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【追悼】エイズ危機下での政府の無策に抗議し「ACT UP」を立ち上げた偉大な活動家、ラリー・クレイマー

 著名なゲイの活動家で、1980年代のエイズ危機下での政府の無策に抗議するべく「ACT UP(アクトアップ)」を立ち上げ、また、謎の奇病でバタバタと亡くなっていく80年代初めのゲイコミュニティのリアリティを描いた傑作『ノーマル・ハート』などの作品で多大な功績を残したラリー・クレイマーが5月27日、ニューヨーク市内で肺炎のため亡くなりました。享年84歳でした。
 
 ラリー・クレイマーはもともと劇作家(脚本家)で、1971年にはD・H・ロレンスの小説を映画化した『恋する女たち(Women in Love)』でアカデミー賞脚色賞にノミネートされています。

 1980年代初頭、ゲイの間で免疫が破壊される謎の奇病が流行しはじめ(「ゲイのガン」などと言われ)、バタバタと倒れ、亡くなっていったにもかかわらず、政府は完全にゲイを見殺しにしていました。ラリー・クレイマーはニューヨークのゲイコミュニティの仲間たちとともに1982年、初の支援団体である「GAY MEN’S HEALTH CRISIS」を立ち上げました。この当時のことを描いたのが1985年の戯曲『ノーマル・ハート』です。
 しかし、死者は増える一方で、政府は何ら効果的な施策を打たず、ラリーは1987年4月、「ニューヨークのような街で今、エイズが若い男女の最大の死亡原因になっているというのに、政府も社会も何もしようとしない。街頭で警鐘を鳴らすのを手伝ってほしい」と渾身の演説を行い、多くの人々の心を奮い立たせ、ゲイを見殺しにする政府や製薬会社などに直接的に訴える団体「ACT UP(アクトアップ)」を立ち上げました。結成から2週間後、彼らはウォール街で、高額だったエイズ治療薬やアメリカ食品医薬品局に対する抗議運動を行い、それはアメリカのメディアに広く取り上げられ、「ACT UP」はサンフランシスコなどの国内各都市、さらには世界へと広がっていきました(パリの「ACT UP」を描いた映画が『BPM(Beats Per Minute)』です)。そして、HIV陽性者、HIV/エイズ研究者、そして大手製薬会社の関係を変え、さらにはエイズ患者と医療従事者の関係をも変える、重要な功績を残し、米国国立衛生研究所に対してエイズ研究にもっと投資するよう働きかけ、この結果、エイズ治療薬の認可が加速されることとなりました(1990年代半ばにはHAARTという画期的な治療法が確立し、陽性者が生き延びることができるようになりました)
 
 2011年、『OUT』誌の「OUT100」特集号で「THE LEGEND」として表紙を飾りました。
 2013年にはパートナーのデヴィッド・ウェブスターと結婚しています。
 2014年には『ノーマル・ハート』のテレビ映画が制作され、エミー賞を受賞しています。
 ラリー・クレイマーは今年、エイズ禍とコロナ禍の両方を経験するゲイピープルを描く『An Army of Lovers Must Not Die』という新作を書き始めていました(完成を見なかったのはとても残念です。読んでみたかったです)
 
 ラリー・クレイマーは、自身もHIV陽性者でありながら、たくさんの友人たちがエイズで亡くなっていくのを黙って見ていられず、何とか命を救いたいという一心で、舞台作品を書き上げ、仲間たちに呼びかけ、アメリカ社会(というより世界)を変えていきました。『UNITED IN ANGER –ACT UPの歴史-』のなかで、あるゲイの方が「ぼくはACT UPのおかげで治療にアクセスできた。もし何もせずにいたら、今こうして生きてないと思う」と語っています。ラリーが立ち上がらなかったら、もっともっとたくさんのゲイたちが亡くなっていたことでしょう。彼は多くのゲイたちの命を救った恩人であり、最も偉大なエイズ活動家の一人なのです。
 
 なお、ラリー・クレイマーの訃報を伝える記事では、1988年、アンソニー・ファウチ氏(米国のエイズ研究の権威で、現在、米政府の新型コロナウイルス対策を率いている方。米国立アレルギー感染症研究所長)に対して「無能な愚か者」で殺人者だと罵ったということがやたらとクローズアップされていますが、『UNITED IN ANGER –ACT UPの歴史-』で描かれているように、それくらい言わないと動かない(仲間がどんどん死んでしまう)ほど、当時の政府のエイズ対策はひどかったのだということをご承知いただきたいと思います。のちに二人は和解し、2002年にファウチ氏は「米国の医学界には二つの時代がある。ラリー氏前と後だ」と語るほど、ラリーの功績を認めています。 

 アンソニー・ファウチ氏は5月28日、PBS NewsHour(米公共放送の有名なニュース番組。30分1テーマのみで、ここで取り上げられるのは非常にニュースバリューが高いと認められたことを意味します)に出演し、ラリー・クレイマーへの思いを熱く語りました。
「とても悲しい日だ。私にとってだけでなく、ラリーと関わりをもってきた大勢の人々にとって。彼は普通じゃないキャラクターだった、いい意味で。火の鳥のようだった。エイズ禍の初期の頃、とんでもない勇気をもって声を上げ、システムを変えようとしていた。政府機関の者として言うが、彼は敵だと思っていた。私は彼のことを敵だと思っていなかったが、彼は突っかかってきた。攻撃してきた。殺人者だと。とんでもない間抜けだと。公にだ」
「だがその後、彼の言うことに耳を傾けるようになった。彼は、エスタブリッシュメント側の人間が耳を傾けるべき、重要な指摘をしていると気づいた。私たちは次第に、友達になった。親友にすらなった。共にエイズ禍と闘った。そして、それは…愛に変わっていった。私はこの男のことを愛していた。たぶん彼も同じだったろう。私たちは共にエイズと闘った。それは興味深い旅だった。全く希望がなかった、私たちが敵どうしだった時代から、私たちが極めて効果的な薬を得ることができるようになり、多くの命を救えるようになる時まで」
「私たちは歴史を振り返りながら、その道中がいかに素晴らしかったかを語り合う年寄りの茶飲み友達のような仲だった。だから、彼を喪ったことは、本当に悲しい。彼は彼はまさにずば抜けた人物だった」


 

 
参考記事:
ラリー・クレーマー氏が死去 同性愛・エイズ活動家 84歳(AFP)
https://www.afpbb.com/articles/-/3285251
ラリー・クレーマー氏死去 エイズの脅威訴えた米活動家(時事通信)
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020052800721
米劇作家 ラリー・クレイマー氏 死去 エイズの脅威訴え続ける(NHK)
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20200528/k10012448231000.html
Dr. Fauci Pays Tribute to Larry Kramer: ‘I Loved The Guy, And I Think He Loved Me Back’ (Towleroad)
https://www.towleroad.com/2020/05/dr-fauci-pays-tribute-to-larry-kramer-i-loved-the-guy-and-i-think-he-loved-me-back-watch/


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