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【エムポックス】WHOが主な感染経路は接触感染だとの見解を明らかにしました

2024年08月29日

 世界保健機関(WHO)は27日、「国際的に懸念される公衆衛生上の緊急事態」だと宣言したコンゴ※を中心に流行中の重症化しやすいエムポックス(サル痘)の感染経路が主に接触感染であるとの見解を明らかにしました。一方で、感染拡大のメカニズムを把握するにはさらなる研究が必要だとの見方も示しました。

※アフリカにはコンゴ共和国とコンゴ民主共和国(旧ザイール)がありますが、ここではエムポックス感染が深刻な後者のほうをコンゴと表記させていただきます

 WHOの公式サイトによると、エムポックスのヒトからヒトへの感染は主に感染者との密接な接触によって広がります。「密接な接触には、皮膚と皮膚の接触(接触や性行為など)、口と口あるいは口と皮膚の接触(キスなど)が含まれる」「感染者と対面で接する(近づいて話をする、呼吸をするなど。こうした状況では感染性呼吸器粒子が発生し得る)」

 WHOのマーガレット・ハリス報道官は27日、スイス・ジュネーブでの会見で、感染者が症状を示している場合に「誰かと近くで話したり、相手に息がかかったり、体が密接したり、対面で接したりする」ことでもウイルスが広がる可能性があると述べましたが、「ただし、主要な感染経路ではない」と付け加えました。「誰かと会話をしていると唾液の飛沫が吐き出されるが、感染経路としてはそれほど主要ではない。長距離の空気感染も同様だ」とのこと。「現在確認しているケースでは、密接な肌と肌との接触」が主要な感染経路だと述べました。「感染のメカニズムを完全に理解するには、さらなる研究が必要だ」

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 従来、アフリカでのサル痘は、野生動物の咬傷や感染した肉の摂取、あるいは感染した動物と近接して生活する農村部の住民にうつるという、いわゆるスピルオーバー現象によって媒介されてきました。
 しかし、コンゴ東部で感染拡大しているエムポックスについて、以前は主因でなかったセックスワーカー関連の感染が目立つと聞いたコンゴ国立生物医学研究所の感染症専門医、ローレンス・リーゼンボーグ氏が今年1月、同僚とともにコンゴ東部の南キブ州に調査に向かい、そこでヒトからヒトへの新たな感染パターンを発見しました。
 同州では2023年9月に初のエムポックス感染が報告されていました。北部の都市キサンガニから到着したばかりの若い商人が、性器とその後全身に病変が認められ、医師の診察を受けました。8週間のうちに34人の感染が確認され、そのうちの20人がセックスワーカーでした。さらに鉱山の町カミトゥガでも46人の感染が疑われ、今年1月までに51人が入院しました。リーゼンボーグ氏は、これまでに見たこともないような新たな感染パターンを発見しました。
 コンゴで従来流行していたクレード1aについて、性的接触による感染は記録されておらず、家庭内で他の人に感染することもほとんどありませんでした。ところが南キブ州では、ヒトからヒトへの長い感染経路が浮かび上がってきました。科学者たちは、患者の病変部から採取した検体を検査した結果、エムポックスウイルスが広がり続けるにつれて遺伝的に変化していることに気づきました。彼らはこの新しい亜種をクレード1bと名付け、調査の緊急拡大と標的型ワクチン接種を呼びかけました。
 会議が開かれ、懸念は共有されましたが、コンゴの保健省の財源が乏しく「予算もリソースもついてこなかった」とリーゼンボーグ氏は述べ、この時点で感染の連鎖を断ち切る機会が失われたと考えています。
 コンゴ東部では100を超える武装グループが活動し、土地や資源、政治権力をめぐって争っており、エムポックス感染拡大で最も深刻な打撃を受けている南キブと北キブの両州では、420万人が紛争で避難生活をしています。仮設キャンプでは栄養失調や不衛生な環境も多く、エムポックス感染が急激に広がる可能性があると、支援団体や慈善団体は警告します。皮膚と皮膚の接触を通じて感染した可能性の高い子どもたちが多数、命を落としています。感染レベルはもっと高いと見られますが、より正確なPCR検査で確認された感染者は5人に1人弱に過ぎず、コンゴの衛生当局は感染拡大の規模をまだほとんど把握できていないそうです。
 国境なき医師団が8月に発表した調査結果によると、北キブ州のキャンプに住む20歳から44歳の女性のうちの10人に1人が2023年11月から2024年4月までの間にレイプされました。6月には国連のコンゴに関する専門家グループが、悲惨な状況が人々を取引目的の性行為に駆り立て、何千もの売春宿の増加につながっていると報告しています。ワールド・ビジョンのコンゴ東部担当ゾーン・ディレクター、デービッド・マンクリー氏は「もしわれわれが迅速かつ適切に行動しなければ、コンゴだけでなく6〜10ヵ国がより厳しい状況に置かれることになると思う」と話しています。
 
 コンゴの感染症専門医でピッツバーグ大学医学部のジャン・ナチェガ准教授は今年7月、『Nature Medicine』誌上で、コンゴのカミトゥガという町でセックスワーカーを介してエムポックスのアウトブレイクが発生し、その後感染者が家族を訪ねて帰国する際にルワンダやウガンダ、ブルンジなど近隣国に拡がっていった経緯を実証した論文を発表しました。「この地域は鉱物資源が豊富で、採掘場が多く存在します」「多くの労働者はこれらの国々の出身です。労働者たちは月末に給料を受け取ってからセックスワークのサービスを利用してリラックスした後、家族に会うために帰国しています。このようにして、地域的に感染を拡大させているのです」
 ナチェガ氏は「新たなHIVになりつつあるのです」とも述べています。「私が医学部を卒業した頃、HIVのパンデミックが始まっていました。私たちは性感染症パンデミックの再来は見たくありません。だからこそ、このクレード1bのアウトブレイクを地域的に封じ込め、2022年のように世界中に拡がる前に食い止める必要があります」

 「以前、クレード1bが性的接触によって容易に感染することは知られていなかった」と、コンゴ民主共和国国立生物医学研究所の疫学・グローバルヘルス部門長兼臨床研究センター長プラシデ・ムバラ・キンゲベニは記者会見で語りました。「現在流行しているクレード1bでは、セックスワーカーの感染が増えている。今回の感染拡大の主な感染様式として、性行為の増加が報告されている」
 感染経路が異なるクレード1aと1b、同じ国で2つの異なる感染拡大が同時に発生しているとキンゲベニ氏は語ります。「クレード1aの感染拡大では小児が多く罹患しており、新しいクレード1bの場合は青少年や成人の罹患が多い。私たちがクレード1bを恐れているのは、ヒトからヒトへの感染に非常によく適応していると思われるからだ」
 WHO国際保健規則緊急委員会のメンバーであるニジェール・デルタ大学のディミー・オゴイナ教授(感染症学)は「アフリカでエムポックスが流行する根本的な要因の一つは、50年以上にわたってこの病気が放置されてきたこと、そして投資の不足と病気に対する対応能力の低さにあると思う」と記者会見で語りました。「アフリカの人口が比較的若く、天然痘の予防接種の恩恵を受けていないことも、今回の感染拡大の生物学的理由の一つと考えられる」

 専門家は、既存のエムポックスワクチンが、新種のクレード1b変異体に対しても効果があることを期待しています。
 南アフリカ共和国のラマポーザ大統領を含むアフリカの指導者らは、前回の緊急事態の際にアフリカ大陸は無視され、米国や欧州での感染拡大防止のためのワクチン配備に重点が置かれたと批判します。ラマポーザ大統領は8月17日の声明で、「ワクチンや治療薬が開発され、利用できるようになったのは主に欧米諸国であり、アフリカへの支援はほとんどなかった」と述べ、今回のWHOの宣言は「前回とは異なり、不公平な扱いを正すものでなければならない」と訴えました。
 
 コンゴを含め、多くの低所得国にとって、高価なワクチンを直接購入するのは困難です。前回の宣言も含めると、アフリカで感染拡大が始まってからすでに2年以上が経過していますが、Gaviなどの国際組織を通じて低所得国がワクチンを入手できるようにするための承認プロセスをWHOが正式に開始したのは今月に入ってからでした。コンゴでのワクチン接種開始の遅れは、新型コロナウイルスのパンデミックが浮き彫りにした「世界的な健康格差」に対して、改善の取組みが遅れていることの表れだと専門家らは指摘しています。
 なお、2022年以来、欧米を中心に接種され、流行の終焉に寄与してきたババリアン・ノルディック社のMVA-BNは、成人しか使えないワクチンです。日本のKMバイオロジクス社のLC16ワクチンは子どもにも接種できますが、投与はより複雑になるそうです。
 
 数百万人分のJynneos(MVA-BNワクチン)を備蓄している米国はコンゴに5万人分の寄付を申し出ました。ドイツも10万回分を提供すると発表しています。16日のこちらの記事でもお伝えしたように、日本もLC16ワクチンの供与を準備しています(コンゴは27日、少なくとも200万回分を提供するよう要請したそうです)。最初のワクチン1万回分の到着は数日以内に予定されています。しかし、人口が1億人近いコンゴでは大多数の感染症例が記録されておらず、貴重なワクチンをどのように配分するか、複雑な決断が求められるといいます。

 今年5月の毎日新聞医療プレミアの記事によると、MVA-BNワクチンは5分の1の投与量でも有効だそうです。ニューヨーク大学グロスマン医学部の感染症専門医であるAngelica C. Kottkamp氏は「ワクチン不足に直面した際の緊急措置として少量のワクチンを投与することの有効性が確認された」と述べています。
 コンゴでもこのような最新の科学的知見が生かされ、うまくたくさんの人々にワクチンが行き渡ることを願います。
 
 すでにスウェーデンやタイでもクレード1b患者が報告されており、世界的なパンデミックも危惧されますが、国際社会が一致団結して支援の手を差し伸べ、コンゴでのエムポックスの流行が抑えられることを期待します。
 
 
 
参考記事:
エムポックス、主な感染経路は接触感染 WHO(AFP=時事通信)
https://www.afpbb.com/articles/-/3535874
今度のエムポックス(サル痘)は若年層の感染や性感染が増えている(ニューズウィーク)
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2024/08/post-105573.php
WHOがエムポックスの「緊急事態」を宣言。前回と違う感染経路と致死率(WIRED)
https://wired.jp/article/mpox-outbreak-global-public-health-emergency/
エムポックス拡散で緊急事態、防げたはずのウイルスが世界的脅威に(Bloomberg)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2024-08-27/SISNGLT0AFB400
独、エムポックスワクチン10万回分提供へ 流行のアフリカ支援(ロイター)
https://jp.reuters.com/business/OKV6L7BGWZPWPP4P2OPEFNUSR4-2024-08-27/
エムポックスワクチン、なぜアフリカに届くまで2年もかかったのか(AnswersNews)
https://answers.ten-navi.com/pharmanews/28606/

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