PEOPLE
俳優の水越友紀さんへのインタビュー
2015年にゲイであることをカミングアウトした俳優の水越友紀さんにお話をお聞きしました。11月下旬にYouTubeで公開される「portrait(s)」というLGBTのドラマに出演されるそうです。
2015年、俳優の青木結矢さんがゲイであることをカミングアウトというニュースを憶えている方もいらっしゃるかと思います。青木結矢さんはカミングアウト後、本名である水越友紀さんというお名前で俳優として活躍していらっしゃいますが、この11月下旬にYouTubeで公開される「portrait(s)」というLGBTの日常を描くドラマ作品に出演されるそうです。そこで、この作品についてのお話を中心に、お話をお伺いしました。(聞き手:後藤純一)
−−水越さんは、青木結矢さんというお名前で活動していた頃の2015年にゲイであることを公にカミングアウトしたと思います。演劇界でのカミングアウトは、美輪明宏さん、池畑慎之介さん、前田健さん、田中ロウマさんといった先人がいたにせよ、たいへん貴重で、勇気が要ることだったと思います。ニュースでもお伝えしましたが、改めて、カミングアウトを決意したときのお気持ちをお聞かせください。
当時出演していた作品の大きなテーマが「命のバトン」でした。ゲイの僕は物理的に命は繋げることはできない。じゃあ、僕の繋げられるバトンって何だろう? そして生きる意味ってなんだろう? と考えさせられたんです。
2010年頃、アメリカでLGBTの自殺が相次ぎ、ハリウッド俳優さんが次々にカミングアウトしました。そんな彼らから影響を受けて。こんな僕がカミングアウトしたところで何も変わらないんですけど。
僕なりの命のバトンと生きる意味。
その答えがカミングアウトでした。
そして最近は、カミングアウトしている俳優さんも多くいらっしゃいます。
例えば有吉反省会でカミングアウトした井深克彦さん。「portrait(s)」にも出演する「いいとも」「カラオケバトル」でカミングアウトされた秋山浩介さん。ほかにもオープンにしている俳優さんも増えてきました。
−−海外ではカミングアウトした俳優の方が、仕事を干されたり、辛い目に遭うことも多いと聞きますが、カミングアウト後、周囲からの反応が変わったり、お仕事がしづらくなったりということはありませんでしたか?
周囲からの反応。そうですね。気を遣われたりしましたね。仕事もしづらかった。
でもカミングアウトした自分に自分自身が慣れてなかったので、気にしすぎだったのかもしれませんけど。
干されたり、カミングアウトしたから失った仕事は……わかりません。そもそもカミングアウトしてるからダメなんてはっきり言ってくれる会社なんて今の時代ありませんから(笑)
辛いこと。
ある俳優さんに、当時出演してた作品の会社から無理矢理宣伝のためにカミングアウトさせられたの?って聞かれたことありましたね(笑)
そんな簡単に不特定多数の方が見る形でカミングアウトするか!!って思いましたけど(笑)
僕の想いが伝わらなかったんですね……。
そしてクローゼットだった頃、バレないように作り上げた別の自分とカミングアウトとした自分。本当の自分って何だろうって当時は悩みましたね。自分は自分でも、新しい何かになった気がして。
オネエ言葉も使わないし。使いたいとは思わない。
当時はカミングアウトした自分に慣れることと、忘れていた本当の自分を見つけることに苦労しました。
−−そうでしたか……。ちなみに水越さんは、二丁目やLGBTコミュニティとの関わりは?
コロナで行く機会も減りましたが、二丁目はたまに飲みに行きます。新宿二丁目は僕の人生の中でも重要な街です。僕は落ち着いてウィスキーとか飲むのが好きなので、落ち着いたお店によく行きます。
コミュニティには入ってないんですが、カミングアウトした後はLGBTを扱った作品を集めたLiveとかLGBTの演奏会で歌ったりしたことはあります。
−−LGBTのイベントにも出演されてたんですね。存じ上げず、失礼しました。今回、むらかみゆうすけ監督の「portrait(s)」というLGBTの日常を描くドラマ&映画に出演されるそうですが、この作品が製作されるに至った経緯を教えてください。
僕は出演のみで制作には関わってないんですが、監督の熱い想いと、カミングアウトして俳優やるんならゲイ役を演じてみたいという想いが昔からありました。
最近はBL漫画の映画化やタイBLドラマなど流行ってますが、「portrait(s)」は恋愛も描かれていますがLGBTの日常を扱ったドラマです。それが魅力の一つでした。それが出演の決め手です。
ありえないほどの純愛BL系にも出てみたいですけど(笑)
参考までに、監督の想いを以下にお伝えします。
「近年、セクシュアルマイノリティ(LGBT)の存在は少しずつ認知が進んでいると思います。
日本でもテレビや映画で、セクシュアルマイノリティを扱う作品が増えてきました。
それはとても良いことだと思いますが、まだまだ作品数が多いとは言えないと思います。海外ではインディペンデントなレベルでたくさんの、多様な作品があり、多様な価値観を提示する作品に出会える機会が多くあります。
私たちはたとえ小さな映画でも、多様な意見や価値観を反映した映画は文化の豊かさにとって必要なものだと信じて活動を続けてきました。
この作品を作ることで、どこにでもあるありふれた日常生活を覗き見してもらい、今までわからなかった存在であるセクシュアルマイノリティ(LGBT)を身近に感じてもらえたり、また若い当事者にとってはある種のロールモデルのようなものをドラマを通じて観てもらえたらと思っています」
−−ありがとうございます。すてきなお言葉ですね。水越さんはもともと村上さんとお知り合いなのでしょうか? 出演することになった経緯を教えていただければ。
むらかみ監督とは「portrait(s)」がはじめましてでした。「portrait(s)」に出演が決まっていた秋山浩介さんに紹介していただき、出演する運びとなりました。
むらかみ監督は今まで「あなたとの距離について」などLGBTを描いた作品も作られています。
−−水越さんは今回、どのような役を演じますか?
僕は塾の先生で、同僚のノンケに恋心を抱いているクローゼットなゲイの役です。
−−水越さん以外の出演者についても教えてください。
中村風太さんと秋山浩介さんが男性同士のカップル役として、櫛橋治竜さん、都雄介さんも同じく当事者として役を演じられています。
−−水越さん以外にもカミングアウトしている俳優さんが出演されるんですね。では、水越さんの、この作品への思い、意気込みをお聞かせください。
今Netflixで『ボーイズ・イン・ザ・バンド』という映画が配信されているんですが、出演者全員当事者が演じているんです。そして一緒にインタビュー動画も配信されていて、その中で彼らが腕を組んで一列に歩く映像がありました。それがすげーかっこよくて。誇らしいだろうなと思って。
これって彼らが頑張ってきた結果ですよね。
あの表情が忘れられない。
『ボーイズ・イン・ザ・バンド』の彼らのように誇らしく歩いていける俳優が増えたらいいなと願ってます。
僕も当事者として誇りを持ちながらこの作品に向き合い演じていきたいと思います。
そして多くの方に見ていただけたら嬉しいです。
−−素晴らしい! きっと「portrait(s)」では、水越さんも『ボーイズ・イン・ザ・バンド』の彼らのように、かっこよく、誇らしい表情を見せてくれるのではないかと思います。YouTubeで配信されるそうですが、どなたでも観られる感じですか?
11月27日よりYouTubeで無料でご覧いただけます。
−−ドラマシリーズとしてある程度続けて、その後、映画化される感じですか?
来年の春に最終話を配信できるようなペースで順次配信していき、その後、映画祭などへも提出できるように再編集をして映画版として形を整えられたらという計画です。
−−最後に、このサイトをご覧になっている読者の方に、何か一言、お願いします。
言うことなんて何もないんですけど……。
今は僕がカミングアウトした5年前より時代は進んでいて、ついていけない程です。
オープンな方も増えて。
この時代についていけてないのは僕らなんじゃないかと思うくらい。
大手企業はダイバーシティを気にされてますし、それとセットでLGBTのことも気を遣ってくれています。
これからはもっと生きやすい時代になっていく。
僕はカミングアウトしたら演じられる役が狭まるんじゃないかと思ってたし、他の当事者の俳優がカミングアウトしない理由ってそこでした。
でも僕は大して変わらなかったです。
逆に幅は広がったかもしれませんね(笑)
12月2日から6日まで俳優座劇場で上演される音楽喜劇『ジョア』という作品でクラブのママ役を演じます。クラブのママ、男なのか女なのかその説明もない役。
ノンケがゲイを演じるんだったらゲイだってノンケを演じられる。ゲイだからなんて関係ないはず。
どう仕事したか、その結果だけだと思うんです。
そもそもカミングアウトなんて必要ないし、LGBTって言葉さえ必要ない時代がいつか来たらいいなと僕は願っています。
そのためには身を削ってまで頑張らなくてはいけないこともあると思うんですけど。
僕は無理せず、ゆっくりでも自分らしく生きていけるよう、自分の身の回りの環境を変えていきたいと思っています。
−−素敵です。これからもますますのご活躍を楽しみにしております。本当にありがとうございました!
「portrait(s)」
11/27 よりYouTubeにて配信
【公式サイト】
https://www.indust-film.com/portraits/
【YouTubeチャンネル】
https://www.youtube.com/user/industfilm
INDEX
- 来年ワシントンDCで開催されるワールドプライドについて、Destination DCのエリオット・L・ファーガソンCEOにインタビュー
- 『超多様性トークショー!なれそめ』に出演した西村宏堂さん&フアンさんへのインタビュー
- 多摩地域検査・相談室の方にお話を聞きました
- 『老ナルキソス』『変わるまで、生きる』を監督した東海林毅さんに、映画に込めた思いやセクシュアリティのことなどをお聞きしました
- HIV、梅毒、コロナ、サル痘…いま、僕らが検査を受けるべき理由:東京都新宿東口検査・相談室城所室長へのインタビュー
- NYでモデルとして活躍する柳喬之さんへのインタビュー
- 虹色のトラックに込めたゲイとしての思い――世界的な書道家、Maaya Wakasugiさんへのインタビュー
- ぷれいす東京・生島さんへのインタビュー:「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」について
- 二丁目で香港ワッフルのお店を営むJeffさんへのインタビュー
- 東京都新宿東口検査・相談室の城所室長へのインタビュー
- 俳優の水越友紀さんへのインタビュー
- 数々のLGBTイベントに出演し、賞賛を集めてきた島谷ひとみさんが今、ゲイの皆さんに贈る愛のメッセージ
- 今こそ私たちの歴史を記録・保存する時−−「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」プロジェクト
- LGBT高齢者が共同生活できるシニアハウスの設置を目指す久保わたるさん
- 岩崎宏美さん出演のクラブパーティを開催するkeiZiroさんへのインタビュー
- 英国の「飛び込み王子」トム・デイリーについて、裏磐梯のゲストハウスのオーナー・GENTAさんにお話をお聞きしました
- ニューヨーク在住のフォトグラファー、KAZ SENJUさん
- ジョニー・ウィアーが来日!(映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベント)
- 畠山健介さんへのインタビュー
- トークセッション「ダイアモンドは永遠に――日本におけるドラァグクイーン・パーティーの起源」
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