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同性婚が認められたタイでは、トランスジェンダーへの受刑者への対応にも配慮が行き届いているようです

2024年11月11日

 来年1月22日から同性婚できるようになるタイから、トランスジェンダーへの受刑者への対応にも配慮が行き届いているというニュースが届きました。
 
 タイ矯正局が今年8月、バンコクの刑務所においてトランスジェンダー受刑者に配慮した取組みをメディアに公開したもので(受刑者対応でもLGBTQフレンドリーであることをアピールするねらいです)、特にトランス女性の場合、(タイではまだ法的性別変更が認められていないため)性別適合手術などを経て女性の容姿となったとしても男性房に収容される可能性があり、同室のシスジェンダーの受刑者からの嫌がらせや暴力を受ける危険があるため、トランスジェンダー専用房が設けられ、性別適合手術の進捗状況に応じてグループ分けされているそうです。
 約1000人を収監するクロンプレム中央刑務所では、トランス女性の受刑者は約60人いて、(1)性別適合手術を完全に終えている(2)手術を終えていないが豊胸などは済ませている(3)手術はしていないが性自認が女性と判断できるという3グループに大別され、それぞれに専用房を設け、シャワーなどの時間を分けているそうです。 
 性別適合手術をすでに終えているベレさんは「収監前は男性と一緒の房になるのではないかと不安だった。分けてくれてありがたい」と語りました。
 同局は、2021年から取組みを強化し、タイ全土では約1000人が同様の対応を受けているといいます。 
 
 翻って日本では、今年初め、トランス女性の受刑者に丸刈りを強制するのは人権侵害だとして広島弁護士会大阪弁護士会から相次いで勧告が出されています(ひどい状況です)。戸籍上の性別が変更されていない場合、自認する性ではない方の建物に収監されますし(そのうえで他の受刑者と接しないような配慮はなされるようです)、ホルモン治療も原則認められないそうです。
 それに比べると、タイはやはり進んでいるし、トランスジェンダーの権利の尊重もきめ細かくなされているという印象を受けます。
 


 そんなタイへの移住を希望する中国人LGBTQが増えているそうです。
 毎日新聞の「「幸せになりたい」 タイに移り住む中国人LGBTQの“リベンジ”」という記事によると、バンコク中心部にそびえ立つ築浅のコンドミニアムで内覧会が開かれ、集まった中高年の中国人男性2人はどちらもゲイの方だったそうです。「結婚=社会的信用ととらえる封建的な社会で生きてきた」というジョーさんは、周囲の誰にも言ってなかった自身のセクシュアリティのことを親友だった女性にカムアウトしましたが、気づけばアウティングされていたそうです。
 習近平体制の中国では、同性愛を扱う番組が「不道徳、不健全な内容」に分類されて放送が禁止されたり、LGBTQ団体の運営が停止されたり(BBCによると今年5月、中国に最後に残されていた大規模なLGBT団体である「北京LGBTセンター」が「自分たちの手に負えない力」によって活動を休止すると発表しました)、上海プライドフェスティバルのような大規模なイベントが中止になるなど(上海プライドの共同創設者である彭雷氏は中国を離れたそうです)圧力が強まっていることもあり、世間の人たちは多様な性のありようや当事者のリアリティに触れる機会が少なく、偏見やステレオタイプが解消されないといい、生きづらい中国から自由なタイに移住しようとする人が増えているんだそうです。物件を紹介するオーウェンさんもその一人で、これまで紹介した物件は300件を超え、週に2~3日内覧会を開くこともあるといいます。
 アジアで最も早く同性婚が実現したのは台湾ですが、中台関係の複雑さから、台湾への移住は難しく、結果、タイを選ぶ方が多くなっているそうです。

 一方、この記事の最後は、「タイは性的少数者に寛容」「LGBTQの楽園」「タイでは自由に暮らせる」というイメージは観光客誘致など経済効果のために作られたものであり、実際はタイにもLGBTQ差別があり、「実情は誇れるものではない。内側から変わらなければ、うたい文句に見合うタイにはなれない」というトランスジェンダーの研究者のコメントで締めくくられています。

 そのこととも関連し、タイ観光庁が推進するLGBTQインバウンド(「レインボー経済」)への疑問の声も上がっているようです。毎日新聞の「タイ同性婚の法制化で期待される「レインボー経済」に賛否」という記事によると、バンコクプライドの創設者アン・チュマポーン氏は、今でも差別や偏見に苦しんでいる当事者は多く、「タイが本当に性的少数者に優しい国になってからマーケティング戦略として使うべきだ」と語っています。
 
 観光立国であるタイが、「Go Thai. Be Free.」というキャッチコピーで日本のLGBTQに向けた特設サイトを設けてLGBTQインバウンドに力を入れたり、TRPやレインボーフェスタ!にブース出展したり、同性婚を実現したセター首相が2028年の「ワールドプライド」の誘致に支持を表明したりというのは素敵なことですが(日本は全然そこまで行ってません…)、一方で、このようにコミュニティ内から「国が打ち出すLGBTQフレンドリーなイメージは虚構である」との声が上がるくらい、まだまだ国内の当事者が差別され、困難に直面しているという現実は、無視できないくらい厳しいものがあるということなのでしょう。しかし、台湾で同性婚が法制化された後、人々の意識も代わり、同性婚への支持率も上がったように、タイでもこの先さらに社会が支援的に変わっていくのではないかと思われます。
 
 なんだかんだ言ってもLGBTQ差別禁止も同性婚・養子縁組も法制化され、国が旗を振ってLGBTQインバウンドを推進しているのは、やはりスゴいこと(日本とは大違い)です。来年のゲイトラベル指数(ゲイフレンドリーな国ランキング)でもタイはかなり上位に行くでしょうし、さらに欧米の観光客がタイに向かうことになるでしょう。日本からの移住も(以前から見られましたが)さらに増えるかもしれません。「微笑みの国」は、広くアジア地域のLGBTQにとっての希望の地と目され、発展していきそうです。
 
【追記】2024.11.18
 トラベルボイスの記事によると、オンライン旅行会社のアゴダ(Agoda)は、すでにタイはLGBTQIA+の旅行者に人気の旅行先となっていますが、今回の同性婚法制化によってタイの評判がさらに高まると見ていて、同性婚実現後の2年以内に新たに年間400万人の海外旅行者を呼び込み、観光収入は毎年約20億ドル(約3100億円)増加すると推計しているそうです。また、新たに15万2000人の正規雇用を創出し、タイの国内総生産(GDP)を0.3%押し上げると見込まれています。



参考記事:
受刑者対応も「LGBTQフレンドリー」 同性婚法制化のタイ、セクハラ防止で専用房(共同通信)
https://nordot.app/1228102412298617229?c=39550187727945729

「幸せになりたい」 タイに移り住む中国人LGBTQの“リベンジ”(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20241025/k00/00m/030/141000c
中国のLGBTコミュニティー、当局が抑圧 プライド月間にも大きなイベントなく(BBC)
https://www.bbc.com/japanese/features-and-analysis-66050134

タイ同性婚の法制化で期待される「レインボー経済」に賛否(毎日新聞)
https://mainichi.jp/articles/20241025/k00/00m/030/203000c

タイの「同性婚」法制化が観光市場に追い風、観光収入が年間3100億円増加見込み、世界では31兆円市場(トラベルボイス)
https://www.travelvoice.jp/20241118-156665

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