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荒井元首相秘書官の差別発言から3ヵ月、法整備が進まない背景に宗教右派の影

2023年05月02日

 2月3日に荒井首相秘書官(当時)が「僕だって見るのも嫌だ」「秘書官室もみんな反対する」「同性婚を認めたら国を捨てる人が出てくる」などと発言し、更迭されてから3ヵ月が経とうとしています。この間、多くの当事者団体や、経済界、労働界、G6やEUの駐日大使、公明党や野党も一刻も早くLGBTQを差別から守る法整備を、と求めており、世論調査の結果を見ても6割、7割が(同性婚をも含め)法整備に賛成しています。しかし、法案をめぐる議論は一向に進まず(統一地方選後に先送りされ)、4月28日からようやく開かれた自民党内の会合では「差別は許されない」という文言に対して「日本の国柄に合わない」などの反対意見が出され、議論は連休明けに持ち越しとされました。5月19日開幕のG7広島サミットに間に合うのかどうか、不透明な状況です。
 
 4月30日のNHKの討論番組で公明党の北側一雄副代表は、LGBT理解増進法案を早期に成立させるべきだとの認識を示し、「自民党内で議論を進めてほしい」と求めました。また、婚姻は両性の合意のみに基づくと定める憲法24条は同性婚を否定していないとして、同性婚を認める方向で検討すべきだとの見解を示しました。
 立憲民主党の中川正春憲法調査会長は、理解増進法成立は大切だとしたうえで、より包括的な差別解消法の制定が必要だと訴えました。衆院憲法審査会で24条について議論すべきだと主張しました。
 一方、自民党の新藤義孝政調会長代行は、G7広島サミットまでに法案を成立させるべきかどうかを問われ「何か(期限)ありきで議論することは考えていない」と述べました。

 TRPに参加したという小島慶子さんは、webマガジン「mi-mollet」に素晴らしいコラムを寄稿しています。
「表面上は社会が変わったようでも、肝心の根本的な制度は変わっていません。これは深刻な人権問題です」
「人が楽しく、ハッピーでいられるのは、怖い思いをしたり酷いめにあわされたりしないからこそ。誰もが等しく大切にされる世の中、つまり人権が尊ばれる社会では、ハッピーに生きられる。人権のためにアクションするのは堅苦しいことでも過激なことでもなく「幸せになりたい」「みんなが幸せな世の中に暮らしたい」という素朴で切実な願いを叶えようとすることです」
「パレードなんかで世の中は変わらないと言う人もいるけど、そんな冷笑的な態度こそ、世の中に何もポジティブな変化を起こしません」
「実際そうして日本の社会は着実に変わってきたのです」
「今でも、HIVに感染していることを理由に内定を取り消すなど、差別はなくなっていません。だからこそ、法律ではっきりと「差別をしてはならない」と定めることが不可欠なのです」
「パレードには与党の政治家たちも参加していましたが、その場ではっきりと「理解増進法ではなく差別禁止法を作ります」と意思を示すべきではないでしょうか。それを避けて笑顔で「味方です」とアピールするのは、イベントを利用しているだけにもなりかねません」 

 差別禁止がなぜ認められないのか?と問う『Vogue』の記事も素晴らしかったです。
 TRP参加者の、昔パレードに参加したときは奇異の目を向けられていると感じることもあったが、今は温かい声援ばかりで「社会がアップデートされているのを肌で強く感じた」という声を紹介し、人々の意識や考えは確実に変わってきているのに、LGBTの法整備は頑として進まない、それはなぜなのか、と問題提起し、LGBT法連合会の神谷悠一事務局長に話を聴きながら、理解増進法の限界や、差別禁止法の必要性について、非常にわかりやすい説明がなされていました。

 北海道新聞の社説は、「与党内には「不当な差別はあってはならない」と文言を修正して、サミット前に与党案として国会に提出する案も浮上する。「正当な差別」などあり得ず、姑息と言うほかない。骨抜きの法案でお茶を濁してはならない」「首相はG7と自民党保守派の双方に良い顔をするのではなく、立場を明確にして党内論議を主導する必要がある」と述べ、「及び腰が透ける」首相の姿勢を厳しく追及しています。

 山陰中央新報の社説でも「自民党保守派に引きずられ、また法案を先送りすれば、政権の姿勢と世論の乖離(かいり)が一層広がり、国際社会でも取り残されることになろう」と述べられていました。

 そして5月1日、松岡宗嗣さんはYahoo!に寄稿した記事で、法整備が進まない、自民党内で反発が根強いことの背景に神道政治連盟や旧統一教会など「宗教右派組織と自民党保守派の繋がり」があることを指摘していました。
 昨年6月に、自民党議員の大多数が参加する「神道政治連盟国会議員懇談会」で配布された冊子に「同性愛は精神の障害、または依存症」「回復治療や宗教的信仰によって変化する」などといった事実無根で悪質なデマが多数掲載されていましたが、その冊子の後半には、資料として、旧統一教会のメディアである「世界日報」の記事が18ページにわたって掲載されていたそうです。その内容は、米国における男女別施設利用やスポーツ等に関するもので、現在自民党内の反対派が主張している主な内容と一致しています。昨年2月、実質的に神社本庁主催で実施されたイベントに、旧統一教会関連団体が賛同団体として名を連ねていたという報道もあり、神道政治連盟(神社本庁)と旧統一教会との繋がりも見えてきました。
 昨年7月、自民党LGBT特命委員会は、旧統一教会系の媒体などで「同性愛の多くは治癒可能」などと発信している八木秀次氏を講師として招いています。そして、自民党LGBT特命委員会事務局長の城内実議員は、神道政治連盟国会議員懇談会の事務局長も務めています。
 神道政治連盟(神社本庁)や旧統一教会などの宗教右派組織と自民党保守派が密接に繋がり、性的マイノリティを差別から守るどころか、差別を広げてきたのです(5年前には「“生産性”がない」発言が、2年前も「種の保存に背く」などの差別発言が明るみに出て、問題視されました)
 松岡さんはさらに、性的マイノリティを「治療する」といった「転向療法(コンバージョンセラピー)」は、国連においても「拷問」に相当するものだと指摘されている点を強調し(LGBT法連合会が詳しく記しています)、性自認による差別の禁止を認めると“女装した男が女湯に入ってくる”などといった悪質なデマによってトランスジェンダーの排除を目論む言説にも丁寧に反論しながら、「G7広島サミットまで残り約2週間。このまま日本はG7のみならず、世界から取り残され続けていくのか。宗教右派との繋がりを背景に、少数者を差別する国であり続けるのかが問われている」と締めくくっています。

 評論家・編集者の荻上チキ氏は、「性的少数者に対して攻撃的な宗教団体は複数存在しますが、旧統一教会は最も熱心な団体」だと指摘します。
 統一教会創始者の文鮮明氏が同性愛者について「罪だ。罰を受けなければならない」などと差別的発言を繰り返していたことは2002年に日本語に訳され、LGBTQの権利擁護に反対する教団の活動が鮮明になっていきました。
「旧統一教会は政治家へのロビー活動を展開したり、「世界日報」などの関連メディアを通じて世論形成を図ろうとしたりするなど、むしろ社会を変えようと積極的に行動してきたのが特徴です。性的少数者の権利擁護に反対する言説は、2000年代前半に保守論壇で叫ばれるようになりました。その中で旧統一教会教祖の発言が翻訳されたことは、教団が日本で反対運動を本格化させていくことにうまくマッチしたのだと思います」
「性的少数者を否定するような主張が、保守的な人々の考えに加え、特定の宗教的価値観と結びついていることもあまり知られていないのではないでしょうか」 

 ジェンダーをめぐる政治などに詳しいモンタナ州立大社会学・人類学部の山口智美准教授(昨年のLGBT差別冊子への抗議署名提出の際の記者会見にも参加してくださったアライの方です)は、選択的夫婦別姓やLGBTQの権利に関するバックラッシュの担い手たちに実際にインタビューしてきたといいます。「選択的夫婦別姓の反対運動を中心的に担ってきたのは、神社本庁などの宗教団体や右派団体の参加する「日本会議」です。日本会議は先祖から子孫に続く「タテの関係」を重視し、イエ制度のような復古主義的な家族観を持っています。同時に、政府や行政に頼らず、家族で助け合っていく、ネオリベラリズム的な「自助」も打ち出している。その中で、女性は家事や介護などあらゆるケアの担い手と考えられています。一方、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)は特に性的少数者の権利拡大に反対してきました。彼らは教団の決めた異性の相手と「祝福結婚」し、出産することを重要とするからです。だから同性婚の阻止に力を注いでいるのです。特に、2015年、米国で連邦レベルで同性婚が認められた後は、「米国のようになっていいのか」と盛んに米国などの海外情報を紹介し、論陣を張ってきました。安倍元首相襲撃事件以降、「政治と宗教」の癒着ぶりが注目されています。でも、単なる選挙応援だけではありませんでした。宗教右派と政権とが結びついた結果、具体的にどのような政策に影響が及んだかも、丁寧に見ていかねばならないと思います」
 山口氏は現在のトランスジェンダーへのバッシングについて「日本で、男女共同参画に反対するのに「男女同室着替えになってもいいのか」とか、選択的夫婦別姓に反対するのに「子どもがいじめられてもいいのか」などと現実離れした極端な例を引き合いに出し、「こんなことになったら困るだろ」と不安をあおるのと同じ手法です」と指摘します。「日本でも「トイレ問題」を持ち出したトランスジェンダーバッシングが目立ってきました。宗教右派や保守が、自分たちの主張を通すためにトランスジェンダーという存在を利用していると感じます」
 非常に重要な指摘が詰まっている、必読の記事だと感じます。ぜひご覧ください(こちら

 なお、自民党の高鳥議員によると、28日の性的マイノリティ特命委員会の会合で反対慎重意見14名(うち11名が保守団結の会)、推進意見7名だったことや、G7各国で差別禁止法があるのはカナダだけ、日本が遅れているわけではない。アメリカでさえ差別禁止法は成立していない。5月のサミットに期限を切るべきでないという意見が多数だったことが報告されていました。松岡さんをはじめいろんな方が指摘しているように、カナダだけというのは明確な誤りです。
 
 LGBTQコミュニティからは、LGBT法案がG7サミットまでに成立するかどうかの会議の最後の山場だ連休明けの8日だということで、「神政連と旧統一教会が国会議員に影響力を持っていてLGBT法案を潰そうとしている」ことを広く世間の人たちに知ってほしいとして、バナーを作ってSNSで拡散しようとする動きも起こっています。(例えばこちら
 

【追記】2023.5.3
 毎日新聞の「憲法とLGBTQ(その1) 同性婚法制化、道険し 自民保守派、反対根強く」という記事でも、自民党のベテラン議員が「法案成立に向けて最大の壁は、自民党の保守派だ」と語っていたことが報じられました。
「保守派議員の多くは、同性婚の法制化に反対している。男女の夫婦が子どもを産み育て、女性が家事や育児に専念するといった「伝統的な家族観」を重んじ、同性婚を認めると「社会の秩序が守れなくなる」などと主張する。理解増進法案が成立したら早晩、同性婚法制化にまで進むのではないかと懸念を抱く。憲法との関係では、同性婚を認めるためには、婚姻の自由を定めた憲法24条1項の改正が必要だと主張する。
 支持団体である神社本庁などの影響もある。保守派議員の多くは、同性婚に慎重な神社本庁と結びつきが強い。関連の政治団体「神道政治連盟」の国会議員懇談会に所属しているケースも多い。自民党として、同性婚に対する賛否は定まっていない。「多様性を尊重すべきだ」などとして賛成する議員もいるが多数派ではない」



参考記事:
LGBT法「早期成立を」 公明・北側氏、NHK番組で認識示す(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230430/k00/00m/010/081000c
同性婚の導入「検討すべき時期に来た」 公明・北側副代表が強調(朝日新聞)
https://digital.asahi.com/articles/ASR4Z4RZNR4ZUTFK00B.html

「不当な差別は許されない」への危惧。LGBTQ、難民...差別を温存する法案になっていませんか【小島慶子】(mi-mollet(ミモレ))
https://mi-mollet.com/articles/-/42250

「差別を禁止する」ことが、なぜ認められない? LGBT法の基本から、法整備の現在地まで(Vogue JAPAN)
https://www.vogue.co.jp/article/lgbt-legislation-in-japan

<社説>LGBT法案 首相の及び腰が透ける(北海道新聞)
https://www.hokkaido-np.co.jp/article/840329

論説 LGBT法案 差別解消へ一歩しるせ(山陰中央新報)
https://www.sanin-chuo.co.jp/articles/-/377344

明白な「LGBT法案」賛否の構図。国内外から成立求める声、反発する宗教右派と保守派議員(Yahoo!)
https://news.yahoo.co.jp/byline/matsuokasoshi/20230501-00347749

旧統一教会、「LGBTQへの攻撃に最も熱心」 荻上チキ氏(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20230422/k00/00m/040/159000c

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