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おめでとうダレン・クリス! ハッピー・プライド! 今年のトニー賞のクィア的名場面

2025年06月10日

 6月8日(現地時間)、第78回トニー賞授賞式がラジオシティ・ミュージックホール(ニューヨーク)で開催されました。毎年素晴らしくクィアな祭典となっているトニー賞授賞式。一昨年は史上初めてノンバイナリーの俳優2人が受賞し、昨年はジョナサン・グロフをはじめ多数のクィアの俳優、脚本家などが受賞の栄誉に輝いています。
 今年はクィア的にどうだったのか?をお伝えしていきます。
 
 まず、ホストをつとめたのは映画『ウィキッド ふたりの魔女』の主人公・エルファバ役を演じ、第70回トニー賞(2016)でミュージカル主演女優賞を受賞しているシンシア・エリヴォ(バイセクシュアルであることをオープンにしています)。今年のトニー賞はシンシア・エリヴォのオープニング・パフォーマンス「Sometimes All You Need Is a Song」で華やかに幕を開けました(シンシアが後半、舞台を降りて客席のいろんな人にマイクを向け、アダム・ランバートが即興でシャウトをかぶせたりしてて、素敵です。鳥肌モノの素晴らしいオープニングでした。動画はこちら
 
 ミュージカル部門では、最多タイの10ノミネートを受けていた韓国発の『メイビー、ハッピーエンディング』がミュージカル作品賞、主演男優賞(ダレン・クリス)、演出賞(マイケル・アーデン)など最多の6部門を受賞しました。
 ドラマ『glee/グリー』や『アメリカン・クライム・ストーリー/ヴェルサーチ暗殺』『ハリウッド』でゲイの役を演じてきたダレン・クリスは、今回がトニー初受賞となりました。壇上で彼の名前を呼んだプレゼンターはアリアナ・デボーズ(有色人種のクィア女性として初めてアカデミー俳優賞を受賞)で、ダレンはアリアナと歓喜のハグをしたあと、受賞スピーチで、主演女優のヘレン・J・シェン(ノンバイナリーの方です)に感謝しながら「(受賞を)ヘレンと分かち合いたいです」と語り、会場は感動に包まれました。演出のマイケル・アーデン(ゲイの方です)も2023年の『パレード』に続いて2度目のトニー賞受賞となり、スピーチの最後に「もし、クィアのみなさんがこれを見ていてくれるなら、ハッピー・プライド!」と語り、喝采を浴びました。
 ダレン・クリスは『glee/グリー』のブレイン役で世界中の多くのLGBTQを熱狂させたアイドルというかアイコン的存在となり、その後も何度となくゲイの役としての名演を見せてきた方なので、今回のトニー初受賞に対し、心から「おめでとう!」と祝う気持ちの方も多いはず。マイケル・アーデンも2度目のトニー賞受賞ということで、本当にスゴいです。スピーチも素敵でした。『メイビー、ハッピーエンディング』は実は、韓国での大ヒット後、ブロードウェイよりも先に、日本で2020年に上演されています。今回のトニー賞受賞を受けて、きっとまたリバイバル上演されることでしょう(ただし、内容はそれほどクィアではないようです)
 
 このほか、『ウィキッド ふたりの魔女』の衣装を手がけてアカデミー賞に輝いたポール・タゼウェル(ゲイのデザイナーです)が、『永遠に美しく…』でミュージカル部門衣装デザイン賞を受賞しました。

 演劇部門では『パーパス』が演劇作品賞、助演女優賞(カラ・ヤング)の2部門を受賞しました。『パーパス』は、黒人政治家ソロモン・ジャスパーの末息子であるナズが、精子提供の件は絶対に誰にも言わないようアジーザに口止めするも、夕食の席でナズの母親から執拗に追及され、アジーザはレズビアンでナズから精子をもらったことを打ち明けてしまう…という物語です。そのアジーザを演じたカラ・ヤングが見事、助演女優賞に輝きました。

 また、『オー、メアリー!』で脚本を務め、リンカーン大統領の妻メアリー役を演じたコール・エスコーラが主演男優賞に輝き、演劇演出賞と合わせて2冠を達成しました。コール・エスコーラは初めゲイと言っていて2022年にノンバイナリーであるとカムアウトした俳優/コメディアンですが、「男優」カテゴリーでの受賞を了承したため、主演男優賞が贈られることとなりました。

 そのほか、オスカー・ワイルドの小説が原作で、同性愛的な要素が盛り込まれている『ドリアン・グレイの肖像』も演劇主演女優賞、演劇衣装デザイン賞で2冠に輝きました。演出のキップ・ウィリアムズ(クィアの演出家です)がノミネートされていましたが、受賞はなりませんでした。

 毎年話題を呼ぶパフォーマンス・ステージでは、今年もトップスターたちがハイクオリティのショーを披露しました。
 プッシーキャット・ドールズのリードシンガーとして活躍し、LGBTQ人権活動家としても知られるニコール・シャージンガーは、今年『サンセット大通り』でミュージカル主演女優賞を受賞しましたが、見事な歌唱力で歌い上げました。
 昨年のミュージカル主演男優賞を受賞したジョナサン・グロフ(ゲイの俳優です)は客席のキアヌ・リーヴスを巻き込んでのセクシーなパフォーマンスで会場を大いに沸かせました。
 この日最高の盛り上がりを見せたのは、2015年にブロードウェイで上演されトニー賞11部門に輝き、今年で10周年を迎える『ハミルトン』のオリジナルキャストが再集結してのパフォーマンス。リン=マニュエル・ミランダ、レスリー・オドム・ジュニア、ジョナサン・グロフ、アリアナ・デボーズら、今や大スターとなったキャストが顔を揃え、圧巻のパフォーマンスを披露し、会場は熱狂に包まれました。

 そして、特別功労賞を、ハーヴェイ・ファイアスタイン(ゲイの俳優/映画プロデューサー/作家/歌手)が受賞したことも胸熱でした。半自伝的な戯曲『トーチソング・トリロジー』を執筆・主演し、1983年のトニー賞で演劇部門の脚本賞と主演男優賞を受賞、翌年、ミュージカル『ラ・カージュ・オ・フォール』の脚本でトニー賞ミュージカル部門脚本賞を受賞、2003年にはジョン・ウォーターズ監督の映画『ヘアスプレー』(1988年) の舞台版同名ミュージカルでエドナ・ターンボルド役をドラァグで演じてトニー賞ミュージカル部門主演男優賞を受賞、そして2012年に名作『キンキー・ブーツ』の脚本も手がけているという、レジェンドです。ハーヴェイは、「トーチソングトリロジーって知ってる?」と言って笑わせたり、幼少期に自分をブロードウェイに連れてきてくれた母親や、デートの隠れ蓑に使ったという兄に感謝を捧げつつ、まさか自分が、このように名誉ある賞を受賞してこれ以上ないくらいの拍手を浴びる日が来るとは思わなかった、観客のみなさんのおかげです、みなさんがいなかったら私は今でも寝室の鏡に向かってリップシンクをしていたことでしょう、と言って、最後に「私はこの賞を、まだ闇から抜け出せないでいる人々に捧げます」と結びました。実にハーヴェイらしい、笑えて泣けるスピーチでした(こちらにその映像が上がっています)

 
 
参考記事:
韓国発作品が最多6部門で受賞 米演劇界のトニー賞(共同通信)
https://nordot.app/1304698954904420683

『第78回トニー賞授賞式』受賞結果レポートが到着 韓国発『メイビー、ハッピーエンディング』が最多6冠(ぴあ)
https://lp.p.pia.jp/article/news/420361/index.html

第78回トニー賞授賞式、結果速報が到着 韓国発のミュージカル『メイビー、ハッピーエンディング』が最多6部門受賞(CDjournal)
https://www.cdjournal.com/main/news/-/119178

Tony Awards 2025: Every LGBTQ+ winner and iconic performance(Out)
https://www.out.com/theater/2025-tony-awards-winners-performances-videos-watch

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