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アート展レポート:テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート

六本木の国立新美術館で開催中の「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展。こんなにゲイゲイしい展覧会はひさしぶりでしたし(トム・オブ・フィンランド展以来です)、新たな発見も多く、観に行って本当によかったと思いました。みなさんもぜひ、ご覧ください

アート展レポート:テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート

 英国を代表する美術館として世界的に有名なテート美術館(テート・ブリテンやテート・モダンなど4つの美術館の総称。ターナー賞も主催しています)から、90年代のYBAをフィーチャーした作品群が来日しました。YBA(Young British Artists)という呼称はロンドン大学ゴールドスミス・カレッジの学生だったダミアン・ハーストらが自主企画した展覧会「フリーズ」の参加アーティストを指して美術史家のマイケル・コリスが命名したもの。この時代、サッチャー政権下で抑圧を感じていた若いアーティストたちが(アーティストだけでなくファッション界やポップミュージック界でも)一斉に、自由を求め、反骨精神をあらわにした表現活動を行ない、社会に影響を与えました。その中には多数のゲイのアーティストも含まれていました。
 六本木の国立新美術館で開催中の「テート美術館 ― YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート」展のレポートをお届けします。



 こんなに気持ちが上向く(アガる)ゲイゲイしい展覧会はひさしぶりだし、観に行って本当によかったと思いました。英国の現代美術史においていかにゲイのアーティストが重要な活躍をしたかということがよくわかる展覧会でした。
 
 展覧会場に入ってすぐの正面、入ってきた観覧客に突きつけるような場所に、フランシス・ベーコンの1944年の有名なトリプティック(三幅対)の第2バージョン(1988)が掲げられていました。オリジナルの1944年の絵はオレンジ色だった背景色が、この第2バージョンではあからさまに血の色で塗られていて、戦争というものがいかに残酷で極悪非道かということを告発しているようでした。人間でないものに歪められてしまった者たちの叫びが聞こえてくるようでした。個人的には、今この時代にこの絵を観ることができただけでも本当に意味があると思えました。一緒に行った人が「ピカソの《ゲルニカ》と同じような意味を持つ絵だね」と言っていましたが、本当にその通りだと思いました。今回の展覧会の最初にこの作品が掲げられていることの意味…英国現代美術史はここから始まったのだという宣言とも受け取れます。

 そして、この入口を入ってすぐの広々としたスペースには、もう一つの巨大な作品として、ギルバート&ジョージの《裸の眼》が展示されていました。全裸のギルバート&ジョージが恥ずかしそうに?顔を覆い、その横には二人の青かったり赤かったりする眼が大写しで並べられています。ゲイ・バイセクシュアル男性以外の観客にとっては、等身大で男性のペニスの写真が目の前にあることに動揺したり嫌悪をもよおしたり様々な反応があると思うのですが、それはマネが1863年に『草上の昼食』で正装の男性と裸婦を描きスキャンダルを巻き起こしたのを、現代のゲイの目線でやってみせたということなんじゃないかと。そういう動揺したり嫌悪をもよおしたりする世間の上品ぶった異性愛者たちのことをギルバート&ジョージは大きな眼で睨んでいるのです。
 美術作品における「大きさ」ということの意味を思い知らされました。この作品の向かいに、戦争で繰り広げられる有象無象の残酷で非道な行いをミニチュアのおもちゃのような小ささで並べた作品が展示されていましたが、これがもっと大きかったら残酷すぎて正視に堪えないだろうなと思いました。

 ゲイの写真家、ヴォルフガング・ティルマンスのコーナー。たくさん展示されていましたが、やはり今回の展覧会のメインビジュアルになっている男の子どうしのキスの写真が素敵でした。この写真YBAを代表して展覧会全体のメインビジュアルに選ばれたってところが素晴らしいですよね。
 知らなかったのですが、ティルマンスはロンドンに滞在していたときにプライドパレードの写真を撮ったりもしていたんですね。その写真を載せた『i-D』の誌面が展示されていました。



 ティルマンスを含め、クラブカルチャーやファッションやポップミュージックに焦点を当てたパートの作品はどれもよかったのですが、特にこのシーマス・ニコルソンの《オリ》(1999)という作品がよかったです。シルバーのパンツにシルバーの羽を合わせたクラブキッズが立ち小便をしているのですが、全体が光と影の一点透視図法になっていて、まさに立ち小便のところがその消失点になっています。

 デヴィッド・ロビリヤードという人がいたことを初めて知りました。ロンドンのゲイクラブに入り浸っていたアーティストであり詩人だそう。まるでコクトーの軽妙洒脱さを現代に甦らせたかのような筆使いで、しかし、その線はレインボーカラーで塗られていて、『早くイッて、笑って』という実にゲイゲイしいセリフが添えられているのでした。なんて素敵なんでしょう。しかしこの《早くイッて、笑って》(1987)という作品はエイズ危機が深刻さを増していた時期の作品で、どことなく憂いも感じさせます。

 マーク・クインというアーティストの《逃げる方法が見つからないIV》(1996)という作品。自身の裸体をポリウレタン・ラバーで型取りして制作したものです。身体の流動性や変容をテーマにしていて、作家曰く、これは「変容の究極の瞬間、暴力的な脱皮」だそうです。

 今回、最も驚愕し、その素晴らしさに拍手したくなったのは、スティーヴ・マックイーンの《熊》(1993)という、仕切られた空間で上映されている無音の映像作品です。2人の全裸の黒人男性(そのうち1人は作者自身)がレスリングの試合か何かのように互いに睨み合い、挑発するかのようにゆらゆら動き、顔にも体にもだんだん汗がにじんできて…そのうち2人の視線は互いを欲し合うような性的な目線になり…という、「ヘタなゲイビデオよりエロい」と思わざるをえないようなスゴい映像でした。このようなエロティックな作品が国立新美術館で上映され、ノンケの人たちもまじまじと鑑賞しているということに衝撃を覚えましたし、ぼくらが必死にゲイのエロの部分を世間から隠そうとしてきたのは一体何だったのか?とか、ポルノとアートの境目とは?とか、いろんなことを考えさせられました。セクシャルな表現を志向する方はみなさん、ご覧になったほうがよいと思います。(ちなみにスティーヴ・マックイーン自身はゲイではありません。今は映画監督としても活躍しています)

 映像作品といえば、トレイシー・エミンの《なぜ私はダンサーにならなかったのか》(1995)もよかったです。自身の性体験を(屈辱的な苦しみとして)告白した後、彼女はシルヴェスターの『You Make Me Feel (Mighty Real)』に乗って楽しそうに踊ってみせるのです。抵抗の表現でありながらキャムプであり、ゲイテイストに通じるものがありました。

 最後に、『テンペスト』『ラスト・オブ・イングランド』『エドワードⅡ』などの映画で知られる偉大な映像作家で1994年2月にエイズで亡くなったデレク・ジャーマンの《運動失調—エイズは楽しい》(1993)という作品をご紹介します。エイズによる感染症で体を蝕まれ、93年にはほぼ盲目になっていたデレク・ジャーマンは、最後に『BLUE ブルー』という、青一色の画面に彼自身の語りを入れた映画を遺しましたが、この絵も同じ年に描かれたもので、視力が低下しているなか、鮮やかな色彩の絵の具を手で塗り広げ、その上から削り取るように「AIDS IS FUN」といったアイロニカルな言葉を記しています。死に行く自身の運命を呪うのではなく、このようなかたちでエイズのことを深く表現したデレク・ジャーマンの生き様に思いを馳せざるをえない作品でした。


 ほかにも本当にさまざま、興味深い作品がたくさんで、見応えありまくりで、ゆうに3〜4時間は展示を見てました。サッチャー政権下という(映画『パレードへようこそ』もそうでしたよね)抑圧の時代に、若いアーティストやミュージシャンたちが一斉に反骨精神をあらわにした作品を発表したこと。その中にたくさんのゲイのアーティストや、ゲイテイストな作品があったこと。今この時代に最も観る意味のある展覧会なんじゃないかと思いました。6月からは京都に巡回しますが(一部、内容が変わるそうです)、5月11日までは東京で観ることができますので、東日本のみなさんはぜひGWにでも足を運んでみてください。
 

テート美術館 – YBA & BEYOND 世界を変えた90s英国アート 
会期:〜5月11日
会場:国立新美術館 企画展示室2E(東京都港区六本木7-22-2)
開館時間:10時-18時 ※金土は20時まで(入館は閉館の30分前まで)
休館日:火曜 ※5/5は開館
出品作家: 
サラ・エインズリー、フランシス・ベーコン、リチャード・ビリンガム、スタパ・ビスワス、ブラック・オーディオ・フィルム・コレクティヴ、ヘンリー・ボンド、クリスティン・ボーランド、アンジェラ・ブロック、ヘレン・チャドウィック、ディノス・チャップマン、ジェイク・チャップマン、マット・コリショウ、キース・コヴェントリー、マイケル・クレイグ=マーティン、マーティン・クリード、ジェレミー・デラー、キャシー・ド・モンショー、トレイシー・エミン、シール・フロイヤー、マーク・フランシス、アニャ・ガラッチョ、ギルバート&ジョージ、リアム・ギリック、ダグラス・ゴードン、ルーシー・ガニング、リチャード・ハミルトン、モナ・ハトゥム、ルベイナ・ヒミド、ダミアン・ハースト、デレク・ジャーマン、サラ・ジョーンズ、アニッシュ・カプーア、ジム・ランビー、マイケル・ランディ、マーク・レッキー、サラ・ルーカス、スティーヴ・マックィーン、リサ・ミルロイ、シーマス・ニコルソン、クリス・オフィリ、ジュリアン・オピー、コーネリア・パーカー、サイモン・パターソン、グレイソン・ペリー、スティーヴン・ピピン、マーク・クイン、ジュリー・ロバーツ、デイヴィッド・ロビリヤード、ジョニー・シャンド・キッド、デイヴィッド・シュリグリー、ジョージナ・スター、ヴォルフガング・ティルマンス、ギャヴィン・ターク、マーク・ウォリンジャー、ジリアン・ウェアリング、レイチェル・ホワイトリード、エリザベス・ライト ※姓アルファベット順

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