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HIV、梅毒、コロナ、サル痘…いま、僕らが検査を受けるべき理由:東京都新宿東口検査・相談室城所室長へのインタビュー
東京都在住の方たちにとってのHIV検査の中心的な施設である「東京都新宿東口検査・相談室」。たくさんのゲイ・バイセクシュアル男性の方たちと接してきた城所室長にお話を聞くなかで、HIVだけなく、現在感染拡大が続いている梅毒、新型コロナウイルス、そしてサル痘のことも含めて、いま、僕らが検査を受けるべき理由が浮かび上がってきました。
昨年春、長きにわたって都民に利用されてきた東京都南新宿検査・相談室が移転し、東京都新宿東口検査・相談室として新たにオープンしたのをきっかけに、施設の様子のレポートとともに、室長の城所(きどころ)敏英先生に、ゲイ・バイセクシュアル男性が安心して利用できるかどうか、といったことを中心にインタビューをお願いしました。
あれから1年半、ゲイ・バイセクシュアル男性の性の健康を取り巻く状況がそんなに大きく変わるようなことは考えにくかったのですが、まさかの、MSMを中心とした(これまでとは違うタイプの)サル痘の流行という誰も予想しえなかった事態によって、状況が変わってしまいました。まだ日本で感染が拡大しているわけではなさそうですが、決して予断を許さない、不安な情勢です。今回、城所先生にお話を聞くなかで、HIV検査を受けることが、実はサル痘の重症化を防ぐような予防の意味もあるということが見えてきました。というわけで、城所先生への再びのインタビューをお届けします。
今まで検査を受けたことがない方も、しばらく受けてないなぁという方もぜひ、近いうちに検査を受けていただければ幸いです。
(聞き手:後藤純一)
――こちらがオープンしてすぐの昨年春にお伺いし、お話をお聞きしました。あれから1年半近くが経ち、コロナ禍の状況も変わってきましたが、検査・相談に来られる方に変化はありましたでしょうか。やはり緊急事態宣言やマンボウが解除されて以降、来場者が増えた感じでしょうか。
ここは予約制ですし、コロナ禍で他の保健所が検査を中止したなかでも開けていましたから、ほぼ予約がいっぱいという状態が続いています。そういう意味では、受検する方が増えた・減ったっていうのは、あまりないですね。
――なるほど、コンスタントに予約待ちの状態が続いている感じですね。僕は今年1月に、個人的にこちらで検査を受けたのですが、以前よりも人が少ないと思いました。南新宿の頃は同じ場所に3人も4人もいたのに、そのときは僕以外に1人しか見当たらず。密を避けて、定員を少なめに設定している感じですか?
そうですね。新型コロナウイルスの流行がはじまってから、8割ほどに減らしています。
――やはりそうでしたか。ソーシャルディスタンスも完璧ですし、とてもスムーズに、安心して受けることができて、ありがたかったです。ほかにも新たに何かコロナの感染予防策が加わったということがあれば、教えてください。
特に気をつけているのは、検査に来られる方のなかにはHIVに感染していて、場合によっては免疫力が下がっている方もいらっしゃるかもしれないということで、コロナ感染の予防は徹底して気をつけています。マスクの装着、三密を避ける、検温、手指消毒。利用者さんどうしが接することはほとんどないはずです。ここに移って来てから座席にもパーテーションを設けました。
――数年前から「コロナ禍で人と接する機会が減っているはずなのになぜか急増している」とニュースになっていた梅毒について、お話をお聞きしたいと思います。こちらでも、梅毒の検査で陽性という結果になる方は増えている感じがありますでしょうか。
あります。MSMの方の中でも梅毒はそこそこ増えているように見受けられます。梅毒に関して言うと、その流行が報じられて以降、風俗を利用している男性や、風俗店にお勤めの女性の利用が増えてきたため、MSMの方が予約が取りづらくなっているかもしれません。
――もともといっぱいだったのに、予約がさらに取りづらくなっているのですね…。梅毒に感染しているとHIVに4倍感染しやすくなると聞いたことがありますが、そのあたりを詳しく教えてください。
HIVは、ウイルスを含んだ体液が粘膜に接触することで感染します。粘膜に傷があると、リスクが20~30倍高くなります。梅毒に限らず、性感染症にかかると粘膜に傷ができるので、HIVに感染しやすくなるのです。特に今は、梅毒の感染が増えていますから、梅毒に感染しないように、感染しても早くわかるようにすることが重要です。
――4倍どころじゃないということですね。
もともとコンドームなしのセックスでHIVに感染する確率はだいたい0.1%でしたが、それが20倍になると、2%くらいになるわけです。
――梅毒、侮りがたしですね。昔、吉原のお女郎さんが脳に梅毒が回って錯乱するシーンがあると映画があって、結構ゲイの方の間でもよく知られているのですが、もし梅毒に感染して気づかずにずっとそのままでいると、結構シビアなことになってしまう…ということでしょうか。
梅毒は梅毒トレポネーマという細菌が起こす病気ですが、この細菌が目の方に行くと、場合によっては失明しかねません。脳の方に行くと、脳梅毒を起こし、精神症状が出たりします。神経に入ると、神経症状が出てきます。もっと時間が経って動脈瘤ができたりすれば、血管が破裂しかねません。
――怖いですね…。
症状が出てきたところで対処すれば、お薬ですぐに治ります。症状は、初期には、性器にできものができます。これは約1ヵ月で消えます。第二期には、手や足や体全体に薔薇疹と呼ばれる赤い発疹が出ますが、症状がわずかで、気づかない方もいます。医者でも見逃す場合があります。そういう意味ではやはり、定期的に検査を受けたほうがいいです。梅毒はキスでも感染しますし、コンドームだけでは防げないので。
――今はたしか注射1回で治るんですよね。
お尻にね。簡単ですが、ちょっと痛いのと、ちょっと高いみたいです。
――今回、特にお聞きしたいと思っていたのは、サル痘との関係です。やはり、梅毒などの性感染症にかかっている方は、サル痘にもかかりやすいということが言えそうでしょうか。
WHOによると、MSMのパーティで集団感染が起こっているようです。HIVが精液を介してアナルセックスで感染するのとは様相が異なります。精液中にウイルスがガンガンいるわけでもなさそうですし。いわゆるセックスした・しないではなく、皮膚と皮膚が接触するような濃厚接触ではないかと。もうちょっとそのあたりが明らかになってくると対策も立てやすいのですが…。
――梅毒にかかっているかどうか以前に、肌が触れ合うことで感染してしまうという。性感染症ではないですものね。
そうです。コンドームでは防げません。飛沫や濃厚接触で起こります。女性や子どもだってかかってますよね。
――海外の例を見ると、ブラジルで免疫不全の方がサル痘に感染して亡くなったということがありました。
「ニュー・イングランド・ジャーナル」誌に掲載された論文では、欧米の感染者の方の40%くらいがHIV陽性者だったという報告があります。ほとんどは治療している方で、HIVのことは心配がないし、サル痘についても、免疫状態が悪くなければ命を失うことはないだろうと思います。ブラジルの方は免疫不全だったわけで、それはサル痘じゃなくてもいろんな病気にかかりやすくなっているわけですから。
――U=Uで状態が安定している方は心配ないけど、もしも、ずっとHIV検査を受けずにいてエイズを発症し、免疫不全状態になった方が、サル痘にも感染してしまったら…。
そうですね。HIV検査を受けずにいて、感染に気づいていない方は、サル痘に感染した場合のリスクになりえますね。
――そういう意味では、これを機に検査を受けましょう、ということが言えますよね。
サル痘で命を落とさないためにもHIV検査を。いま大事なメッセージだと思います。
――HIVだけでも大変なのに、コロナ禍にも見舞われ、今度はMSMを中心としたサル痘の流行…ということで、不安を感じているゲイ・バイセクシュアル男性の方は少なくないと思います。前回のインタビューの際、城所先生から、「よく知らないものに対する恐怖というのが背景にあって、スティグマにつながるんでしょうね。そういう意味では、どういうものかという正しい知識を広めること、同じ立場の人が結束して、存在を示し、声を上げていくことが大切です。人々が分断されている時に、恐怖を背景にして差別が起こる。コミュニティを守る意味でも、自分たちのつながりを大事にしてほしいと思います」という素晴らしいお言葉をいただきましたが、そういう意味では、より一層、僕らのコミュニティが結束し、正しい情報や、安心感を共有していくことが大切だと言えそうでしょうか。
そうですね。それと、今のお話から、サル痘の不安を解消するためにも、重症化を防ぐ予防の一つとして、HIV検査を受けて早く状態を知ることに意味があるということは、もっと広く知られてほしいと思いました。万が一感染しても命にかかわる病気ではなさそうですが、免疫不全状態になってサル痘にも感染するというリスクは避けましょうということです。
――わかりました。最後に、何かゲイ・バイセクシュアル男性の方たちに向けてメッセージをお願いいたします。
こちらでもPrEPについての質問や相談が、とても多くなっています。PrEPを適切に利用する方法は、まだ十分知られてないところがあります。ぜひ「PrEP in JAPAN」というサイトを見てください。適切な情報提供をする場ができています。世界的に認められている有効な方法。有効なジェネリックのお薬を手に入れて、クリニックで定期的に診てもらって。副作用もありますし、正しいやり方をしっかり理解していただいて。なお、最近、“on PrEP(PrEPやってます)”と称して生でやろうと口説く方がいて、それで感染してしまったという人の相談もありました。
――なんと…それは深刻ですね。
検査を受ける方が増えると、一時的に梅毒などの感染の報告も増えますが、みなさんが定期的に検査を受けることによって、感染自体は減っていきます。ぜひコミュニティのみなさんが感染症予防のために、定期的に検査を受けて、自分自身の状態を知り、早期発見によって早く治療につながり、他の方に感染させないようにという意識を持っていただければ幸いです。
――わかりました。どうもありがとうございます。
INDEX
- 来年ワシントンDCで開催されるワールドプライドについて、Destination DCのエリオット・L・ファーガソンCEOにインタビュー
- 『超多様性トークショー!なれそめ』に出演した西村宏堂さん&フアンさんへのインタビュー
- 多摩地域検査・相談室の方にお話を聞きました
- 『老ナルキソス』『変わるまで、生きる』を監督した東海林毅さんに、映画に込めた思いやセクシュアリティのことなどをお聞きしました
- HIV、梅毒、コロナ、サル痘…いま、僕らが検査を受けるべき理由:東京都新宿東口検査・相談室城所室長へのインタビュー
- NYでモデルとして活躍する柳喬之さんへのインタビュー
- 虹色のトラックに込めたゲイとしての思い――世界的な書道家、Maaya Wakasugiさんへのインタビュー
- ぷれいす東京・生島さんへのインタビュー:「COVID-19サバイバーズ・グループ東京」について
- 二丁目で香港ワッフルのお店を営むJeffさんへのインタビュー
- 東京都新宿東口検査・相談室の城所室長へのインタビュー
- 俳優の水越友紀さんへのインタビュー
- 数々のLGBTイベントに出演し、賞賛を集めてきた島谷ひとみさんが今、ゲイの皆さんに贈る愛のメッセージ
- 今こそ私たちの歴史を記録・保存する時−−「LGBTQコミュニティ・アーカイブ」プロジェクト
- LGBT高齢者が共同生活できるシニアハウスの設置を目指す久保わたるさん
- 岩崎宏美さん出演のクラブパーティを開催するkeiZiroさんへのインタビュー
- 英国の「飛び込み王子」トム・デイリーについて、裏磐梯のゲストハウスのオーナー・GENTAさんにお話をお聞きしました
- ニューヨーク在住のフォトグラファー、KAZ SENJUさん
- ジョニー・ウィアーが来日!(映画『氷上の王、ジョン・カリー』公開記念トークイベント)
- 畠山健介さんへのインタビュー
- トークセッション「ダイアモンドは永遠に――日本におけるドラァグクイーン・パーティーの起源」
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