REVIEW
レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
神宮前で開催中の「OUT IN JAPAN」写真展と、六本木で開催されていたアキラ・ザ・ハスラーさんの個展をレポートします。
4月28日、『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』を観てきました。一度「ダムタイプ|2022: remap」を観た帰りに寄ろうとしたのですが、会場の「OTA FINE ARTS 7CHOME」が18時までだということを知らなくて行きそびれてしまい…最終日に駆け込みで行ってきたのです。その足で、神宮前のギャラリーで5月12日まで開催中の『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』におじゃましました。2つの展示のレポートをお届けします。
(文:後藤純一)
アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」
Aids Poster Projectやセックスワーカーのユニット「ザ・バイターズ」としての活動、海外でのパフォーマンス、著書『売男日記 』の発表、東京都写真美術館の「ラヴズ・ボディー -生と性を巡る表現」への出品、『美術手帖』でのフィーチャーなど、さまざまな活躍を見せてきたゲイのアーティスト、アキラ・ザ・ハスラーさん。
これまでも「ふつうにくらす」展などOTA FINE ARTSで数々の素晴らしい個展を届けてくれましたが、今回の個展は、いつもの会場とは違うOTA FINE ARTS 7CHOMEで開催されました。
OTA FINE ARTS 7CHOMEは新国立美術館の近く、六本木7丁目にあるオープンなギャラリーでした。会場にご本人も、『売男日記』の表紙を飾っているみおおさん(以前Rainbow Ringの代表をしていた方)もいらして、楽しい時間を過ごせました。
男の子たちがキスするロシアの木馬のおもちゃのような形をした作品がとても素敵でした。ロシアによるウクライナ侵攻を受けて作った作品なんだそうです。度々お伝えしているように、プーチンは西側は同性婚を導入して社会秩序を壊そうとしているとかなんとか言ってウクライナを侵略しており、ロシアに支配されたらウクライナのLGBTQは殺されてしまうとも伝えられています。チェチェンでのLGBTQの迫害も容認しています。そのようなホモフォビックなファシストに「愛」で抗議しています。後ろにはロシア語で「戦争反対」と書いてありました。
路上に寝そべるかわいいワンコたちは、ダイインとかシットインの抗議をする人々を愛情を込めて描いていると思われる作品です。公式サイトに「昨年、公道でシットインによる抗議活動を行った人たちが書類送検されました。そのニュースに接し、アキラ・ザ・ハスラーは”解放区”について思いを巡らせます。個人が自由に活動できる解放区はどこにあるのだろう? それは、精神的にも身体的にも閉塞感を極めたコロナ禍を経たからこそ思い浮かんだ問いかもしれません。「Here's Your Playground」とは、排他的で閉鎖的な社会に向けて「ここで遊んでもいいんだよ」と語りかけるアキラからのメッセージと言えるでしょう」と書かれているように、抗議活動を許されない状況への抗議を「ここで遊んでもいいんだよ」というメッセージとして表現するところにアキラさんの素敵さがあります。
ぶ厚い写真集のような本のかたちの作品もありました。世の不正に対して声を上げ、それを強制的に排除しようとするものに体を張って抵抗する人々の姿がたくさん写し出されていました。なかには、杉田水脈議員の「“生産性”がない」などの差別発言が問題になった時に、札幌で声を上げたカッコいいドラァグクイーンと一緒に二丁目仲通りで撮った写真もあり、とても素敵でした。
会期中にお伝えできなかったのが本当に申し訳ないのですが、こういう個展があったよということを記録に残したく、レポートを書かせていただきました。
『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』
2015年にスタートし、あのレスリー・キーさんが撮影してくれるといううれしさもあり、2000名以上が参加したカミングアウト・フォト・プロジェクト「OUT IN JAPAN」。東京だけでももう何回撮影が行なわれたかわからないくらいですし、大阪や名古屋、沖縄、仙台、瀬戸内、金沢など地方でも撮影が行なわれてきました。その2000名以上のポートレートの、全部ではありませんが、かなりの(1000名くらい?)数が一堂に展示されています。
会場はキャットストリートに面した新しいギャラリー「X8 Gallery」。渋谷駅よりもメトロの明治神宮前駅かJR原宿駅のほうが近いと思います。雰囲気のいいキャットストリートをぶらぶら歩く楽しみも味わえます。
これまでも何度か「OUT IN JAPAN」の写真展は開催されてきましたが、今回こそが総集編というか集大成のような、壮観という言葉がふさわしい展示だと感じました。
僧侶で紅白の審査員までつとめた西村宏堂さんという高尚でセレブな方から、底辺に生きる私のような人間まで、実に様々なLGBTQピープルのポートレートがズラリと並びます。
よく知っている友人や先輩、知人、知らないけど素敵な人、そして、前田健さんとか長谷川さんとか、すでに亡くなってしまった方たち…いろんな方たちのポートレートに、思いを馳せながら観ていきました。仙台とか、四国とか、浜松とか、地方の方たちも写っているのですが、私自身地方出身者であり、自分自身がゲイであると受け容れるのも大変だったり、ましてやカミングアウトしてこのように写真に写るということのハードルの高さを思うと、こうして勇気をもって「OUT IN JAPAN」に参加してくださっていることに、感慨を禁じえません(女性なら、なおさらそうかもしれません)。このポートレートに写っている一人ひとりにそういうドラマがあるのだろうなと想像し、感じ入ってしまいました。
おそらく最近加わった方たちだと思われるのですが、まだパネルになっていない、紙に印刷して貼り出されている写真もありました。「結婚の自由をすべての人に」訴訟・札幌地裁の弁論で感動的なカムアウトを果たした加藤弁護士やコカ・コーラのパトリック・ジョーダンさん、「ふたりぱぱ」のみっつんさん&リカさんなどです。「OUT IN JAPAN」が今も続いているプロジェクトであるということを伝えてくれますし、、再来年の10周年にはまたスゴい展覧会が行なわれるのかな?と想像させてくれたりもしました。
「X8 Gallery」は2階にも広いスペースがあって、ちょっとわかりづらいのですが、階段から上がるかたちになっています。忘れずに2階もご覧ください。
OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE
会期:2023年4月15日(土)〜5月12日(金)
会場:X8 GALLERY(渋谷区神宮前5-27-7 アルボーレ神宮前1F/2F)
開館時間:11:00-19:00
休館日:毎週火曜
入場無料
主催:認定NPO法人グッド・エイジング・エールズ
INDEX
- 映画『秘密を語る方法』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『クリッシー・ジュディ』(レインボー・リール東京2023)
- 映画『孔雀』(レインボー・リール東京2023)
- クィアな若者がコスメ会社で働きながら人生を切り開いていくコメディドラマ『グラマラス』
- 愛という生地に美という金糸で刺繍を施したような、「心の名画」という抽斗に大切にしまっておきたい宝物のような映画『青いカフタンの仕立て屋』
- “怪物”として描かれてきたわたしたちの物語を痛快に書き換える傑作アニメーション映画『ニモーナ』
- 映画『怪物』レビュー
- 恋に翻弄されるゲイの愚かで滑稽で愛すべき姿態をオゾン流にキャムプに描いた大傑作メロドラマ『苦い涙』
- ドリアン・ロロブリジーダさん主演の素敵な短編映画『ストレンジ』
- クラシックの世界のリアルを描いた登場人物がクィアだらけの映画『TAR/ター』
- 僕らはこんな漫画をずっと読みたかったんだ…田亀源五郎『魚と水』単行本
- PrEPについて楽しく学べるポップでセクシーな映画『The PrEP Project』
- ゲイカップルが世界の運命を決める――M.ナイト・シャマランの最新作『ノック 終末の訪問者』
- レポート:『OUT IN JAPAN 2023 Spring 写真展 by LESLIE KEE』『アキラ・ザ・ハスラー 「Here’s Your Playground」』
- 高校生のひと夏の恋と成長を描いた青春ドラマにして最高のクィア・コメディ映画『あの夏のアダム』
- 中国で男娼として生きる主人公やその周囲の若者たちの群像をせつなく美しく描いた映画『マネーボーイズ』
- 50代以上のゲイの方たちの食事会の様子を通じて人生を映し出した映画『変わるまで、生きる』
- これまで見捨てられがちだった人々をも包み込んで慈しむような素晴らしいゲイ映画『老ナルキソス』
- 驚くべき魂を持った人間の崇高な最期を描いた映画『ザ・ホエール』
- ゲイと女性2人の美大同級生たちの人生模様を料理とともに描くドラマ『かしましめし』
SCHEDULE
- 12.14G-ROPE SM&緊縛ナイト
- 12.14SURF632
- 12.15PLUS+ -10th Anniversary-
- 12.15FOLSOM BLACK The Last of 2024