTQとのコラボが実現したことは、決して小さくない意義があると感じます。2015年の調査では北陸は「近所の人が同性愛者だったら嫌だ、どちらかといえば嫌だ」と答えた人の割合が全国で最も高い地域でした。それが、昨年来の「パートナーシップ宣誓制度」の実現や金沢プライドウィークのムーブメントによってずいぶん変わったと思いますし、今回の伝統文化とのコラボによって、さらに保守的な層の人々の意識が変わっていくことにもつながるのではないかと思いました。
 
 レポート(2)でもお伝えしましたが、パレードのフロートのクオリティの高さも光っていました。
 3つのDJフロートが出て、それぞれ音楽もパフォーマーも異なっていて多様性があり、音がない(よく「お通夜のよう」と言われるような)エリアが全くない、全員が音楽とともに楽しく歩けるような配慮がなされた満足度の高いパレードでした。素晴らしかったです。トランスジェンダーと銘打ったフロートもこれまでにあまりなかったと思いますが、ちゃんとトランス女性&トランス男性のDJさんがプレイしていましたし、画期的だと感じました。
 トラックの荷台に単管を組んで、スピーカーやDJの機材を積んで、風船などで飾り付けをして、という作業を朝早くからやる大変さをよく知っているだけに、全てのDJフロートにリスペクトを感じますし、今回はどのフロートも本当によく音が出ていて(音飛びなどもなく)、乗っているパフォーマーのみなさんも素晴らしく、賞賛しかないです(なので、年甲斐もなく踊ってしまい、足を痛める結果に…)
 
 昨年は、北陸初のパレードを開催するという意気込みだけでも拍手モノだったのに、それだけでなく(コロナ禍の影響でプライドウィークが前半、後半に分かれてしまうなど、不測の事態に見舞われながらも)豪華ゲストを招いての様々な関連イベントも催され、初めてとは思えないような充実したプライドウィークになりました。今年は4日間、つつがなくイベントが開催され、(幸いにも台風の影響を受けることもなく)おそらく主催者のみなさんもやっと理想的なかたちでプライドウィークを開催できたと思えたのではないかと思います。
 
 正直に言うと、行く前は、(沖縄とかならいざ知らず)4日間も金沢にいて楽しめるの?とか、(今年は特に)札幌のパレードを差し置いてまで金沢に行く意味は?と聞かれたら返答に困っていたかも…という感じだったのですが、どうしてどうして、本当に楽しく過ごすことができましたし、今は自信を持って金沢プライドウィークの魅力を語れます。
 
 これまでも、例えば以前のレインボーマーチ札幌では、土曜日に前夜祭のパーティがあって、日曜日にパレードとアフターパーティがあって、祝日の月曜はみなさん観光を楽しんだり時には温泉ツアーなども企画されたり、という2泊3日の充実したプライドウイークエンドを満喫でき、季節的にもこの時期の札幌はベストということもあり、毎年全国から何百人もが札幌に旅行していた(定番のゲイ旅行の一つになっていた)と思いますが、金沢プライドウィークもその域に達したのではないかと思います。パレードも、映画祭も、HIV関連のイベントも、豪華ゲストを迎えたトークイベントもあり、さらには観光バスツアーもあって、かつ(土曜の夜、ゲイバーに飲みに行きたい人は行ってくださいねという)バッファもあって、3泊4日の旅を十二分に満喫できるようになっていました。金沢という街の観光とプライドイベントを楽しみたいLGBTQの方たちにとって本当に魅力的な、充実したプランニングでした。さらにプラスしてクラブイベントも開催されるようになると、海外からのお客様もおもてなしできるようになるだろうなと思いました(コロナ禍が収束していないので今はまだ難しいと思いますが、来年以降きっと…)
 
 今年最も残念だったのは、やはりさっぽろレインボープライドと重なってしまったことでしょう。
 今や全国各地でプライドイベントが開催されるようになっていて、真夏や冬の時期を避けて春と秋に開催が集中し、なおかつ会場の予約(場所取り)の都合などもあって、どうしても日程が重なるケースも出てきてしまう状況になっています(特集でもお伝えしていますが、このあとも10月9日の大阪と三重のパレード、11月6日の九州レインボープライドと奈良、和歌山のレインボーフェスタが同日程になっています。もしかしたら11月20日も…)。個人的には、来年こそは札幌にも行きたいですし、うまく日程がバラけるとうれしいですが、こればっかりは仕方ないですよね…。
 よく考えてみると、海外では、例えばニューヨークとサンフランシスコは毎年同じ日ですし、多くのパレードが6月に集中的に開催されます(プライドパレードはそもそもストーンウォール1周年を記念して開催されるようになったわけですから、当然そうなりますよね)。日本のようにバラけているほうが珍しいのです(2000年代から、6月はNLGR、7月は映画祭、8月は東京のパレードとレインボー祭り、9月は札幌のパレード、10月は大阪のPluS+やパレード、というような調整が自然と行なわれていました。みんなが各地のイベントに行けるようにという配慮ですよね)
 
 来年のスケジュールがどうなるかまだわかりませんが、もし金沢のプライドに参加したことがない、金沢を旅行してみたいという方、来年はぜひご検討ください。きっと充実した旅になると思います。
 
 
 最後に、これまで月1回開催されてきたLGBTQやその家族・友人、支援者の方たちなどが安心して話したり相談したりできる「にじのま」というミーティングを、金沢の町家を借りて常設化し、いわば金沢版のコミュニティセンターを作ろうとするプロジェクトが現在進行中です(このような場所があると、来年以降、パレードなどのイベントもやりやすくなります)。よろしければぜひこちらをご覧いただき、ご支援をお願いいたします。

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