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台北高裁が法的性別変更の条件として診断書の提出を要求するのは違憲であるとの裁定を下しました

2024年08月21日

 医師の診断書を提出せずに性別変更を申し立てて不受理とされたトランス女性が、戸政事務所(戸籍役場)の対応を不服として起こした訴訟で、台北高等行政法院(高等行政裁判所)は8月15日、性別変更に医師の診断書などを要求する行政命令は「違憲」だとの判断を示し、不受理処分の取消しを命じる判決を言い渡しました。一方で、性別変更届の受理は命じませんでした。台湾で診断書なしでの性別変更を申し立てる訴訟が起こされたのは初めてです。
 

 台湾では内政部(内務省)の規定に基づき、トランスジェンダーが法的性別変更を求める場合、診断書と性別適合手術の証明書を提出しなくてはなりません。
 今回提訴したのはダンサーとして活躍するビビ(Vivi)さんです。ビビさんは今回の訴訟で、医師の診断書は提出せず、日常生活で女性として暮らしている写真や、母親や友人が裁判所宛てに書いた手紙を代わりに提出しました。支援する台湾伴侶権益推進聯盟(TAPCPR)によれば、ビビさんは子どもの頃から自分は女性だとおぼろげに感じており、大学生で女性であるとのジェンダーアイデンティティに確信を持ち、以降は女性として生活し、すでに6年以上が経過しています。ビビさんは性別違和を理由として医療機関を受診したことがなく、手術や薬物の介入を求めたこともない、と説明しています。
 台北高等行政法院は判決で、トランスジェンダーの性別変更において医師の診断書2枚と性別適合手術を要件に定めた2008年の内政部の行政命令は違憲だと判断しました。しかし、性別変更の要件は最高行政法院(最高行政裁判所)が昨年の判決で示した枠組みを満たす必要があると指摘し、当事者は少なくとも1枚の診断書を提出しなければならないとしました。そのため、戸政事務所に対してビビさんの性別変更を直接命じるのではなく、裁判所の見解に基づいて改めて処分を行なうよう命じたということです。

 同日、中央社の取材に応じたTAPCPRの簡至潔秘書長は行政機関に対し、裁判所の見解に基づいて性別変更における手術要件を即座に撤廃するよう呼びかけました。また、ビビさんと話し合った結果、上告を決めたことを明かしました。法的性別変更によって身分証上の性別の変更を勝ち取りたいとしています。

 台湾ではこれまでに、性別適合手術を受けていないトランスジェンダーに対して裁判所が性別変更を認めたケースが2件あり、いずれも医師の鑑定報告や診断書を提出しているそうです。
 先月はトランス男性のニモさんが台北市信義区の戸政事務所で性別変更の申請を受理され、「人生の新たな章が始まった」「これこそが自分が求めていたものだ」と喜びを語りました。

 
 2006年、国際人権法の専門家会議において採択されたジョグジャカルタ原則で「法的性別変更の要件として、性別適合手術、不妊手術またはホルモン療法その他の医療処置を受けたことを強制されない」と謳われ、不妊手術の強制は人権侵害であり医療を不要にすべきである(トランスジェンダーの保護は医学モデルから人権モデルへと移行すべきである)との国際合意が見られたことをきっかけに、世界は脱病理化へと進んできました。2013年にアメリカ精神医学会が、続いて世界保健機関(WHO)も性同一性障害概念を廃止し、それぞれ「性別違和」「性別不合」という名称を採用しました。2014年にはWHOが、2017年には欧州人権裁判所が「性別を変更するために生殖能力をなくす手術を課すことは人権侵害である」との判断を出しました。
 こうした流れを背景に、欧州や南北アメリカでは性別適合手術(不妊手術)を不要とする法改正が進みました。医師の診断書なしに法的性別変更が認められる国もアルゼンチン、デンマーク、マルタ、アイルランド、フランス、ノルウェー、ベルギー、ギリシャ、ポルトガル、ルクセンブルク、ドイツなど10ヵ国超に上っています(ご参考:PRIDE JAPAN「性別変更をめぐる諸外国の法制度」)
 日本では2004年制定の性同一性障害特例法の要件が厳しすぎると批判されてきて、2020年、世界の趨勢にも鑑み、日本学術会議が「性同一性障害特例法」の廃止と「性別記載変更法」の制定(医学モデルから人権モデルへ)を提言しましたが、法改正への議論は全く進まず、ようやく昨年になって最高裁で不妊化要件(生殖能力要件)は違憲だとの裁定が下り、先月には広島高裁で外観要件についても「違憲の疑いがある」との判断が出て、立法府で(特例法の抜本的な見直しというよりも)要件の改正に向けた議論が始まったところです(「新たな要件」を設ける方向だと報じられています)
 アジアで初めて同性婚を認めた台湾は今、法的性別変更においてもアジアで最も先進的なところを行こうとしているようです。
 
 
 
参考記事:
診断書なしで性別変更を申し立て 台湾初 一部勝訴も上告へ(中央社フォーカス台湾)
https://japan.focustaiwan.tw/society/202408160005

手術なしで女性から男性へ性別変更 「人生の新たな章が始まった」(中央社フォーカス台湾)
https://japan.focustaiwan.tw/society/202407200006

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